>
>
課題の分離の意味とは

課題の分離の意味とは,仕事や子育て

皆さんこんにちは。こちらの心理学教室を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマはアドラー心理学コラムの続きで、「課題の分離」について解説していきます。この考え方はアドラー心理学に由来し、人間関係をより健康的に保つうえで非常に実用性の高いものです。

「人に頼まれると断れない」
「相手の問題に巻き込まれやすい」
「他人の悩みを自分のように背負ってしまう」

そんな悩みを抱えている方に、ぜひ最後まで読んでいただきたいと思います。課題の分離の基本的な考え方から、現代の職場や家庭、友人関係での具体的な実践方法まで、丁寧に解説していきます。

目次
1.課題の分離とは何か?
2.歴史的背景とアドラー心理学
3.できない人の問題点
4.できない人の具体例
5.課題の分離,3つのステップ
6.3つのステップ,具体例
7.まとめ

1. 課題の分離とは何か?

課題の分離の意味

課題の分離とは、「自分が取り組むべき課題」と「他人が取り組むべき課題」とを明確に区別し、不必要な干渉を避けるというアドラー心理学の中心的な考え方です。心理的な境界線を引き、相手の人生と自分の人生をきちんと分けて考えるという姿勢が求められます。

課題の分離を学ぶ意義

アドラー心理学では、他人の課題に対して過度に介入したり、逆に他人から過剰に介入されることは、人間関係の不和やストレスの原因になると考えられています。特に現代社会ではSNSやメールなどでつながりが密になりすぎることが多く、他人の問題に巻き込まれる機会が増えています。だからこそ、課題の分離の考え方は、現代を生きる私たちにとって非常に重要なのです。

課題の分離,アドラー心理学

2. 課題の分離と歴史背景

1920年以前,フロイトと過去視点

20世紀初頭、心理学界ではジークムント・フロイトによって確立された精神分析理論が大きな影響力を持っていました。フロイトは「人間の悩みの原因は幼少期の体験や無意識の葛藤にある」と考え、悩みを解決するには「過去の記憶を掘り下げ、無意識の内容を言語化すること」が必要とされていたのです。

この時代の心理療法では、悩みの背景にある抑圧された感情をカウンセリングで紐解くことが中心で、「なぜこんな性格になったのか」「なぜこの症状が出ているのか」を過去にさかのぼって分析するというスタイルが一般的でした。

1920年代,アドラーと未来志向

1920年代に入り、アルフレッド・アドラーが「個人心理学」を提唱します。彼はフロイトの理論を離れ、「人は目的に向かって行動する存在である」という新しい視点を打ち出しました。

アドラーはこう考えました——
「過去は変えられない。だったら、今からどこに向かって生きるのかが重要だ」と。悩みの原因を過去に求めるのではなく、「今この悩みを通して、自分は何をしようとしているのか?」という目的論に重きを置いたのです。

また、アドラーは「人間の悩みの多くは対人関係にある」としたうえで、その解決策として「自分の問題」「他人の問題」を分けることが大切であるという考え方を発展させました。他人の課題に不必要に干渉したり、逆に他人から干渉されすぎたりすると、人間関係に不和が生じると説いたのです[1]

その後、アドラーの研究家がこの考え方を「Separation of Tasks」と呼ぶようになっていきました。

アルフレッド・アドラー・課題の分離・目的論

1980年代,日本で紹介される

アドラーの考え方は戦後ヨーロッパやアメリカを中心に浸透していきましたが、日本で体系的に紹介されたのは1984年。この年に日本アドラー心理学会が設立され、精神科医の野田俊作氏が「Separation of Tasks」を「課題の分離」と翻訳し、日本語での概念整理を行ったと推測されます[2]

この時期から、学校教育・家庭・福祉・医療の分野においてもアドラー心理学が少しずつ応用されていきます。子育てにおける親の過干渉、職場でのマイクロマネジメント、人間関係における共依存などの課題に対し、課題の分離の視点が現場で活かされ始めました。

2010年代,嫌われる勇気で広がる

そして2013年、哲学者・岸見一郎氏とライター・古賀史健氏によるベストセラー『嫌われる勇気』が出版され、「課題の分離」は一般層にも広く知られるようになりました[3]

本書では、「他人の課題は手放していい」「承認欲求にとらわれず、自分の目的を大切にする」といったアドラーのエッセンスがわかりやすく語られており、若者を中心に大きな反響を呼びました。

読者からは「人間関係が楽になった」「上司や親との距離感に悩んでいたが、気持ちが楽になった」といった声が多く寄せられ、ビジネス・教育・子育てなどあらゆる場面で応用されるようになりました。

3. できない場合の問題点

課題の分離がうまくできていないと、他人の問題に口を出しすぎたり、逆に自分の人生を他人にコントロールされているような感覚になります。課題の分離は、次の2つのタイプに分けて考えることで、より明確に理解することができます。

干渉する側

1つ目は「相手の問題を自分の問題のように扱ってしまう」タイプです。自分では善意や責任感から動いているつもりでも、実際には相手の人生に過度に入り込み、以下のように問題を複雑化させてしまうことがあります。

・他人の課題にいちいち口を出す
・自分の意見を押しつける
・正論で相手を打ち負かす
・思い通りでないとイライラする
・アドバイスを聞かない相手に腹を立てる

たとえば、子どもに対して「勉強しなさい」「今何ページ進んだの?」と干渉しすぎると、子どもは自ら学ぼうという意欲を失い、指示待ちの姿勢になってしまいます。また、職場でも部下に逐一口を出す「マイクロマネジメント」は、部下の思考力を奪い、自信をなくさせてしまいます。

干渉する親,課題の分離

干渉される側

2つ目は、「他人からの課題の押し付けを断れず、必要以上に引き受けてしまうタイプ」です。「断るのが怖い」「申し訳ない」「自分さえ我慢すればいい」という気持ちが根底にあることが多いです。そして以下のように問題を複雑化させてしまうことがあります。

・他人の課題を無意識に引き受ける
・頼まれごとを断れない
・自分の予定が後回しになり、余裕を失う
・誰かに振り回されている感覚になる
・共依存関係に陥る

たとえば、金銭的にルーズな友人に繰り返しお金を貸してしまうケースでは、「助けてあげたい」という思いの一方で、「自分ばかり損をしている」というストレスが蓄積していきます。また、職場で上司や同僚の依頼を何でも引き受けてしまうと、自分の業務が手につかなくなり、最終的には疲弊してしまうことになります。

課題の分離ができな人,共依存

4. できない場合の問題点

課題の分離が実際にできない人の具体例をお伝えします。気になるタイトルを展開して理解を深めてください。

する側の例‐子どもへの過干渉

中学受験を控えたある家庭の話です。お母さんは毎日のように「今日は何ページ進んだの?」「この問題は解けたの?」と声をかけます。子どもがスマホをいじっていれば「またサボって!」と注意し、模試の結果が悪ければ「どうしてもっとやらなかったの」と叱責します。

お母さん自身は、「子どもの将来のために」と心から思っています。塾代も高く、親としてできる限りの支援をしているという自負もあります。しかし、その強い思いが空回りし、いつしか“自分が合格させなければ”というプレッシャーに変わっていきました。

その結果、子どもは次第に自発的に勉強する意欲を失い、「お母さんが言うから仕方なくやる」といった受け身の姿勢になってしまいます。親が課題を肩代わりすることで、子どもは自分で選び、自分で責任を取る経験ができなくなってしまうのです。

する側の例‐部下への過干渉

ある中小企業での出来事です。ある課長は、部下の仕事を細かくチェックし、報告書のフォーマット、メールの文面、プレゼン資料の文字サイズに至るまで徹底的に口を出していました。表向きには「チームの成果を上げたい」「部下に失敗させたくない」という思いから来ている行動でしたが、実際には部下の自由な発想や挑戦の機会を奪ってしまっていたのです。

その結果、部下たちは「また怒られるかも」「何をやってもダメ出しされる」と萎縮し、常に上司の顔色を伺うようになってしまいました。自ら考えることを放棄し、与えられた作業だけをこなす“指示待ち人間”が育ってしまったのです。

課長自身も、思い通りに動かない部下にイライラを募らせ、次第に口調が厳しくなり、職場の雰囲気はピリピリとしたものになっていきました。これはまさに、「部下の課題」を上司が自分の課題として背負ってしまった典型的な例です。

される側の例‐お金を貸し続ける

学生時代からの友人AさんとBさん。Bさんは浪費癖があり、いつも金欠状態。「今月だけ頼む!」「絶対返すから!」と何度もお願いされ、そのたびにAさんはお金を貸していました。総額は気づけば数十万円にのぼり、返済されたのはごく一部。Aさんはモヤモヤした気持ちを抱えながらも、「昔からの友達だし…」「見捨てたらかわいそう」と断れないまま支援を続けていたのです。

Bさんはというと、借りることに慣れてしまい、「困ったらAに頼ればいい」と考えるようになっていきます。努力して自力で立て直そうという姿勢は見られず、ますます自堕落な生活に拍車がかかっていきました。

この例では、「お金に困っている」「借金をどう返すか」といった課題はBさん自身の問題です。Aさんは一時的な支援はできたとしても、その結果責任を背負う必要はありません。

される側の例‐業務を抱え込みすぎる

ある真面目な女性会社員の話です。上司から「この仕事もお願い」「急ぎでこれも頼む」とタスクを次々に振られるたびに、「はい、わかりました」と引き受けていました。周囲の期待に応えたい、評価を下げたくないという思いから、自分の限界を超えても頑張り続けてしまったのです。

次第に残業が増え、体調も崩れがちに。それでも「断ったら申し訳ない」「迷惑をかけたくない」という気持ちが強く、どこまでも頑張ってしまう――。そんな生活を数か月続けた結果、ついに心身ともに限界を迎え、休職を余儀なくされました。

このようなケースでは、「これは本当に自分の課題なのか?」という視点が欠けてしまっています。本来、業務量のバランスを管理するのは組織やマネジメントの課題であり、個人が全て背負う必要はないのです。

5.課題の分離,3つのステップ

ここからは具体的に課題の分離をする際の、コツを3つのステップで解説していきます。

STEP1
本質的には「誰の課題か」を見極める

課題の分離を行う最初のステップは、「この課題は誰のものなのか?」を冷静に見極めることです。感情的にならず、一歩引いた視点から判断することが求められます。判断の基準としては、最終的にその課題に対する責任を負うのが誰か、そしてその行動や選択の結果にもっとも影響を受けるのは誰か、という2つの観点が有効です。

たとえば、相手が失敗したときに「自分がなんとかしないと」と思ってしまう場面がありますが、それが本当に自分の課題かどうかを見極める必要があります。相手が自分自身で選択し、その結果を引き受けるべき事柄であれば、それは相手の課題であり、過度に介入する必要はありません。

このように、課題の持ち主を明確にすることで、自分が背負うべき責任と、他人に委ねるべき領域が見えてきます。

課題の分離3つのステップ,1

STEP2
サポートはOK,強制はNG

次のステップでは、課題の当事者が他人であると分かったとき、自分がどこまで関わるかを見極めることがポイントです。基本的に「助言・提案・支援」はOKですが、「命令・押しつけ・強制」はNGです。

たとえば、部下が悩んでいる場合、経験に基づいた助言や資料の提供、環境整備といった支援は有効です。ただし、「絶対にこうしろ」「それはやめろ」と強制してしまうと、相手の自主性が損なわれ、反発や依存を生む原因となってしまいます。

干渉される側にとっても同様で、アドバイスを受け取るのは自由ですが、「あなたの言うとおりにしなきゃいけない」というプレッシャーを感じる必要はありません。相手が善意で言っているとしても、それをどう受け止め、どう行動するかはあくまで自分の判断に委ねてよいのです。

課題の分離3つのステップ,2

STEP3
見守る,見守られる

最後に意識すべきは、「見守る・見守られる」というスタンスです。

見守るとは、相手を信じて手放すという姿勢です。例えば、子どもが自分で進路を決めたり、部下が仕事の進め方を自分で選択する場面において、口出ししたい気持ちを抑えて「任せる」ことが重要です。これは決して冷たい対応ではなく、「あなたの力を信じています」という深い信頼の現れです。

また、見守られる側としても、「助言はありがたいけれど、最終的な判断は自分で下したい」という意思表示が大切です。「口を出さないで」と拒絶するのではなく、「見守ってください」という穏やかな伝え方をすることで、自分の意思を尊重してもらいやすくなります。

見守る・見守られるというのは、表面的には何もしないように見えるかもしれませんが、実は深い信頼と勇気に裏打ちされた人間関係のあり方です。干渉せずに関わる。コントロールせずに寄り添う。そのあり方が、課題の分離の最終ステップとして非常に重要なのです。

課題の分離ステップ3,3,見守る

6.3つのSTEPと具体例

最後に3つのSTEPと具体的な事例について解説します。

する側の例‐子どもへの過干渉と3STEP

STEP1 本質的には「誰の課題か」を見極める
「勉強する・しない」は子どもの課題です。最終的にテストの結果や将来の進路に責任を負うのは子ども本人であり、親ではありません。親が心配する気持ちは自然なものですが、最終的な影響を受けるのは誰かを冷静に見つめ直す必要があります。

STEP2 サポートはOK、強制はNG
教材を用意する、学習環境を整える、アドバイスを伝えるなどは適切な支援です。しかし、「必ず勉強しなさい」と指示したり、毎日進捗を詰問するような行為は、子どもの主体性を奪い、勉強嫌いを助長しかねません。

STEP3 見守る、見守られる
親は子どもに対して「あなたの力を信じている」という姿勢で接することが大切です。勉強しない姿を見て不安になることもありますが、最終的には子どもの選択と責任を尊重し、見守る姿勢を貫きましょう。

する側の例‐部下への過干渉と3STEP

STEP1 本質的には「誰の課題か」を見極める
部下が与えられた仕事をどう進めるか、その結果責任を最も受けるのは部下本人です。上司が気になるとしても、実行するのは部下であるという前提を忘れてはいけません。

STEP2 サポートはOK、強制はNG
経験談の共有や方向性のアドバイスは有益ですが、毎回細かく指示を出したり、自由な判断を許さない環境は部下の思考力や成長を妨げます。支援と支配の線引きを明確にする必要があります。

STEP3 見守る、見守られる
失敗を恐れて何も任せられない状態では、部下は自立できません。結果がどうであれ、見守る姿勢で信頼を示すことが、長期的にはチーム全体の力を高める鍵になります。

される側の例‐お金を貸し続けると3STEP

STEP1 本質的には「誰の課題か」を見極める
金銭トラブルを招いたのは友人の行動であり、その結果として困窮するのも友人本人です。自分が「何とかしなければ」と感じたとしても、その問題の責任は自分にはありません。

STEP2 サポートはOK、強制はNG
一時的な相談やアドバイスは構いませんが、繰り返し金銭を貸し続けることは相手の自立を妨げることになります。「貸して当然」という関係にならないよう、線を引くことが重要です。

STEP3 見守る、見守られる
相手が苦しんでいるときこそ「手を出さずに見守る勇気」が求められます。相手が困難を自分の力で乗り越える機会を奪わず、見守る姿勢で距離を保つことが大切です。

される側の例‐業務を抱え込みすぎると3STEP

STEP1 本質的には「誰の課題か」を見極める
過剰な業務量が発生している場合、それは組織や管理職側の課題である可能性が高いです。「全部引き受けなければ」と考える前に、「なぜこの状態が続いているのか?」を見極めることが重要です。

STEP2 サポートはOK、強制はNG
同僚を手伝う、プロジェクトの一部を担うなどは協力です。しかし、「できない」と言えずに限界を超えて仕事を抱えるのは、自己犠牲を強制された状態とも言えます。自分の限界を伝えることは決して悪ではありません。

STEP3 見守る、見守られる
会社や上司の判断に任せるべき場面では、「私はここまでやりました」と明確に線を引き、それ以上は見守る側にまわる姿勢が必要です。自分の健康を守ることもまた、立派な課題への向き合い方です。

 

まとめ

課題の分離は、人間関係を健やかに保つための基本的な視点です。誰の課題かを見極め、支援はしても強制せず、あとは見守る。この3つのステップを実践することで、過干渉や依存を避け、信頼にもとづく関係を築くことができます。是非、日常生活でも活用してみてくださいね。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・アドラー心理学の基礎
・課題の分離の実践
・はじめての認知療法
・はじめての行動療法

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

アドラー心理学入門,わかりやすく,目的論,劣等感,心理学講座

 

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
Twitter→
元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Adler, A. (1927). Understanding Human Nature. Greenberg.
 
[2] 日本アドラー心理学会(n.d.). アドラー心理学の基礎 ― 課題の分離.
 
[3] 岸見一郎・古賀史健(2013). 『嫌われる勇気――自己啓発の源流「アドラー」の教え』. ダイヤモンド社.