ゲシュタルト療法入門,やり方,技法について
みなさん、こんにちは。公認心理師川島です。私達は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「ゲシュタルト療法入門」です。目次は以下の通りです。
①ゲシュタルトとは何か
②心理療法への応用
③3つの気づきの領域
④今こことは何か
⑤エンプティチェア法
⑥ファンタジー・トリップ
⑦投影法と統合
⑧ゲシュタルト療法の研究
なるべくわかりやすく、ゲシュタルト療法の理論を解説したいと思います。是非最後までお付き合いください。
①ゲシュタルトとは何か
提唱者
ゲシュタルト療法は、ドイツ系ユダヤ人の精神科医であるフレデリック(ドイツ語だと,Friedrich; フリードリヒになります)・パールズ (Perls, F.S.) によって1951年に提唱されました[1]。経歴について詳しく知りたい方は、以下をクリックして展開してみてください。
パールズは、1893年にドイツのベルリンにあるユダヤ人街で生まれました。幼少期は反抗的な性格で、13歳で退学してしまいました。その後、パールズは縁に恵まれ、才能を認めてくれる教師と出会いました。
16歳でベルリン大学医学部入学し、27歳で卒業。精神医学の博士号を取得しました。しばらく従軍医として勤務していましたが、ここで2つの人生の転機を迎えます。
2つの人生の転機
1つ目は、33歳の頃にゲシュタルト心理学に出会ったことです。パールズは、脳挫傷の患者の知覚障害を研究する過程でゲシュタルト心理学と出会い、その後、開発する心理療法の基礎を固めていきました。
2つ目は、彼の妻となるローラ (Laura)・パールズ (旧姓:Lore Posner) と出会ったことです。ローラは,ドイツ生まれの心理学者,心理臨床家でした。ふたりは一緒にゲシュタルト療法を発展させ、夫婦で世界を回りながらゲシュタルト療法を広めていくことになります。
研究所の設立
1933年、ドイツでヒトラーの影響力が強くなり、ユダヤ人が迫害されていきます。そのため、パールズ夫妻は41歳の時に南アフリカへ移住し、精神分析研究所を開設しました。
しばらくすると、パールズは精神分析に関する論文を作成し、チェコで開催された国際精神分析学会に参加しました。そこで精神分析の創始者であるフロイトと会話しましたが、その内容はパールズを歓迎したものとは言えませんでした。
そのためパールズは精神分析に見切りをつけ、ゲシュタルト心理学をベースにゲシュタルト療法を作り始めます。53歳の時にアメリカへ移住し、その後ゲシュタルト療法研究所を設立しました。そしてゲシュタルト療法を広めるためにアメリカを周ります[2]。
世界的に注目される
転機が訪れたのは晩年になります。ベトナム戦争の時に、カルフォルニアで反戦運動が高まりました。社会的に、精神的な生き方を追求する流れができたことで、ゲシュタルト療法が注目されていったのです。そして、最終的にライフ誌にとりあげられ、パールズは世界的に有名になりました。
1965年に「グロリアと3人のセラピスト」がビデオ収録され、パールズもその一人として出演しています。
定義
ゲシュタルト(gestalt; 「形態」とも訳されます)とは、以下のような意味があります。
全体を部分の寄せ集めではなく、1つのまとまりとして捉える心の仕組み
私たちは、個々の要素を全体としてまとめて見る力があり、これを「ゲシュタルト」と呼ぶのです。
具体例
理解を深めるため、2つの具体例を解説します。以下の図をご覧ください。
こちらは、1880年に作成されたアンカーバギーカンパニーという自動車会社の広告です。皆さんは何に見えるでしょうか。私は「少女の後ろ姿」に見えましたが、人によっては「微笑む老婆の横顔」に見えるかもしれません。
次に以下の図はどうでしょうか。
こちらは「ルビンの杯」と呼ばれる図です。一見すると、「白いカップ」に見えるかもしれませんが、「二人の人間が向き合っている影」にも見えます。
②心理療法への応用
パールズは、ヒトのこの知覚(いわば生理学的な反応)を精神に置き換えてこのように全体を統合してまとまりとして捉える「ゲシュタルト」の機能を、心理療法に応用していきました。具体的には以下の3つのポイントがあります。
スッキリする感覚
ゲシュタルトがうまく行くと、心のもやもやが晴れてスッキリとしていきます。例えば、先程の絵を見たとき、まとまりとして捉えられるとどこか嬉しい気持ちになりませんでしたか?
ゲシュタルト療法では、心のもやもやを整理し、まとめていく感覚を大事にしています。悩みを抱えている時は、大概の場合、自分の理想や願望がうまくかなわず、現実と理想がバラバラになってしまっています。この時、ゲシュタルト療法では、自分のありのままの姿や考えをうまくまとめて、統合していくことを目指していきます。
アウエアネス
ここでゲシュタルト療法は、意識できる世界を「図」、意識できない世界を「地」と表現して考えていきます。この考え方は「図ー地知覚 (Figure-Ground Perception)」と言います。
この時、「意識できる世界」だけで生きている人は、精神的に混乱しやすいとされています。そこでゲシュタルト療法では、「意識できない世界」に気がつくことを大事にします。これをアウエアネスと言います。
図と地をまとめる
アウエアネスができたら、意識できる世界をうまく切り替え、全体として統合できるようにしていきます。このように、「図と地」の関係を理解し、全体として心をまとめていくことをゲシュタルトでは目指していくのです。抽象度が高くややわかりにくいので、以下に具体例を解説しました。展開してみてください。
例えば、花子さんは人と話すとき、緊張して疲れ果ててしまいます。花子さんは当初、意識できる「緊張する場面」のみに注目し、「なぜ私は緊張しちゃうの?どうして?どうして?」と混乱しやすかったとします。
以下ように、意識できなかった自分の心を発見することを、「アウエアネス」と言います。アウエアネスの後に大事なことは、意識と統合していく作業になります。
例えば花子さんの場合、「緊張していない場面の自分の人生」に目をむけ、気づきを得たとします。「緊張する場面」と「緊張していない場面」を一つのまとまりとして認識し、統合していきます。
すると、「自分の人生、うまくいっている場面もある。緊張自体は今後もするかもしれないけど、これからの人生は、前向きに受け入れて人と温かい関係を築いて行こう」と考えられるようになるかもしれません。
ゲシュタルト療法では「意識していなかった部分に気づくこと」「統合すること」をとても大事にしている心理療法であるということを抑えておきましょう。
③3つの気づきの領域
ゲシュタルト療法では「気づき」をとても大切にしますが、これはやや抽象的でわかりにくい概念でした。そこでパールズは、気が付く領域を3つに分け、より具体的に考えて行きました。
身体の気づき
まずは、身体の気づきです。普段私たちは、「肩がこったな」「咳がでているな」と意識することがありますが、これは身体から分かりやすいサインが出ているためです。では、意識していない部分についてはどうでしょうか?
例えば、「身体の感覚に意識を向けるワーク」や「呼吸にしっかり意識を向けるワーク」などを通して、ふだん意識していない身体の様子に気づいてみましょう。自分が身体の部位になったつもりで、その部位にある感覚を言語化してみます。また、自然に起こっている呼吸の感覚に意識を向けてみます。
現実の気づき
次は、現実の気づきです。「現実の世界」とは「外部環境との接点や関係性」のことです。私たちは普段、自分視点で物事を見て、世界と関わっています。では、現実世界との接点や関係性など、視点を変えてみるとどうでしょうか?
例えば、「図と地の絵」のような感覚で、今までとは違ったものの見方を探していく練習をします。コロナ禍によって孤独を感じやすい現代社会では特に、人間関係の大切さや、対面で話すありがたみを改めて実感するかもしれません。
思考の気づき
次は、思考の気づきです。これは自分の内面を探っていく作業になります。
例えば、ゲシュタルト療法では「ドリームワーク」というものがあります。ドリームワークでは、夢を見たときに「その夢に対してどう考えたか」「何が影響してその夢をみたか」などを考えていきます。
このように、3つの領域でそれぞれ吟味していくと、今まで意識できなかった自分に気づくことができるでしょう。そしてその仕上げに、身体・現実・思考を、1つの個性ある自分の「まとまり」として感じ、統合ていくことが大事になります。
④今こことは何か
ゲシュタルト療法では、「今ここ」という考え方に重点を置いています。分かりやすいように、精神分析の考え方と比較しながら解説してきます。
精神分析の考え方
フロイトが提唱した精神分析では、以下のように考えます。
過去のわだかまりに注目し、そこに原因を求めて解決していく。
しかし、ゲシュタルト療法は、上記の考え方は「過去に囚われ、全体を上手く統合できない」と批判しています。
ゲシュタルト療法の考え方
そこで、ゲシュタルト療法では、以下のように考えます。
今ここにある現実をベースに、過去や未来を考えていく。
過去・現在・未来を、その人の「人生」というひとつのまとまりとして考え、全体を統合していきます。この「今ここ」に意識を向けることは、マインドフルネス療法やアドラー心理学、来談者中心療法などでも大切にされています。では、なぜ「今ここ」が心理療法の世界で、ここまで重視されているのでしょうか。
悩みの元は過去や未来
私たちの悩みのほとんどは、過去や未来のことを考えることで生まれます。過去や未来に囚われると、大概の場合は、悩みにどっぷりつかって、現実が蔑ろになってしまいます。
一方で、「今この瞬間」について悩むことはそんなにありません。せいぜい「ちょっと寒いな」「眠たいな」程度のものです。
例えば「お金がない」という悩みは、現在についての悩みに思えるかもしれません。しかしこれも掘り下げてみると、「買い物を我慢すればよかった」という過去についての後悔や、「今月の家賃が払えるだろうか」という未来についての心配や不安であるといえます。
そのため、「今この瞬間」をベースに物事を考えて生きる習慣をつけると、精神的には安定しやすいと言われています。
ベースキャンプとしての今ここ
ただ、過去や未来を考えてはいけないということではありません。ゲシュタルト療法やマインドフルネス療法では、あくまでも「今ここ」はベースキャンプであると考えます。
過去や未来に思いを馳せることもありますが、「今ここ」をベースキャンプにすることで、いつでも現在の落ち着きや平安に戻ることができるのです。
⑤エンプティチェア法とは
「エンプティチェア法(Empty Chair Technique)」というゲシュタルト療法のワークをご紹介します[3]。
意味
エンプティチェア法とは、以下のようなワークになります。
誰も座っていない椅子に自分や他人を座らせ、やりとりをすることで、意識できない世界を見つけて、意識できる世界と統合していく手法。
やり方
「悩んでいる自分」「困っている自分」場合によっては、「幸福な自分」をイスに座らせ、
いま辛い気持ちなの?
本当はどうしたいの?
と質問をしていきます。そしてそのやりとりを繰返していくと、段々と意識できない世界が明確になり、
本当はこうしたい
ああしたい
という隠れた欲求に気が付いていきます。
統合→新しい生き方を目指す
こうして充分に語りつくすと、統合が起こり、新しい生き方を目指せるようになります。エンプティチェア法は、トラブルを抱えている相手に対しても行うことができます。相手の気持ちを理解し、許すこともできるようになります。
深刻な悩みでなければ、一人でも行うことができます。心が安定している時に、試してみるといいかもしれません。
⑥ファンタジートリップ
「ファンタジートリップ法(Fantasy Trip)」というゲシュタルト療法のワークをご紹介します[4]。
意味
ファンタジー・トリップとはクライアントが内的な世界で新たな自己や他者と向き合い、心の奥底に潜む感情や未解決の問題と対話する技法です。実際の体験ではなく、想像の中で特定の人物や場面を視覚化することで、現実では困難な対話を可能にし、心の癒しや自己理解を促進します。
やり方
①リラックスとイメージ誘導
セラピストの指導でリラックスした状態を作り出し、クライアントが自然にイメージできるように誘導します。
②ファンタジー体験
クライアントが自身の心に浮かぶイメージを探り、過去の重要な人物や失った存在とファンタジーの中で会話を試みます。
③感情の解放
クライアントは過去の未解決の感情を言葉や行動で表現することができ、内面的な和解が可能となります。
効果と応用例
たとえば、あるクライアントが事故で失った家族に対して未解決の感情を抱えている場合、ファンタジー・トリップでその家族と再会し、思いを伝えたり謝罪を受け入れたりする過程で、許しや安心感を得られ、心の中での平和が訪れます。
ファンタジー・トリップは、クライアントが心の奥深くに隠された感情と向き合い、心の負担を和らげるための心理的手法として効果を発揮します。
⑦投影と統合
「投影と統合(Projection)」というゲシュタルト療法のワークをご紹介します[5]。
意味
Projectionはクライアントが自己の中にある否定的な感情や不安を他者に押し付けることで、自分と向き合うことを避ける一種の防衛機制です。これにより一時的な安心感は得られますが、長期的には自己理解や人間関係の悪化を招く恐れがあります。
やり方
①気づきの促進
セラピストは、クライアントが他者に対して抱いている感情に着目します。「自分は他人に見下されている」と感じるクライアントに対し、「あなた自身は自分をどう感じているのか?」と質問を投げかけ、投影された感情を自分に取り戻す手助けをします。
②対話による統合
投影された感情や思考がクライアント自身のものであると気づかせるため、対話形式で進めます。「自分が感じる怒りや批判は本当に相手のせいなのか、それとも自分の中にあるものなのか」といった問いかけを通して投影を自覚し、自己理解を促進します。
③役割交替
セラピストが相手の立場や感情をクライアントに演じさせることで、投影を自覚しやすくする技法です。これにより、クライアントは自分の感情や問題と向き合う準備が整います。
効果と応用例
たとえば、「上司が自分を批判している」と感じるクライアントがいた場合、セラピストは「上司に対する批判的な見方が自分に対する批判の反映ではないか?」と問いかけます。この過程で、クライアントは上司への不満が自己への不安や自己否定の投影であると気づき、自己理解が深まります。
Projectionは、クライアントが自己と向き合い、心の統合を目指すための有効な手法として、ゲシュタルト療法において幅広く活用されています。
⑧ゲシュタルト療法の研究
「まとまり」の感覚は、メンタルヘルスにどのように影響するのでしょうか。
アイデンティティとの関係
谷(2001)[6]は、学生306名を対象に、青年期におけるアイデンティティに関する調査を行いました。その結果が以下の図です。
対自的同一性とは、「やりたいことが分かっている性質」のことを指します。つまり、「自分の無意識的な欲求を意識化できており、まとまりのある感覚を持っている状態」を指します、この対自的同一性が高いと、自尊心と基本的信頼感も高くなることがわかります。
自己斉一性との関連
谷(2001)の同研究[6]では、自己斉一性・連続性との関連も調査されています。自己連続性・斉一性とは、「過去と自分がつながっている感覚」のことを指します。つまり、「過去の自分の身体、環境、内面が、現在の自分とひとつにまとまっている感覚」と言えます。結果は以下の図のようになりました。
自己斉一性・連続性が高いと、自尊心と基本的信頼感も高いことが分かります。つまり、ゲシュタルト療法によって、まとまりのある感覚を持つことができると、メンタルヘルスが安定すると言えそうです。
まとめ
現代社会には、知識や情報、思いや言葉などが溢れています。すると、すぐに過去や未来に意識が行ってしまい、まとまりのある感覚を持てなくなってしまうことも多いです。
そこで、ゲシュタルト療法を学ぶことで、自分と深く向き合い、内面のつながりを実感することで、今ここに安らぎを得ることができます。皆さんが自分の心の声を自覚し、より良い生き方ができるように心から願っています♪
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