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ポジティブ心理学,ウエルビーング,5つの要素

ポジティブ心理学,ウエルビーング,5つの要素

みなさんこんにちは。公認心理師の川島です。私はこちらの心理学講座を開催しています。今回は「ポジティブ心理学」について解説していきます。目次は以下の通りです。

① 歴史
② ウエルビーング
③ PERMAモデル
④ ストレングス
⑤ ロサダ比率
⑥ 3つの良いことエクササイズ
⑦第二世代のポジティブ心理学

ポジティブ心理学は、強みや長所を研究する心理学です。ポジティブな感情は、健康的な体つくりにも重要であることが分かってきています。

当コラムでは、ポジティブ心理学の歴史、専門用語、エクササイズなどを紹介します。読み進めていくと、基本的な知識と活かし方を知ることができると思います。是非最後までご一読ください。

動画でも解説します。併せてご活用ください。

①歴史

提唱者

ポジティブ心理学 (positive psychology)の提唱者は、マーティン・セリグマン(Martin E. P. Seligman)です[1]

Martin E. P. Seligman

セリグマンは1964年にプリンストン大学を卒業し、哲学の学士号を取得します。当時は、ウィトゲンシュタインという哲学者の論理哲学論考(ことばと思考の関係や限界について考える哲学)が流行っていました。

ウィトゲンシュタインの教えにセリグマンは批判的で「現代哲学のダースベーダー」と呼んで区切りをつけていきます。そして、卒業後は進路を変え心理学の世界に入るのです。

1967年 心理学博士号を取得

1967年セリグマンは、ペンシルバニア大学で心理学博士号を取得します。この頃のセリグマンは、心理学の世界でとても有名な学習性無力感の研究を精力的にしていました。

学習性無力感とは以下のような研究です。

犬に電気を流すと最初は抵抗する
しかし抵抗しても解決できないことを悟る
もはや抵抗することすらしなくなる

研究としては、最初は犬が対象だったのですが、セリグマンは人間に対しても別の角度から調査を行い「うつ病患者」にも学習性無力感と同じような特徴があることを発見しました。

1972年 ベックからの助言

セリグマンは当初、犬をベースにした基礎的な実験心理学に時間を使っていましたが、1972年転機が訪れます。当時、ペンシルバニア大学には、アーロンベックという認知療法の有名な先生がいました。

アーロンベック

セリグマンはアーロンベックと昼食をする機会があったそうです。その時ベックに「実験室の中で動物相手に働き続けると人生を棒にふりますよ」と助言を受けました。このアーロンベックの言葉をセリグマンは「人生で2番目にためになった言葉」と回想しています。

1990年代 楽観的な人を研究

セリグマンは学習性無力感モデルをベースに研究を進めますが、楽観主義の研究も進めるようになっていきます。例えば、1991年には「楽観主義は学習できる」という本を出版します。

Learned Optimism

この本では、楽観主義の習慣を学ぶのに役立つプログラムが紹介されています。1996年には「楽観的な子供」という本を出版します。

The Optimistic Child

この本では、運動や学校でより多くのことを達成し、楽観的になるスキルが紹介されています。セリグマンは、1998年アメリカ心理学会の会長に選出されます。

2002年 ポジティブ心理学提唱

セリグマンは2002年[2]には、ポジティブ心理学を提唱し、永続的に反映する心のあり方、生き方を提案することとなりました。

Authentic Happiness

私自身ポジティブ心理学の勉強をたくさんやってきました。他の心理療法と比べて、前向きな言葉を使うことが非常に多いので楽しい心理学の印象があります。

②ウエルビーング 

ウエルビーングの意味とは

ポジティブ心理学では、ポジティブ感情、幸福感、どちらも大事にしますが、もっとも大事なものは「ウエルビーング」になります。ウエルビーングとは、

個人の権利が保障され、肉体的・精神的・社会的に満たされた状態が長期的に持続すること

を意味します。

例えば、個人の権利とは、会社でパワハラを受けることなく働くことができる権利であったり、自由に発言する権利だったりします。奥さんにお小遣いの値上げを主張するのも1つの権利かもしれません。

そして肉体的、精神的に満たされるだけでなく、社会的にも満たされることが大事にされています。例えば仕事をしているときに、しかめっ面の上司ににらめれ続けるのではなく、伸び伸びと自己実現できている感覚が大事にされます。

主観的ウエルビーング

人がどれだけ幸せや満足を感じているかを示す概念です。エド・ディーナーによって提唱され、

ポジティブな感情を感じる
ネガティブな感情が少ない
生活全般の満足度が高い

という3つの要素から成ります[3]

ポジティブな感情(喜びや感謝など)を頻繁に感じること、ネガティブな感情(不安や悲しみなど)が少ないこと、そして人生に対して高い満足感を持っていることが主観的ウェルビーイングの高さを示します。

ウェルビーイングは個人の幸福感を測定するために広く用いられ、日常の幸福度を高める心理的介入にも応用されています。主観的ウェルビーイングを増やすには以下を参考にしてみてください。

喜びを感じる日々
仕事に満足
感謝の気持ちが多い
ネガティブ感情が少ない
リラックスできる時間がある

心理的ウェルビーング

個人が自己成長や自己実現を通じて感じる深い幸福感を示す概念で、キャロル・ライフによって提唱されました[4]。人生における意義や目標を持ち、自己理解を深めながら持続的な幸福を追求することが心理的ウェルビーイングの特徴です。

長期的な幸福感や充実感を支えるため、心理的ウェルビーイングは自己探求や成長を伴う心理的介入に応用されています。心理的ウェルビーイングを増やすには以下を参考にしてみてください。

明確な目的意識を持つ
個人的成長を感じる
自律的に行動できる
環境を適切に掌握できる

③PAERMAモデル

セリグマンは2011年になるとポジティブ心理学では、ウエルビーングを達成するには5つの要素が必要であると考えました[5]

ポジティブな感情が豊富  positive emotion
没頭できるものがある  engagement
前向きな人間関係   positive relationship
人生に意味を見出す  meaning
達成感のある生活   achievement

これらは頭文字をとってPERMAモデルと呼ばれています。

ポジティブ感情

1つ目は、Positive emotion「ポジティブ感情」です。ポジティブ感情とは、愛情、喜び、幸福、感謝などを意味します。

ここでシェルドン・コーエンという学者が行った実験をご紹介します[6]。実験ではまず参加者を、ネガティブな人・ポジティブな人の集団にわけます。その後ライノウイルスという風邪のウイルスに感染してもらうというものです。

あくまで任意で行われた実験ですが、ウィルスに感染させるってすごいですよね。その結果、ネガティな人よりポジティブな人の方が風邪になった人の割合が少なかったことがわかりました。

ポジティブ心理学 研究結果ポジティブな感情は、人間の寿命や病気など健康的な体つくりにも重要であることが分かってきています。

熱中していること

2つ目は、Engagement「熱中していること」です。別名フロー状態と言ったりします。仕事でも趣味でも、家庭でもいいので、何かに打ち込むことが重要になります。

フロー状態になるには、明確な目標を持つ、スキルと難易度が適切、コントロールが可能、自分で決定していく、など9の条件が必要とされています。詳しくは以下のコラムで解説しました。

フロー心理学の基礎

人間関係が充実

3つ目はRelationship「人間関係の充実」です。人間関係の重要性については、博報堂、慶応義塾大学前野隆司教授との共同研究(2014)から紹介します[7]

前野らは、全国15,000人を対象に幸福感について様々な調査を行いました。その結果の一部が下図です。友人の人数に応じた、幸せ風土スコアを示しています。幸せ風土スコアは、ウエルビーングに近い意味になります。

幸せ風土スコア

友達が全くいないと思っている人と30人以上いると思っている人を比較すると、差が2倍くらいあります。つまり友人が多いほど、ウエルビーングが高くなると言えます。実は他の研究でも似たような結果があるため、統計的にいうと友人が多いほど幸せになりやすいと考えることができます。

意義ある人生

4つ目はMeaning「意義ある人生」です。人生に価値を感じることが、ウエルビーングを達成するうえで、大事になります。意義のある人生を獲得するための手法はポジティブ心理学では明示はされています。

この点、筆者の川島はアイデンティティに関する研究が参考になると考えています。心理学者の谷(2001)[8]はアイデンティティを確立するためには、「過去に意味を見出す」「自分の価値感を見つける」「自分らしく生きる」「社会的な役割を持つ」などが必要になります。詳しくは以下のコラムを参照ください。

アイデンティティを確立する方法

意義ある人生

5つ目は Achievement「達成していく」です。達成については、自分なりの目標でOKです。

仕事や趣味の登山でもいいですし、恋愛で「峰不二子ちゃんのような彼女を作る!」「アラブの石油王のようなゴージャスな王子様を作る!」でもいいでしょう。自分なりに目標を立ててひとつひとつ達成していくことで自信がもてるようになり、人生を積極的に生きて行くことができます。

ポジティブ心理学 達成

④ストレングス

ストレングスはポジティブ心理学で重視されている考え方です。

ストレングスと医療モデル

ストレングスとは、

長所・強み・資源を活かすこと

です。そしてストレングスの理解を深めるには「医学モデル」というという用語を抑えておく必要があります。

医学モデルとは、

病気・障害を治す

という視点になります。

例えば、バイクで事故をした場合

ストレングス

怪我を直そうとするのが医学モデルです。医学モデルでは病気や障害の治療や症状の緩和をするという発想になってきます。

ストレングス

一方でストレングスでは、長所や能力に焦点をあてます。例えば、この人は怪我をして、下半身に障害が残ったとしましょう。ストレングスの考え方では上半身の手が動くのでその部分を活かして、人生を前向きに過ごそうと発想していきます。

ストレングス

このイラストでは、車いすレースで活躍をしています。このようにポジティブ心理学ではストレングスを人生において発見し、活かしていく姿勢を大事にするのです。

ストレングスの種類

ストレングスには、様々なものがあります。入門編としては6分野、24種類にわけるやり方があります。

ストレングス

もっと具体的に自分のストレングスを発見したい方は、ペンシルバニア大学のWEBサイトで発見することができます。以下のリンクからご覧いただけます。参考にしてみてください。

ストレングスを測る

⑤ロサダ比率

定義

ロサダ比率とは

健康的で良好な関係を保つためのポジティブ・ネガティブの比率

のことです。ロサダ比率を導きだしたマーシャル・ロサダは、60のビジネスのチームを調査して下図の結果を出しました[9]

ロサダ比率

要約すると、ビジネスシーンでは、ポジティブな関わり方とネガティブな関わり方は、6対1ぐらいにするとパフォーマンスが向上することがわかりました。一方で、パフォーマンスが悪いチームは、ポジティブとネガティブが逆転して1対3ぐらいだったこともわかってます。余談ですが、ポジティブが13を超えるとパフォーマンスが下がることも分かりました。

またロサダ先生は、プライベートも調査していました。プライベートでは3対1を下回ると、関係が悪くなるという結論も出しています。

ロサダ比率

但しこの話にはオチがあって、ロサダ先生が出した数字は調査方法に誤りがあり、否定されています。それでも私は、ポジティブ、ネガティブの比率を気をつけながらコミュニケーションするという視点は、人間関係を健康的なものにするために意識をしてもいいかなと考えてます。

⑥3つの良いことエクササイズ

ポジティブ心理学でよく用いられるエクササイズを紹介します。

「3つの良いことエクササイズ(Three Good Things)」です。非常にシンプルですが効果が実証されているのでおすすめします。正式なやり方としては、1日の終わりにうまく行ったことを、その理由をそれぞれ3つ書くというものです。

セリグマン(2005)[10]が行った実験の結果は以下の通りです。

ポジティブ心理学と幸福感

上記のように「うつ」「幸福感」共に改善していることがわかります。正式には、日記などで書くとされていますが、寝る前に目をつむりながら考えるだけでも安眠ができるのでおすすめです。

⑦第二世代のポジティブ心理学

第二世代のポジティブ心理学とは

ポール・ウォンは、人生の意味の追求に焦点を当てた「第二波ポジティブ心理学」を提唱し、ポジティブな結果や精神的健康の追求に加え、否定的な感情や悲観主義を受け入れることを強調しました。ウォンは、苦しみを避けるのではなく、苦しみの意味を受け入れ、それを変容させることが重要だと主張しています[11]

第二世代のポジティブ心理学とは

2019年には、第二波ポジティブ心理学の4つの原則を提案しました[12]

①苦しみの受容
人生には避けられない悪や苦しみが存在します。それを避けるのではなく、勇気を持って受け入れ、直面することで内面的な成長を促進します。このアプローチは、困難を乗り越える力を高め、自己肯定感を育てるために重要です。

②幸福の達成
持続可能な幸福は、ただ楽しい出来事から得られるものではありません。苦しみや人生の暗い面に立ち向かい、それを克服する過程にこそ真の幸福があると考えます。この過程が自己成長や強さを育む鍵です。

③両極性の認識
人生の出来事は良い面と悪い面が表裏一体として存在しています。弁証法を用い、両極性を理解しバランスを取ることで、柔軟に適応し、より充実した人生を築くことができます。極端な思考に偏らないことが大切です。

④喜びの発見
苦しい状況に直面したときでも、そこから深い喜びを見出す方法を学ぶことが重要です。先住民の知恵や考え方には、困難な状況でもポジティブな視点を持ち続けるためのヒントが詰まっています。

ポジティブ心理学 メリットデメリット

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。

・ポジティブ心理学の基礎
・はじめての心理療法
・不安が軽くなる,認知療法
・積極的になれる,行動療法

講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)

ポジティブ心理学,ウエルビーング,5つの要素,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1]Martin E. P. Seligman 画像出典
 
[2]Seligman, M. E. P. (2002). Authentic happiness: Using the new positive psychology to realize your potential for lasting fulfillment. Free Press.American Journal of Psychiatry 161(5):936-937
 
[3]Diener, E. (1984). “Subjective well-being.” Psychological Bulletin, 95(3), 542–575.
 
[4]Ryff, C. D. (1989). “Happiness is everything, or is it? Explorations on the meaning of psychological well-being.” Journal of Personality and Social Psychology, 57(6), 1069–1081.
 
 
[6]Sheldon Cohen,William J Doyle,Ronald B Turner,Cuneyt M Alper,David P Skoner(2003).Emotional style and susceptibility to the common cold. Psychosom Med. 2003 Jul-Aug;65(4):652-7. doi: 10.1097/01.psy.0000077508.57784.da. PMID: 12883117.
 
[7]前野隆司(2014).「地域しあわせ風土調査」慶応義塾大学 博報堂
 
[8]谷冬彦(2001).青年期における同一性の感覚の構造-多次元自我同一性尺度MEISの作成- 教育心理学研究 49 265-273
 
[9]Losada, M., & Heaphy, E. (2004). The Role of Positivity and Connectivity in the Performance of Business Teams: A Nonlinear Dynamics Model. American Behavioral Scientist, 47(6), 740–765.
 
[10]Seligman, M.E.P., Steen, T.A., Park, N., & Peterson, C. (2005).Positive psychology progress: Empirical validation of interventions. American Psychologist, 60,410-421.
 
[11]Wong, Paul T. P. (2011). “Positive psychology 2.0: Towards a balanced interactive model of the good life“. Canadian Psychology. 52 (2): 69–81. doi:10.1037/a0022511.
 
[12]Wong, Paul T. P. (2019). “Second wave positive psychology’s (PP 2.0) contribution to counselling psychology”. Counselling Psychology Quarterly. 32 (3–4): 275–284. doi:10.1080/09515070.2019.1671320S2CID 210584208.