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理不尽な人への対応法,上司,クレームへの対処法

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理不尽な人への対応法,上司,クレームへの対処法

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「理不尽な人」です。

相談者
35歳 女性

お悩みの内容
私は理不尽な人とよく遭遇します。上司がパワハラだったり、彼氏が暴言を吐く人だったり、この前はあおり運転をされました。どうすればいいでしょうか。

理不尽な人に遭遇すると、悲しい悔しくて、やり切れない気持ちにもなります。確かに、世の中は理不尽なことが多いかもしれません。行き場のない思いを放置しておくと、メンタルヘルスを崩してしまう事もあるので適切な対処が必要です。

そこで当コラムでは、理不尽な人と出会った時の対策について解説します。なお当コラムは動画でも解説しました。お好みに応じてご活用ください。

理不尽な人と政府統計

政府(平成27年)[1]が、若者5,000人を対象に行った「若者の生活に関する調査」から理不尽についてみていきましょう。

理不尽な人と割合

政府の統計によると『自分の周辺には理不尽と思うことがたくさんある』の問いについて「はい」と答えた人は16%、「どちらかといえばはい」と答えた人は31%でした。

この結果は、全人口の半数近くが何らかの理由で理不尽な目にあっているともいえます。

都道府県別の理不尽

続いて、都道府県での結果を見ていきましょう。以下の表は『自分の周辺には理不尽と思うことがたくさんある』の問いについての結果を地域別にまとめています。

北海道や中国・四国地方は、理不尽な目にあっている人が少なく、中部や東海、近畿などは理不尽な目にあっている傾向にあることがわかります。都道府県別にみてみると都市圏に住んでいる人の方が、理不尽な目にあいやすいといえます。

理不尽な人への10の対策

理不尽な目にあったときの対策法を10個、紹介します。

①必ず出くわすと思う
②相手の背景を考える
③ソーシャルサポートを得る
④矛盾点を質問する
⑤理屈で対抗しない選択肢も
⑥アイメッセージで主張
⑦限界設定で強く主張する
⑧課題の分離をする
⑨精神疾患のレベルに注意する
⑩人生経験に変える

緊急度が低い順で紹介しますので、ご自身の状況に合わせて活用してみてください。

①必ず出くわすと思う

理不尽な人に出くわすのは、残念ながら避けられない現実です。人間関係において、全員が理想的に振る舞うわけではなく、理不尽な要求や態度に遭遇することもあります。

このような状況では、「理不尽な人はどこにでもいるものだ」と割り切り、過度に悩まないことが大切です。すべてをコントロールすることは不可能なので、無理に対抗しようとせず、自分のエネルギーを保つことに集中しましょう。

理不尽な人,nendo様作成

②相手の背景を考える

理不尽な人に対処する際、まずその背景を考えることが重要です。これは心理学的にはメタ認知という言葉を使うこともあります。彼らの行動には、ストレスや過去の経験、人間関係の問題など、さまざまな要因が影響している可能性があります。相手が何に不満を感じ、なぜ理不尽に振る舞うのかをメタ認知することで、適切な対応策が見えてくるかもしれません。

たとえ相手の行動が不合理に思えても、その裏にある理由を考えることで、冷静さを保ちつつ、共感を持って接することができます。こうした姿勢は、対話を改善し、無用な対立を避けるための鍵となるでしょう。

メタ認知を詳しく理解する

③ソーシャルサポートを得る

困った時には周囲に相談しましょう。理不尽な出来事を1人で抱え込むのは負担が大きすぎます。辛い時や困った時には、自分の状況を理解してくれる人に「助けて!」と相談し、自分の気持ちを大事にしてください。

困った時に相談できる人間関係は、日頃から作っておくことが大切です。ソーシャルサポートの具体例としては以下が挙げられます。

友人に相談する:
理不尽な人に遭遇したとき、信頼できる友人に相談することで、感情を整理し、冷静なアドバイスを受けられます。友人の客観的な意見は、自分の判断力を高める助けになります。

同僚に助けを求める:
職場で理不尽な上司や同僚に悩んでいる場合、信頼できる同僚にサポートを求め、状況を共有することで、適切な対応策を一緒に考えることができます。集団での対応が効果的な場合もあります。

家族と話す:
家庭でのサポートは非常に重要です。家族に状況を話すことで、感情的な支えを得られ、自分の立場を見直すきっかけになります。家族の励ましが、自信を持って対処する力になります。

専門家の助言を求める:
理不尽な人との関係が深刻な場合、心理カウンセラーやメンタルヘルスの専門家に相談することで、ストレスの軽減や具体的な対処法を学べます。専門家の支援により、長期的な視点での解決策を見つけることができます。

「ソーシャルサポートの増やし方」をもっと知りたい方は以下のコラムをご参照ください。

ソーシャルサポートを増やす方法

理不尽な人,助けてもらう,はなむらはる様作成

④矛盾点を質問する

理不尽な人への対処法として、矛盾点を質問して相手に気づかせる方法があります。具体的には、相手の発言や行動に矛盾があると感じたとき、それを直接指摘するのではなく、質問形式で確認します。具体的には以下のやり方があります。

先ほどこうおっしゃっていましたが、今は逆のことをおっしゃっているように感じます。この点についてもう少し詳しく教えていただけますか?

コスト削減が重要とおっしゃっていましたが、追加のサービスをご希望されています。これがコスト削減にどう影響するか、ご意見をお伺いしてもよろしいでしょうか?

この前、Aプロジェクトを最優先と言われましたが、今はBプロジェクトを急ぐように指示されています。どちらを優先すべきか確認させていただけますか?

この方法は、相手に自分の矛盾を自ら気づかせ、冷静に話し合いを進める助けとなります。また、攻撃的に聞こえないように配慮し、柔らかいトーンで質問することが重要です。これにより、相手が防御的にならず、話し合いが建設的に進む可能性が高まります。

⑤理屈で対抗しない選択肢も

先ほどは理不尽な人に理屈で対抗するやり方を解説しましたが、それでも解決しない場合は、論理的に考えることを止めるという選択肢も出てきます。

中山ら(2022)[2]が大学生212名を対象に調査を行いました。その中で「論理の重視」と「緊張・不安」「抑うつ」「疲労」「混乱」の関係性を調べた結果、すべて正の相関だったことがわかりました。

この結果から、論理を重視する人は「緊張しやすい」「不安感や不安を持ちやすい」「疲れやすい」「混乱しやすい」傾向が高いといえます。

世の中には理不尽なことがたくさんあります。天災や戦争、経済の悪化など、論理的な回答や正しい回答を求めすぎてしまうとそのたびに混乱し疲弊してしまいます。世の中を真面目に捉えすぎるとメンタルヘルスにはマイナスになる可能性があるので注意しましょう。

なお調査の結果について、相関の数字は大きくはないので、”論理の重視=混乱する”とまでは言い切れませんが、統計的には意味のある数字になっています。

⑥アイメッセージで主張する

理不尽なことが家族の問題などスルー出来ない場合は主張することも必要です。たとえば、会社の残業代が未払いという理不尽さを受入れてしまったらどうでしょう。会社に勤めている間はずっと残業代が未払いになってしまいます。自分の人生にとってマイナスが大きすぎる問題については、しっかりと主張しましょう。

1つのやり方としてはアイメッセージ法があります。アイメッセージ法とは、「私は~と感じる」というように、自分の感情や意見を主語にして表現する方法です。この手法は、相手を非難することなく、自分の気持ちを伝えることができるため、対立を避けながらコミュニケーションを進められます。具体的には以下のやり方があります。

私は、強い口調で怒られると、とても悲しい気持ちになります。

私は、今、何を優先すべきか?困惑しています。

このように、アイメッセージを使うことで、相手に攻撃的な印象を与えず、問題を建設的に解決することが期待できます。詳しくは以下のコラムを参照ください。

アイメッセージの使い方

⑦限界設定で強く主張する

アイメッセージでも相手の行動が変わらない場合は、「限界設定」を使って自分の立場を主張する方法があります。限界設定とは、自分が受け入れられる範囲や許容できる行動の限界を明確にし、それを相手に伝えることで、自分を守りながら適切な関係を保つ手法です。具体的には以下のやり方があります。

私は、業務時間内で最大限努力しますが、これ以上の残業は健康に悪影響を及ぼすので、お引き受けできません。

私は、月に1回までの飲み会なら参加できます。それ以上は控えたいです

私は、1週間に1回までしか個人的な相談には応じられません。頻繁すぎると対応が難しいです。

限界設定を行う際のポイントは、毅然とした態度で、数字や法律などを使いながら明確に線引きをしていくことです。これにより、相手に過度な要求や不適切な行動を自覚させ、自分の境界を守ることができます。

限界設定のやり方を理解する

デマを流すと犯罪,ぷれこ様作成

⑧課題の分離をする

「課題の分離」は、アルフレッド・アドラーの提唱した心理学的な概念であり、理不尽な人に対処する際にも有効な手法です。課題の分離とは、「誰の課題か」を明確にし、それが自分の課題でない場合には、その問題から距離を置くことです。これにより、他人の問題に過度に巻き込まれず、自分の心の平穏を保つことができます。

例えば、 理不尽な人が怒りをぶつけてきた場合、相手がなぜ怒っているのかを理解しようとすることは大切ですが、相手の怒りを自分のせいだと感じる必要はありません。「これは相手の感情であり、私の課題ではない」と考え、冷静に対処します。理不尽な人は、結局はその人自身の問題でもあるのです。自分の問題と分けて考えるようにしましょう。

課題の分離を深く理解する

⑨精神疾患のレベルに注意する

メンタルヘルスの状態によっては医療の力を借りることを考えてください。

日常生活に支障がでたり、食欲がない、全く眠れないといった症状がある場合は、メンタルヘルスが崩れている可能性があります。自分の努力では改善が難しいこともありますので、精神科や心療内科へ行き医療の力を借りることを大切にしてください。適応障害やうつ病、深刻な場合はPTSD(心的外傷後ストレス障害)につながることもあるので注意が必要です。

⑩人生経験に変える

最後に、理不尽な人に遭遇したら、どんな価値をうみだすことができるか、どう成長できるかを考えてみましょう。

心理学の世界にPTG(Post traumatic growth:心的外傷後成長)という用語があります。心理学者のリチャードGテデスキによって1936年に提唱されました。PTGの意味は以下の通りです。

危機的な出来事や困難な経験との精神的な葛藤や闘いの結果生じるポジティブな心理的変化の体験のこと(Tedeschi,2004)[3

私たちは、非常につらく苦しい体験があっても大概の場合は、それを乗り越えてむしろ成長していくとされています。テデスキら(1996)[4]が行った研究では、心的外傷経験のある人の約90%が何らかの成長を遂げることがわかっています。

ここでPTGの有名なたとえ話「壊れた花瓶の理論」を紹介しましょう。

大切な花瓶が落ちて粉々になってしまったら、破片を集めて元に戻すことは現実的には難しいです。そこで花瓶が割れたことを悲しみ、元に戻らないことを受入れたら「破片で何を作ろうか」と考えていきます。色の違う破片を使ってモザイクを作れば、傷づいた体験が形を変えた前向きな思い出として蘇らせることもできます。

ひとしきり落ち込んでしっかり泣いて心の整理をしたら気持ちを切り替え自分が本当に取り組むべきものに目を向けていきましょう。自分の人生に集中して、しっかりと時間を使っていくことを大切にしてほしいです。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。

・理不尽を防ぐ,アサーション練習
・断る力をつける,主張練習
・自分の人生に集中,フロー心理学
・健康的な人間関係を築く心理学

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理不尽な人への対応法,上司,クレームへの対処法,コミュニケーション講座

助け合い掲示板

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

*出典

[2]中山真. (2022). 教育場面における理不尽な経験. 皇學館大学紀要, 60, 59-46.
[3]Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G. (2004). Target Article: “Posttraumatic Growth: Conceptual Foundations and Empirical Evidence”. Psychological Inquiry, 15(1), 1–18.
[4]Richard G. Tedeschi , Lawrence G. Calhoun (1996). The Posttraumatic Growth Inventory:Measuring the Positive Legacy of Trauma,Journal of 7t’aumatic Stress, VoL 9, No. 3