ストレスマネジメントの理論について解説①
みなさん、こんにちは。公認心理師,精神保健福祉士の川島達史と申します。私は現在、こちらの初学者向け心理学講座で講師をしています。当コラムのテーマは「ストレスマネジメント論」です。
現代はストレス社会です。
「移動のたびにマスクの着用…」
「仕事のプレッシャーが強い」
「恋愛がうまくいかない」
日常生活には、さまざまなストレスがあります。一方で、ストレスを発散・解消する方法を体系的に学習している方は多くはありません。そこで今回は、ストレスマネジメント入門を3回シリーズでお伝えします。
全体の目次
①ストレスマネジメント理論の基礎
②6種類のコーピングスキル
③ストレスを診断する方法
当コラムの目次
①ストレスとは何か
②ストレスのプロセス
③体への影響
④心への影響
⑤ストレスへの対策
全て読むと、基礎を一通り学ぶことができます。是非最後までご一読ください。
ストレスとは何か
ストレスの概要
ストレスは、個人が外部の要求や変化に対処しようとする際に感じる心理的および身体的な反応を指します。ストレスはさまざまな要因によって引き起こされ、仕事のプレッシャー、人間関係の摩擦、経済的な問題などが含まれます。
適度なストレスは、モチベーションを高めたり、問題解決能力を向上させるために必要ですが、過度のストレスは健康に悪影響を及ぼす可能性があります。慢性的なストレスは、心身の不調を引き起こす要因となり、うつ病や不安障害、心血管疾患、免疫力の低下など、さまざまな健康問題に結びつくことがあります。
ストレスと統計
厚生労働省の令和4年「労働安全厚生調査(実態調査)」[1]によれば、仕事に関することで、強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は82.2%であると報告されています。
こうしたストレスの主な内容として以下の4つになります。
ストレス要因の内訳を見ると、「仕事の量」(36.3%)が最も高く、すぐ後に「仕事の失敗、責任の発生等」(35.9%)が続いています。この2つの要因は、いずれも業務の負荷に関連しており、過重労働や責任の重圧が労働者の精神的健康に大きな影響を与えていることが分かります。
働く人のストレスを減らすためには、仕事の量を適切にすることはもちろん、失敗を過度に責めない職場の雰囲気づくりや、いじめ・嫌がらせをなくすための取り組みが大切だと言えるでしょう。
ストレスと歴史
ストレスはこのような意味がありますが、心の問題に使われ始めたのは、20世紀からとなります。ストレスの歴史について理解を深めたい方は以下の折り畳みを参考にしてみてください。
ストレスのプロセス
セリエはストレスに対する反応を3つの段階に分けました。
① 警告反応期
ストレスがかかると、私たちの体はまず「警告反応」をします。これは急にストレスを感じたときの初めての反応です。この時期はさらに2つの段階に分かれます。
Ⅰ. ショック相(受動的反応期)
外からの刺激に対して体が驚いてしまう状態です。体の反応が鈍くなり、副腎皮質ホルモン(ストレスに関係するホルモン)が減少します。この結果、心拍数や血圧、体温、血糖値が低下し、筋肉がリラックスしてしまいます。
Ⅱ. 反ショック相(能動的反応期)
体が「戦う」準備を始めます。脳からの指令で副腎が働き、副腎皮質ホルモンが増えます。これにより、心拍数や血圧、体温、血糖値が上昇し、体は外敵に対して戦う準備を整えます。この時、アドレナリンが分泌され、怒りや緊張感を引き起こします。
② 抵抗期
ストレスに対して体が適応している時期です。この時期は、ストレスに対して強くなり、副腎皮質ホルモンがたくさん分泌されます。しかし、ストレスに耐え続けるためにはエネルギーが必要です。このエネルギーを使い果たすと、次の「疲弊期」に入ります。
③ 疲弊期
エネルギーが消耗し、体がストレスに対抗できなくなります。最初はショック相のように体の機能が低下し、心拍数や血圧、体温も低下します。この状態が長く続くと、最終的には健康を失い、最悪の場合、命に関わることもあります。
このように、ストレスに対する体の反応は段階的に進んでいきます。ストレスを感じたときは、早めに対処することが大切です。
体への影響
セリエのモデル図のように、ストレスが長期化すると体と心に様々な影響が出てきます。以下はストレスが掛かることによる代表的な体の病気です。
高血圧
ストレスが続くと体の神経が過度に刺激され、体が常に緊張状態に入りやすくなります。この緊張によって血圧が上がりやすくなり、心臓や血管に負担がかかります。血圧が高い状態が長く続くと、動脈硬化などの問題が生じ、心臓病や脳の病気といった大きなリスクにつながることがあります。
動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中、心不全
胃腸の病気
ストレスが強まると、胃が酸をたくさん分泌しやすくなり、胃や腸の壁が荒れやすくなります。このため、胃に痛みを感じたり、胃かいようや胃炎などの病気につながることがあります。また、消化不良や吐き気なども起こりやすくなり、日常生活に支障が出ることも少なくありません。
急性胃炎、胃潰瘍、過敏性腸症候群、十二指腸潰瘍
頭痛
ストレスは体や脳の血管や筋肉に影響を与え、特に頭周りの筋肉が緊張することで頭痛が起こりやすくなります。これが片頭痛や緊張型頭痛となって現れることがあります。さらに、頭痛が頻繁に続くと、気分が落ち込みやすくなったり、集中力が低下したりするため、生活の質にも影響が出てしまいます。
片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛
免疫力が下がる
ストレスが長期間続くと、体の免疫機能が低下し、病気やウイルスに対する抵抗力が弱くなります。これにより、風邪やインフルエンザといった感染症にかかりやすくなり、一度感染すると回復まで時間がかかることもあります。また、ストレスは慢性的に体調を悪化させるため、体が疲れやすくなります。
風邪、インフルエンザ、口唇ヘルペス
糖尿病の悪化
ストレスがかかると、血糖値が急に上がりやすくなり、糖尿病の人は血糖値の管理が難しくなります。また、ストレスで食欲が増し、つい高カロリーの食べ物を摂りがちになるため、体重が増えたり、血糖値がさらに不安定になったりすることもあります。
2型糖尿病、高血糖症
心への影響
ストレスの長期化は心の病気につながることもあります。
睡眠障害
ストレスによって自律神経が乱れると、眠りが浅くなる、寝つけないなどの睡眠障害が起こりやすくなります。寝不足が続くと疲労や集中力の低下が生じ、さらにストレスが増す悪循環に陥ることがあります。慢性的な睡眠障害は心身に大きな負担をかけ、健康に影響します。
適応障害
強いストレスに適応できない状態が続くと、不安やイライラ、抑うつなどの症状が現れる適応障害にかかりやすくなります。学校や仕事などの環境が原因で発症することが多く、生活に大きな支障をきたすため早めの対応が重要です。
うつ病
ストレスが長期的に続くと、脳内の神経伝達物質が乱れ、うつ病になりやすくなります。うつ病は気分の落ち込みや興味の喪失、倦怠感といった症状が特徴で、生活に支障が出ます。重度の場合、日常生活が困難になり、治療が必要となることがあります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
強いストレス体験やトラウマとなる出来事をきっかけに、PTSDが発症することがあります。過去の出来事がフラッシュバックしたり、恐怖や過剰な警戒心が続くなどの症状が現れます。日常生活への影響が大きく、時間をかけたサポートが必要です。
ストレスへの対策
ここからはラザルスのストレス理論を土台として対策について解説します。
①ストレッサー
ストレス理論では、ストレスの原因となるもののことを「ストレッサー」と呼びます。ストレッサーは大きく分けて4種類あります。
「身体」
病気やケガ、運動不足、偏った食生活など
「環境」
暑さ、寒さ、騒音、紫外線、満員電車など
「社会」
景気が悪い、収入がない、自粛の流れ、テロや戦争など
「心理」
失恋、誹謗中傷、心の問題など
①一次評価
私たちはストレッサーに直面すると、無意識のうちに2種類の評価を行います。まずは一次的評価です。一次評価では「このストレッサーは自分にとって脅威なのか?」を評価していきます。
例えば「仕事が山積みになっている」という状況は、ストレッサーになり得ます。一次評価の過程で「数は多いけど簡単な仕事ばかりだ」ということが分かればストレス反応は小さくなり、「難しい仕事もたくさんある」ということが分かればストレス反応は大きくなってしまう可能性が高いです。
ストレスをためやすい人は、以下の3つの特徴があるとされています。それぞれの特徴と対策を解説しました。理解を深めたい方は折り畳みをご確認ください。
性格は、遺伝的によって先天的に作られたものと環境から獲得する後天的なものに分かれますが、性格の3割~7割は先天的に作られるといわれています。先天的に作られたもののなかには、ストレスをためやすい性格傾向があります。
*タイプA
フリードマン (Freidman, M.) 医師とローゼンマン (Rosenman, R.H.) 医師によって提唱された性格傾向です。特徴は、慢性的な競争心、達成動機の高さ、敵意などで、イライラしやすい性格傾向のことを指します。
Friedmanら(1959年)[4]によると、せっかちでイライラするなどの性格傾向がある人は、冠状動脈性心臓病のリスクが2倍以上になることが分かっています。理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
*HSP
Aron&Aron (Art Aron & Elaine Aron) によって提唱された概念で、 The Highly Sensitive Person(ハイリーセンシィティブパーソン)の略称です。HSPの人は、感受性が強く、中枢神経が敏感で、小さなこともストレスと感じやすいため、とても疲れやすい傾向にあります。理解を深めたい方は、以下のコラムを参照ください。
*メランコリック
ドイツの精神科医であるテレンバッハ (Tellenbach, H.) が提唱した性格 (Typus melancholicus (独); melancholic type)です。特徴として、几帳面で良心的、まじめで優しいという点があげられます。一方で、思い悩む性格からストレスをためやすくなります。
*遺伝との付き合い方
ストレスの感じ方は性格によるところが大きいです。性格によるストレスを軽減するには、自分の性格を理解して自分自身とうまく付き合うことが大切です。性格のポジティブな側面にも目を向けて、自分の強みとして活用することもいいでしょう。
性格診断で自分の特性を確認したり、問題が大きい場合には、心理療法を学んだり医学の力を利用することもおススメです。性格と遺伝については以下の動画で詳しく解説しました。興味がある方は参照ください。
「認知の偏り」とは、不合理な考え方、自分や周りに対する偏見、非現実的な思い込みなどを意味し、「認知の歪み」と呼ばれることもあります。
認知の偏りには、代表的な10のパターンがあります。
自己関連付け 白黒思考 過度の一般化 選択的知覚 マイナス化思考 心の読みすぎ癖 拡大解釈・過小評価 感情的決めつけ べき思考 レッテル貼り
例えば、ストレスを溜めやすい方は「自己関連づけ」が強い傾向があります。自己関連付けとは、マイナスな出来事を、すべて自分の責任と思い込む捉え方です。
色々な問題を自分のことと考えてしまうため、災害や事件などによる人の痛みを自分のことのように感じてしまう傾向が強いです。自己関連付けが強い方は、自分とは関係がないストレスまで背負ってしまうため、メンタルヘルスが悪くなりやすい傾向があります。
認知の偏りを改善するには、認知療法を学び現実検討力を鍛えていくのがおすすめです。バランスのとれた考え方を身につけることで、ストレスを改善することができます。認知療法について知りたいという方は、以下のコラムをチェックしてみてください。
問題があった時に、乗り越える自信がないときは、「もうだめだ」「苦しい未来が待っている」という気持ちになりやすいので、ストレスを溜めやすくなります。
成功体験が少ない
挫折を乗り越えたことがない
劣等感が強い
これらの傾向がある方は、ストレスを感じやすいので注意が必要です。
自信をつけるには、成功体験を重ねる、自分の長所をみつける、褒めてもらえる環境に身を置くなどの対処が必要です。詳しくは以下のコラムを参照ください。
③ 2次評価とコーピングスキル
ストレッサーが「自分にとって脅威である」と評価された場合、二次評価の段階に進みます。二次評価では「自分はストレッサーに対処できるか?」を考え、ストレッサーの解決を目指します。このストレッサーに対処する技術を「コーピングスキル」といいます。コーピングスキルは、6種類あります。
①情動解決コーピング
感情を発散する方法でカタルシス効果とも呼ばれます。たとえば、日記を書く、泣きたいときには泣くなど、気持ちを素直に表現することで心の整理をします。
②問題解決コーピング
直接問題解決していく方法です。たとえば、満員電車がストレスなら、引越しをするなど問題を解決することでストレスを軽減していきます。
③認知的評価コーピング
考え方を変えることでストレスを減らす方法です。たとえば、上司からの注意がストレスなら、学びのためのアドバイスと考えるなど、考え方を柔軟にすることでストレスを軽減していきます。
④社会支援コーピング
周囲にアドバイスを求めたり、信頼できる人に打ち明けるなど、悩みを相談する方法です。家族や友人、時にはカウンセラーに相談してもいいでしょう。
⑤身体的コーピング
運動をする、十分な睡眠をとるなど体の健康面からストレスを発散させる方法です。
⑥気晴らしコーピング
自分にとって気晴らしになることをする方法です。たとえば、旅に出る、趣味に没頭する、美味しい食事をするなでリフレッシュをします。
ストレスはいろいろなコーピングスキルで対処できるため、コーピングスキルが多いほどストレスに強くなれます。ストレスコーピングについてはコラム②で詳しく解説しています。
④ストレス反応
コーピングスキルを使ってストレッサーにうまく対処できない場合、不安やイライラ、よく眠れないなどのストレス反応が出てきてしまいます。ストレス反応は短期的であれば大きな問題になることは少ないでしょう。しかし長期化するとさまざまな問題が出てきます。
身体的問題
睡眠障害、胃潰瘍、突発性難聴、心筋梗塞
精神的問題
適応障害、うつ病
行動面の問題
暴飲暴食、暴言を吐く、ギャンブル依存
ストレス反応は長期化すると様々な問題を招くため、長期化させないことが大切です。ストレスに強くなるには、一次評価と二次評価を意識して行い、コーピングスキルをしっかり身につけていくことが重要です。
仕上げ動画
ストレスマネジメントについては、動画でも解説をしました。仕上げとしてご活用ください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶことができます。内容は以下のとおりです。
・ストレスコーピングの学習
・ストレスが溜まる依頼を断る練習
・ストレスフリーな人間関係を築く練習
・心が安定する,認知療法の学習
講師に質問をしたり、仲間と相談しながら進めていくと、理解しやすくなります。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連