SSTソーシャルスキルトレーニング入門
みなさんこんにちは。公認心理師の川島です。私はこちらの心理学講座を開催しています。今回のテーマは「SST」です。
目次は以下の通りです。
①SSTとは何か
②スキルと能力の違い
③SSTの効果,研究紹介
④基本訓練モデル
⑤ステップ・バイ・ステップモデル
➅子供が学ぶSST具体例
⑦大人が学ぶSST具体例
SSTは、会話や人間関係が苦手で「どんな風に改善したらいいのか分からない」という方におすすめの認知行動療法です。SSTは私の大学院の研究テーマだったので張り切って解説します。
①SSTとは何か
意味とは
ソーシャルスキルは、複数の学者によって異なる定義がありますが、概ね以下のように定義できます。
人間関係を健康的に築くための言語・非言語スキルを総称したもの
例えば、挨拶をする、友人を作る、仲直りをする、嫌な依頼を断るなど、健康的な人間関係を築く技術を指します。ソーシャルスキルに「トレーニング」がくっつくと、ソーシャルスキルトレーニング(Social Skills Training)と呼びます。頭文字をとってSSTと呼ぶことが多いです。
提唱者
SSTに関する重要人物は、創始者であるリバーマン、訓練モデルを発展させたベラック、理論的な基礎を築いたアーガイルの3人がいます。以下折りたたんで解説をしました。興味がある方は参考にしてみてください。
トレーニングメニュー
SSTは、老若男女が対象となります。子供に対しては、学校で教育目的で行われることが多いです。例えば、いじめを防止する練習、友人作りのやり方、発達障害児向けのトレーニングなどが多いです。
大人に対しては、日常的な人間関係を築くトレーニング、ビジネス上の主張練習、モラハラの防止、就労支援、精神科デイケアでの主張練習などが挙げられます。
以下目的別のトレーニングメニューです。参考にしてみてください。
②ソーシャルスキルとは何か
ソーシャルスキルを理解するうえで、「能力」と「スキル」の違いはしっかりと押さえておきましょう。以下は、能力とスキルの関係を表している図です。緑色「能力」を土台として、黄色「スキル」が上にくっついている状態です。
「能力」は、スキルも含めた広いもの、先天的な才能や資質で、学習の土台になります。一方で「スキル」は、後天的に学習していくものになります。私たちの能力は、先天的な資質と後天的に学ぶスキルの2つを組み合わせた、総合的な力になるのです。
具体例として、水泳で考えてみましょう。身長、体重、手の長さなどは先天的な才能や資質の部分です。ここで、スキルの学習なしに自己流で泳でみたとします。いくら資質があっても、最初は溺れかけてしまったり、がんばっても前にすすむぐらいで「能力」としては止まってしまうでしょう。
一方で、知識のある人から正しい泳ぎ方のスキルを学ぶと、多少体力がなくても、資質に恵まれなくても、スイスイと泳げるようになるものです。これがスキルの最大の特徴です。
このように、先天的な資質が無かったとしても、スキルを身に付けることで能力がグンと伸びるのは「会話力」も同じです。例えば、性格的に緊張しやすかったり、内向的で口下手な面があっても、ソーシャルスキルを学ぶことで緊張しながらもまあまあ話せるようになります。これがソーシャルスキルトレーニングの良いところだと私は考えています。
③SSTの効果,研究紹介
ソーシャルスキルと心への影響
相川ら(2005)は、学生1,002名(男性435名,女性567名)を対象に、ソーシャルスキルに関する調査を行いました[6]。結果の一部を抜粋して紹介します。
この結果から、ソーシャルスキルが向上すると、対人不安が減りやすく、孤独感が減りやすいことが推測できます。また抑うつ感もマイナス関係になっている点から、ソーシャルスキルが向上すると元気に過ごしやすいと言えます。
SSTと傾聴スキル
川島(2010)は、成人100名を対象に、SSTを行う前後での傾聴スキルについて調査しています[7]。以下の図は、介入をしていない比較群と、SSTの介入を行った実験群(ダイコミュ生徒さん)のグラフです。縦軸は傾聴スキルの得点を表します。SSTの実践前は、傾聴が苦手な人が多いことがわかりますが、トレーニングを重ねることで、着実に傾聴力が向上していることがわかります。
SSTと抑うつ感
石川ら(2010)[8]の研究では、小学生1150名を対象に児童のSSTを抑うつ感について調査を行いました。その結果が以下の図です。
上図は、SSTトレーニングの抑うつ傾向を4つの時期で測定したものです。このように、SSTトレーニング事前に比べて、事後以降は抑うつ傾向が低下していることがわかります。
④基本訓練モデル
先程解説したように、SSTの基本モデルは、リバーマンの「基本訓練モデル」とベラックの「ステップバイステップモデル」です。両者の進め方と、効果とデメリットを確認しておきましょう。
基本訓練モデルの進め方
①アイスブレイク
基本的には、4〜8人くらいで輪になって行うことが多いです。ワークをする前に、雑談などで雰囲気をほぐしておきましょう。軽い体操なども効果的です。
②問題場面の設定
支援者は、参加者に社会生活で苦手な場面を聞いていきます。そして、その問題がなぜ起こるのか、どうすればうまくできるか、などについて話し合いをします。
③ ロールプレイ
実際の場面を想定したロールプレイをします。必要に応じて支援者がお手本を見せます。他者の振る舞いを見て学ぶことを「モデリング」と言います。
④ 正のフィードバック
ロールプレイをした人に対して、支援者はできた部分を見つけてしっかり褒めてきます。また改善点がある場合は、レベルに応じて伝えていきます。これを何度も繰り返します。
⑤ 日常生活への汎化の確認
練習でできるようになったら、日常生活での目標を宣言してもらいます。日常生活でできるようになることを「汎化(はんか)」と言ったりします。練習だけで終わらないよう、支援者は促していきましょう。宿題を出すのも効果的です。
効果
基本訓練モデルは、具体的な悩みにフォーカスして練習することができるので、即効性が高いモデルです。今まさに悩んでることを、皆でアイデアを出し合い練習するので、協調性も養うことができます。
デメリット
基本訓練モデルは、実際の悩みをベースにワークを組み立てるので、逆に言えば、悩んでいないスキルについては獲得が難しくなります。散発的なスキルの獲得になりやすく、総合的な力は高まりにくいと言えます。
参考動画
こちらは、丹羽真一先生監修による基本訓練モデルの参考動画です。参加者に困りごとをしっかり聞いてからワークを実施している点が特徴的です。
⑤ステップバイステップモデル
ステップバイステップモデルの進め方
①教科書を準備
ステップバイステップモデルでは、原則として教科書が必要になります。SSTに精通した支援者が、レベルに応じた支援計画と教科書を作成します。
教科書作りについては、傾聴スキル、話し方スキル、アサーティブスキル、感情表現スキルなどを組み合わせて作成します。教材作成が難しいと感じる方がいらっしゃいましたら、私はコンサルテーションもできますので、こちらから気軽にお問合せください。
②教科書で練習問題を解く
ステップバイステップモデルでは、教科書をベースに、まずは簡単な問題を解いていきます。テキストベースで、さくさくできるようになるまで練習しましょう。
③ ロールプレイ
実際の場面を想定したロールプレイをします。必要に応じて支援者がお手本を見せます。他者の振る舞いを見て学ぶことを「モデリング」と言います。
④ 正のフィードバック
支援者はできたことを見つけ、しっかり褒めてきます。また、改善点がある場合は、レベルに応じて伝えていきます。これを何度も繰り返します。
⑤ 日常生活への汎化の確認
練習でできるようになったら、日常生活での目標を宣言してもらいます。日常生活でできるようになることを「汎化」と言ったりします。練習だけで終わらないように、支援者は促すようにしましょう。宿題を出すのも効果的です。
効果
教科書を使うことで、レベルごとの課題を設定しやすく、スキルが積み重なっていくので、総合的な力を養うことができます。会話場面で困ったことがあった時に柔軟に乗り越える力がつきます。
デメリット
良質な教材を作ることに、かなりの時間がかかります。また、ステップバイステップモデルは、お悩みに即していない事柄も訓練することになるので、モチベーションの維持が重要になります。
参考動画
こちらは、筆者が作成した教材の一部です。傾聴する際の基礎スキルを解説しています。
こちらは、佐藤幸江先生によるステップバイステップモデルの参考動画です。やり方を明確にしている点が特徴的です。
こちらは児童デイサービスまはろ様の療育の様子となります。テーマを事前に設定をして進めているのが特徴的です。
こちらは海外の教材です。自閉症スペクトラムの子供向けの教材になっています。
➅子供が学ぶSST具体例
ここからは子供が学ぶSSTの具体例となります。実際にどのようにSSTが行われているか、以下の気になる項目を展開して参考にしてみてください。
挨拶練習
挨拶がうまくできない子供向けのトレーニングです。挨拶は、相手との良好な関係を築くための第一歩です。相手に関心を示し、親しみやすさを伝えることで、信頼感が生まれます。
仲間に入れて練習
引っ込み思案で友人ができない子供向けに、仲間に入れてと主張する練習です。友達の輪に入る練習ができます。
たばこの誘いを断る練習
たばこの誘いを適切に断る方法を身につけるためのトレーニングです。断る理由を明確に伝えながらも、相手との関係性を損なわない表現方法を学びます。
⑦大人が学ぶSST具体例
大人向けのトレーニングについて様々なものがあります。以下に、代表的な4つのスキルについて紹介します。詳しく知りたい方はリンク先を参照ください。
傾聴スキル
傾聴スキルは、聴き上手になるスキルです。オウム返し法、肯定返し法、5W質問法、感情質問法、共感スキル、などが挙げられます。傾聴スキルを学ぶと、相手に配慮したコミュニケーションができるようになります。
発話スキル
発話スキルは、話し上手になるスキルです。5W発話法、自分へ質問法、繰り返し表現法、具体例提示法などがが挙げられます。発話力をつけると、対人不安が減る、相互理解が促進されるという効果があります。
アサーションスキル
アサーションスキルは、アイメッセージ法、DESC(Describe「描写」 Express「説明」Suggest「提案」Choose「選択」) 法、壊れたレコード法、限界設定法などが挙げられます。アサーションスキルを学ぶと、自他尊重の心が育ちます。
感情表現トレーニング
人間関係を築く上では、非言語コミュニケーションのスキルも大事になってきます。笑顔、声の抑揚、姿勢、アイコンタクトの仕方などを練習すると良いでしょう。
仕上げ動画
SSTについて動画も作成しました。仕上としてご活用ください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・傾聴スキルトレーニング
・発話スキルトレーニング
・アサーティブスキル練習
・あいさつ,感謝を増やす練習
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
*出典・参考文献