恨みが消えない方へ,晴らす方法,続ける
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「恨みが消えない,晴らす方法」です。
相談者
29歳 女性
お悩みの内容
私は中学生の頃、いじめにあっていました。内容は伏せますが、人としての自尊心をとにかく踏みにじられた気持ちです。
その影響からかどうしても人間不信になってしまい、人との関係がうまく築けません。
最近、私をいじめていた人たちをSNSで見つけてしまうことが多く、楽しそうにしている姿を見ると恨みを晴らしたい衝動にかられます。私はどうすればいいでしょうか。
相談者の方から切実な思いを伝わってきました。誰かから理不尽な扱いを受けたとき、私たちの心は、暗くすさみ、納得できない気持ちでいっぱいになるものです。
恨みは攻撃性を帯びしている感情です。仕返しをしたくなったり、それが叶わなければ身近な誰かにぶつけてしまうことすらあります。
攻撃をしてしまったら、傷つくのは結局は自分になります。自分を守ってほしいです。当コラムでは恨みを健康的に処理するという視点から解説をしていきます。
恨みの意味とは
まずはじめに、恨みとはとのような感情なのか?基本的な知識を抑えておきましょう。
恨みとは何か
恨みの感情は以下のように定義されています。
だれかにひどい仕打ちをされ、不快になった思いを辛抱し続けた結果、でてくる感情(山野,1987)[1]
だれかに傷つけられたり、嫌なことを言われたりしても、無力であるため、その場ですぐに反撃できず、じっと我慢しているうちに、心の奥に溜まってくる不満、憎悪、怒りといった感情のカタマリ(阪井,1989)[2]
このように、恨みとは不快な出来事からすぐに生まれるわけではなく、時間をかけて蓄積されていく感情と言えます。
恨みが起こりやすい状況
鈴木(2018)[3]の研究によると、恨みは3つの条件で起こりやすいとされています。
・許せなさ
相手を許せない気持ちがあるときに起こります。自分の大事なものを奪った、快楽のために使われた、人間的な扱いを受けなかったなど、非倫理的な被害を受けたときに人は相手を許せなくなります。
・どうしようもなさ
一方で恨みは過ぐには解消できない事情があったりします。例えばいじめの問題であれば、仕返しをすればいじめが増長してしまうことがあります。恨みが長期化するのはすぐに解決できないという事情もあります。
・不公正感
自分だけが不幸な目に合っている、自分だけは不利益を被っていると感じる場合に恨みは大きくなります。例えば、みんなで頑張って達成したプロジェクトなのに、自分だけボーナスが出ないなどが挙げられます。
恨みと心理的な影響
恨みの感情は私たちの生活に様々な影響をもたらします。いくつか研究を紹介します。気になる項目があったら展開してみてください。
このように恨みの感情は、メンタルヘルスを悪化させる要因になりやすいと言えます。一方で、恨みの感情を健康的にする、心理的な対処法を学ぶ機会は多くはないと言えます。
そこで当コラムでは、ここからは恨みを晴らす方法について、解説していきます。恨みの大きさは個人差があるため、参考になりそうなものだけを検討してみてください。
恨みを晴らす方法‐ジェームス
心理学者のジェームス・J・メッシーナ(2013)[8]は恨みの感情に向き合い、解決するための5つのステップを推奨しています。
①事実の確認
まずは、怒りの炎を燃え上がらせる原因を突き止めます。傷つけた人物の行動を具体的に思い浮かべ、その行為がどのような感情を引き起こしたのかを分析します。裏切り、欺瞞、暴力、あるいは些細な無神経さだったかもしれません。怒りの核心を明確にすることで、その感情と向き合いやすくなります。
②過去・現在・未来の確認
恨みが人生にどのような影を落としてきたのか振り返ります。過去の出来事が現在どのように影響しているのか、そしてその影響が未来にどのように繋がる可能性があるのかを考えます。恨みを手放すことで、過去の傷を癒し、より自由で明るい未来を築くことができるという希望を見出しましょう。
③手紙を書く
ペンと紙を用意し、恨みの対象となった人物へ向け手紙を書きます。手紙には、相手があなたにどのような傷を与えたのか、その行為があなたにどのような影響を与えたのかを具体的に書き綴ります。しかし、この手紙は決して相手に送りません。あくまでも自分自身の感情を整理し、許しの気持ちを深めるためのものです。
④恨みが解決された未来
恨みによる悪影響のない未来を思い描きます。もし、この恨みが消えたら、心はどんな状態になるかをイメージします。怒りや苦しみから解放され、穏やかで晴れやかな気持ちで過ごせるようになるでしょう。周りの人との関係も改善し、新たなチャンスが訪れるかもしれません。恨みの呪縛から解き放たれた未来を具体的に思い描くことで、その未来へ進むための勇気と希望が湧いてくるでしょう。
➄何度もやり直す
恨みの感情は根深く、簡単には消えません。もし、上記のステップを実行しても、怒りが残っている場合は、もう一度最初からやり直してみましょう。諦めずに何度も挑戦することで、恨みの牢獄から抜け出すことができます。
*筆者の見解
ジェームスの5つのステップは、当然、相当な時間をかけて進むものです。そんな簡単にはいかない!と感じる方も多いと思います。ただし、手紙を書く、恨みが減った上での生活のイメージ、などは参考になる面もあります。
恨みを晴らす方法‐筆者の提案
ここからは筆者から提案させて頂きます。
① 自分を大事にする決意
② サポート体制を整える
③ 反芻をやめる,適度に思考を止める
④ アンガーマネジメント力をつける
⑤ 悩みを書き出し心を整理する
⑥ 可能であれば気持ちを伝える
⑦ 昇華で前向きな活動に向ける
⑧ 乗り越えた人の体験を参考にする
⑨ カウンセラーに相談する
恨みは強い感情のため、すぐ解決できるということはありません。一方で、丁寧に対処して1つ1つ整理していけば乗り越えていける感情であります。恨みを感じる原因や状況はそれぞれ異なっているので、自分でも使えそうだなと感じる対策のみ、参考にしてみてください。
①自分を大事にすると決意
まずはじめに、恨みの感情はコントロールを間違え、「行動に移してしまう」と、自分を不幸に可能性にすることがあると心にとどめておきましょう。
暴言を吐く、物理的な行動にでる、物を壊す、SNSで実名で攻撃をする、など恨みをそのまま相手にぶつけると、法律に抵触したり、デジタルタㇳゥーとして一生残ってしまうことがあります。
恨みは人間の感情の中でも特に注意が必要な感情です。あなたには恨みを持つだけの大変な体験があったと想像しますが、その感情をそのまま行動に移してしまうことからは、距離を取るようにしましょう。
②サポート体制を整える
恨みが大きければ大きいほど、その気持ちと向き合うリスクは大変なものとなります。一人で抱え込むと、他人への恨みが余計に大きくなったり、場合によっては自責に向かい、自分を傷つける行動に結びつくこともあります。
信頼できる人間関係がある場合は、思い切って打ち明けてみることも大事です。家族、友人、先生、上司、SNS、など、話を聞いてくれる人はそこかにいるものです。サポートを受けるようにしましょう。
悩みを一人で抱え込むことが多い…と感じる方は以下のコラムを参考にしてみてください。
③反芻をやめる
心理学の世界では「ネガティブ反芻(はんすう)」という言葉を使うことがあります。
ネガティブ反芻とは、何度も繰り返し嫌な出来事を思い出してしまうことを意味します。ネガティブ反芻が多い方は、1度の体験を何度も自分の頭の中で再体験してしまい、抑うつ感を高めてしまうことがあります。
日記などで、心を整理する時間は、1日の決められた時間に限定することが大事です。メンタルヘルスが悪い時には、無理に向き合う必要はありません。比較的穏やかで心に余裕がある時期に向き合うようにしましょう。
また、恨みと向き合う時間にメリハリがつけられない場合は、区切りをつけて、別のことを考える「思考ストップ法」があります。何度も思い出してしまう…という方は以下のコラムを参考にしてみてください。
④アンガーマネジメント力をつける
恨みは攻撃性、怒りといった強い感情に結びつきやすいです。そして人生を崩壊させてしまうのは、これらの強い感情です。
強い恨みほど、自分自身の人生も傷つけてしまいます。怒りのコントロールのやり方を、ぜひ学んでおきましょう。以下のコラムを参考にしてみてください。
⑤悩みを書き出し心を整理する
恨みの感情が少し落ち着いてきた時期は、日記など文字に書いて気持ちを整理していくことも大事にかもしれません。心理学の世界には「カタルシス効果」という言葉があります。
カタルシス効果とは、悩みを吐き出すことで心が整理され、改善されていく効果を意味します。悩みを整理するだけでも心が軽くなることはよくあります。少し書いてみて、すっきりする感覚がある方は続けてみてください。
注意点として、過去のつらい記憶が呼び起されて、辛くなるなどの感覚がある場合は、自分と向き合う時期をずらすようにしましょう。
⑥可能であれば気持ちを伝える
恨みは多くは、過去の出来事のため、相手との関係が終わっていることもよくあります。一方でもし相手との関係が続いていたら、きちんと気持ちを伝えることも大事です。
あなたはあなたの心の権利を守ることができます。相手に傷ついた気持ちをきちんと伝え、主張することも大事にしましょう。嫌なことをされても我慢してしてしまうことが多い方は以下のコラムを参考にしてみてください。
⑦昇華で前向きな人生に活かす
昇華は、自分の中で受け入れがたい欲求があった時に、社会的に望ましい方向に変化させ発散させていく心の働きのことです。たとえば、いじめにあった経験があったとします。
恨み⇒マイナスに使う人
いじめの経験に恨みをもち、暴言を吐く、暴力を振う、自分が誰かをいじめてしまう、など攻撃的になります。結果的に、自分も周りの人も不幸になります。
恨み⇒昇華できる人
いじめの経験から、いじめられている人を守る、いじめのない社会を作る勉強をする、いじめっ子よりも幸せになると決意するなど、前向きな活動の力に変えます。
このようにマイナスの心理をプラスの行動に役立てることを昇華と言います。恨みの感情を抱いた時は、ポジティブな出来事へ変えるチャンスにもなるのです。
⑧乗り越えた人の体験を参考にする
恨みの感情を乗り越えるプロセスは人それぞれですが、たくさんの事例に触れておくと、自分でも活かせそうな内容が見つかるものです。恨みをうまく処理できた方の自伝や、名言集、動画などがあると参考になると思います。
自分なりに探してみましょう。また以下の折り畳みには、参考になりそうな本や動画をあげました。興味がある方はご覧ください。
⑨カウンセラーを探す
恨みが強く、すぐにでも誰かを攻撃してしまいそうな場合は、専門家を頼ることも大事です。以下の動画ではカウンセラーの探し方を解説しています。参考にしてみてください。
まとめ
人生は理不尽な面もあります。ただ真面目に生きてきただけなのに、他人の都合で傷つけられる、騙される、いじめを受ける、などの被害にあうことがあります。簡単に解決する感情ではないと思いますが、皆さんが少しずつ心を整理され、心穏やかな日常を取り戻されることを願っています。
心理学講座のお知らせ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、実際に学ぶこともできます。内容は以下のとおりです。
・自分を大事にする,アサーション
・怒りの整理,アンガーマネジメント
・マイナス体験に意味を見出す,リフレーミング
・心穏やかに生きる,心理療法
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39件のコメント
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何十年も仕返しすることしか考えていません。合法的に、誰れもが納得する形で
特に恨みがなくなったわけでわないし逆に少しずつ恨み事態が大きくなっている気がする。
別にそれで別に1つも恨みは、消えてないし年々恨みがましている気もする
・許せない・どうしようもない 毒親に暴力セクハラいじめを受け、不幸を願われてきました。人間不信がひどく自助努力で全く改善せず今も人に嫌われ仕事先からも嫌われて無職、常に孤独で怒りしかありません。
・不公正感 多くの人は家庭を持ち幸せに(少なくとも一時は)なってるのに私は幼少時からずっと孤独でいやな思いをした事しかありません。友達は出来ないのでソーシャルサポートなんかないです。皆私と関わろうとしません。逃げていきます。仕事つながりでさえ無視されます。うわべは世間話などしていても、本心は私を嫌いだとわかり、ますます自分も他人も大っ嫌いになります。怒りと憎しみしかないです。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1]山野保(1987).「うらみ」の心理:その洞察と解消のために 創元社[2]阪井敏郎(1989).いじめと恨み心 家政教育社[3]鈴木拓朗(2018).「うらみ」とは何であるのか? 感情心理学研究, 26(Supplement), ps34-ps34[4]橋本空,織田正美(2008). 大学生における攻撃性と Quality of Life の関連性. 健康心理学研究, 21(2), 49-56.[5]鈴木拓朗(1995).うらみ特性尺度の作成と信頼性・妥当性の検討 富山大学人文科学研究第 78 号抜刷[6]澤田匡人(2013). PD-012 いじめ被害者に対する妬みと恨みが参加役割に及ぼす影響: いじめ被勧誘者の態度に基づく類型化を通じて (人格, ポスター発表). In 日本教育心理学会総会発表論文集 第 55 回総会発表論文集 (p. 275). 一般社団法人 日本教育心理学会[7]法務総合研究所(2013).法務省研究部報告50 殺人の犯行動機による類型[8]“Handling Resentment”. Livestrong.com. Archived from the original on January 23, 2011. Retrieved August 2, 2013.
解決というより誤魔化す方法ばかり。むしろ実践による労と損を被るのもコッチ側とか。やっちまうのが一番スッキリする方法の様だ。