対人恐怖症克服記2 似非B‐BOY
私の対人恐怖は中学生の頃に原体験があります。
多くの方にとって異性を強く意識し始めるのは中学生だと思います。私もこの時期に女子に対する興味が爆発していきました。すれ違うたびに目を奪われ、仲良くなりたい仲良くなりたいと切望していました。
男子校という苦行林
一方で、私は致命的な問題を抱えていました。それは男子校に通っているという事実です。周りにいるのは男ばかり。
一度しかない青春時代を朝から晩まで男だらけ世界で過ごすという、現世で最も辛い苦行に直面していたのです。
一体前世でどのような悪行をすればこのような仕打ちを受けることになるのでしょうか。
中学の3年間、私は一言も同年代の女子と話すことがありませんでした。
ただの一言もです。
私にとっては女子は別世界に生きる、触れてはならない何か崇高なものになっていました。
うまく表現できないですが、女子は2次元のゲームキャラみたいな感じです。
触れたくても触れられない現実感のない別世界の生き物…そんな対象になっていました。
私は中学生にして神がいないことを既に悟っていました。
チャラ男からの誘い
そんな花のない生活を送っていたのですが、中学卒業が決まった3月のある日、事件が起こりました。
私の友人の一人に、チャラ男化した漢がいました。そのチャラ男が
「おい!たつし!ボーリングにいくぞ!女子が4人参加するぞ!」
と声をかけてきたのです。私の胸は思わぬ僥倖で、期待でいっぱいなりました。
女子と会話できる!
女子と会話できる!
女子と会話できる!
私の頭はワクワクでいっぱいになりました。
男子校で荒廃した心が、常夏のハワイのようにパッと明るくなりました。
兄貴への報告
私はさっそく、大学1年生の兄に相談しました。
兄はこれまで女子と付き合ったことがあり、私にとっては崇拝する存在でした。
兄に相談すると、
「お前の洋服ではだめだ!おれが見繕ってやる!」
と謎にテンションが上がっていました。
そうして兄貴は自分の保有する私服を使って私をコーディネートし始めました。
さすが兄ちゃん!頼りになるぜ!
私は人生でもっとも兄貴が頼りになると感じました。
圧倒的体格差
しかし、コーディネートをするたびに、暗雲が立ち込めていきました。
というのも兄の身長は188㎝もあります。
町中にいると待ち合わせ場所になるぐらいの大男です。
対して、中学3年生の私はまだ160㎝ぐらいのモブキャラでした。
兄は私を着せ替え人形のように様々な洋服を試すのですが、どれもぶかぶかなのです。
トレーナーを着ると太ももまで達してワンピースのようになります。
ズボンを履くと足がすっぽり収まってしまいます。
「なんかちげーな!」
「なんか似合わねーな!」
「なんかだめだな!」
なんかを繰り返し、兄は試行錯誤していきます。
ちなみに兄は東大生で理系の人間なのですが、
チンパンジーでも寸法が合わないのがわかるぐらい、明らかにサイズがあっていない服を、私に着せ替え続けました。
勉強はできても、実社会で役に立たない、学歴社会の弊害が垣間見えます。
似非B-BOYのできあがり
30分程度、兄は試行錯誤しましたが、どうにもこうにもうまくいきません。ついに嫌気がさしたのか
「もういい!おまえは今日からBーBOYになれ!」
「ちょうどお前、短髪だからいけるって!」
「B-BOYは女子が好きだから絶対いけるって!」
っと、宣言しました。私をB-BOYに仕立て上げ、臭いものにふたをする、的なアイデアで強引の問題を解決することにしたのです。言うまでもなく、ふたはB-BOYファッションであり、くさいものは、私です。
兄は最終的に、
a
g
n
è
s
b
と縦にブランド名がでかでかと書かれたトレーナーを私に着せました。そうして、ビックプロジェクトをやり遂げたかのような漢の顔をして、部屋から出ていきました。
ちなみにこのagnès b(アニエスベー)というブランドはB-BOYとは何の関係もないブランドだということを4年後ぐらいに知りました。
今思えば、兄貴も中高一貫の男子校で6年過ごした人間であり、完全に聞く人を間違っていたのです。大体こんなagnès bとでかでかと書かれたTシャツを購入するような人間が、弟をおしゃれに仕立て上げるなど不可能だったのです。
こうして似非B-BOYとなった私は、ブランド名を前面に出したagnès bの洋服で思春期の女子と対峙することになったのです。
そうして、いよいよ4対4のボーリングの日になりました。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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