マスクを外すのが不安,取れない,怖い
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「マスクを取るのが不安」です。
相談者
28歳 女性
お悩みの内容
私はコロナ渦からマスクをするのが習慣になっています。ただ…仕事の打ち合わせや、友人と会話をするときまでマスクが外せなくなり、依存症のような感じになっています。
さすがに人生マスクを着け続けて終わるのも嫌なのですが、いまさら顔を見せて会話をすることにも抵抗があります。マスクを取った生活をしたいのですがアドバイスをお願いします。
ずっとマスクをして過ごすことに、違和感を覚えているのですね。当コラムでは、マスクを外すのが恥ずかしい、不安、怖いという人向けに、原因と対策を紹介します。目次は以下の通りです。
・マスクと現状
・原因①安全行動の心理
・原因②日本人特有の心理
・原因③注目されていると考えるすぎる
・原因④監視されている意識が強い
・原因⑤習慣の法則を知らない
・原因⑥権利意識が低い
ぜひ最後までご覧ください。
※当コラムは、マスクを外す決断をしたけど不安を感じている方に向けています。マスクの着用は、個人の価値観によるものです。今後もマスクを着用する人、時々着用する人、マスクを取る人、いずれの考え方も尊重されるべきだと考えております。
マスクと現状
まずはマスクをつける、つけないについての現状からみていきましょう。
政府のマスク着用方針
2023年3月13日、政府はマスク着用の考え方を大きく転換しました。屋内外問わず、マスク着用は個人の判断に委ねるとの方針を発表しました。ただし、医療機関や高齢者施設などではマスク着用を継続するよう求めました。
この発表以降、徐々にマスクを外す人が増えてきましたが、公共交通機関や混雑した場所では依然としてマスク着用者が多い状況が続いています。
マスクをつけている人の割合
NHK(2023)[1]の調査では、全国の18歳以上の男女2,539人を対象に政治意識について電話調査を行いました。その質問の1つに、「マスクの着用は以下の3つのうちどれが最も近いですか?」といったものがあります。
1.以前と同じくらい着けている
2.外すことが増えた
3.常に外している
結果は以下のグラフのようになりました。
このように55%の人は、以前と同じようにつけていることがわかります。そして、常に外している人は8%とという結果になりました。
コロナ禍までとはいかないものの、現状もマスクを外しづらい状態が続いているといえそうです。また2024年8月現在、新型コロナウィルスの第11波が発生しており、再度マスクをつける人が増えているのが現状です。
原因①安全行動の心理
ここからはマスクを外すことに対する原因と対策について解説していきます。
原因・安全行動の心理
行動療法における「安全行動」とは、不安や恐怖を感じたときに、その感情を避けるために取る行動のことです。しかし、この安全行動が逆に不安を強めたり長引かせたりすることがあります。
例えば、社交不安障害を持つ人が「他人に自分の表情や顔を見られると、悪い印象を与えるのではないか」と強く不安を感じる場合、マスクを着用することでその不安を和らげようとすることがあります。マスクで顔の一部を隠すことで、他人からの視線や評価を避けられると感じるため、一時的に安心感を得ることができます。
一方で安全行動を続ける期間が長くなるほど、マスクを外すことに対する不安が増大し、ますますマスクに依存するようになります。結果的に、他人と自然なコミュニケーションを取ることが難しくなり、人間関係に不安を覚えやすくなります。
解決策・スモールステップで取る
マスクの安全行動に対する改善策は、不安を徐々に克服するための段階的なアプローチが重要です。まず、マスクを外すことに対する不安の強さに応じて、少しずつマスクを外す時間を増やします。
例えば、短時間の外出時や信頼できる友人との会話中に、マスクを外す練習をします。次に、自己評価を行い、マスクなしでの経験が意外とポジティブであることを確認します。
さらに、リラクゼーション技法やポジティブな自己対話を用いて不安を軽減し、マスクを外すことへの抵抗を減らしていきます。これにより、マスク依存が徐々に減少し、社会的不安の克服が可能になります。
このような安全行動に対する対策は、行動療法という分野を土台として行います。理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
原因②日本人特有の心理
原因・日本人特有の心理
マスクを取るのが不安な心理に「人に迷惑をかけてはいけない」という考え方が影響している可能性があります。人間関係での不安に関する精神疾患には『対人恐怖症』と『社交不安症』の2つがあります。
『対人恐怖症』の定義は以下の通りです。
耐え難い不安・緊張を抱くために、対人場面を恐れ・避ける神経症
(精神医学事典,2011)[2]。
『社交不安症』の定義は以下のようになります。
他人の目を気にする心理を中核とし、社交場面を普通回避する
(国際疾病基準ICD‐10)[3]。
こちらもほとんど同じに見えますね。
しかし、ここで特徴的なのが、『対人恐怖症』は日本人特有と考えられているのです。さらには、『対人恐怖症』の根底には「人に迷惑をかけてはいけない」という価値観があり、これが日本人特有の『文化依存症』とされているのです。
マスクをし続ける人の中には、「感染させて人に迷惑をかけてはならない」と考え、会話を避けたり人と関わらないようにする方がいます。このような習慣を続けると、対人恐怖症のリスクが高くなります。ご高齢者の場合は、会話の機会が減ると認知症のリスクが高くなるという研究もあります。
解決策・過剰に考えすぎない
迷惑をかけないという価値観はすばらしいですが、自分の幸福を犠牲にしてまで、その感覚を守るのは過剰と言えます。周りに配慮しつつも、自分の人生を歩む気持ちも大切にして、マスクを取って、顔を合わせて友人と屈託なく話したり、好きな人と表情を交流させながら恋愛をすることも、一度しかない人生においてとても大事です。
「迷惑をかけてはいけない」という価値観が、人と接する上での恐怖心、自分の生活のQOL(質)を下げていないか?充分注意するようにしましょう。
原因③注目を浴びていると勘違い
マスクを取るのが不安な心理に「注目されていると考えすぎる」ことが影響している可能性があります。
原因・スポットライト効果
心理学には「スポットライト効果」という用語があります。意味は以下の通りです。
自分が気にしていることは、他人も同じくらい気にしていると勘違いする心理
言い換えると「周りから過剰に注目されている」と思い込んでしまう心理とも言えます。たとえば、舞台に立った時、客席が暗くて見えないと、大勢の観客から見られているような感覚になります。
しかし、現実には、観客はそれほど多くなかったり、いたとしても集中していないということもあるものです。社会心理学者のトーマス・ギロビッチら(1999)[4]が行ったの研究では「自分が注目されている感覚は、実際に他者が注目した半分程度」という結果になりました。
マスクを外す時には、自分にスポットライトが当たり周囲から注目されているような感覚から不安になります。しかし実際には、自分だけが過剰に「注目されている」と思い込んでいることも多いのです。
解決策・マインドフルネス
周囲から注目されていると考えすぎると、メンタルヘルスを崩して社交不安症の原因にもなりかねないため「自分が思っているほど周囲は気にしていない」くらいの感覚をもてるといいでしょう。
解決策の1つにマインドフルネスが参考になると思います。マインドフルネスとは、いま起きている状態に注目し自分の内面に目を向けることです。
まずは「注目されている」と過剰に感じている自分を客観的に観察します。そして「自分が思っているほど周囲は注目していない」と心の中で繰り返してみるといいでしょう。そのあとは、自分がやるべき作業に戻るように心がけます。
例えば、会話をしているときに、マスクをとっている自分に注目されている気がしたら、ある程度のところでその意識を切り上げて、会話そのものに集中するようにします。
他にも注目を浴びている心理を改善する手法はたくさんあります。理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
原因④監視されている意識
マスクを取るのが不安な心理に「監視されている意識が強い」ことが影響している可能性があります。
原因・パノプティコン構造
「監視されている意識が強い」という心理は「パノプティコン構造」に似ています。「パノプティコン構造」とは、1800年代の囚人の監視構造で、中央に監視塔がありその周囲に囚人が円状に収容されています。
画像:Wikipedia
パノプティコン構造は、中央の監視塔からは各囚人に向けた監視ができる一方で、囚人からは監視塔に何人いてどのように監視しているがわかりません。囚人は「非常に監視されている気分」になるため、少人数の監視員で囚人を統制できる効率的な監視構造とされていました。
マスクを取る時の「監視されている気分」は、「パノプティコン構造」と似ている部分があります。自分がマスクを外した瞬間、周囲から非常に監視されているような心理をもってしまうのです。しかし、それは勝手に自分の中で監視員を配置しただけに過ぎないこともよくあるのです。
解決策・過剰になった時の対処法
「監視されている意識が強い」」という場合はどうしたらいいのでしょうか。大事なことは「監視されている感覚」は「自ら作り上げているものなのかも」と考えてみることも大事になってきます。
もちろんマスクを取ることを批判する人、迷惑に感じる人は一定数いると思います。しかし、自分が考えているよりもそれははるかに少ないです。監視されている意識を過剰に見積もり、それにより行動を制限しすぎないように気をつけましょう。
原因⑤習慣を変えられない
マスクを取るのが不安な方は「習慣を変えられない」ことが影響している可能性があります。
原因・素数セミとは
アメリカには、17年に1回しか生まれない「素数セミ」がいます。
一般的な「周期セミ」は1年ごとに生まれ変わりますが「素数セミ」は17年周期、13年周期で生まれます。「素数セミ」は氷河期を生き残るため、周期が長くなったとされています。
もともと周期セミだった素数セミは、氷河期の寒さを乗り切るため、地中で長く暮らしていました。寒い時代を乗り越え気候に合わせて生まれる時期が変わると、仲間と合える周期がずれてしまい子孫を残せなくなります。そこで同じ周期で生まれることができるよう進化したのが「素数セミ」です。
現在の気候であれば「素数セミ」は17年周期で生まれ変わる必要はありません。1年ごとに生まれ変わる豊かな自然が戻ってきました。
しかし、1年で生まれ変わってしまったらもはや誰も周りにいないので、17年ごとに合わせるしかないのです。このように「習慣」は最初は合理的な理由があったとしても、時間がたつにつれて合理的でなくなることがあるのです。
マスクの着用は日常化されてから3年がたつため、習慣としてマスクを着用している人も多いと思いますが、合理性を欠くケースも一定数出てきています。マスクの着用についても、どこかで変えるタイミングを持つことも大切です。
解決策・習慣を変えることも大切
解決策としては、意味のない習慣は疑うことも大事になってくる視点です。例えば、外でマスクをする、とういう行為は現在の医学的な見地からもほぼ無意味で合理的な習慣とは言えません。
このような非合理的な習慣は、時間の無駄になるので、思い切って習慣を見直してみることも大事になってきます。何気なく行っている習慣は、合理性があるか?考えることも大事にしましょう。
原因⑥権利意識が低い
マスクを取るのが不安な心理に「権利意識が低い」ことが影響している可能性があります。
原因・権利意識が低い
心理の世界にはアサーションという自己表現があります。アサーションの定義は以下の通りです。
自分の権利のために立ち上がり、同時に相手の権利も考慮する自己表現
(平木,1993)[5]。
アサーションとは、他人の意見や考え方と同時に自分の気持ちも大切にする自己表現で、私たちには5つのアサーション権があるとしています。
①尊重される権利
②自分の行動を決定する権利
③過ちをおかす権利
④不平等さを訴える権利
⑤あえて主張しない自由もある
権利意識が低い人は、周囲の意見を尊重しすぎて自分の意見や考えを抑え込んでしまう傾向にあります。周囲への気遣いからストレスが溜まりやすく、過剰になりすぎると人間関係を避けてしまう事にもつながります。
解決策・互いの価値観を尊重する
私たちは、マスクを取ることもつけることも自分で決める権利があり、その行動は尊重される権利があるのです。周囲の意見を尊重すると同じく自分の気持ちも尊重しましょう。
マスクを取ることひとり一人の権利です。周囲への配慮を大切にしつつも、自分の正直な気持ちで行動してみましょう。アサーティブコミュニケーションについて理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
まとめ
2020年からはじまったコロナ騒動により、私たちは「顔を見て話し合う」時間を失ってきました。顔を見て話さないことは表情を読み取られないので楽な面もあります。
一方で、顔を見て話さないということは、自己開示量が不足し、信頼関係を築きにくい状態になってしまいます。人間関係が希薄化すると、孤独感のリスクが増大し、幸福感が減り、免疫が弱くなり、別の病気にもかかりやすくなります。
メリット・デメリットを考え、マスクを外すという決断をされた方は、やましい気持ちを持つことなく、胸を張ってご自身の人生を生きてほしいと感じています。
動画でも解説
当コラムの内容は動画でも作成しました。仕上げとしてご活用ください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・迷惑に関する日本人の心理と対策
・人の目を過剰に意識しない練習
・自分の生き方を大事に,アサーション
・健康的な人間関係を築く練習
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典