対人恐怖症克服記4 嘲笑妄想
中高一貫校に通う私は、初めて男女混合のボーリング大会に参加しました。3年ぶりに女子と接することになり、嬉しい反面、緊張が病的なレベルに達していました。
スキル「雄たけび」
いざ女子と話せる機会をもらった私ですが、最大の問題が露呈しました。それでは会話技術のなさです。なんせ野球部では
「バッチこーい」
「さー行こうぜー」
「えいおう!えいおう!」
という単語をひたすら連呼していたのです。これは会話ではなく、ただの叫び声です。私がこの3年間で培ってきたコミュニケーションスキルは、「雄たけび」だけだったのです。
地蔵と化す
ボーリング大会は男女混合で2チームに別れました。男女の距離が近く会話のチャンスです。隣に女子がいても、一体全体どう交信すればいいのか?皆目見当もつきません。
あれだけ女子と話したかったのに、いざ目の前にいると、何一つ声をかけることができません。目を合わせることもできません。
同じチームになった女子もどこか困惑しているような表情をしています。
せっかく女子がナイスプレーをしても、なんらリアクションをすることなくただただ、ボーリングを作業のようにこなす、陰鬱な男になっていました。
不毛なメダルゲーム
ボーリング大会が終わると、チャラ男の提案でゲームセンターに移動しました。ゲームセンターではコインゲームを各自やるという流れになりました。先程のボーリング大会と違い、コインゲームは個人プレーです。男女はフロアに散らばり、バラバラになってしまいました。私は、ボーリング大会のショックで、一人になれたことに安堵しました。
私が選択したのは、メダル落としのようなゲームをひたすらやっていました。悲しみとともに、1枚1枚、とぼとぼとコインを入れていきました。
メダルゲームはなぜか設定がバグっていて、やればやるほどメダルが増えていきました。女子との会話で失敗して落ち込んでいる一方で、メダルは陽気にフィーバーを繰り返します。
陰キャフィーバーです。薄暗い店内で、暗い気持ちになりながら、不毛にメダルを増やし続けていました。私がしたかったことは、メダルを増やしたかったのではなく、女子と会話がしたかったのです。
赤面の始まり
1時間ぐらい経った頃でしょうか?ザクザクにメダルが増えた私の元に1人の小柄な女子来ました。黒髪で、クリクリとした目が印象的なかわいい女子でした。
そして突然、
「ねえねえ!コインちょーだい」
と声をかけてきたのです。
これには私は度肝を抜かれました。女子から声をかけてくるとは想定外でした。心臓がびくっと鼓動するのが聞こえてきました。
そして血が全身を駆け巡り、みるみる顔が赤くなっていくのが自分でもわかります。緊張していることがばれたくない・・・恥ずかしがっていることがばれるのは男らしくない・・・頼むから赤くならないでくれ・・・と心の中で叫びました。
しかし、そう唱えるほど私の顔はより赤くなっていきます。薄暗い店内でも、はっきりとわかるぐらい顔が真っ赤になりました。
嘲笑妄想
その時、コインをおねだりした女の子は
クスッ
と笑いました。
もちろん彼女に悪意はなかったと思います。もしかしたら私のことを心配してくれて、
(大丈夫だよ~)
という意味だったのかもしれません。
けれど私は、どういうわけか彼女が心の中で
(何赤くなってるの?笑)
と私を嘲笑しているように感じてしまったのです。これは後からわかったことですが、投影と言われる心理的な原理でした。
即ち私は、自分の考えを彼女の顔に映し出し、彼女が思ってもないセリフを自分の頭の中で創り上げてしまっていたのです。彼女から笑われたことで、私はその場から逃げ出したいくらい恥ずかしい気持ちでいっぱいになりました。
私はその女子にコインを20枚ぐらいぶっきらぼうに渡し、再びコミュニケーションを遮断し、無言の圧力で
(頼むからあっちへ行ってくれ)
(赤い俺を見ないでくれ)
という気持ちで女子が去るのを待つのでした。
ようこそ対人恐怖へ
結局私は、ボーリング大会で女の子と一言も話をすることができませんでした。このときから私は、「人から見られている」ということをとても気にするようになりました。
この人から見られているという感覚は心理学的に公的自己意識と言います。思春期に爆発的に増加する心理で、対人恐怖の典型的に見られます。
当時の私はこのような心理を知る由もなく、人から見られているという心理を着々と育てていくことになるのです。
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投影についてはこちらの動画を参照ください
・川島達史 1981年生まれ
・社交不安症専門カウンセラー
・公認心理師 精神保健福祉士
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