人を好きになれない症候群,原因,病気,セクシャリティについて
皆さんこんにちは。こちらの心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「人を好きになれない」について解説していきます。
相談者:33歳 女性
・
これまで3人の男性と交際してきましたが、どの方に対しても本気で好きになることができませんでした。「この人でいいのかな…」と常に感じてしまい、自然と疎遠になってしまいます。本当に人を好きになれる日は来るのでしょうか。
人を好きになれないことで悩んでいる方は少なくありません。相手のことを想う気持ちがないと感じると、自分を責めてしまったり、将来に不安を感じたりすることもあるでしょう。
そこで当コラムでは、人を好きになれない原因や対処法について、心理学の観点から詳しく解説していきます。ぜひ最後までご一読ください。
目次
・人を好きになれない問題
・心理的影響
・人を好きになれない原因と対策
人を好きになれない問題
近年、恋愛や結婚に消極的な若者が増加していると言われています。
20~30代-恋愛経験ゼロ約2~4割
株式会社マーケティング・コミュニケーションズ (2022)[1]では、国内在住のインターネット・モニター(20歳以上70歳未満)20,000人を対象に結婚、仕事、収入に関するアンケート調査を行いました。
その結果の一部が以下のグラフです。
上図のように、これまでの恋人の人数を0人と回答したのは、20~30代の女性では約2割、男性では約4割に昇りました。男女ともに他の項目と比べても、0人と回答した割合が最も多い結果となりました。
このように、現代では恋愛しない若者が増えつつあるのです。
未婚率は50歳で2~3割程度
国立社会保障・人口問題研究所 (2024)[2]では、令和2(2020)年10月1日~令和32(2050)年10月1日までの30年間を対象に、日本人・外国人を合わせた総人口について、施設等の世帯人員、一般世帯人員、一般世帯総数、および家族類型別世帯数の将来推計を行いました。
その結果の一部が以下のグラフです。
このように50~54歳の未婚率を見ると、男性では約3割、女性では約2割程度で推移すると推計されています。結婚適齢期を過ぎた世代であっても、2050年まで約2~3割程度は未婚であると考えられているのです。
単独世帯が約4割
総務省統計局(2021)[3]では、令和2年10月1日午前零時において日本国内に常住している全ての人(外国人を含む)を対象に、世帯に関する19項目について調査を行いました。
その結果が以下のグラフです。
このように、年々に単独世帯の割合が増加していることがわかります。特に2020年の統計を見ると、単独世帯が約4割に昇っています。上記の統計データからも、結婚する人が年々減っていると推測できます。
心理的影響
人を好きになれないことは、様々な心理的な影響をもたらす可能性があります。
罪悪感
人を好きになれないと、人によっては罪悪感を抱いてしまうかもしれません。社会では恋愛が当たり前のように語られる中、好きになれない自分を責め、自己否定に陥りやすくなります。
自分には何か欠けているのでは
普通の人間じゃないのかも
相手を傷つけてしまう
こうした罪悪感は、恋愛感情が湧かない自分を異常だと思い込むことから始まります。特に友人から紹介された相手や、告白してくれた相手に対して心が動かないとき、相手の期待に応えられない負い目を感じます。
また、周囲からの「早く恋人を作ったら?」といった何気ない言葉も、この罪悪感を強める原因になります。結果として自己評価が下がり、他者との関わりにおいても消極的になりがちです。
関係の希薄化
人を好きになれないことは、周りの人との関わり方にも影響することがあります。ここで働くのが「返報性の原理」という心の仕組みです。これは人は自分を写す鏡というように、されたこと同じようにお返ししてくなる心理のことです。
例えば、人を好きになれないと、以下のような状況になります。
1.自分が相手を好きになれない
2.相手も自分を好きになりにくい
3.関係が深まりにくくなる
このように人を好きになれない場合、相手からも好意を持たれにくくなってしまうのです。その結果、いい出会いがあってもお互いの関係が深まりにくくなり、人間関係の希薄化に結びつきます。
返報性について詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
メンタルヘルスに不利
人を好きになれない場合、メンタルヘルスも悪くなってしまう可能性があります。心理学では「気分一致効果」という現象が知られています。これは簡単に言えば、楽しい気分の時は楽しい思い出が自然と浮かび、悲しい気分の時は辛い思い出が浮かびやすくなる効果になります。
これは人を好きなれるかなれないか、という部分も大きくかかわっています。具体的には、それぞれ以下のような違いがあります。
〇人を好きになれる人
好きな人が周りに多い
⇒肯定的な考えが増える
⇒抑うつ感も少なくなる
・
〇人を好きになれない人
好きではない人が周りに多い
⇒否定的な考えが増える
⇒抑うつ感も大きくなる
周りに人を好きになれない人が多いと、お互いのネガティブな感情が影響し合い、さらに気分が落ち込みやすくなります。「人との関わりは疲れる」「どうせうまくいかない」といった考えが強まり、その結果、さらに人との関係が減っていく悪循環に陥ることもあります。
人を好きになれない原因と対策
人を好きになれない背景には、様々な要因が考えられます。
①基本的信頼感の低さ
②見捨てられ不安
③批判的な人が周りに多い
④選択的知覚
⑤コミュニケーションの課題
⑥自己肯定感の低さ
⑦防衛機制
⑧精神疾患との関連
⑨セクシャリティ
以下あてはまると感じる項目がある場合は対策も合わせてご覧ください。
原因①基本的信頼感の低さ
基本的信頼感の低さ
人生の最初期に養育者との関係で育まれる、「人は信頼できる」という心の土台となる感覚です。この信頼感が十分に育まれないと、人を好きになることも難しくなります。
例えば、幼少期に自分の気持ちや必要性が十分に受け止められなかった経験があると、大人になっても「この人は本当に自分のことを理解してくれるだろうか」「信頼して良いのだろうか」という不安が自然と湧いてきてしまいます。
*確認してみよう
相手の言葉を疑ってしまう
親密になることを恐れる
自分の気持ちを隠す
改善する対策
基本的信頼感は、心理学者エリクソンが提唱した概念で、生涯発達の最初の課題とされています。幸いなことに、大人になってからでも、安全で安定した人間関係を通じて少しずつ育て直すことができます。
例えば、信頼できる友人との関係を大切にしたり、心理カウンセリングで専門家のサポートを受けたりすることで、徐々に人を信頼する力を取り戻していけます。一朝一夕には変わりませんが、必ず成長の可能性があることを覚えておいてください。
原因②見捨てられ不安
見捨てられ不安
見捨てられ不安とは、親密な関係において、「相手から見捨てられるのではないか」という強い不安や恐れのことを指します。この不安は、幼少期の愛着関係や過去の関係性での経験から形成されることが多い心理的な特徴です。
誰かを好きになると、「相手が自分のことを嫌いになったらどうしよう」「もっといい人が現れたら、置いていかれるんじゃないか」という心配が頭をよぎります。このような不安が強すぎると、最初から人を好きになることを避けてしまう場合もあります。
*確認してみよう
些細な返信の遅れで不安
相手の予定を細かく確認
関係を自分から終わらせる
改善する対策
このような不安は、誰にでも多かれ少なかれあるものです。完全になくすことは難しいかもしれませんが、自分の気持ちを理解し、適切な距離感を保ちながら関係を築いていけば、少しずつ和らいでいくことがあります。一人で抱え込まず、信頼できる人に相談してみるのもいいでしょう。
見捨てられ不安について、より深く知りたい方は下記をご覧ください。
原因③批判的な人が周りに多い
批判的な人に囲まれている
私たちは無意識のうちに、相手の特定の面だけを見てしまう傾向があります。特に、周囲に批判的な人が多いと、自分も知らず知らずのうちに批判的な見方を身につけてしまうことがあります。批判的な人々に囲まれていると、次のような影響を受けやすくなります。
*確認してみよう
否定的な見方が「標準」になってしまう
他者の欠点に注目する習慣が身につく
物事のいい面に目が行きにくくなる
改善する対策
こうした場合、暖かいコミュニティに参加することで、見方を変えることができます。互いの長所を認め合う文化に触れ、多様性を尊重する価値観を学び、肯定的なコミュニケーションパターンを身につけていきましょう。暖かいコミュニティでの経験を通じて、人の多面性を見る目が養われ、より自然に人を好きになる感覚を取り戻せます。
暖かいコミュニティの見つけ方について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
原因④選択的知覚
選択的知覚
選択的知覚とは、無意識のうちに特定の情報だけを選んで知覚する心理的な傾向のことです。この働きにより、私たちは自分の既存の考えや感情に合う情報を優先的に受け取り、それ以外の情報を見落としやすくなります。
特に、人を好きになれない場合、相手の短所や気になる部分ばかりが目についてしまうことがあります。例えば、「話し方が気になる」「服装のセンスが違う」といった小さな点が気になって、その人の良いところが見えなくなってしまうのです。
*確認してみよう
些細な癖が気になる
良い面を無視してしまう
第一印象で判断する
改善する対策
このような見方は、意識的に変えていくことができます。相手のいいところを探そうと心がけたり、自分の偏った見方に気づいたりすることで、より公平な視点で人を見られるようになっていきます。完璧な人はいないことを理解し、お互いの個性として受け入れていく姿勢が大切です。
原因⑤コミュニケーションの課題
会話の苦手意識
人とうまく話せないと感じることは、実は多くの人が経験していることです。「何を話していいかわからない」「自分のことを話すのが怖い」「相手の気持ちがわからない」といった悩みがあると、人との距離が近づきにくくなります。例えば、
*確認してみよう
会話が続かず黙る
冗談が言えない
本音を話せない
こうした状態では、なかなか会話もスムーズに行かないでしょう。その結果、相手のことを知る機会が減り、好きになるきっかけも少なくなってしまいます。
改善する対策
しかし、コミュニケーションは練習で上手くなっていけます。最初は少し緊張するかもしれませんが、趣味の話から始めたり、相手の話をよく聞いたりすることから始めると良いでしょう。一度に大きく変わる必要はありません。小さな成功体験を積み重ねていくことで、自然と人との会話が楽しくなっていきます。
原因⑥自己肯定感の低さ
自己肯定感が低い
自己肯定感とは、自分自身を価値のある存在として認め、受け入れることができる感覚のことです。これは自分に対する基本的な信頼感や、自分の存在価値を肯定的に捉える心の働きを指します。
自分のことを好きになれないと、他人のことも好きになりにくくなります。「自分なんて価値がない」「私には良いところがない」と思っていると、人からの好意も素直に受け取れなくなってしまいます。また、自分に自信がないと、相手のことを好きになる勇気も出にくくなります。
*確認してみよう
褒められても否定する
自分を責めがち
人と比べて落ち込む
改善する対策
自己肯定感を高めることは、一朝一夕にはいきません。でも、小さな成功体験を積み重ねたり、自分の良いところを見つけたりすることから始められます。また、自分のことを認めてくれる人と過ごす時間を増やすことで、少しずつ自分を好きになれるようになっていきます。
原因⑦防衛機制
防衛機制
防衛機制とは、不安や葛藤から心を守るために、無意識的に働く心の仕組みのことです。これは心の健康を保つための自然な反応ですが、過度に働くと現実への適応を妨げることもあります。
誰かを好きになることへの不安や怖さから、無意識のうちに自分の気持ちを抑え込んでしまうことがあります。例えば、過去に失恋や裏切りを経験したことで、「もう二度と誰かを好きにならない」と決めてしまったり、好きな気持ちに気づかないようにしたりします。これは心を守るための自然な反応なのですが、新しい出会いや関係の芽を摘んでしまうこともあります。
*確認してみよう
恋愛話題を避ける
好きな相手を批判する
忙しさを理由にする
改善する対策
この心の壁は、一度に取り払う必要はありません。少しずつ自分の気持ちに向き合い、安全な環境で新しい関係を作っていくことで、自然と和らいでいくものです。まずは、自分の気持ちを理解してくれる友人や家族と話してみることから始めるのもいいでしょう。
原因⑧精神疾患との関連
発達障害の可能性
時には、人を好きになれない背景に、発達障害やその他の心の特性が関係していることがあります。例えば、相手の表情や気持ちを読み取ることが苦手だったり、急な予定変更に対応するのが難しかったりすることで、人との関係づくりに戸惑いを感じることがあります。具体的には、
*確認してみよう
空気を読むのが苦手
親密さに不安を感じる
決まった予定が好き
改善する対策
このような特性がある場合は、無理に変わろうとするのではなく、自分に合った関係の作り方を見つけていくことが大切です。例えば、自閉スペクトラム症の場合は、共通の興味関心を通じた交流から始めたり、ADHDの場合は短時間での交流を重ねたりするなど、それぞれの特性に合わせた関係作りが可能です。
必要に応じて発達障害の専門医や心理士に相談することで、より良い対処方法が見つかることもあります。一人で抱え込まず、サポートを求めることも大切な選択肢です。
原因⑨セクシャリティ
セクシャリティ
セクシャリティとは、性的指向(誰に恋愛感情や性的な魅力を感じるか)や性自認(自分の性をどのように認識するか)を含む、個人の性に関する特性全般を指す言葉です。アセクシュアル(エースとも呼ばれます)は、他者に対して性的な魅力をあまり感じない、もしくはまったく感じない性的指向を指します。
誰かを好きになれないと感じる背景には、自分のセクシャリティ(性的指向)が関係していることもあります。例えば、アセクシュアル(無性愛者)という、他者に対して恋愛感情や性的な魅力を感じにくい性的指向もあります。「みんなが恋愛をする中で、自分だけ違う」と悩むことがありますが、これは個人の自然な特性の一つです。
*確認してみよう
恋愛感情を感じない
性的魅力を感じない
友情の方が心地よい
改善する対策
このような自分の特性に気づくことは、むしろ自己理解を深めるきっかけになります。セクシャリティは人それぞれ異なり、正解や間違いはありません。大切なのは、自分らしい生き方や関係性を見つけていくことです。必要に応じて、LGBT+のコミュニティや理解のある専門家に相談するのも良い選択肢です。
まとめ
人を好きになれない原因は複数あります。基本的信頼感の低さ、見捨てられ不安、批判的な環境、選択的知覚、コミュニケーションの課題、自己肯定感の低さ、防衛機制などが影響しています。また、発達特性やセクシャリティが関係していることもあります。
まずは自分の気持ちを責めず、自分を理解することから始めましょう。暖かいコミュニティに参加したり、少しずつ人との関わりを増やしたりすることで、変化のきっかけをつかめます。完璧な人間関係はありません。自分のペースで、無理のない範囲で一歩踏み出してみましょう。
しっかり身につけたい方へ
私たち公認心理師による講座では、心理学や人間関係を築く方法を学べます。内容は以下のとおりです。心理学を学びたい方、人間関係を健康的にしたい方はぜひ参加してみてください。
・心理療法ワーク
・発話のトレーニング
・傾聴のトレーニング
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→

名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連