ブリーフセラピー,短期集中療法入門
みなさんこんにちは。公認心理師の川島です。私はこちらの心理学講座を開催しています。今回のテーマは「ブリーフセラピー(短期集中療法)」です。
ブリーフセラピーは、様々な心理療法の中でも特に前向きでポジティブな手法です。目次は以下の通りです。
コラム1 ブリーフセラピーの基礎
コラム2 技法,リソース探しのコツ
コラム3 技法,ミラクルクエスチョン
読み進めていくと、ブリーフセラピーの基本的な知識と対策をおさえることができると思います。是非最後までご一読ください。
ブリーフセラピーとは何か
まずはじめに、ブリーフセラピーの概要をおさえていきましょう。
ブリーフセラピーの意味
ブリーフセラピーは「短期集中療法」とも呼ばれています。意味は以下の通りです。
短期間の治療や支援を目的として、心の問題の原因探しよりも、具体的な問題解決に焦点をあてて進める心理療法
ブリーフセラピーが登場するまでの心理療法は、過去に原因を求める流派が多く、治療に時間がかかっていました。これに対して短期集中療法では、現在や未来に視点をおいて、「これからどうするか」ということにこだわり、心を前向きにしていくのです。
ブリーフセラピーの効果
ブリーフセラピーは、過去に囚われなかなか前を向けない方に効果を発揮することがあります。
具体的な事例としては、災害から未来に向けて立ち直る、不登校の改善、燃え尽き症候群の改善、抑うつ感の軽減などに有効です。
心理学者のHabibiら(2016)[1]は、抑うつ傾向のある女性を「ブリーフセラピーを受ける群」「受けない群」の2群に分け、効果を比較しました。その結果の一部が下図となります。
治療前に大きな差はありませんが、治療後はセラピーを受けた群の抑うつ得点が低くなっていることがわかります。
ブリーフセラピーと歴史
MRI学派
ブリーフセラピーには大きくわけて2つの流れがります。
1つ目は、アメリカ精神医学会のメンバーであったミルトン・エリクソン (Erickson, M.H.) に影響を受けたMRI(Mental Research Institute) 学派の流れです。[2][3] ミルトン・エリクソンは,発達心理学のライフサイクル論で有名な,精神分析医のエリクソン(Erickson, E.) とは別人物です。
エリクソンは、声のトーンや抑揚、ジェスチャーなどの日常会話を使って催眠に誘導する「現代催眠」の父と呼ばれています。その卓越した催眠技法は「魔術師」と呼ばれるほどでした。
しかし彼は、クライアント個人に合わせたアプローチをすべきという考えが強く、技法の体系化を好みませんでした。そこで、家族療法という心理療法を研究していたMRI学派がこれを取り入れ、1960~1970年代に発展させていきました。
BFTCによる流れ
2つ目の流れは、1978年にインスー・キム・バーグとド・シェイザーが設立した「BFTC (Brief Family Therapy Center)」の流れです。両名はMRIの手法に懐疑的であり、独立した団体を立ち上げたとされています。
BFTCでは、SFA (Solution Focused Approach) という新たな心理療法が開発されました。SFAでは、現在や未来に関する洞察を中心として、過去にはこだわらない姿勢を大事にしています。
複数の種類
その後、弟子や共同研究者らは、それぞれに独自のセラピー技法を構築しました。それらの総称が「ブリーフセラピー」と呼ばれています。代表的なものとして、以下のものが挙げられます。
解決志向ブリーフセラピー(SFA)
対人関係療法(IPT; Interpersonal Therapy)
時間制限心理療法
問題解決療法 など
またこれ以外にもブリーフセラピーに該当する技法はたくさんあり、50種類以上あるという主張もあります(Cooper,1995)[4]。細かな違いはあるものの、基本的には同じ価値観を土台とした心理療法です。
ブリーフセラピーの哲学
ここではブリーフセラピーの重要な哲学を6つ紹介します。
①目標を明確にする
ブリーフセラピーは、抽象的な悩みを抱えたクライエントさんとの相性があまりよくありません。例えば、「過去の家族関係を見直して心を整理する」このような目標は避けます。
ブリーフセラピーでは、「具体的に何を改善するか」という治療目標を明確にします。例えば、会議で主張するのが苦手な人が、「1か月以内に発言できるようにする」など、具体的にしていくのです。
②短期間の効果を重視
心理療法は、種類にもよりますが年単位で時間のかかるものもあります。一方で、ブリーフセラピーは数カ月で問題を改善することが目標とされています。なるべく効率的に、効果をしっかり出すことが大事にされます。
③前向きに未来を考える
他のセラピーでは「原因は何か?」と過去を掘り下げる問いかけが多く見られます。このような原因探しは、後ろ向きな気持ちを招いてしまうことがあります。心の問題はこれといった原因が特定しずらく、複数の要因が絡み合っていることがほとんどです。また、原因をはっきりさせたとしても、解決策が見つからないケースもあります。
ブリーフセラピーでは、前向きな未来を想像することを大事にします。過去は過去として、これからの未来を実りあるものにするように、しっかり考えて行きます。
④成功をイメージする
未来について考える時は、失敗よりも成功をイメージしていきます。心理学の研究では、うまく行くことに意識を向け続ければ、うまく行きやすくなり、逆にうまく行かないことばかりに意識を向けると、本当にうまく行かなくなってしまう傾向があることが分かっています。
これはワレンダ要因と言われています。ブリーフセラピーでは、失敗よりも成功イメージを重視し、うまく行く感覚を増やしていくことを大事にしています。
⑤具体的なアドバイスもする
心理療法は一般的に、カウンセラーからの具体的なアドバイスは控えめで、あくまでクライアントの成長を促すものが多いです。一方でブリーフセラピーは、問題の解決に役立つ手法をある程度積極的に伝えていく点が特徴といえます。
ソリューションイメージ法
ここからは、ブリーフセラピーの具体的な手法として、「ソリューションイメージ法」を解説していきます。ソリューションイメージ法は、「もしも」「だとしたら」という言葉を使い、未来志向の感覚を高める方法です。
具体的なやり方はクライアントの状況やカウンセラーによって変わってきますが、概ね以下のように進んで行きます。
ワーク① ミラクルクエスチョン
ワーク② タイムマシンクエスチョン
ワーク③ カリスマクエスチョン
ワーク④ 目標を明確にする
ワーク⑤ リソース探し
ワーク⑥ スモールステップ
ワーク⑦ スケーリング
ワーク⑧ 結果への構え
以下それぞれ実戦形式で学習してみましょう。
ワーク① ミラクルクエスチョン
まずはミラクルクエスチョンと呼ばれる質問に挑戦しましょう。これは奇跡を想定した問いかけです。ミラクル?怪しい…と感じたあなた!お気持ちよくわかりますが、どうかお付き合いください。それでは質問いたします!
明日1日、あなたの悩みが解決する魔法の杖を手に入れました。その魔法の杖を使ったら、明日はどんな1日になるでしょう?
みなさんは、この質問を投げかけられて、どんな想像をしますか?いくつか想像してみましょう。例えば以下のようなイメージです。
朝、体調が万全で生き生きとしている
食事中、同僚との会話で軽く笑いをとる
新規の契約を受注している
気になる人を食事に誘ってOKもらっている
など、自由に想像します。過去の失敗や今の自分に囚われることなく「こうなったらいいな」と考えてみることで、自分にとって「理想的な状態」を見つけることができます。「解決したい問題は?」と聞いても具体的に浮かばない場合、このような質問をすることで、問題解決のヒントを見つけていきます。ぜひ5分ぐらい考えてみてください。
ミラクルクエスチョンについては、下記のコラムで詳しく解説しました。理解を深めたい方は参考にしてみてください。
ワーク② タイムマシンクエスチョン
次にタイムマシンクエスチョンにチャレンジしましょう。これは未来を想定した問いかけです。
もしもタイムマシンに乗って3年後の自分に会いに行ったら、どんな素敵な友人と過ごしていますか?
みなさんは、この質問を投げかけられて、どんな想像をしますか?
明るい性格の異性
一緒にいると元気をもらえる人
趣味の同好会で出会った人
自分と同じ仕事をしている人
などなど、様々でしょう。もちろん3年後にこれが現実になるかどうかは分かりません。でも可能性としてゼロではないですよね。そうした「この先の人生で起こりうるポジティブなイメージ」を自分の中で準備していきましょう。こちらも5分程度チャレンジしてみてください。
ワーク③ カリスマクエスチョン
カリスマクエスチョンとは、自分が尊敬する有名人や経営者、スポーツ選手ならどう考えるか?と想像した問いかけです。
もしも自分が憧れのあの人だったら。今の苦しい状況をどうやって乗り越えるだろうか?
みなさんは、この質問を投げかけられて、どんな想像をしますか?
専門知識を毎日勉強するだろう
状況分析を徹底するだろう
苦しい時でも平気な顔をして乗り越えるだろう
など、自由に想像していきます。このように、自分が尊敬する人の前向きな思考をイメージすることで、自分自身の思考も変化させていきます。こちらも5分程度チャレンジしてみてください。
ワーク④ 目標を明確にする
3つの質問をしてみていかがでしたか?
想像していただいたポジティブなイメージは、もちろんすべてが実際に叶うわけではありません。しかし、もし20個ぐらいあったとしたら、そのうちのいくつかなら達成できそうだと思いませんか?
もし達成できそうだと思えるものがあったら、それを生活の中のひとつの指針としていきます。そうして希望に向かって歩むことによって、1日1日を充実させ、元気な気持ちで毎日を歩んでいくことができるのです。
ワーク⑤ リソース探し
目標が定まってきたら、次に達成するためのリソースを確認します。「リソース」とは、目的に対して価値のある道具や資源、資産のことを指します。
かなり広い概念で、ありとあらゆるものが資源になります。目標を達成するためにどんなリソースがあるのか?しっかり確認していきます。リソースの探し方については以下のコラムで詳しく解説しています。理解を深めたい方は参考にしてみてください。
ワーク⑥ スモールステップ
ブリーフセラピーでは、着実に目標を達成していくことを重視しています。ここで大事なことは、難しい目標を立てるのではなく、手の届く具体的な目標を設定していくことです。例えば「異性の知り合いを作る」という目標であれば、
1.異性と出会える場所を調べる
2.エントリーする
3.まずは参加だけすればOK
4.挨拶をする
という形で段階をつけていきます。スモールステップについては、行動療法の不安階層表が参考になります。理解を深めたい方は、以下のコラムの中盤を参照ください。
ワーク⑦ スケーリング
目標達成できた状態を10点としたら、今は0〜10のどこにいるのか考えてみます。例えば5点から6点にするにはどうすればいいのか、その1点の差についても考えて、自分の現在地を確認していきます。また、点数がアップしたときには、何がうまくいったのかをしっかり振り返ります。
ワーク⑧ 結果への構え
ブリーフセラピーでは、結果について以下の3つを重視しています。
既にうまくいっていることは続ける
一度やってみて、うまくいったらそれを繰返す
うまく行かない場合は別のやり方に変える
成功体験は大事にして何度も行い、失敗した場合は切り変えるという姿勢を大事にするのです。行動した後の振り返りの際に、この3つの姿勢をおさえましょう。
まとめ
ブリーフセラピーは手順が完全に決まっているわけではなく、様々な手法を組み合わせて進めていきます。今回紹介した手法は1つのやり方ですが、最終的には自分にあったやり方を見つけていきましょう。
ブリーフセラピーは心理療法の中で最も未来志向で前向きと言って良いと思います。過去にがんじがらめになってしまい、積極的に行動できない感覚がある方は、ブリーフセラピーが改善のきっかけになるかもしれません。当コラムで紹介した手法を是非試してみてくださいね♪
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