過剰適応の意味とは,特徴とタイプ,対策
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「過剰適応への対策」です。
相談者
30歳 女性
お悩みの内容
私は昔から周りに合わせるタイプです。嫌われるのが嫌で、なんでもいう事を聞いてしまいます。悩みを改善しようと調べていたところ、過剰適応という言葉が私の状態を表しているようでした。過剰適応の意味と対策を詳しく知りたいです。よろしくお願いします。
嫌われることが嫌で、相手に合わせすぎてしまうと、人間関係でストレスを抱えてしまいますよね。当コラムでは過剰適応の意味から対策まで解説していきます。是非最後まで御一読ください。
過剰適応の意味とは
過剰適応とは何か
過剰適応は以下のように定義されています。
内的に阻害するものが多すぎることによって、自己システム自体が枯れてしまい、外側の殻だけの存在になってしまうこと(福島, 1981)[1]
外的適応が過剰なために内的適応が困難に陥っている状態(桑山, 2013)[2]
学術的な定義はやや難しいですね。もう少し平易に表現すると以下の意味になります。
自分の気持ちを押し殺して、相手や環境に必要以上に合わせる状態
私たちは社会で生きて行くために、多かれ少なかれ、本音を隠して周りに合わせるところがあります。過剰適応は本音を隠し、人や社会に必要以上に合わせてしまっている状態と言えます。
不適応,適応,過剰適応の違い
宮本(1989)[3]は、不適応、適応、過剰適応の3つの用語を使い、その違いを整理しています。
不適応: 新しい環境や状況にうまく対応できず、ストレスや不安を感じる状態です。これにより、日常生活や仕事に支障をきたし、人間関係や健康にも悪影響を及ぼすことがあります。
適応: 新しい環境や変化にうまく対応できる状態を意味します。適応力があると、ストレスが減少し、健康的でバランスの取れた生活を維持し、新たな挑戦にも柔軟に対応できます。
過剰適応: 周囲の期待に過度に合わせ、自分のニーズや感情を無視する状態です。これにより、ストレスや疲労が蓄積し、心身の健康や人間関係に悪影響を及ぼす可能性があります。
過剰適応の具体例
過剰適応の具体例としては以下が挙げられます。
身体を壊しているにも関わらず残業を断れない
嫌われたくないが故に、お金を貸し続ける
不正な行為とわかっているにも関わらず片棒を担いでしまう
外的適応,内的適応
外的過剰適応タイプ
過剰適応には2つのタイプがあります。1つ目は外的過剰適応タイプです。本音はNGでも、表面的にはOKと見せかける適応を意味します。
具体例
・嫌いな人なのに親の意向で結婚した
・嫌いな会社に笑顔で務める
・パワハラする上司をおだてる
外的適応型は、無理やり周りに合わせていると自分でも自覚しているのが特徴です。
内的過剰適応タイプ
2つ目は内的過剰適応タイプです。本音がNGな時に、本音を無理やりOKにしようと、自分を無理に納得させようとします。
具体例
・嫌いな人なのに親の意向で結婚した
→嫌いな人を無理に好きになろうとする
・嫌いな会社に笑顔で務める
→その会社をどうにか好きになろうとする
・パワハラする上司をおだてる
→上司がすばらしい人と思い込もうとする
このように内面も無理に適応させようとするのが内的過剰適応となります。
5つの特徴
風間(2015)[4]は、大学生260名を対象に過剰適応について研究を行いました。その結果、過剰適応を構成する5つの要素があることが分かりました。
自己抑制
自己抑制とは、自分の心に思っていることを外に出さない行動を指します。例えば、悩みや不安を他人に話さず、自分の中で抱え込むことが挙げられます。このような行動は、自己防衛や他者への配慮から生じることが多いです。
自己不全感
自己不全感とは、自分に対する自信がないと感じる状態を指します。例えば、「自分の評判は良くない」と思ったり、「自分には能力がない」と感じることです。このような感情は、自己評価の低さから来ています。
他者配慮
他者配慮とは、自分が困っても他人のために何かしてあげたいという気持ちを指します。例えば、「自分さえ我慢すればいい」と思い、他人のニーズや要求に応えようとする行動です。
期待に沿う努力
期待に沿う努力とは、他人からの期待に応えるために成績を上げようと努力することを指します。例えば、「期待に応えるために頑張る」と考え、目標達成に向けて一生懸命に取り組むことです。
良く思われようとする
良く思われようとする行動とは、人から嫌われないように行動し、他人から好かれたいと考えることを指します。例えば、周囲の評価を気にし、好印象を与えるために行動を調整することです。
いかがでしょうか?これらの項目にあてはまる方は過剰適応しやすいので注意が必要です。
過剰適応と悪影響
過剰適応が続くと、心や体に悪影響がもたらされます。以下気になる見出しをクリックして把握してみてください。
過剰適応を防ぐ5つの対策
ここからは過剰適応してしまう方向けに対策を考えていきます。具体的には
①気持ちに気づく,メタ認知
②アサーション権の確認
③限界設定をする
④断る力をつける
⑤過去の家庭環境を整理する
の5つを提案させて頂きます。まずは全体を概観して、役立ちそうなリンクをクリックしてみてください。
①気持ちに気づく,メタ認知
過剰適応をしている方は、忙しさや、精神的な重圧があり、無理をしている自分に気がつかないことがあります。改善をするには
自分自身が今、どんな状態なのか?
無理をして合わせていないか?
本当は嫌なのではないか?
我慢できる範囲を超えているか?
これらを自覚していくことが大事です。具体的には、メタ認知力を鍛えることをおすすめします。メタ認知力とは、自分を客観的に把握し、観察する力を意味します。
メタ認知のやり方はたくさんありますが、1つのやり方として、日記を書くというやり方があります。日記を書く際は、
周りに起こった出来事を書いてみる
自分の感情を書いてみる
その感情の裏側にある考えを書いてみる
労働時間や睡眠時間を数字で記録してみる
などが挙げられます。このように自分と向き合い、心の状態を文字に起こすと、客観的な自分の状態を把握できるようになり、無理をしていることに気が付きやすくなります。
メタ認知について他にもたくさんの手法があります。自分のことを客観視するのが苦手…と感じる方は以下のコラムをご参照ください。
②アサーション権の確認
過剰適応をする傾向がある方は、他人の感情を優先し、自分の感情をないがしろにしがちです。
本当は嫌でもOKを出してしまう
自分の意見を押し殺す
自分の意見には価値がないと思う
自分が犠牲になればいいと思う
このような感覚が強い方は要注意です。アサーティブコミュニケーションという心理療法では、
私たちには自分の感情を大事にする権利がある
私たちには自分の考えを丁寧に扱ってもらう権利がある
私たちには他人から尊重される権利がある
と考えます。これはアサーション権と呼ばれています。私たちは、いつでもお互いを尊重しあい、稚拙な意見や考えであっても、ひとまずそれを大事に使ってもらう権利があると考えます。
そして大事なことは、あなた自身がそう強く思うことです。あなた自身が自分を大事にできれば、過剰適応を予防することができるのです。自分を大事にできない…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
③限界設定をする
過剰適応してしまう人は、なんでも引き受けてしまい、自分を犠牲にしてまで相手に尽くし続けてしまいます。ここで大事なのは「限界設定」をしっかりとすることです。限界設定とは、
助けることができる‐助けることができない
要求を聞くことができる‐要求を聞くことができない
のラインを明確にする
というものです。やさしさとは、自分を犠牲にしてまで、相手に尽くすことではありません。線引きを明確にして、助けられる範囲を明確にすることで、お互いを大事にできるのです。例えば以下のような例が挙げられます。
友人が悩みをラインで送ってくる。やりとりが1日20回で疲れた。
⇒ラインのやり取りを1日3回までならできる それ以上はできない
と宣言する
残業時間が1か月60時間を超え、精神的に疲弊している
⇒残業は月20時間まで それ以上はできない
と上司に勇気を出して宣言する
精神的に参っている旨を伝える
限界設定をするのは勇気が必要ですが、その一方で相手に明確に真意が伝わるので、その後はストレスが軽くなっていきます。限界設定について、より詳しく理解したい方は下記のコラムを参照ください。
④断る力をつける
過剰適応をする方は、断ると人間関係が崩れると考えてしまって、なかなか断ることができません。しかし、限界設定を超えた要求がある場合は、勇気を出して断ることが大事です。そこで断り方に様々なバリエーションを持っておくと良いでしょう。
例えば、断る際に相手にもメリットを提案すると印象が良くなります。
すいません…私、9時間以上働くと極端に集中力が落ちてミスをしてしまうのです…。
↓メリットも追加↓
しっかり寝て、集中力を高めて、仕事の質を上げたいと思います。気合入れて頑張ります!
子育てを押し付けるのはやめてほしい。
子供とは週に2回は遊ぶ時間をとることを約束してほしい
↓メリットも追加↓
子供の笑顔は今だけだよ。絶対今遊んだほうがいいよ。
このように、相手へのメリットも合わせて伝えると、相手の心象をそこまで害することがありません。この他にも断るスキルはたくさんあります。相手の気持ちに配慮しつつ柔らかく主張する力をつけたい方は、以下のコラムを参考にしてみてください。
⑤過去の家庭環境を整理する
過剰適応はアダルトチルドレンと関連していることがあります。アダルトチルドレンとは、家庭に問題がある状態で育った方を意味します。
親のしつけが過剰だった
いう事を聞かないと怒鳴られた
いつも機嫌が悪く顔色をうかがって過ごした
幼少期のこれらの経験が、過剰適応の深い原因になることがあります。小野、宮本ら(2005)は、過剰適応している子供を「よい子」と捉え、次のような特徴があるとしています。
表面的には素直に大人の言うことを聞き、実行し、成績が良く、明るく元気に振舞う適応的な面と、自分が何を感じ、何をやりたいのかを明確にできない面がある
その傾向は大人になっても引き継がれていることがあります。一見、優等生に見えても、心の中は悲鳴をあげているのです。
過去の家庭環境が影響していると感じる場合は、アダルトチルドレンの問題といつか向き合う必要があるかもしれません。あてはまるかも…と感じる方は以下のコラムも参考にしてみてください。
アダルトチルドレン
まとめ
筆者は15年、心の問題の相談を受けてきましたが、過剰適応をしてしまう方は、人柄がよく、優しい方がほとんどです。その一方で自信がなく、自己主張がすごく苦手です。当コラムでお伝えした技法を元に、皆さんが健康的な人間関係を築かれることを心から願っています!
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・過剰適応をしない,断る練習
・限界設定で身を守る練習
・自分の気持ちを尊重する練習
・健康的な人間関係を築く心理学
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連