デイリーハッスルとは?意味や対処法
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「デイリーハッスルの対処法」についてご相談を頂きました。
相談者
40歳 男性
お悩みの内容
私は現在、中間管理職として働いています。また5歳と3歳の子供を共働きで育てています。仕事の忙しさと、家庭の忙しさで、参ってしまっています。検索していたところデイリーハッスルの改善が必要と考えています。用語の意味を含め詳しく教えてください。
仕事と子育てに追われているのですね。特に40歳前後はもっとも負担がかかる時期だと思います。当コラムで、デイリーハッスルと対策を提案させて頂きます。是非最後までご一読ください。
デイリーハッスルの意味とは
意味とは
デイリーハッスルは、ストレスマネジメントの権威であるラザルス(Lazarus, R.S.) が1981年に提唱した概念です。[1]具体的には
日常の慢性的な煩わしい出来事
とされています。ラザルスは心療内科の患者を対象に、ライフイベントとデイリーハッスルの影響の比較を行いました。その結果、デイリーハッスルの方が、ライフイベントよりも深刻度が高いことが分かりました。
それまでのストレス研究では、災害、就職、離婚、などはっきりとしたストレス因に注目されることが多かったのですが、日常的な何気ないストレスも重要であることがわかっていったのです。
3つのストレス
1984年になるとラザルスとフォルクマン (Folkman, S.) はストレスとなる出来事を以下の3つに分けました。[2][3]
カタストロフ(Catastrophe)
震災,天災,テロ,ウイルスのような劇的な大事件を意味します。最近ですと、コロナショック、東日本大震災、などが当てはまります。
ライフイベント(Life event)
結婚、家族の病死、転職、倒産など人生の大きな変化を意味します。ライフイベントは人生の節目で通る課題です。
デイリーハッスル(Daily hassles)
日々の出来事によるストレスを意味します。デイリーハッスルは毎日関わるものです。日々何気なく感じているイライラのため、些細な出来事として捉えてしまいがちです。
1つ1つのストレスは気が付かないうちに蓄積されていくため、放置しておくと大きな心理的ストレスになってしまいます。
デイリーハッスルの種類
デイリーハッスルにはどのような種類があるのでしょうか。心理学の世界では4つの分類をよく使います。
物理的ストレス
暑さや寒さ、騒音、光など、物理的な環境刺激によるストレスです。オフィスにおける騒音、パソコンのディスプレイの明るい光、エアコンの効きすぎなど、日常生活に潜んでいます。
化学的ストレス
公害物質、金属、アルコール、タバコ、食品添加物など、化学物質による刺激が原因となるストレスです。化学物質による目・喉・鼻への刺激、室内の酸素欠乏も含まれます。オフィス内での喫煙やニオイの強い昼食などが該当します。
心理・社会的ストレス
ストレスの感じやすさは個人差がありますが、思い込みが激しい、マイナス思考、失敗過敏などの傾向があるとデイリーハッスルを内面的な問題から起こるストレスです。
人間関係の悪化、友人との喧嘩、パワハラする上司、SNSでのトラブル、収入の減少など、主に人間関係や社会との関わりの中で生じるストレスです。
生物的ストレス
不眠、肩こり、目の疲れ、高血圧、高血糖、運動不足など 主に体の不調からくるストレスです。
デイリーハッスルは日常生活のあらゆる場面に潜んでいます。特に、長期的に続くストレスは小さなものでも、ボディーブローのように効いてくるので要注意です。
デイリーハッスルの危険性
デイリーハッスルは対人関係や心身の悪影響を及ぼす危険性があります。
抑うつへの影響
長尾ら(2019)[4]は、大学生35名を対象に現代に即したデイリーハッスル尺度を作成しました。その結果の一部に対人関係や心身の影響について報告があります。以下の図をご覧ください。
このように日常生活に関するDH(デイリーハッスル)が高い方は、抑うつも高いことがわかります。日常生活でストレスを抱えやすい方は、メンタルヘルスも不安定になりやすいと言えます。
対人関係過敏への影響
長尾ら(2019)の同研究では、対人関係過敏への影響も報告されています。対人関係過敏とは、他人からの評価や言動を過度に気にしてしまい、日常生活に支障をきたしてしまう状態を指します。以下の図をご覧ください。
このように日常生活に関するDH(デイリーハッスル)が高い方は、対人関係過敏も高いことがわかります。特に対人ストレスなどデイリーハッスルを抱えていると、人の目を気にする状態になってしまうかもしれません。
心身への影響
長尾ら(2019)の同研究では、心身への影響も報告されています。その結果が以下の図です。
このように日常生活に関するDH(デイリーハッスル)が高い方は、心身への影響も高いことがわかります。
死亡率への影響
Aldwin(2014)[5]らは、オレゴン州立大学で、高齢の男性1,293名に対してデイリーハッスルと死亡率に関する調査を行いました。その結果、デイリーハッスルが中程度ある人は、少ない人に比べて、63%死亡率が高いということがわかりました。
デイリーハッスルは精神的なストレスだけでなく、身体にも悪影響を及ぼす傾向があるのです。
デイリーハッスルと性格
同じデイリーハッスル(ストレス要因)があったとしても、ストレスを感じやすい人、感じにくい人がいます。具体例として3つの先天的な性格傾向が挙げられます。
タイプA
タイプAとは、競争的でせっかち、成果主義的傾向があり、イライラしやすいなどの特徴がある性格です。脳や心臓、血管系の疾患とも関連が指摘されています。エネルギッシュで活発である一方で、ストレスをため込みやすい傾向があります。競争意識が低く調和的なタイプBの人と比べても、タイプAの人の方がストレス値が高いとされています。
佐瀬ら(2005)[6]は大学生155名を対象に、タイプAと大デイリーハッスルの関連を調べました。その結果が以下の図です。
このように、どのストレッサーにおいてもタイプAの方がグラフが伸びていることが分かります。タイプAは時間的切迫感や達成欲求が高く、常に効率化や成功を求める傾向があります。
そのため、些細なミスや遅延にも敏感に反応し、必要以上に焦りや不安を感じてしまう可能性が高いと考えられます。
HSP
HSPとは、Highly Sensitive Personの略称です。HSPの特徴として、刺激や周辺環境の影響を受けやすく、人の感情への感受性が非常に強いなどが挙げられます。そのため、ストレスに対する耐性も低いことが指摘されています。HSPの敏感さは、デイリーハッスルを感じやすい性格傾向として挙げられます。
HSPの意味とは
メランコリー親和型
テレンバッハが提唱したメランコリー親和型の性格というのがあります。メランコリー親和型は、自分自身への要求水準が高く、一定の秩序にこだわる傾向にあります。特徴として几帳面、凝り性、強い責任感、世話好きなどが挙げられらます。
これらはうつ病の病前性格とも言われ、特に人生の転機となるような出来事で大きなストレスと感じ、うつ病につながりやすくなるとしています。
6つの対処法
デイリーハッスルについては以下の6つの対処法があります。以下それぞれのやり方について詳しいリンクを紹介しています。試してみたいものがありましたら、クリックしてみてください。
問題焦点型コーピング
デイリーハッスルに対して、問題となっている事柄に焦点を当てて、直接解決を目指す対処法です。一番積極的なやり方と言えそうですね。
*例
仲直りをする
会議をする
残業を減らすように交渉する
*関連コラム
アサーティブコミュニケーション
NOの境界線を作る,限界設定
情動焦点型コーピング
デイリーハッスルによって疲れている心に焦点を当て、気持ちを落ち着けようとする対処法です。現実的に解決できない場合は、素直に表現したり、誰かに話すなど気持ちの整理をしていきます。
*例
悩みを打ち明ける
愚痴をこぼす
日記に気持ちを表す
*関連コラム
カタルシス
認知的再評価型コーピング
デイリーハッスルに対して見方や視点を変えたり、認知の仕方を変える対処法です。考え方を柔軟にすることでストレスを減らしていきます。
*例
友人が同じような辛い状況ならどう声を掛けるか考えてみる
客観的な視点で考えてみる
ポジティブに考える
社会的支援探索型コーピング
デイリーハッスルを解決するために、自分だけで解決を図るのではなく、知人や仲間などに協力をあおぐ方法です。身近な人だけでなく、支援機関や相談所などの資源を活用することも有効です。
*例
家族や友達に相談する
SNSを通じて解決策を聞いてみる
公的機関に相談する
*関連コラム
ソーシャルサポートコラム
身体的コーピング
身体を動かしたり、身体的な活動を通してデイリーハッスルを解消していく対処法です。心と体のつながりも指摘されており、体にアプローチすることでストレスも減らしていくことができます。
*例
朝20分間散歩する
動画を見てストレッチをする
日光浴をする
*関連コラム
ストレス発散-運動,呼吸,日光浴
気晴らし型コーピング
趣味などによってリフレッシュする方法です。ストレスフルな状況から少し距離を置いて気晴らしをすることで、自分のペースを取り戻し、気持ちや考え方が切り替えられます。
*例
カラオケで大声で歌う
読書にふける
海など自然を眺める
このように、考え方を変えてみたり、周囲に協力を仰いだり、適度に感情を吐き出したりすることで、うまく対処することができます。また、リフレッシュできる趣味を持つことも大切です。
お知らせ・発展編
ここからは「お知らせ」と「発展編」になります。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・デイリーハッスルに強くなる対処法
・ストレスコーピング力をつける練習
・心を健康的にする,心理療法
・イライラの改善,体のリラックス法
体験受講に興味がある方は下記のリンクからお待ちしています。筆者も講師をしています(^^)
ストレスマネジメント理論
ストレス理論について理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。ストレスの原理から対処法までより詳しく解説しています。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連