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機能不全家族の特徴と精神疾患、改善方法

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機能不全家族の特徴と精神疾患、改善方法

皆さんこんにちは。こちらの心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「機能不全家族」について解説していきます。

機能不全家族

こんなお悩みありませんか?

・家族との会話がうまくいかない
・家族に自分の気持ちを伝えられない
・家族関係に息苦しさを感じる

本記事では、機能不全家族の特徴や影響、そして改善方法について詳しく解説していきます。目次はこちらです。

機能不全家族とは
機能不全家族が生まれる原因
機能不全家族がもたらす影響
機能不全家族の該当基準
8つの改善策

ご家族の関係でお悩みの方は、ぜひ最後までご一読ください。

機能不全家族とは

まずはじめに、機能不全家族の概要について解説します。

機能不全家族の意味とは

機能不全家族(Dysfunctional family)とは、以下の意味があります。

家族メンバー間の関係性が健全に機能せず、子育てや家族間のコミュニケーション、情緒的なサポートなどが適切に行われない状態

機能不全家族を放置すると、子どもや家族が心の負担を感じたり、傷ついたりして、人と関わる力や自分を大切に思う気持ちに悪い影響が出ることがあります。

特徴

クリッツバーグ(1985)[1]によると、機能不全家族には以下の特徴が見られます。

強固なルールでの生活を強制する
家族構成員に強固な役割がある
家族で共有されている秘密がある
他人が家族に入り込むことへの抵抗が大きい
家族間のプライバシーがなく、境界があいまい
家族への忠誠が強いられている
家族から離れること許されない
家族間の葛藤は否定されて無視されている
家族のあり方の変化に抵抗する
家族は分断され、統一性がない
(一部改変して掲載)

これらの事柄に対し、トラウマがあり、強いストレスを感じているならば、機能不全家族である可能性が高いです。

これらの特徴が複数当てはまり、家族メンバーが強いストレスを感じている場合は、機能不全家族である可能性が高いとされています。家族療法の専門家たちは、これらの特徴を評価する際には、個々の家族の文化的背景や状況も考慮に入れる必要があると指摘しています。

機能不全家族の歴史

1950年代
機能不全家族の概念は、家族療法が発展する中で形成されました。ベイトソン(1956)[2]は、家族内の矛盾するコミュニケーションが精神疾患の一因となることを示唆しました。

1960年代
マーガレット・コーク(1969)が『忘れられた子どもたち』で、アルコール依存症の親を持つ子どもたちの問題を取り上げ、Adult Children of Alcoholic(ACOA)という概念を提唱しました[3]。このアダルトチルドレンという言葉は後に、「機能不全家族で育った子ども」という意味で用いられることになります。

機能不全家族,マーガレット・コーク,『忘れられた子どもたち』

1980年代
クラウディア・ブラック(1981)[4]が『私は親のようにならない』(It Will Never Happen to Me)がミリオンセラーとなり、大きな影響を与えました。本書では「アダルトチルドレン」という言葉が用いられ、嗜癖を持つ親が子どもに与える影響について詳しく記述されています。

機能不全家族,It Will Never Happen to Me

クリッツバーグ(1985)[1]が、ACOAの特徴として「否認・孤立・硬直性・沈黙」の4つを挙げ、アルコール依存家庭に共通する傾向を分析しました。フリエルとフリエル(1988)が、ブラック(1981)の研究をもとに、機能不全家族の特徴を10のスペクトラムとして提唱しました。

日本では齊藤學(1989)[4]が『私は親のようにならない』を翻訳出版し、この概念が広く知られるようになりました。現在では、心理療法の重要な概念として確立し、予防や介入の研究が進められています。

機能不全家族の4つの要素

クリッツバーグ(1985)は研究で、「否認」「孤立」「硬直性」「沈黙」という4つの要素を挙げています。これらの要素が複雑に絡み合って、家族の心身の成長を阻害する環境を生み出していると考えました。

否認

家族内で起きている問題や辛い出来事について、その存在を認めず、話すことも感じることもできない状態を指します。例えば、明らかな虐待があっても「これは躾だ」と言い換えたり、問題そのものを見ないようにしたりする傾向があります。

孤立

家族メンバーが情緒的に孤立している状態を表します。家族内外の誰にも心を開けず、助けを求められない環境にあることを意味します。周囲との健全な関係が築けず、支援のネットワークから切り離されている状態です。

硬直性

軟性のない固定的な価値観やルールが支配している状態を指します。「一番でなければならない」「失敗は許されない」といった絶対的なルールが存在し、それに従わない選択は認められません。

沈黙

家族内の問題について決して口にしてはいけないという暗黙のルールを指します。これは単なる会話の欠如ではなく、家族の秘密を守るための強制的な沈黙を意味します。例えば、家庭内暴力や依存症、経済的問題などの存在を、家族の誰もが知っているにもかかわらず、それについて話し合うことが暗黙の了解として禁じられている状態です。

機能不全家族,の4つの要素

機能不全家族が生まれる原因

機能不全家族が生まれる背景には、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。主な原因について見ていきましょう。

親の心理的・精神的な問題

ノイハルト(2002)[5]の研究では、親の養育態度を「心が健康な親の家庭」と「心が不健康でコントロールばかりする親の家庭」に分類しています。

特に後者の家庭では、子どもを一人の人間として尊重せず、親の気分や自己中心的な考えによって養育態度が変化する傾向があると指摘しています。このような親は、子どもが自分の感情や意見を持つことを許さない利己的な態度を示すことが特徴です。

また、清水(2021)[6]の研究では、しつけという名目であっても体罰を用いることの危険性を6つの観点から警告しています。具体的には、以下の通りです。

①自己価値を低下させる
②親との距離が遠のく
③内的コントロール力を低下させる
④無気力・無感動を引き起こす
⑤悪い習慣が次世代に伝承される(児童虐待連鎖の一面)
⑥暴力的な資質を育成してしまう

体罰は子どもの自己価値を低下させ、親との心理的距離を広げ、自己コントロール力を弱めてしまうと指摘しています。さらに、無気力や感情の麻痺を引き起こし、暴力的な価値観を次世代に伝えてしまう危険性があると述べています。体罰による「しつけ」は一時的に子どもを従順にさせるように見えますが、長期的には親への根深い恨みとなって残り、心に深い傷を残すことになります。

経済的な困難

徳永ら(2000)[7]では、東京都(離島を除く)に在住で就学前の子どもを1人以上持つ女性500人を対象に、世帯収入と虐待傾向について調査が行われました。その結果が以下のグラフです。

機能不全家族 虐待と世帯収入

このように収入が低いほど、虐待傾向あり、虐待ありの割合が多くなっていることがわかります。年収600万円台を境として虐待群の比率に差が見られ、年収500万円台以下の世帯では虐待傾向および虐待群の割合が高くなることが明らかになりました。つまり、経済的に困窮している家族は機能不全家族となりやすい傾向があるといえるでしょう。

機能不全家族,経済的困難

世代間連鎖

ビーバーズ(1993)[8][9]では、家族システムの1つの特性として、「遠心的家族」を挙げています。遠心的家族とは、家族メンバーを外側に追いやる力が働く家族のことです。このような家族システムでは、家族メンバー間の健全な絆が形成されにくく、特に子どもの成長過程において様々な問題が生じやすくなります。

遠心的家族で育った人は、以下のようなライフサイクルを経る傾向があります。

親から受けた養育
身体的虐待
ネグレクト

幼少期-青年期
いじめ加害傾向
逸脱・非行

成人期
DV加害

子育て期
日常的な虐待・ネグレクト
支援・援助の拒否
反社会的行動
(菅野,2011)[9]より改変して引用

このような遠心的家族の特徴は、特に成人期において顕著に現れます。自身が親となったとき、幼少期に経験した不適切な養育パターンを無意識のうちに繰り返してしまうことがあります。例えば、些細なことで子どもを叩く、必要な世話を怠る、感情的な叱責を繰り返すといった行動として表れます。

スキルの不足

機能不全家族の原因の一つが、コミュニケーションスキルの不足です。多くの場合、親は感情的な叱責や暴力的な言動、威圧的な態度で子どもをコントロールしようとします。具体的には、以下のような状態が挙げられます。

感情コントロールの欠如
・些細なことで激高する
・機嫌の良し悪しが激しく変化する
・感情的な言葉で責め立てる

一方的なコミュニケーション
・子どもの意見を最後まで聞かない
・自分の価値観を押し付ける
・命令と禁止が多い

不適切な問題解決方法
・暴力や脅しで従わせる
・無視や拒絶で懲らしめる
・他の家族メンバーと比較して貶める

このようなコミュニケーションパターンは、子どもの心理的成長に深刻な影響を与えます。子どもは自己表現を抑制するようになり、他者との健全な関係構築が困難になっていきます。

「言うことを聞かないから叩く」「感情的になるのは愛情表現だ」と正当化し、その行動が子どもに与える影響を理解できていません。また、自分のプライドや面子を優先するあまり、子どもの気持ちに耳を傾けることができず、一方的な価値観の押し付けになってしまいます。

機能不全家族がもたらす影響

機能不全家族はどのような問題を引き起こすのでしょうか。主な影響を見ていきましょう。

自尊心の低下

三宅 (2012)[10]の研究では、大学生152名を対象に家族環境が青年期の心の状態に与える影響について、調査を行いました。その結果の1つが以下の図です。

機能不全家族 自尊心の低下

このように家族親和性が低いと、自己収縮も高くなることがわかりました。自己収縮とは、自信がない、存在感が乏しい状態になります。つまり、家族との親しくない家庭ほど、青年期に自信がなくなりやすくなるといえそうです。

対人関係の困難

金森ら (2023)[11]は、11の大設問からなる「仕事に関するアンケート」としてWEBアンケートを実施しました。1824名の男女から有効回答が得られ、仕事に影響する毒親から受けた心の傷について調査を行いました。

この研究では、回答者の親の養育態度を以下の4つのグループに分類しました。

愛情・放任傾向群(基準群)
愛情・支援が強
介入・干渉が弱
(1013名)

愛情・干渉群
愛情・支援が強
介入・干渉が強
(173名)

愛情不足・放任傾向群
愛情・支援が弱
介入・干渉が弱
(257名)

愛情不足・干渉群

愛情・支援が弱
介入・干渉が強
(381名)

データの分析では、各設問項目について基準群と、3つの群のオッズ比を調べました。オッズ比とは、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較した尺度です。

基準群の数値を1として、それぞれのオッズ比は以下のグラフのようになりました。機能不全家族 対人関係

このように、

1.愛情・放任傾向群(基準群)
2.愛情・干渉群
3.愛情不足・放任傾向群
4.愛情不足・干渉群

という順番で社会的に孤立することが少なく、多くの人と交流できる傾向があることが分かりました。つまり、「愛情が少なく、干渉が激しい」もしくは、「愛情が少なく、無視して放任する」などの機能不全家族で育った人は、社会的に孤立しやすいと考えられます

引きこもり

機能不全家族では、家庭内で争いや暴言、無視などが続くと、子どもは「安心できる場所がない」と感じることがあります。その結果、他人や外の世界と関わることに強い不安を感じ、自分の部屋や家に閉じこもることがあります。

ビーバーズ(1993)[8][9]では、家族システムの1つの特性として、「求心的家族」を挙げています。求心的家族とは、家族メンバーを内側に吸収し、埋没させる力が働く家族のことです。

このような家族システムでは、家族メンバー間の境界が曖昧になり、心理的自立が妨げられます。特に子どもの成長過程において、社会的適応の困難さや対人関係の問題が生じやすくなります。求心的家族で育った人は、以下のようなライフサイクルを経る傾向があります。

親から受けた養育
依存的関係(母子密着)

幼少期-青年期
いじめ被害
不登校

成人期
DV被害
非社会的
ひきこもり 

子育て期
ひきこもり 
非社会的
親子の依存的関係の維持・強化
育児・介護の抱え込み
(菅野,2011)[9]より改変して引用

このような求心的家族の特徴は、特に成人期以降において顕著に現れます。自身が親となったとき、幼少期に経験した支配的な養育パターンを無意識のうちに繰り返してしまうことがあります。

例えば、子どもに過干渉しすぎる、過度に世話を焼く、子どもの自立を妨げるといった行動として表れます。結果として、次世代もまた社会適応に困難を抱え、ひきこもりなどの問題を引き起こしやすくなります。

機能不全家族,引きこもり

少年非行

法務総合研究所 (2001).[12]では、は2000(平成12)年7月17日に全国の少年院中間期教育課程に在籍している全少年を対象に、児童虐待について自記式調査を行いました。その結果が以下の図です。

機能不全家族 少年非行

上図の赤丸の部分をご覧ください。少年院在籍の非行少年のうち、家庭内外で加害行為の被害を受けている割合が70.5%に上ることが示されました。特に女子は、家庭内での虐待被害が多いと推定されています。

このように虐待の多い機能不全家族で育つと、非行が増えてしまう可能性が考えられます。

次世代につながる影響

石川ら(2022)[12]の研究では、ACEs(Adverse Childhood Experiences:小児期逆境体験)に関する16本の論文のレビューを行い、親の小児期逆境体験が次世代に与える影響について包括的な分析を行いました。

研究は5カ国(アメリカ、カナダ、韓国、日本、ケニア)で実施され、横断研究9本、縦断研究7本を対象としています。今回は以下の4つの傾向を取り上げて紹介していきます。

問題行動
⇒ADHD、多動性、身体的攻撃性

精神疾患
⇒抑うつ、情緒問題

外在化問題
⇒多動性、身体的攻撃性

内在化問題
不安、分離不安、抑うつ

その結果、以下のグラフのようになりました。

機能不全家族 次世代への影響とは

このように、機能不全家族で育った子どもは、将来家庭を持った時に自分の子どものメンタルヘルスや対人関係などで様々な悪影響を及ぼしてしまうと考えられます。

機能不全家族,次世代への影響

機能不全家族の該当基準

機能不全家族の具体的な姿を、日常的によく見られる事例から見ていきましょう。

感情表現が過剰な家庭(高EE)

心理学や精神医学では、過度な感情表出(Expressed Emotion:EE)のある家庭環境が、家族メンバーの精神健康に深刻な影響を与えることが報告されています。典型的な例として、母親が些細なことで激しく怒り出し、

「何度言えばわかるの!」
「あなたはいつもこう!」
「早くまるまるしなさい!」

と感情的な叱責を繰り返す家庭があります。

父親も同様に、子どもの努力を無視して「こんなこともできないのか」と否定的な評価を繰り返すことがあります。

このような環境では、子どもは常に緊張状態に置かれ、自分の行動や発言に過度に慎重になります。「また怒られるのではないか」という不安から、自己表現を抑制するようになり、家庭内でも学校でも萎縮した態度が目立つようになります。

過干渉な親と反発する子ども

親が子どもの生活すべてを管理しようとし、細かいことにまで口を出す家庭があります。

学校の成績
友人関係
進路の選択

にまで厳しく干渉し、子どもが自分の意見を言おうとしても「あなたのため」と言って押さえつけてしまいます。

その結果、子どもは反発し、親に対して反論するようになります。しかし、何を言っても認められないと感じると、次第に親との会話を避けるようになります。

親の目を気にして行動することが当たり前になり、自分の考えに自信を持てなくなってしまうのです。やがて親に隠れて行動するようになり、嘘をついたり、本音を話さなくなったりすることで、親子の間に深い溝ができてしまいます。

家族間の冷戦状態(無言の関係)

家族が同じ家に住んでいても、ほとんど会話をしない状態が続く家庭もあります。

それぞれがスマホに夢中
テレビの音だけが流れている
必要最低限の会話しか交わさない

などの状態が挙げられます。以前は言い争いがあったかもしれませんが、今ではお互いに感情をぶつけることすらなくなり、まるで他人のように過ごしてしまうのです。

家族の間にわだかまりがあっても、話し合うことがないため、関係は改善されることなく時間だけが過ぎていきます。何か問題が起こっても、「どうせ話しても無駄」と感じ、誰も本音を話さなくなります。このような状態が続くと、家族のつながりが弱まり、心理的な孤立を感じるようになってしまいます。

機能不全家族,冷戦状態

8つの改善策

機能不全家族の問題を改善するために、具体的な方法を見ていきましょう。

サポート体制を整える

富永(2024)[13]では、機能不全家族に苦しむ3名がソーシャルサポートによって改善された事例が紹介されています。ソーシャルサポートとは、読んで字のごとく社会的なサポートのことです。例えば、道具を与えたり、知識を与えてあげたり、相談に乗ってあげたりなどのサポートを意味します。

個別の3名の事例について下記を展開してご確認ください。

Aさん-18歳の女子学生の事例

Aさんは幼少期から家族関係に悩みを抱え、特に母親との会話のテンポが合わないと感じており、母親のテンポの速さについていけない状態でした。

Aさんは母親からの言葉を「包丁で刺されているような感じ」と表現しており、過去に「あんたの気持ちなんか、ようわからん」と言われたことが深く心に残っていました。高校時代にはうつ状態を経験し、大学進学後も学生生活への不安や絶望感からカウンセリングを求めました。

機能不全家族,心の傷

カウンセリングでは、コラージュ療法や交流分析といった手法を通じて自己理解を深め、自身の感情や課題を可視化していきました。カウンセラーとの信頼関係は、Aさんにとって安全基地となり、家族への不満や不安を吐露できる場所となりました。

また、大学の友人関係や地元との繋がり、震災後のボランティア活動への参加など、社会との接点を持つことで、Aさんは孤独感を和らげ、自己肯定感を高めていきました。

Aさんの成長には、家族との関係の変化も大きく影響しています。特に、母親がAさんを頼るようになり、家族間の協力体制が生まれることで、母親との心の距離を縮めることができました。

機能不全家族,母と娘,ソーシャルサポート

卒業後、Aさんは希望する業界に就職するも、職場での困難を経験し、体調を崩してしまいます。しかし、カウンセリングで培った自己理解や問題解決能力を活かし、転職や結婚、出産を経て、現在は果樹栽培という新たな道に進んでいます。

子育てと仕事を両立させるAさんの姿は、機能不全家族という過去を乗り越え、ソーシャルサポートを力に変えて、自分らしい生き方を実現していることを示しています。

*ソーシャルサポートが役に立った面
カウンセリングは安全基地となり、家族への不満を吐露できました。コラージュや交流分析で自己理解を深め、客観視できました。友人関係やボランティアで社会との接点を持ち、孤独感を和らげました。家族の協力体制により自己肯定感が高まり、前向きに生きられました。

Bさん-26歳の女子学生の事例

Bさんは、幼少期から父親との関係がうまくいかず、母親もその板挟みで苦しみ、Bさんとの間に距離を置くようになっていました。

Bさんは、周囲に気を遣いすぎる性格であり、相手の表情や態度に過敏に反応してしまうため、人間関係に不安を抱えていました。大学入学後も、自分の特性が周囲に迷惑をかけるのではないかと悩み、教員に相談したことがきっかけでカウンセリングを受けることになりました。

機能不全家族,不安な女性

カウンセリングでは、Bさんの特性を理解し、安心できる環境を提供することに重点が置かれました。筆者(カウンセラー)は、Bさんの訴えに耳を傾け、ソーシャルサポートとして、合理的配慮の依頼文書の見直しや教員にBさんの特性への理解を促しました。

Bさんは、言語性の知識や処理能力が高い一方、非言語的な概念を推測することが苦手でした。そのため、周囲に誤解されたり、注意されたりすることを恐れていました。

しかし、カウンセリングを通じて、自分の特性を客観的に理解し、受け入れることができるようになっていきました。3年生の時には専門医につながり、発達障害の可能性が示唆され、自身の生きづらさの理由にやっと納得することができたのです。

機能不全家族,元気な女性

大学4年生になると、Bさんは自己理解を深めながら、就職活動と病院への通院に専念するようになりました。専門医からの家族への説明には、筆者も同席し、母親からは安堵の表情が見られました。母親との面談を通して、Bさんは母親の愛情を感じ、自己受容が進んでいきました。

卒業後、Bさんは障害者雇用枠で企業に就職し、ジョブコーチのサポートを受けながら、自分の得意分野や能力を活かした働き方を実現しています。

*ソーシャルサポートが役に立った面
教員との話し合いで相手の表情や態度に過敏に反応してしまう特性への合理的配慮が1つのサポートになりました。カウンセリングや専門医との連携で発達障害の診断につながり、生きづらさの理由に納得できました。W社の障害者雇用で得意を活かし、同僚や上司の理解を得て社会参加を果たしています。

Cさん-37歳男性の事例

Cさんは、幼少期には活発な少年でしたが、高校時代に大学受験の失敗をきっかけに引きこもるようになりました。20歳の時に両親が離婚、その後、母親が再婚と離婚を繰り返し、失踪するという複雑な家庭環境の中で育ちました。

Cさんは、母親の失踪後、認知症の祖母の介護を担うことになり、仕事と介護の両立に苦しみ、うつ病を発症してしまいます。その後、職場を退職し、長期間自宅で療養生活を送ることになりました。Cさんは、自身の困難な状況を小説のように書き出し、客観的に見つめ直すことで、自己理解を深めていきました。

機能不全家族,不安な男性

回復のきっかけとなったのは、周囲のソーシャルサポートでした。Cさんは、学生時代からお世話になっている大学教員や主治医に相談しました。また、姉がCさんと両親との間を取り持ち、家族関係の修復に尽力しました。Cさんは、姉が作成したLINEグループを通じて、母親や兄弟とコミュニケーションを取り、家族との絆を深めていきました。

就労移行支援を利用し、A型事業所で働くことを通して、社会復帰を目指しました。しかし、職場での不安感や緊張が強く、体調を崩し退職しました。その後、在宅ワークでブログやYouTubeチャンネルを運営し、少しずつ収入を得ることで、生活の安定を図っています。

機能不全家族,元気な男性

Cさんは、現在、在宅ワークを続けながら、体調を整え、将来の就労に向けて準備を進めています。Cさんは、「病気を治し、メンタルが健康になってからきちんと就職したい」と語っています。

*ソーシャルサポートが役に立った面
姉がLINEグループを作り、家族間のコミュニケーションを促進しました。また、大学教員や主治医への相談が精神的な支えになっています。

ソーシャルサポートについてより深く知りたい方は以下をご覧ください。

ソーシャルサポートを増やす方法

家族療法を学ぶ

機能不全家族の問題を解決する方法の一つに、家族療法を学ぶことがあります。家族療法とは、家族全体を一つのシステムとしてとらえ、関係性を改善することで問題を解決しようとする心理療法です。

例えば、以下の方法で家族療法に触れてみましょう。

専門書を読む
講座を受講する
カウンセリングを活用

専門家のもとでセッションを受けるのも有効ですが、本や講座を通じて学ぶことも可能です。家族療法を学ぶことで、対話の方法や距離の取り方がわかり、相手を尊重しながら健全な関係を築くことができるようになります。家族全員がこの視点を持つことで、より良い関係へと変えていくことができるでしょう。

家族療法について詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

家族療法とは何か,歴史や事例

全体を俯瞰する

機能不全家族の問題を解決するためには、目の前の問題だけにとらわれず、家族全体を俯瞰して見ることが重要です。例えば、以下のような状態が挙げられます。

親と子どもの間に対立がある
子どもが反抗していることが問題なのではなく、
親の育て方や家庭環境に原因がある可能性

家族の誰かが冷たい態度を取る
その人自身も何かしらのストレス
や不安を抱えている可能性

このように、一人ひとりの行動だけでなく、家族全体のバランスや背景を広い視点で見ることが大切です。問題の本質を見極めることで、必要な対策が明確になり、家族関係を改善するきっかけをつかむことができます。冷静に現状を分析し、長期的な視点で関係を修復する努力をしていくことが大切です。

機能不全家族,家族の全体を俯瞰

アサーションを学ぶ

アサーションとは、自分も相手も大切にしながら、適切に自己主張する方法です。機能不全家族で育った人々の多くは、自己主張が極端に抑制されているか、攻撃的なコミュニケーションパターンを身につけていることが多いとされています。

この時アサーションでは、

「申し訳ないけれど、今回はそれは私にはできません」
「心配はとてもうれしいけど、この件は自分で決めさせて」
「その言い方だと私を傷つく。もう少し穏やかに話したい」

というように、相手を否定せずに自分の意見を伝える方法を実践していきます。これにより、幼少期から身についた過剰な責任感や罪悪感にとらわれることなく、自分の気持ちに正直になれるようになります。

また、家族との間で「イエス」と「ノー」をはっきり伝えられるようになることで、対等な大人同士の関係性を築くことができます。特に親からの過度な要求や介入に対して、自分を守りながらも関係を維持する術を身につけることができ、徐々に健全な距離感のある関係へと変化させていくことが可能です。

アサーションについてより深く知りたい方は以下をご覧ください。

アサーションとは?意味,トレーニング方法

限界設定をする

「限界設定」とは、ここまでは譲歩するが、それ以降は譲らないという基準を設定することです。限界設定の実践は、具体的な言葉で自分の限界を伝えることから始まります。

例えば、

「申し訳ないけれど、今回はそれは私にはできません」
「心配はとてもうれしいけど、この件は自分で決めさせて」
「その言い方だと私を傷つく。もう少し穏やかに話したい」

深夜に親から執拗に電話がかかってくる場合、「夜10時以降の電話は受けられません」と明確に伝えます。これは決して親との関係を切るということではなく、健全な関係を築くための重要なステップです。

特に重要なのは、設定した限界を一貫して守り続けることです。初めは強い抵抗や感情的な反応に遭遇するかもしれませんが、それは変化の過程で起こる自然な反応です。この過程では、専門家のサポートを受けながら、徐々に実践していくことが推奨されます。

限界設定についてより深く知りたい方は以下をご覧ください。

限界設定の意味とは,やり方や具体例

距離を取る

家族との物理的・心理的な距離を取ることは、時として関係改善のために必要な選択となります。特に幼少期からの不健全な関係パターンを変えていくためには、適切な距離感を持つことが重要です。距離を取る方法は、状況に応じて段階的に検討する必要があります。

例えば、

毎日の電話を週1回に減らす
実家の訪問頻度を調整する
別居して自分の生活空間を確保する

このような段階的な距離の確保は、長年積み重なった依存関係や過度な干渉から自分を守るための重要なステップとなります。特に、感情的な操作や過剰な要求に慣れてしまっている場合、一定の距離を置くことで、自分の気持ちや考えを整理する時間が得られます。

ただし、「距離を取る」という選択は、決して家族との関係を否定したり、絶縁したりすることではありません。むしろ、不健全な関係パターンを見直し、より良い関係を築くための準備期間として捉えることが大切です。

家族で心理教育を受ける

機能不全家族の問題を解決するには、家族全体での理解と学びが重要です。心理教育では、家族それぞれの役割や行動パターンを理解し、より健全な関係を築くための方法を学びます。

例えば、

感情的になりやすい場面を特定する
建設的な対話の方法を練習する
家族の中の役割を見直してみる

これらの学びを通じて、長年築かれてきた不健全なコミュニケーションパターンを変更し、お互いを理解し合える関係へと変化させることができます。

特に、感情的な反応や批判が習慣化している家族関係において、専門家の指導のもとで新しい対話方法を学ぶことは、関係改善の大きな一歩となります。家族全員が同じ方向を向いて学ぶことで、一人一人の変化が家族全体の癒しにつながっていきます。

体験談を読む

機能不全家族で育った方々の回復過程を知ることは、自身の癒しの道筋を見つけるための重要な手がかりとなります。他者の経験を通じて、自分自身の状況をより客観的に理解し、具体的な回復のステップを見出すことができます。

例えば、

回復のプロセスを確認する
共感できる部分に注目する
実践可能な方法を見つける

このような体験談との出会いは、「自分だけではない」という気づきと共に、回復への希望を見出すきっかけとなります。特に、世代間連鎖の中で苦しんできた方々にとって、実際の回復事例を知ることは、変化の可能性を実感する大きな助けとなります。

ただし、これはあくまでも参考として捉え、自分自身の状況や感情に寄り添いながら、自分らしい回復の道筋を見つけていくことが大切です。必要に応じて、専門家のサポートを受けながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。

機能不全家族,体験談

まとめ

家族関係の問題は、一朝一夕には解決できません。しかし、適切な支援と知識があれば、必ず改善への道は開かれています。大切なのは、「自分は一人ではない」ということを心に留めておくことです。専門家に相談したり、同じような経験を持つ仲間と出会ったりすることで、新しい視点を見出すことができます。

今、家族との関係に悩みを抱えているのであれば、まずは誰かに相談してみることをお勧めします。それは友人かもしれませんし、スクールカウンセラーかもしれません。ぜひご自身のペースで行動を起こしてみてくださいね。

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
Twitter→
元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Kritsberg. W.(1985) Adult Children of Alcoholics Syndrome, Health Communications
 
[2] Bateson, G., Jackson, D. D., Haley, J., & Weakland, J. (1956). Toward a theory of schizophrenia. Behavioral Science, 1(4), 251-264.
 
[3] Cork, M.,(1969).The Forgotten Children, Addiction Research Fundation.
 
[4] Black, C., & 斎藤学(訳). (1989). 私は親のようにならない:アルコホリックの子供たち. 誠信書房. (原著 It will never happen to me)
 
 
[6] 清水將之(2021)子どもの精神医学ハンドブック(第 3 版).日本評論社
 
[7] 徳永雅子, 大原美和子, 萱間真美, 吉村奏恵, 三橋順子, & 妹尾栄一. (2000). 首都圏一般人口における児童虐待の調査. 厚生の指標, 47(15)
 
[8] Beavers, R. & Hampson, R.(1993). Measuring Family Competence: The Beavers System Model. In
Walsh, F(Ed.), Nornal family progresses. third ed. NY: The Guilford Press, pp.549-579.
 
[9] 菅野恵. (2012). 家族の機能不全と虐待に関する試論. 帝京大学心理学紀要, 16, 23-27.
※[8]は上記出典を参考に執筆しました。
 
[10] 三宅義和. (2012). 家族機能が青年期危機に及ぼす影響について [The Influence of Family Function on Adolescent Crisis]. 神戸国際大学紀要, 83, 1-7.
 
[11] 金森史枝, & 蛭田秀一. (2023). 親の養育態度が子の社会人生活に及ぼす影響:仕事に影響する毒親から受けた心の傷 Nagoya Journal of Health, Physical Fitness, Sports, 46(1), 33. 
 
[12] 法務総合研究所. (2001). 児童虐待に関する研究(第1報告)その1-少年院在院者に対する被害経験のアンケート調査:表2 加害行為を受けた経験の有無. 法務総合研究所研究部報告.
 
[13] 石川恵太, 東菜摘子, 大賀真伊, & 滝沢龍. (2022). 親の小児期逆境体験が次世代の精神病理に与える影響に関する研究の現状と課題. 発達心理学研究, 33(2), 89-10
 
[14] 富永ちはる. (2023). 機能不全家族に対するソーシャル・サポート-テキストマイニングによる事例研究- [博士論文, 長崎大学]. 長崎大学学術研究成果リポジトリ.
※[6]は上記出典を参考に執筆しました。
 
*その他の出典
高倉久有・小西真理子 (2022). 毒親概念の倫理: 自らをアダルトチルドレンと「認める」ことの困難性に着目して. 臨床哲学ニューズレター, 4, 126-180.
※[1][4]は上記出典を参考に執筆しました。