対人恐怖症克服記30 独占欲の芽生え
対人恐怖症を抱えながら大学生活を送っていた私は、日商簿記の勉強を始め、横山君という友人ができました。しかし、私たちには共通の悩みがありました。
それは「女っ気のなさ」です。青春を謳歌する女子大生を見て動揺する中、簿記講義で控えめで優しそうな女子に目を留めます。横山君と作戦会議をし、不毛なシミュレーションを重ね、意を決して話しかけることにしたのです。
人生初のナンパ
いざ決行の日になりました。授業が終わると、女の子は片づけをはじめ、帰ろうとしています。いざ声をかけようとすると、以前、女子に笑われた過去が脳裏をよぎります。
顔が赤くなったらどうしよう?
迷惑なのではないか?
気持ち悪いと思われるのでは?
その記憶が全身を駆け巡り、私を「回避」させようと足を引っ張ります。
しかし、私は、花のない、灰色の人生と決別したいという思いがありました。そして、対人恐怖というダークエネルギーと、恋愛がしたい(女子とちょめちょめしたい)という核融合エネルギーを戦わせ、ついに、恋愛の欲求が勝利し、声をかける行動に移すことができました。
人生初のナンパ
「・・・・あ、あの・・・同じクラスにいるよね・・?」
絞りだすように声をかけました。声はかすれ、息が詰まるような感覚。彼女が不快そうな表情をする未来しか頭に浮かびません。たったこれだけのやりとりだけで冷や汗がダラダラ出てきました。顔面が強ばっていました。
気持ち悪いコミュニケーションをしてしまった・・・
どうせ良い反応は得られないだろう・・・
声をかけなければよかった・・・
私は声をかけたことは早速、後悔しました。
しかし彼女の反応は違いました。ほほを膨らませて、ニコッとしました。その笑顔は異性から向けられた初めての肯定的な態度でした。
「やっぱり!! 同じクラスだよ~。私も思っていた。簿記受けてるんだね~」
「気が付いていたんだね・・・横山くんと一緒に受けているんだ・・・」
「そうなんだ~私は一人だったから羨ましいなあ~」
私が脳内で想定していたやり取りと、まったく違う反応があり、私は心の底から安堵しました。女の子と何気ない会話をするのは人生はじめてでした。女の子の名前は橋本さんでした。
それはある意味で、中学3年の頃に女子に笑われたトラウマが解消されるような、感覚がありました(*対人恐怖症克服記4 嘲笑妄想)。
青春
それからというものの、横山君、私、橋本さんの3人で過ごす時間が多くなりました。簿記の資格講座が終わった後も、連絡を取り合い、一緒に勉強をしたり、ご飯を食べに行ったりしました。橋本さんも楽しみにしてくれるようでした。にこにこした笑顔が目の前にあると、食事もおいしくなります。
私たちの仲間はますます深まり、2人が私の実家に遊びに来てくれたこともありました。友人を家に連れてくるなど、めったにないことです。私に友人ができたことを親も喜んでいました。
横山君と、2人で過ごす時間も楽しかったですが、やはり女子がいると気持ちが高揚し、毎日大学に行くのが楽しくて仕方がありませんでした。
3人の仲が深まると、私にはひそかな時間ができるようになりました。ご飯を食べた後の時間でした。 横山君は銀座に実家があるおぼっちゃんなので、食事のあとは自転車で帰ってしまいます。
そのため私は橋本さんと2人きりで電車で帰ることができたのです。それは10分ぐらいの短い時間でしたが、私にとっては夢がかなった時間でした。
女子と2人で道を歩く
女子と2人で電車に乗る
女子とバイバイをする
男子校生活、6年間ただの一度も叶わなかった夢がどんどんかなっていきます。とても幸せでした。
独占欲の芽生え
しかし、その関係が長くは続きませんでした。私の中で橋本さんの存在が大きくなればなるほど、独占欲が芽生えてきたのです。
橋本さんを自分のものにしたい!
横山くんは邪魔だ!
2人になりたい!
そんな気持ちがどんどん強くなっていきました。私の中で人生初めての嫉妬感情で、自分でもこの感情をどうコントロールすればいいのかわからず、暴走し始めました。
私は次第に、横山君をぞんざいに扱うようになり、抜け駆けするようになりました。横山君と別れた後に、彼女を誘い、本屋に行ったり、水道橋の東京ドームを散歩するなど、2人の時間を楽しむようになっていきました。
そんな折、私は2人に裏切られた!と感じる出来事に遭遇することになります。それは短い青春の終わりを意味するものだったのです。
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・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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