ストレス症状への対策,治し方
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「ストレス症状の対策」についてご相談を頂きました。
相談者
37歳女性 結婚4年目
お悩みの内容
私は現在、正社員として働きながら、2歳児の子育てをしています。昔から真面目な方で、仕事も家事もきちんとやっている方だと思います。
ただ…ここ半年、子供の夜泣きと、仕事の厳しさで心が折れそうになっています。最近は頭痛がひどく、余計にイライラして、夫や子供に、ヒステリックに怒ってしまいます。自己嫌悪でさらに、ストレスをためてしまいます。どうすれば良いでしょうか。
子育てと仕事の両立は本当に大変だと思います。特に頭痛があり、感情面でもコントロールが効かないとのことで、充分注意すべき時期と思います。当コラムでは、ストレス症状への対策を立てていきます。一緒に改善していきましょう。
ストレスの心と体の仕組み
まずはじめにストレスについて心と体の仕組みを理解しましょう。
認識と警戒
ストレスを感じる出来事(ストレッサー)が発生すると、脳の視床下部と扁桃体が刺激を受けます。これは、まるで敵の出現を察知したような状態です。視床下部は自律機能の中枢であり、扁桃体は感情処理に関与しています。
これらの脳領域が連携することで、身体は危険や負荷に直面していることを認識し、警戒態勢に入ります。
交感神経活性化
警戒状態になると、脳から自律神経系に信号が送られ、交感神経が活性化されます。交感神経は、いわば身体のアクセルのような役割を果たし、戦闘や逃走に必要なエネルギーを確保するために以下のような様々な変化を引き起こします。
心拍数の上昇
血圧の上昇
筋肉の緊張
呼吸の増加
消化機能の抑制
瞳孔の拡大
血液凝固促進
これらの変化は、身体を戦闘や逃走などの即座の行動に備えさせるためのものです。
副腎皮質ホルモン放出
視床下部と下垂体からの指令を受け、副腎皮質がストレスホルモンであるコルチゾールを放出します。コルチゾールは、身体のエネルギー代謝を促進し、炎症を抑えるなどの作用を持ち、ストレスへの適応力を高めます。
コルチゾールは、身体の防御力を高め、ストレス状況を乗り越えるための重要な役割を果たします。
反応の終了と回復
ストレス刺激が解消されると、交感神経の活性とコルチゾールの分泌が減少し、代わりに副交感神経が活性化されます。副交感神経は、いわば身体のブレーキのような役割を果たし、心身をリラックスさせ、休息状態へと導きます。
このように、ストレス反応は身体が危険や負荷に対処するために備えている自然なメカニズムです。しかし、慢性的なストレス状態が続くと、心身に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、ストレスを適切に解消し、心身の健康を維持することが重要です。
ヤーキーズ・ドットソンの法則
ストレスは先ほど解説したプロセスで起こりますが、健康的なレベルと注意すべきレベルがあります。この点についてはヤーキーズ・ドットソン(1908)[1]の法則を理解しましょう。まずは以下の図をご覧ください。
上図のように、ストレスは中程度だともっともパフォーマンスを活性化させます。具体的には以下のようなメリットをもたらします。
一方で、ストレスは小さすぎると、無気力や集中力の低下をもたらします。大きすぎる場合は、次のコーナーで挙げるような様々な問題を引き起こします。
ストレスと症状の種類
武田(2004)[2]は、長期ストレスによって起こる症状を以下の3つのカテゴリーにまとめています。
神経症的発症
過剰なストレスが掛かると、精神疾患のリスクも増大していきます。例えば、
例えば、残業が50時間を超えている、子育で過剰な負担がかかっている、上司のパワハラが続いているなどが挙げられます。
心身症的発症
ストレスは、身体の機能を一時的に活性化させまずが、長期化するとマイナスの変化をもたらします。ストレスが続く状態は、走り続けているようなものなので、身体が疲れてしまうのです。例えば、
頭痛 不眠 消化器官の問題
脳梗塞 心疾患
のリスクの増大などが挙げられます。
行動異常的発症
ストレスが溜まると、非合理的、攻撃的、自己破壊的な行動が増えていきます。例えば、
ヒステリックに他人に怒る
自傷行為をしてしまう
爪噛みが止まらない
ギャンブルにのめり込む
などが挙げられます。このようにストレスは長期化、慢性化すると様々な問題を引き起こすので注意が必要です。
ストレスを測ろう
ストレスを改善する上では、血圧や体重と同じように客観的に数値で定期的に把握すると、成果を把握しやすくなります。ストレスを測るやり方は複数あります。
心理的なストレスを測る
SRS-18は、Stress Response Scale-18の略であり、日常的なストレッサーによって引き起こされる心理的ストレス反応を測定する尺度です。憂うつや不安、怒りなどの情動的反応、無気力や集中困難など、心のストレスの状態を測ることができます[3]。
気になる方は以下の折り畳みを参照ください。
仕事のストレスを測る
仕事上のストレスを把握したい方は、厚生労働省が公表している職場のストレス診断がおすすめです。5分程度で測ることができます。仕事のストレスが気になる方はご活用ください。
ホームズとレイの尺度
ホームズとレイは1967年に社会的再適応評価尺度(Social Readjustment Rating Scale)を作成しました[4]。この尺度はストレスがかかる「環境」と「実際のストレスの大きさ」を測ることで、ストレスへの強さを測ることができます。ストレスへの強さを知りたい方は以下の診断をご活用ください。
ストレス症状‐6つの対策
ここからはストレス症状への6つの対策を解説していきます。
①環境を整える
②ストレスコーピング力をつける
③体のメンテナンスをする
④心理療法を学ぶ
➄ソーシャルサポート
⑥医療機関の利用を視野に
ご自身の生活にあてはまりそうな項目がありましたら参考にしてみてください。
①環境を整える
ストレスが慢性化しているときは、環境を改善することを大事にしてください。
長時間労働をやめる
ストレスがかかる人間関係から距離を置く
ネガティブなニュースを見すぎない
騒音が激しい家から引っ越す
このような対策が必要になってきます。自分が何にストレスを感じているか?を分析し、物理的な距離を置いたり、環境を帰ることも視野に入れましょう。
環境の整理の仕方については以下のコラムが役立つと思います。優先順位を決めて、心を整理したい方は参考にしてみてください。
②ストレスコーピング力をつける
ストレス症状についてはストレスコーピング力をつけることが大事です。ストレスコーピングはメンタルヘルスを改善する基本的な手法として発展してきた手法になります。代表的なものとしては、
情動解決型 問題解決型 認知評価型 社会支援型 身体的改善型 気晴らし型
の6つがあります。これらを学習すると、ストレスへの総合的な対処力を高めることができるのでオススメです。
詳しくは下記のコラムを参照ください。ストレスの仕組みとコーピングスキルを詳しく解説しています。
③体のメンテナンスをする
ストレス症状が強い場合は体が悲鳴をあげている証拠です。
充分睡眠をとる
適度な運動をする
ストレッチをする
太陽の光を浴びる
食生活を安定させる
これらの対処が必要となります。体の面で無理をしている…と感じる方は下記のコラムを参照ください。
④心理療法を学ぶ
ストレスに強くなるには、心のあり方の改善も必要になります。心のあり方については心理療法の学習がおススメです。これまで心理学の世界では心の健康のために様々な手法が提唱されています。
複数の種類があるので、当コラムでは紹介しきれないので、お時間があるときに以下のサイトからご自身に合いそうな心理療法をぜひ発見してみてください。
私自身も日々の生活ですごく役になっています。
➄ソーシャルサポートをもらう
ストレスを溜めやすい方は悩みを一人で抱えてしまう傾向があります。しかし、困った時はお互い様です。甘える時は甘えることも大事です。
ストレスを軽くする上では、日ごろの何気ない人間関係がとても大事です。辛い時に悩みを相談したり、自分の話を聴いてもらう関係があると随分気持ちが楽になるものです。
具体的には、周りの人達を見まわして、悩みを相談できそうな人、困った時に頼れる人に声をかけてみましょう。意外と温かい言葉をかけてくれることがあるはずです。また現代ではSNSが発達していて、ネット上でも悩みを共有するという選択肢もあります。
孤独で悩みを抱え込みやすい・・・と感じる方は以下のコラムを参照ください。
⑥医療機関の利用を視野に
ストレス症状が重篤化している場合は、心療内科、福祉的な制度、医療の力を借りることもとても大事です。特に
不眠が続いている
倦怠感がある
頭痛などがある
消えてなくなりたいと思う
これらの感覚がある方は無理をせず医療の力を借りましょう。医療機関に行くレベルかどうかは先ほど紹介した、診断を活用しながら判断してみてください。
まとめ
今回はストレス症状について、基本的な知識と改善策を提案させて頂きました。ストレスは長期化すると、私たちの心と体を蝕んでいきます。健康的なレベルのストレスまで改善され、気持ちよく日常をすごされることを願っています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・ストレスコーピングの学習
・ストレスに強くなる,柔軟な思考訓練
・ソーシャルサポートを増やすコツを学ぶ
・体からリラックス,呼吸や体操法を学ぶ
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連