アサーションとは?意味,トレーニング方法
みなさん、こんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。
当コラムのテーマは「アサーティブコミュニケーション(アサーション)」です。
アサーティブコミュニケーションは、わかりやすく実践的なので、初学者がとても学びやすい心理療法です。人間関係の入門として、是非ご活用ください。目次は以下の通りです。
コラム1 アサーションの基礎
コラム2 段階的主張‐DESC法
コラム3 感謝とセットで断る法
コラム4 価値観ワーク,学校や職場編
コラム5 断り方ワーク,こども編
コラム6 断り方ワーク,大人編
全て読むと、アサーションの基礎を一通り学ぶことができます。1日1コラムぐらいのペースでじっくり読み進めてみてください。
アサーションの意味と歴史
意味とは
アサーションは以下のように定義されています。
自分の気持ち,考え,信念などを正直に,素直にその場にふさわしい方法で表現し,そして相手が同じように発言することを奨励しようとする対人関係のあり方(平木,1993)[1]
他人の権利を侵害することなく、個人の思考と感情を、敵対的でないしかたで表現する行動
(濱口,1994)[2]
アサーションを身につけるためのトレーニングは「アサーション・トレーニング」と呼ばれ、心理療法やコミュニケーションスキルの一環として用いられています。
精神疾患と抑圧
アサーションの発祥の地はアメリカです。1949年に出版された、行動療法家のアンドリュー・ソルターの「条件反射療法」が原著といわれています[3]。
ソルターは、「精神的に問題のある患者は、過去に行き過ぎた躾を受け、意見を表に出しにくい状況にある」と推測しました。このような状況から、患者が回復するためには、アサーション(健全な自己主張)が必要だと考えたのです。
1950年代に入ると、精神科医のジョセフ・ウォルピが、対人関係がうまくいかない人や自己表現が苦手な人のための訓練法としてアサーティブトレーニングを開発し、不安を軽くすることに成功しました。
アサーションは、その後20年ほどは、精神医学に近い分野で発展することとなり、医療機関やカウンセリングの一環で実施されてきました。
パーフェクトライトの出版
アサーションが爆発的に広がったのは1970年代に入ってからです。そのころアメリカでは、人種差別、性差別、社会的に抑圧される人の人権を守る機運が高まっていました。そんな折、以下の本がベストセラーになりました。
題名
Your Perfect Right
あなたの完全な権利
著者
ロバート・アルベティ マイケル・エモンズ[4]
この本を契機として、アサーティブコミュニケーションは医療機関だけでなく、教育、福祉、産業などの分野にも広がり、現在では重要な社会的スキルのひとつとして位置づけられています。
日本での広がり
1990年代になると、心理療法家の平木典子先生が日本でアサーティブコミュニケーションを紹介しました。現在の日本でも、企業研修、市民講座、セクハラ防止、いじめの防止など、様々な場面で活用されています。
アサーション権とは
平木(1993)[1]は、私たちには人間関係を築く上で5つのアサーション権があるとしています。これは人間関係における憲法のようなものです。入門として是非おさえておきましょう。
①尊重される権利
私たちはみんな、一人の人間として尊重される権利があります。考えや意見を自由に持ち、表現することが認められている、という考え方です。
この権利も以下の権利も、「自分が持っていると同時に、相手も持っている」という認識が重要です。自分も他人も互いに尊重し合う姿勢が、アサーションの土台となるのです。
②自分の行動を決定する権利
私たちはみんな、頼まれたことを断ったり自分の意思に基づいて行動したり、自分の行動を自分で決定する権利があります。同時に、自分で決めた行動の結果は自分で責任を取る必要があります。
③過ちをおかす権利
私たちはみんな人間で、人間は完璧ではないので、過ちをおかす可能性があります。アサーティブコミュニケーションにおいては、失敗に寛容であることも大事にされます。例え主張が間違っていたとしても、お互いのミスを大らかに許し、ミスをカバーし合うような関係性を目指します。
④不平等さを訴える権利
私たちはみんな、不平等な扱いを受けたとき、不平を訴える権利があります。たとえば、同じ給料にも拘わらず、必死に働く従業員がいる一方で、楽をしている従業員がいたとします。この時、職場の処遇を改善するよう求める権利があると考えます。
⑤あえて主張しない自由もある
私たちはみんな自己主張してもよいが、同時に、自己主張しない権利もあります。自分の身に危険が及ぶ状況で、必ずしも自己主張しなければいけないわけではありません。自分の身を守る必要があれば、主張しない自由もあることを把握しておきましょう。
アサーション権については、アン・ディクソン(1982)[5]による、4つの核と12のアサーション権も有名です。理解を深めたい方は参照ください。
①Honesty
誠実に人と接すること
②Directness
率直な自分であること
③Equality
立場に関係なく対等に接する
④Responsibility
人のせいにせず発言に自己責任を持つ
1.私には、日々の役割にとらわれず、一個人として自分の要求を伝え、自分で優先順位を決める権利がある。
2.私には、賢くてスキルがある対等な人間として扱われる権利がある。
3.私には、自分の感情を認め、表現する権利がある。
4.私には、自分の考えと価値観を表明する権利がある。
5.私には、自分の為にはい・いいえを判断して伝える権利がある。
6.私には、失敗する権利がある。
7.私には、意見や考えを変える権利がある。
8.私には、分からないことを分からないと言う権利がある。
9.私には、欲しいものややりたいことを求める権利がある。
10.私には、人の悩みについて責任を負わない権利がある。
11.私には、人の評価に頼ることなく、周りと接する権利がある。
12.私には、アサーティブでない自分を選択する権利がある。
(一部改変して掲載)
*12の権利は、森田汐生[6]が、原文の11から1つ増やしたとされています。
3つの自己表現
ウォルピは、人間関係における自己表現には3つのタイプがあるとしています。
① 攻撃的タイプ
② 非主張的タイプ
③ アサーティブなタイプ
アサーティブコミュニケーションの基本となる分類なので、是非おさえておきましょう。
①攻撃的タイプ
自分を最優先に考え、他人の意見を軽視する傾向があります。攻撃タイプの人は、「言い負かす」「命令する」「大声で怒鳴る」などの自己表現をします。また、勝ち負けで物事を決めたり、相手より優位に立とうとしたり、巧妙に相手を操作しようとすることもあります。
どんな人がなりやすい?
*権力や権威のある人
*知識や経験が豊富な人
*自尊心が低く防衛的
*自己愛が強すぎる
*共感性が低い
②非主張的タイプ
感情表現を抑制する、意見を言わない、自分よりも相手を優先する傾向があります。非主張的タイプの人は「嫌われてしまうのでは…」「揉め事がおきるのでは…」「孤立してはいけない…」という不安が大きく、自分の意見を主張することを避けます。
どんな人がなりやすい?
*自己肯定感が不足している
*見捨てられ不安がある
*自己効力感が不足している
*家庭環境で厳しくしつけられた
③アサーティブなタイプ
自分の気持ちをその場にふさわしい方法で表現し、同時に、相手が自分と同じように意見をすることも大事にするのがアサーティブなタイプです。
このタイプの人は、相手と意見がぶつかったときには互いに意見を出し合い、譲ったり譲られたりしながら双方が納得のいく結論を出そうとします。3つの自己表現の中では一番理想的なタイプとされています。
どんな人がなりやすい?
*自己肯定感,他者肯定感が育っている
*幼少期に安定した愛着形成
*基本的信頼感が高い
*ソーシャルスキルが高い
3つのタイプとストレス状況
関口ら(2011)[7]は、学生180名を対象に、アサーションとストレス反応について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
図を見ると、いずれの項目においても、アサーティブタイプは対人ストレスが小さいことがわかります。自他を尊重しながらコミュニケーションする方は、対人関係のトラブルが少なく、ストレスが小さくなると推測できます。
3つのタイプ診断
皆さんは3つの自己表現についてどんなタイプでしょうか?気になる方は、以下をチェックしてみましょう。
次の質問について
当てはまる場合→○
当てはまらない場合→×
で答えてください。
A項目
① 相手の長所よりも短所が気になる(○・×)
② 否定されるとイライラする(○・×)
③ 思い通りにならないと言葉が荒くなる(○・×)
④ 他人のミスに厳しい(○・×)
⑤ 人の話を聞かない(○・×)
B項目
① 引っ込み思案である(○・×)
② 自分に自信がなく、ダメ出しが多い(○・×)
③ いつも相手の意見に合わせて行動する(○・×)
④ 相手に認められるために意見を変える(○・×)
⑤ 相手に反論されると言い返せなくなる(○・×)
C項目
① 正直な気持ちを打ち明け相談する(○・×)
② 相互理解をしようと努力する(○・×)
③ 自分の意見を主張できる(○・×)
④ 批判に耳を傾ける(○・×)
⑤ 対立した時に自分から話し合いを提案する(○・×)
さて、A・B・Cの項目で、〇が多かった項目はどれでしたか?結果は以下の2段階で把握しましょう。
①傾向を見る
まずは傾向を見てみましょう。
0~1個・・・傾向は薄い
2~3個・・・傾向ややあり
4~5個・・・傾向がかなり強い
②タイプを見る
次に最も多い項目を見てみましょう。
A項目の○が多かった人
A項目が多かった人は、攻撃的タイプの可能性が高いです。自分の気持ちを優先させるあまり、自分勝手な行動になっていませんか。自己主張が強く、相手の気持ちや考えを軽視しがちかもしれません。
B項目の○が多かった人
B項目が多かった人は、非主張的タイプの可能性が高いです。日ごろから自分の考えより他者への気遣いを優先していませんか。自分の主張は控えめで、相手に譲ることが多いでしょう。
C項目の○が多かった人
C項目が多かった人は、アサーティブタイプの可能性が高いです。自分も相手も大切にした自己表現ができているでしょう。その場にふさわしい方法でコミュニケーションができているのではないでしょうか。
トレーニングの実際
ここからは、アサーティブコミュニケーションのトレーニング方法を解説していきます。当サイトでは
個人向けのトレーニング法を6つ(①〜⑥)
指導者向けのワークを2つ(⑦〜⑧)
トレーニングの効果研究(⑨)
を紹介します。ご自身でも活用できそうなものを組み合わせてご活用ください。
*アイメッセージ法
主語を「私」にして主張することで、相手の領域をおかさないように、柔らく主張する方法
アイメッセージ法はアサーションの中でも中心となるスキルです。具体的には以下のように主張していきます。
今の言葉、(私は)少し傷ついたかも…
(私は)なんだか悲しい気持ちになるな…
(私は)困ってしまいます…
このように自分の意見を伝えるとき主語を「私は~」にしてみると、批判的な印象がグッと軽減できます。具体的なやり方は以下のコラムで詳しく解説しています。是非参考にしてみてください。
*段階的主張-DESC法
自己主張を4つの段階に分けることにより、柔らかく主張していくやり方
DESC法は、アサーションスキルを4つのステップにまとめ、使いやすくした主張方法です。
1.Describe(描写する)
「○○しろ!」と言われたことなのですが…
2.Explain(説明する)
私は少し傷ついてしまいました。
3.Specify(提案する)
もう少しソフトに伝えていただけると嬉しいです。
4.Choose(応答する)
*相手がYESの回答
ありがとうございます。私も安心して仕事ができるので、効率が上がると思います。
*相手がNOの回答
そうですが・・・残念です。社長に報告せざるを得ないかもしれません。
このように段階を踏んで主張することで、柔らかく気持ちを伝えることができます。
アイメッセージと合わせて練習すると、手法の引き出しが増えます。具体的なやり方は以下のコラムで詳しく解説しています。是非参考にしてみてください。
*壊れた法レコード法
同じ主張を何度も繰り返して断る手法
しつこい人を断るときに効果があります。相手が何を主張してきても、壊れたレコードのように同じことを繰り返すことで相手が諦めてくれる可能性が高くなります。具体的には以下のように主張していきます。
すみません…今日はどうしても予定があって…
すみません…今日はどうしても予定があって…
すみません…今日はどうしても予定があって…
このようにどうしても断れない時は、何度も同じことを繰り返していきましょう。具体的なやり方は以下のコラムで詳しく解説しています。是非参考にしてみてください。
*部分肯定法
相手のプラスの面をみつけて他者尊重の姿勢をもつこと
最初からすべてを否定するのではなく、相手のいいところを認めたうえで、相手が受け入れられる内容で提案をします。非常にスマートな断り方です。具体的には、以下のように主張していきます。
飲み会ですか?いいですね!ちょうど新人さんも入ってきたことですし。ただ、私は実は今日は予定がありまして、ごめんなさい!誘っていただいてとても嬉しいのですが、また良ければお願いします。
このように、まずは相手の意見を肯定することで、角が立たない主張になります。自分の意見だけを一方的に聞いてもらうのではなく、いったん相手を尊重する姿勢を持つようにしましょう。
*感謝とセット法
感謝の言葉とセットで気持ちを伝える方法
感謝とセット法は、お願いなどを柔らかく断る技術です。アサーティブな人は「感謝できる部分をセットで伝える」ことが非常にうまいのです。具体的には、以下のように主張していきます。
「誘っていただいてありがとうございます。ただ、今日はどうしても外せない予定があって…」
「頼ってくれて感謝です!でも、私も手一杯で…早く終わったら手伝いますね!」
上記のように、感謝とセットで自分の気持ちを伝えることで、険悪なムードを作らずに、主張することができます。何か自分の気持ちを伝える時は、先に感謝を伝えるようにしましょう。
具体的なやり方は以下のコラムで詳しく解説しています。是非参考にしてみてください。
*限界設定
限界設定とは、自分の中で限界点を設定することで、権利侵害の線引きをする手法
「ここまではOK」「ここから先はNG」と主張しておくと、曖昧な状況がなくなり、問題が起こりづらくなります。具体的には、以下のように限界設定を行います。
残業の応じるのは、週に2回まで
デート代を奢るのは、連続2回まで
飲み会は22時には帰る
このように、自分の限界を事前に決めておくことで、断る・断らないの判断が明確なります。その結果、スムーズに自分の気持ちを伝えることができ、アサーティブなコミュニケーションにつながります。
具体的なやり方は以下のコラムで詳しく解説しています。是非参考にしてみてください。
*価値観ワーク法
日常の価値観をグループ討論しながら進めていくワーク
価値観ワークは、実際にそれぞれ大事にしている価値観をテーマにして、議論をしていきます。例えば、以下のようなテーマを議論し、お互いが譲り合えるか?などを振り返ります。
1.愛
2.仕事
3.お金
4.自由
5.遊び
学校や研修でとても有効なので、アサーションのワークをされる方におすすめです。詳しくは以下のコラムを参考にしてみてください。
*断り方ワーク法
アイメッセージ、DESC法などを、日常生活のトラブルを例に練習する手法
アサーティブコミュニケーションは知識の学習だけでなく、実際にたくさん練習していくことがとても大事です。以下、子供向け、大人向けに、断りかたのワークサンプルを作成しました。指導者の方は参考にしてみてください。
長谷川ら(2004)[8]は、言語聴覚士の学生26名に対して、アサーション・トレーニングの実施前・実施後の変化を3つの観点から測定しました。以下の表は「トレーニング前後で得点が変化した人の人数」を表したものです。
このように、「相互作用不安」は得点が下がっている人数が多く、「自己効力感」「アサーティブマインド」では得点が上がっている人が多いですね。
この結果から、アサーショントレーニングを行うことで、不安が減って自己効力感が高まることがわかります。さらに、アサーティブに主張できるメンタリティも身に付けられることが推測されます。
*相互作用不安尺度(IAS)
人との相互作用によって生まれる主観的な対人不安感を測定する尺度
*特性的自己効力感尺度(SES)
一時的ではなく長期的な、日常での自己効力感を測定する尺度
*アサーティブ・マインド・スーケル(AMS)
「自己表現に対する肯定的態度」「他者尊重」「合理的信念」「率直さへの確信」の4つの要素から構成されるアサーティブ傾向を測定する尺度
アサーションの哲学や歴史について動画も作成しました。仕上としてご活用ください。
まとめ
私は研修講師として、12年間アサーションのワークを行ってきました。アサーショントレーニングは抽象的なところがなく、日常生活ですぐに使える手触り感のある心理療法です。
アサーティブコミュニケーションを学ぶと、複雑な人間関係をしなやかに進める力がついていきます。皆さんが自他尊重の気持ちを育て、健康的な関係を築かれることを心から応援しています。
しっかり身につけたい方へ
アサーティブコミュニケーションは、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・アサーション権を学ぼう
・アイメッセージ実践練習
・DESC法,自己主張訓練
・自分を大事に,他人を大事にする
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
三田村 仰(2008). 行動療法におけるアサーション・トレーニング研究の歴史と課題 人文論究, 58, 95-107.