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身体のストレス発散法,解消法

日付:

身体のストレス発散法,解消法

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「身体のストレス発散法,解消法」についてご相談を頂きました。

ストレス症状

相談者
38歳 女性 

お悩みの内容
私の会社はコロナウイルスの頃から在宅勤務が増えて、リモートで作業することが多くなりました。毎日自宅にいるので、ストレスがどんどん溜まっていきます。

睡眠が乱れて、精神的にも落ち込むことが多くなっています。何かおすすめのストレス発散法や解消法はありますでしょうか。おしえてください。

在宅勤務は、通勤がなくて楽な一方で、身体がなまってしまったり、会話不足でストレスがたまりますよね。当コラムでは、おすすめの発散方法を紹介します。是非最後までご一読ください。

ストレスと身体の関係

心と体の繋がり

心理学の研究によると、心と体は密接に関係していることがわかっています。有名な理論としては、ジェームズ=ランゲ説があります。ジェームズ=ランゲ説は以下のように定義されています。

内臓や筋肉の情報が脳へフィードバッグされることによって、感情が変化する説
(心理学辞典,2013,一部簡略化)[1]

簡単に言うと「体」が変化すると「心」も変化するという説になります。そのためストレス発散を考える上では、身体の健康が非常に大事になってくるのです。

たとえば、以下の花子さんと太郎さんの生活を比べてみてください。

心と体の健康

ストレスをためやすいのは、太郎さんであることが明白でしょう。このように、ストレスを軽減するには身体面からのアプローチを欠かすことができないのです。

自殺原因1位は健康問題

体の問題は、深刻になると自殺に結びつくことがあります。以下の図は、平成25年に内閣府[2]が発表した自殺の原因割合です。
図表2-3-6  自殺の原因・動機の割合

図を見ると1位は「健康問題」となっていて、その中でもうつ病以外の健康問題が最も大きな割合を占めています。私たちは、心身の問題によって、生きる気力を失ってしまうことが多いことがわかります。

座り時間が長いと死亡率が高まる

小山ら(2021)[3][4]の研究では、座り時間と死亡率の関係について調べています。研究では64,456 名の被験者を平均7.7年間追跡調査しました。その結果が以下のグラフです。

仕事が辛い 座る時間と死亡率

このように、資質異常症、高血圧、糖尿病などにおいての死亡リスクが高まることが示唆されています。なかでも特に糖尿病の値が伸びていることがわかりますね。

座り時間が長いと、太ももの筋肉への刺激が足りなくなります。その結果、ブドウ糖がうまく細胞に取り込まれなくなり、血糖値を下げるインスリンの働きが悪くなるといわれています。ストレス対策として、座り時間を減らす努力が必要だと言えそうです。

身体のストレス発散7つの方法

当コラムでは、主に体の面からストレスを発散する方法を7つお伝えします。
 ①運動をする
 ②朝日を浴びる
 ③丹田呼吸法
 ④臨床動作法
 ⑤食生活を整える
 ⑥入浴,サウナ
 ⑦睡眠の質を上げる

いずれも日常生活に取り入れやすい方法です。できることから少しずつはじめて、心と体の健康を向上させていきましょう!

ストレス発散法①運動をする

メンタルヘルスに好影響

ストレスを発散するには、運動することが基本です。甲斐(2011)[5]は、IT 関連企業の従業員2952名に対して調査を行いました。この研究では、1週間に運動する時間が

・135分未満の人たち
・135分以上の人たち

のメンタルヘルスが比較されました。結果の一部を以下の図に示します。

運動量と抑うつの関係

このように、135分以上運動している人たちと比較すると、135分未満の人たちの抑うつ感が2倍以上になることが分かりました。


研究紹介‐ハイキングはストレスを小さくする

ハイキングは、ストレスを大きく下げることがわかっています。Marselleら(2014)[6]は、1516名の男女を対象に以下の研究を行いました。具体的には

ハイキングをするグループ
ハイキングをしないグループ

の2グループについて、13週間後の変化を観察が比較されました。その結果、ハイキングに参加したグループには、主観的なストレスが低下、うつ症状の発症率が低下する傾向が見られました。

研究紹介‐ボルダリングは精神不安を軽減する

Luttenberger(2015)[7]は、精神が不安定な男女100名を対象に、週3時間のボルダリングを実施することによる変化を調査しました。

8週間後にチェックをした結果、何もしなかった被験者に比べて、ボルダリングを行ったグループは、精神不安に関する症状が4.5倍も低い傾向が見られました。


運動を習慣に

運動はもっとも基本的なストレス発散法と言えます。

公園を散歩する
ジムに通う
1日1回ストレッチをする
ハイキングに行く
ボルダリングをする

など、積極的に生活に取り入れて、体の健康を維持するように気をつけましょう。

ボルダリングと心と体ストレスの関係

 

ストレス発散法②朝日を浴びる

日光とメンタルヘルス

生理学や精神医学の研究[8]では、日光がメラトニン、セロトニンを安定させ、メンタルヘルスにプラスの効果を与えることがわかっています。特に朝日を浴びると、夜のメラトニンの分泌量が増えて、スムーズに眠れる効果があります。

以下の図は世界の自殺率を色分けしたものです。白っぽい部分ほど、自殺率が低い地域となります。図を見ると、赤道周辺の地域は自殺率が低いことが分かります。

ストレス,自殺率

日本の統計では、晴れの日が多い岡山県は、うつ病にかかる率が低く、北海道はうつ病の罹患率が高くなる傾向にあります。実際に精神科でも、光を一定時間浴びるという治療法があります。

朝日を浴びよう

朝おきたら、まずはカーテンを開け、日光を部屋に呼び込みましょう。明るい部屋の中で朝の支度をするだけで、気持ちは随分晴れやかになるものです。

またストレス発散法①の運動と合わせるのもおすすめです。

休日は早朝散歩する
通勤時に明るい道を歩く
電車のホームで光を浴びる
1日10分は窓際でだらだらする

などが挙げられます。紫外線対策をしながらでも、もちろんOKです。お天道様の力を最大限活かしましょう。

ストレス発散法③丹田呼吸法

私たちはストレスを抱えると、交感神経が優位な状態になります。交感神経は「戦うモード」の神経で、長時間働くと、体の負担になることが分かっています。交感神経の働きが過剰になっている場合は、丹田呼吸法がおすすめです。

人との不安はリラックス呼吸で解消

 

具体的なやり方としては以下を参考にしてみてください。

①ゆったり椅子に腰かけ、姿勢を楽にする

②へそのあたりに手を当て、深呼吸をする
 その時、呼吸だけに意識を向けます

③ゆっくり鼻から息を吸い、おなかが膨むのを実感する

④口から細く長く、ゆっくり吐き出す

この流れを、リラックスできているな~と感じるまで繰り返してみてください。その他、呼吸法には様々なやり方があります。気になる方は以下のコラムも参照ください。

呼吸法,深呼吸のやり方

ストレス発散法④臨床動作法

心理療法の1つに臨床動作法があります。体のリラックスをする上でとても有効です。今回は「肩あげ法」を紹介します。具体的な手順は以下の通りです。

➀肩上げ
ゆっくり片方の肩を上げていきます。コツは他の部分に余計な力を入れないようにします。純粋に肩だけ上げていくイメージです。10秒ぐらいかけてゆっくり肩を上げていきます。頂点に達したらその状態をしばらくキープします。

②ゆるめる
限界と感じたら、ゆっくりと肩を下げます。急がずゆっくり戻していくのがコツです。

③余韻を味わう
ぽかぽかじわーとした余韻を感じましょう。これを左右、数セット行います。身体がじんわりリラックスするのがわかると思います。

ちょっと疲れたなあ~と感じたらぜひ試してみてくださいね。より深く理解したい方は、下記を参照ください。

臨床動作法とトレーニング

ストレス発散法⑤食生活を整える

身体のストレスを軽くするには、食事に気を使うことも大事です。Gibson (2018)[9]は、1,634人の成人を対象に、不安や抑うつ症状と食事内容を調査しました。その結果が下図となります。

地中海食事スコアの比較

この図は、健康な人ほど、栄養素が豊富に含まれる伝統的な地中海料理を食べていたことを示しています。研究によると、特に魚介類や野菜を摂取するとプラスの影響があることが分かりました。

私たちには日本食という健康食があります。やはりバランスの良い食生活が大事になりそうですね。

炭水化物,お肉,野菜をバランスよく食べる
フルーツを食べる
暴飲暴食は控える
しっかり味わう
2日に1回は和食を食べる

など、食生活について是非意識してみてください。

地中海食事スコア

ストレス発散法⑥入浴,サウナ

入浴とストレス発散効果

日本は、伝統的な温泉、スーパー銭湯、サウナ、スパなど入浴大国と言えます。裸でぽかぽかとリラックスすることは最高のストレス発散になります。

副島ら(2015)[10]は、慢性疲労症候群の入院患者10名を対象に、サウナの効果を4週間にわたって調査しました。その結果、知覚疲労の改善、不安の改善、うつ症状が改善という効果が見られました。確かにサウナから上がった後は、頭がスッキリした感覚になりますよね。

入浴とストレス発散効果

日本では入浴の楽しみ方が豊富にあります。

週に1回は泡ぶろでくつろぐ
檜を浮かべて楽しむ
毎年冬は地方の温泉を楽しみにする
嫌なことがあったらスーパー銭湯でリフレッシュ

など、是非入浴文化を楽しみましょう。

サウナとストレス発散の関係

ストレス発散法⑦睡眠の質を上げる

睡眠時間とメンタルヘルス

Lu Dongら(2022)[11]が25,962人を対象とした研究によると、睡眠時間とうつ症状には以下のような関係があることがわかりました。

Fig. 2

うつ症状と睡眠時間との間にU字型の関連性があることを示しています。うつ症状を発症するリスクは、8時間で底を打つまで睡眠時間と負の相関がありました。しかし、睡眠時間が 8 時間を超えると、うつ病を発症するリスクが大幅に増加することが分かります。

睡眠時間と生産性

石橋ら(2020)[12]の研究では、2897人を対象に睡眠時間と生産性の関係を調べました。

その結果が以下の図です。

睡眠時間と生産性

このように、年齢によって多少バラつきがあるものの概ね6~8時間の睡眠時間で生産性が高まっていることが分かります。しかし、5時間台になると大幅に生産性は低下し、5時間未満になると18~33歳であれば-2%まで生産性が落ちてしまいます。

この研究からわかるように適切な睡眠は生産性と密接な関係があると言えるでしょう。

睡眠時間を安定させる方法

睡眠時間を安定させる手法としては統制法と制限法があります。統制法とは何もしないことで寝床は寝る場所と脳に覚えさせる方法です。布団に入ったら何もしません。本を読んだり、スマホを見ないことで、脳がリラックスできます。

制限法とは、眠くなったら布団に行く方法です。眠くない時は無理をして布団に入ることをしません。眠い状態で布団に入るため、睡眠効率も高まります。睡眠の質を上げる方法としては以下のコラムで詳しく解説をしました。眠りが安定しない…と感じる方は参考にしてみてください。

睡眠障害と対策

まとめ

心と体のつながりについて、心理学の用語や研究を交えながら解説をしました。心と体に疲労感があるときは、自分の生活を客観的に見つめてみましょう。

運動不足や日光不足など、不調の原因が見つかるかもしれません。できるところから、生活習慣を見直すことで、心と体の健康を手に入れていきましょう!

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] VandenBos, G.R. (Ed.). (2007). APA Dictionary of Psychology. Washington, D.C.: American Psychological Association. (ファンデンボス, G.R. (監修)繁枡 算男・四本 裕子(監訳)) APA 心理学大辞典 p. 330  培風館
 
[2] 内閣府自殺対策推進・警察庁生活安全局生活安全企画課 (2014). 平成 25 年中における自殺の状況 retreived from https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html (Decemeber 2, 2019)
 
[3] 島 悟 (2005). 日本の長時間労働・不払い労働時間の実態と実証分析 retreived from https://kokoro.mhlw.go.jp/paper/files/04-r21-4-shima-kajyu.pdf  (December 2, 2019)
 
[4] 内閣府自殺対策推進・警察庁生活安全局生活安全企画課 (2017). 平成29年中における自殺の状況  retreived from https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H29/H29_jisatsunojoukyou_01.pdf (December 2, 2019)
 
[5] 甲斐 裕子・永松 俊哉・山口 幸生・徳島 了 (2011). 余暇身体活動および通勤時の歩行が勤労者の抑うつに及ぼす影響 体力研究, 109, 1-8.
 
[6] Marselle, M.R., Irvine, K.N., & Warber, S.L. (2014). Examining Group Walks in Nature and Multiple Aspects of Well-Being: A Large-Scale Study.  Ecopsychology, 6, 134-147. http://doi.org/10.1089/eco.2014.0027
 
 
[8] World Health Organization. (2015). Preventing Suicide: a global imperative (小高 真美・高井 美智子・山内 貴史・大槻 露華・白神 敬介・竹島 正 Trans.)自殺を予防する 世界の優先課題 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 自殺予防総合対策センター (Original work published 2014)
 
[9] Gibson-Smith, D., Bot, M., Brouwer, I.A., Visser, M., Penninx, B.W.J.H. (2018). Diet quality in persons with and without depressive and anxiety disorders. Psychiatric Research, 106, 1-7. https://doi:10.1016/j.jpsychires.2018.09.006
 
[10] Soejima, Y., Munemoto, T., Masuda, A., Uwatoko, Y., Miyata, M., & Tei, C. (2015). Effects of Waon Therapy on Chronic Fatigue Syndrome: A Pilot Study.  Internal Medicine, 54, 333-338.
 
[11] Lu Dong, Yongwei Xie, Xiaohua Zou,(2022).Association between sleep duration and depression in US adults: A cross-sectional study.Journal of Affective Disorders,Volume 296,Pages 183-188,
ISSN 0165-0327,https://doi.org/10.1016/j.jad.2021.09.075.
 
[12] Ishibashi, Y., & Shimura, A. (2020). Association between work productivity and sleep health: A cross-sectional study in Japan. Sleep Health. https://doi.org/10.1016/j.sleh.2020.02.016<