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脱フュージョンのやり方,エクササイズ

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脱フュージョンのやり方

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「脱フュージョンのやり方」についてご相談を頂きました。

相談者
31歳 女性

お悩みの内容
私は昔から思い込みが激しく、一人で空回りをすることが多いです。例えば、ちょっとした体調不良を大きな病気と勘違いしてしまう、恋人の些細な行動から浮気を疑ってしまう、など数えきれないほどあります。

ネットで検索していたところ、「脱フュージョン」という言葉が私に合っている気がしました。詳しく教えてください。

思い込みが激しいと、悩まなくても良いことに悩んでしまい、辛いですね。当コラムでは脱フュージョンのエクササイズをしっかり解説していきます。是非最後までご一読ください。

脱フュージョンとは,意味

まずは、脱フュージョンとは何かについて、意味を詳しく解説していきます。

ACTと脱フュージョン

脱フュージョンは, 1980年代にアメリカのネバダ大学教授だったスティーブン・C・ヘイズ博士 (Hayes, S.C.) [1]によって創設されたアクセプタンス&コミットメントセラピー(Acceptance and commitment therapy, 以下ACT)から派生した考えです。ACTの考え方は、ヘイズ博士自身のパニック発作の経験から固められていきました。

ヘイズ博士自身が、自身から逃げるのをやめようと思いたち、自身と自身の経験を「受け入れ(アクセプタンス)」ようと誓ったことからこのセラピーの考えた方が生まれたのです。

ACTは,アメリカ心理学会かから,さまざまな,こころの病(不安症,うつ病,強迫症,摂食障害,依存症,ストレス,慢性疼痛,精神病性障害など)に効果があるとされています。

スティーブン・C・ヘイズ 脱フュージョン

Dr. Steven C. Hayes

脱フュージョンを理解するには、ACTの哲学を理解することが近道になります。ACTでは以下の生き方を目指します。

不安や恐怖心を受け入れて、価値のある人生に向かって行動する

マイナス感情を自分の中から排除するのではなく、あるがままに受け入れ、価値のあるゴールに向かって行動していくのがACTの姿勢なのです。以下の図は、ACTの6つのコアプロセスを示したものです。

脱フュージョンとは

このように、心理的柔軟性を獲得し、大切なことに集中できるようにするために「脱フュージョン」が用いられるのです。ACTに興味がある方は後程以下のコラムを参照ください。

アクセプタンス&コミットメントセラピー

 

認知的フュージョンの意味

「脱フュージョン」を理解するには、対比としての「認知的フュージョン」という用語を抑える必要があります。「認知的フュージョン」について、ヘイズ博士(2014)[2]

思考は自動的に行動に影響を及ぼすことがある

としています。言い換えると、現実と感情や思考がごっちゃになっている状態を意味します。例えば、自分の発言を批判された人がいたとしましょう。が現実、黄色が思い込みだとすると、認知的フュージョンの状態の方は以下のようになります。

思考と現実が混ざる

このように、黄色が混ざって、黄緑になるように、思考と現実が入り交ざってしまうのですね。

 

脱フュージョンの意味

一方「脱フュージョン」について、ヘイズ博士は

思考の影響を減らし、言語以外の行動基準を効果的に機能させる

としています。言い換えると「思い込みである言葉とは距離を置いて、本来すべき行動ができるようにすること」と言えます。

ヘイズ博士の定義には、「思考の影響を減らす」という文言があります。私たちは、思考することで、よりよく生きているつもりでも、時に思考は暴走し、自分を苦しめます。

そんなときは、現実を正しく見て、自分の世界だけではなく、俯瞰をし、現実を正しく認識した上で行動していくことが必要になるのです。

先程と同じ例で脱フュージョンできている方は以下のようになります。

 

脱フュージョン 意味

このように、現実と思考は別物であることを確認できたら脱フュージョンできていると言えます。脱フュージョンができると、場当たり的な思考と距離を置き、根底にある価値観や目的を元に行動することができます。

例えば、「嫌われているに違いない」と言葉で思い込んでいたとしても、「人と豊かに関係を築きたい」という価値観を大事にできれば、積極的に人と関わるための行動が取れるのです。

このように言葉の思い込み以外の行動基準を強くしていくことが脱フュージョンの狙いなのです。

脱フュージョンのやり方

それでは実際に、脱フュージョンの技法を紹介していきます。初歩的なエクササイズとしては以下の4つを意識してみてください。

➀ マインドの確認
② マインドの有効性を考える
③ 距離を置く
④ やるべきことをやる

➀マインドの確認

脱フュージョンでは、現実と区別するために、感情や思考を”マインド”として扱います。そして以下の問いかけをして脱フュージョンを目指します。

自分の中のマインドは今何と言っているか
それについてどんな意見を持っているか
今この瞬間、自分が何を考えているのか
自分のマインドが今何をしているのか

つまり、「今この瞬間、自分が何を思考しているのかを認識する」ということです。少し難しいですが、「マインド」はあくまで「マインド」であることに気がついて、現実と混同しないようにします。

②マインドの有効性を考える

次に、マインドがどれだけ有効的なものか、自分に問いかけていきます。

その考えにしがみつくメリットはあるか
思考の言うことに従って行動すれば、豊かで充実した生活が手に入るか
マインドに従えば、自分の人生は変わるか?それとも、今までのように行き詰ったままか?

自分の考えが、人生にとって本当に意味があることなのか?冷静に確かめていきます。

脱フュージョン,ACT

③距離を置く

マインドを確認し、自分にとって価値が低い考えであると結論がでたら、その考えと距離を置くようにします。距離を置くやり方ですが、様々な手法があります。

もっとも簡単なやり方は、紙に自分の顔を書いて、吹き出しを書きます。そして、自分が考えていることを書いてみるだけでOKです。これだけでも考えを客観視していることになります。

もっと様々な手法を知りたい方は、以下のコラムを参照ください。

アクセプタンス&コミットメントセラピー

 

やるべきことをやる

脱フュージョンの仕上げは、現実の行動に落とし込むことです。例えば、「嫌われているに違いない」と思いこみ、人間関係を避けている人がいたとしたら、その考えと距離を置き、

挨拶をする
「おはよう」と声をかける
「おつかれさま」と声をかける
遊びに誘う

など、自分の人生にとって前向きな行動をするようにしていきます。こうした行動により、自分の考えが、思い込みであったことがわかるケースもたくさんあります。

繰り返しになりますが、一過性の思い込みでなく、現実に即した大事な価値観を元にした行動をする!ということを意識しましょう。

脱フュージョンについて、別の例を作成しました。理解を深めたい方は展開してみてください。

 

太郎さんと女性への苦手意識

<太郎さん>
・社会人3年目
・大学時代に花子さんと出会い付き合いはじめる
・花子さんから突然、見た目が嫌いとふられる
・自分の容姿が気になるようになる 

脱フュージョン

 

➀マインドの確認

自分の思考を確認することが大切です。太郎さんは自分の考えを紙に書き出しました。

女性は見た目で判断する
僕の見た目は悪いに違いない
僕は女性と二度と恋愛できない

という考えがあることに気が付きました。そうして、その考えがあることで、異性とまともに話すことができないこともわかりました。

失恋

②マインドの有効性の確認

太郎さんは「これらの考えに従うことが自分の人生にどのような影響を与えるか?」を考えました。この考えに従って行動している限り、自分は異性に対して積極的になれないことになります。

今後も異性と話すことはできなさそうです。自分のマインドは、現実の自分も苦しめ、幸せになれそうではありません。太郎さんのマインドは自分にとって価値が低い考えだと分かりました。

 

③距離を置く

太郎さんは、自分の考えを紙に書き出し、客観的に眺めることで、現実と考えをわけて考えました。紙に書いて眺めると、冷静に自分を見つめ直すことができました。脱フュージョンに近づいてきたと言えます。

 

④やるべきことをやる

太郎さんは、脱フュージョンし、以下のように考えました。

今回の彼女は見た目で判断されてしまったが、見た目だけに女性がこだわるわけではない。自分の良さである、誠実さ、真面目さ、仕事への頑張りをみて、好きになってくれる女性があらわれるはずだ。まだ不安な気持ちはあるけれど、それはそれとして、幸せになるための行動をしよう。

そして太郎さんは、以下の行動をすることにしました。

見た目に清潔感を持たせる努力はするが過剰にはしない
仕事に打ち込む 新しいプロジェクトに志願をする
新しい女性と出会った時に誠実にやり取りをして
あとはご縁にまかせる

 

まとめ

今回は脱フュージョンについて解説をしてきました。私たちは感情の生き物なので、不安や恐怖にかられ、ついつい非現実的な考えに捉われてしまいます。

そんな時は、脱フュージョンのエクササイズを活かして、現実的で健康的な行動がとれるようにしていきましょう!応援しています。

 

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。

・脱フュージョン,マインドフルネス練習
・現実と思考をわける練習
・客観的に自分を観察するワーク
・感情に囚われず,やるべきことを実行練習

🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^) 

脱フュージョンのやり方,エクササイズ,心理学講座

 

 

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Steve C. Hayes  retreived from https://en.wikipedia.org/wiki/Steven_C._Hayes  (April 3, 2020)
 
[2] 武藤 崇・三田村 仰・大月 友 (2014).  アクセプタンス&コミットメント・セラピー 第2版  (S.C. Hayes, K.D. Stroahl, & K.G. Wilson Trans.).  星和書店 (Original work published 2012)