内向的な性格を長所変える
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「内向的な性格」についてご相談を頂きました。
相談者
32歳女性 会社員
お悩みの内容
私は昔から内向的な性格でした。集団行動が苦手で、自分の趣味に没頭するタイプです。外向的な人達に対してコンプレックスも感じてきましたが、そろそろ自分を認めてあげてもいい頃だと考えています。
内向的な性格を強みや長所として活かす方法を教えてください。
「自分を認めてあげる」という表現は、どこかやさしく温かい気持ちになれる言葉ですね。これまでの心理学の研究では、内向的な人は合理的である、知性がある、などの強みがあることがわかっています。
当コラムは、そんな内向的な人の力を引き出すことを目的として執筆したいと思います。是非最後まで御一読ください。
内向的と外向的の違い
まず初めに内向的、外向的の違いについて考えていきましょう。
ユングと内向性
外向と内向がはじめて分類されたのは1921年代のことです。スイスの精神医学者であるユング (Jung, C.G.) は人間には2つの思考の方向性があると主張しました。[1]
*内向性
自分の内面に興味が注がれる
一人の時間を好む
控えめな振る舞いが多い
ハイキング,釣りなど、一人でできる活動を好む
*外向性
外界に興味が注がれる
社交的である
活発に会話をする
パーティー,地域の活動など、人と時間を過ごすことを好む
ユングが提唱した2つの分類は、1つの考え方として受け継がれていました。その後、性格の統計的な分析が進んでくると、実際に「内向性」という概念があるということも分かってきました。
外向性とビックファイブ
1981年には、アメリカの心理学者のゴールドバーグ (Goldberg, L.R.) がビックファイブという性格尺度を提唱します。ビッグファイブ研究で、様々な研究を総合的に検討した結果、性格は概ね5つの指標に基づいて分類できることがわかりました。
5つの指標の中には、外向性-内向性という項目があり、以下の特徴があるとされています。
*内向性
人間関係において控えめ
考え深い態度
躊躇、反省が多い
受け身の姿勢
*外向性
社交的で人懐っこい
気さくな態度
臨機応変な対応
能動的に挑戦
ユングが提唱した概念とよく似ていますね。このように心理学の世界では、内向性と外向性について様々な研究がなされてきました。
内向的な性格と遺伝
近年の性格研究では内向的な性格は遺伝することがわかってきています。
50%遺伝する研究
行動遺伝学の研究家である安藤(2000)の研究[2]では、内向的な性格は約50%遺伝することがわかりました。下記の図をご覧ください。
上図は、外交性の遺伝率は49%、家庭環境は2%、外部環境は49%を意味しています。外向性は内向性の逆の概念ですので、内向的な性格も50%程度遺伝すると推測されます。内向的な性格は、家庭環境、外部環境だけではなく、かなりの部分が生まれながらに決まってくると言えます。
不安因子と性格
内向的な性格は、生まれつき持っている遺伝的な要素が影響している可能性があります。
私たちの緊張には、S遺伝子とL遺伝子の2種類の遺伝子が関わっています。
ヴェルツバーグ大学精神医学部のピーターレッツ博士(1996)[3]は、それぞれの遺伝子について以下のように報告しています。
「S遺伝子」
心身の安定に必要な「脳内伝達物質・セロトニン」の分泌に影響を及ぼす
・
「L遺伝子」
S遺伝子とは対極にあり、緊張しない遺伝子という性質がある
S遺伝子とL遺伝子の組み合わせによって、人は以下の3つのタイプに分けられます。
SS型: 緊張や不安を感じやすい
SL型: 緊張や不安は中程度
LL型: 緊張や不安に強い
の3つに分けられます。SS型が最も人見知りになりやすいタイプであり、LL型の人たちはプレッシャーや不安に強く、外向的な人が多いです。
センら(2004)[4]は、日本とアメリカの人たちのS遺伝子とL遺伝子の割合を調べました。その結果が以下の図です。
このように、S遺伝子は日本人に8割とアメリカに比べて圧倒的に多いことがわかります。日本人はSS型とSL型の人が多く、世界でもトップレベルの割合と言われています。
日本人は生まれつき緊張や不安を感じやすい体質を持っているため、内向的な性格になりやすいと考えられるのです。
内向的な性格,長所と短所
ビックファイブ尺度の開発により、内向的な人の研究が加速度的に進み、様々な長所と短所があることが分かってきました。以下、研究を紹介させて頂きます。気になる項目がありましたら展開してみてください。
長所,強み
短所,弱み
強みに変える5つの方法
ここまで内向的な人の特徴について解説をしてきました。ここからは、内向的な性格を強みに変えるアイデアを5つの側面から提案させて頂きます。
①自己受容の意識を持つ
②劣等感を持つ必要なし
③有利な職業に就く
④追い込み型で勝負
⑤会話は後半勝負
使えそうだな!と感じるものがありましたら、組み合わせてご活用ください。
①自己受容の意識を持つ
私たちの性格は、身長や体重と同じように、ある程度は生まれながらに決まっている部分があります。前述したように、行動遺伝学の安藤教授(2000)[2]によると、内向的な性格の遺伝率は50%前後と推測されています。
幼少期から内向的に生きてきたなら、それは元々もって生まれた気質である可能性が高いです。内向的なところがあると、会話でワンテンポ遅れたり、わいわい騒ぐのが苦手だったりしますが、これはあなたの努力不足ではないのです。
大事なことは、そんな自分を受け入れ、温かく付き合っていく気持ちを持つことです。そうは言ってもなかなか自己受容ができない…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
遺伝子の模式図
②劣等感を持つ必要なし
内向的な方の中には、外向的な方と比べて劣等感を持たれる方もいます。飲み会などの社交場面では、外向的な方が会話の主導権を握ることが多く、内向的な方は孤立することが多いです。こういった経験が蓄積されていくと、劣等感を持つのも仕方がないと言えます。
しかし、内向的な人には先程の研究で紹介したように、知的であり、合理的であるという武器があります。しっかり内面をアピールする機会があれば、仕事でも恋愛でも充分挽回が可能です。ぜひ自分の良さを認め、力強く内向性を活かしていきましょう。
劣等感を前向きに活かす方法は以下のコラムで解説しました。あてはまると感じる方は参考にしてみてください。
③有利な職業に就く
内向的な方は、調べることが好き、研究が好き、という長所があります。進路に迷った場合は、これらの長所を活かせる分野に進むことをオススメします。
内向的な性格が強みになる職業は数えきれないほどあります。
研究職、職人、経理、製造、エンジニア、漫画家、文筆家、ブロガー、農業、YouTuber…
YouTuberというと、おしゃべりが得意で活発なイメージがありますが、自分の深い趣味を活かし、成功されている方もいます。
例えば、芸人のヒロシさんは、自他ともに認める内向的な性格ですが、一人でキャンプをするYouTubeが受け、100万人のチャンネル登録になっています。
内向的であるということは、1つの分野を突き詰める粘り強さにも繋がります。1つは1つは地味でも、最後は誰も到達できない成果をあげる方もいます。職業の選択で迷ったときは、検討材料の1つにしてみてください。
④追い込み型で勝負
内向的な方は、いったん自分の中でじっくり考え、納得しないと行動に移せないという特徴があります。そのため、外向的ですぐに行動する方に比べて、遅れがちです。
しかし、内向的な性格を無視して、無理やり行動を早くしても、結果的にうまくいかないことが増えそうです。そこでオススメなのが
長期的で体系的な作戦を充分練ってから行動し、後半にたっぷり成果をあげる!
と考えることです。
例えば、資格の勉強を始める時は、まずはしっかり調査をして、効果的な勉強法、参考書を充分検討して、さらに必要な勉強時間なども考えていきます。その後は、1日1日積み上げていくイメージです。
手当たり次第に勉強するのではなく、充分考えつくした上での行動は、最後に爆発的な効果を発揮していきます。
このように内向的な方は、前半はやや遅れ、後半一気に盛り返す、という意識で行動するのがおすすめです。
⑤会話は後半勝負
内向的な人は、会話の場面でどうしても遅れがちになります。特に早口な人が多い会話場面では、前半の会話参加率が低くなりがちです。
ここで、大事なことは、無理に早口にする必要はなく、後半に参加できればOKと考えることです。例えば1時間の会話場面であれば、30分もすれば、みんな疲れてきます。そんな時に、あなたの出番が来るのです。
*内向的な人が会話で遅れる原理はこちらの動画で解説しました。
その上で大事なことは、
後半に話せるだけの、最低限の会話力はつけておく
という点です。
内向的だから会話で努力しなくて良いかというと、それは投げやりです。
もちろん、アナウンサーのようにはきはきと話す必要はないですし、漫才師のようなユーモアは必要はないと思います。ただ、お互いが楽しめるような話題つくりや、話の返し方は練習しておきましょう。
筆者は、傾聴力、発話力をつける人間関係講座を開催しています。無理せず楽しく話すコツをたくさん練習できるので、興味がある方は是非いらっしゃってください。お待ちしています。
まとめ
今回は内向的な性格について解説してきました。性格は、水や火と同じで、自分の敵にもなりますし、大きな味方にもなります。
内向的な皆さんが、その性格を充分活かして、才能を発揮されることを願っています。またそういった社会を作り上げていくことが大事だと感じています。
当コラムが皆さんのお役に立てることを願っています♪最後まで読んで頂きありがとうございました。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・内向的な性格を強みに変えよう
・内向的でもOK,会話スキルの獲得
・自分らしさを受け入れる,心理学
・劣等感を力に変える,アドラー心理学
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連