クレーム対応入門,10のやり方
皆さんこんにちは。現役経営者、公認心理師の川島達史です。私は現在こちらのコミュニケーション講座の講師として活動しています。今回のテーマは「クレーム対応」です。
お客様が怒っていると混乱してしまう、謝罪メールの書き方が分からない、電話でのクレーム対応が苦手、このようなお悩みを抱えている方は多いと思います。そこで、当コラムでは、クレーム対応の技術を、基礎から4回に分けて解説していきます。
①クレーム対応の基本
②直接対応する場合
③メール対応の場合
④電話対応の場合
クレームに苦手意識がある方はぜひ最後までご一読ください。
クレームと現状
まずはクレームの現状から見ていきましょう。
クレームは35%の人が受ける
産業労働局(2019)[1]は、都内に事業所を有する中小企業を対象に、消費者などからのクレーム対応について実態調査を行いました。有効回答数は2281社です。その結果の1つが以下のグラフです。
産業労働局 平成31年1月 「中小企業における消費者等からの苦情対応に関する実態調査」結果報告より引用
このように、中小企業の35%は、悪質なクレームを受けていることが分かります。現状悪質なクレームは、極端に多いわけではなく、およそ3割程度にとどまると言えそうです。
従業員が多いと増加しやすい
産業労働局(2019)[1]の同調査では、従業員数と悪質なクレームの有無についても調べられています。その結果が以下のグラフです。
産業労働局 平成31年1月 「中小企業における消費者等からの苦情対応に関する実態調査」結果報告より引用
このように従業員規模別では、51~99人が50%で最も高い数字となっています。次いで、100人以上が47%で2番目に多い数値となっています。つまり、人数規模が多い企業ほどクレームを受けやすいと言えるでしょう。
クレームが起こる原因
まずはクレームとは何か?理解を深めていきましょう。
クレームが起こる原因
澤口ら(2016)[2]は、大学生231名を対象にクレームを言いたくなる場面と理由について調査を行っています。その結果の一部が以下の図です。
もっともクレームを言いたくなるケースは「店員・担当者の対応」でした。次いで、「商品が違う」、「異物混入」という結果になりました。商品自体よりも、接客にクレームが集まることが多いようです。
怒りを増幅させる要因
日本労働組合総連合会(2017)[3]は男女2000人に対して消費者のクレーム」惑行為について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
図を見ると、クレームを受けたことがある人は、全体として56.9%であることがわかります。さらに暴言を受けたことがあるのが33.1、威嚇されたことがあるのが28.5%となっています。
クレームと悪影響
クレームが常態化するとどのような悪影響があるのでしょうか。
ストレスにつながる
山口(2011)[4]は、公立小・中学校教師700名を対象に、クレーム被害体験が、ストレス反応にどのような影響を与えるかを調べています。その結果が以下の図です。
このように、クレーム被害の多さにより、能力欠如意識が高まり、ストレス反応も上がっていることが分かります。クレームを受けると、自信を失う方が多く、ストレスを抱えやすくなってしまうのです。深刻になると適応障害、職場うつにつながる事もあるので注意が必要です。
離職につながる
クレーム処理は顧客からの厳しい批判や要求に直面するため、従業員に高いプレッシャーをかけます。このプレッシャーが長期間続くと、精神的な疲労が蓄積し、仕事への不満が高まります。顧客の怒りや不満を直接受け止める感情的な負担が大きく、これが積み重なることで精神的な疲労が増し、結果的に離職の原因となります。
SNSで拡散する
SNSは拡散力が強く、瞬時に多数のユーザーに情報が届きます。一つのクレームが広まると、会社の信頼が損なわれ、新規顧客の獲得が難しくなるだけでなく、既存顧客の離反にも繋がりかねません。
また、クレームの内容が正確でなくても、誤情報が広がることで誤解が生まれ、企業のブランドイメージが悪化するリスクもあります。
クレーム対応の基本的なやり方
ここからはクレーム対応の基本的なやり方を10個、解説していきます。
①たらいまわしにしない
②共感的に傾聴する
③事実確認をする
④素直に非を認める
⑤感謝の言葉を述べる
⑥お詫びの品を渡す
⑦再発防止をする
⑧限界設定もしておく
⑨感情労働への対策
⓾精神疾患も視野に
参考になりそうなものを中心に組み合わせてご活用ください。
①たらいまわしにしない
日本労働組合総連合会(2017)[3]の調査ではクレームに対する態度と消費者の心理の調査が行われました。その結果が下図となります。
図のように最も怒りを増幅されるのは「たらいまわし」であることがわかります。クレームが発生した際は、なるべく担当を早く決め、その方が最後まで対応することが大事と言えそうです。
②共感的に傾聴が基本
2つ目は、お客様の話を共感的に傾聴することが大事です。特にクレームの序盤は、怒りがピークに達している方が多いです。あなたが何を言っても火に油を注ぐ結果になりやすいです。
そこで、まずは共感的に相手の話を受け止めることが大事になります。例えば以下のように返すと良いでしょう。
日程の変更があるならあらかじめメールでも電話でも伝えてくださいよ!予定が狂ったじゃないですか。大事な用事だったのに…対応に不満があります。
↓
連絡が届かず、大切な用事に影響があったのですね。納得がいかないのも当然だと思います。申し訳ありません。
商品の到着が遅れたせいで、大事なプレゼントが間に合いませんでした。どうしてもっと早く発送してくれなかったんですか?
↓
お届けが遅れて、大切なタイミングを逃してしまったこと、本当にご不満をお持ちなのですね。ご期待に沿えず申し訳ございません。
このように相手の話を要約しつつ、気持ちをしっかり受け止めることが大事になってきます。共感的に傾聴をしていくと、相手の気持ちが落ち着き、建設的に話し合うための土台を固めることができます。
共感的に傾聴するのが苦手…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
③事実確認をする
3つ目は事実確認をしっかりすることです。クレーム対応において、事実確認は非常に重要です。まず、クレーム内容を正確に把握し、感情的にならず冷静に対応することが求められます。顧客の主張をしっかりと傾聴し、具体的な事実や日時、状況を確認します。
次に、社内の関係部署や担当者から必要な情報を収集し、事実関係を徹底的に調査します。このプロセスを経て、確認された事実に基づいて対応方針を決定し、顧客に説明します。もし誤りが確認された場合は、迅速に謝罪し、改善策を提示することが大切です。
一方で事実を確認できない場合は、稀に金品目的のケースや、ライバル企業の嫌がらせ、お客様が精神疾患を抱えている可能性もあるので、謝罪や保障は慎重に行うようにしましょう。
④素直に非を認める
4つ目は素直に非を認めることです。こちらが悪い時は、素直に認めることが大事です。具体的には以下のように謝罪をしていきます。
弊社の〇〇が△△をしてしまい、大変失礼いたしました。
〇〇という対応はあってはならないことです。大変申し訳ございませんでした。
〇〇の不具合による影響でご不便をおかけし、誠に申し訳ございません。
このように、明らかにこちら側のミスである場合、ごまかさずに素直に謝ることを意識しましょう。ただ謝るだけでなく、上記のように理由を明確にしながら謝罪することも大事です。
⑤感謝の言葉を述べる
5つ目は、感情の言葉を述べることです。クレームは業務内容の改善に繋がります。社内では気づかなかった欠点が見つかり、お客さんの本音を知ることができます。クレームが業務の改善に役立った場合は以下のように感謝を伝えましょう。
〇〇様のお陰で業務の改善をするきっかけができました。ありがとうございます。
〇〇様のご指摘があったからこそ社員の意識が変わりました。感謝しています。
〇〇様のご意見のおかげで、サービスの質を向上させることができました。貴重なご指摘、ありがとうございます。
不満を感じていても、口に出してくれる人はごくわずかです。クレームに筋が通っている場合は、本音を語ってくれた事に感謝の気持ちを述べましょう。
⑥お詫びの品を渡す
自分の会社に非がある場合は、+αでお詫びの品を渡すことも効果的です。クレームは、愛のムチであることも多いのです。謝罪を具体的な形にする意味で、お詫びの印を示すと、クレームが逆転現象になり、あなたの会社をより好きになるきっかけにもなります。お詫びの品として、クレーム対応でよく使用される具体例を5つ挙げます。
商品券:
幅広く利用でき、感謝の気持ちを伝えやすい。
該当商品の再送
不備があった商品に対する直接的な補償。
お菓子やスイーツ
手軽で、日常的に喜ばれる。
割引クーポン
再利用を促進し、関係を維持しやすい。
例えば、私はコミュニケーション講座を運営しているのですが、不備があった場合は、6000円相当の講座を1回分を無料で提供しています。その結果、生徒さんの退会率も少なくなり、むしろ愛着を持ってくれることもあります。
注意点としては、まず、相手の好みや事情を考慮することが重要です。無闇に高価な品を送ると、かえって不快に感じられる場合もあります。
また、謝罪の品は誠意を示すものであり、問題を解決する手段ではないことを理解しておく必要があります。最後に、迅速な対応を心がけ、クレームへの感謝の気持ちとともに、今後の改善策を示すことで信頼を取り戻すことが大切です。
⑦再発防止をする
クレーム対応の再発防止は、顧客の満足度を高め、信頼を築くために重要です。再発防止の意義は、同じ問題が再発しないようにし、顧客の不満を未然に防ぐことです。これにより、企業の評価やブランドイメージも向上します。
再発防止の方法には、まずクレームの詳細な分析を行い、問題の根本原因を特定します。次に、その原因を基に社内プロセスやルールを見直し、改善策を導入します。また、従業員に対する適切な研修や教育を行い、クレーム対応スキルを向上させます。さらに、改善策の実施状況を定期的にチェックし、フィードバックを基に継続的に改善を進めることが重要です。これにより、クレームの再発を防ぎ、より良いサービス提供が実現します。
⑧限界設定をする
①~⑦は基本的には、自社に問題がある場合の対応となります。一方で、理不尽なクレーム、脅しに近いクレーム、業務の妨害になるようなクレームの場合は、毅然とした対応も必要です。その場合は、安易に謝罪をするのではなく、事実確認をしっかりしていきましょう。
また社内でルールを決めておいて、どこまで対応できるかをあらかじめ決めておくことをオススメします。これは心理学用語で限界設定と言います。具体的な例は以下となります。
申し訳ございませんが、返品は購入日から30日以内とさせていただいております。現在はその期間を過ぎておりますので、対応が難しい状況です。
弊社の規定により、既に適用されている割引以上の値引きはできかねます。ご理解いただけますと幸いです。
現在の在庫状況により、これ以上の早期納品は対応できかねます。通常の納期での対応となりますのでご了承ください。
限界設定をより深く知りたい方は下記をご覧ください。
⑨感情労働への対策
クレーム処理は精神的に非常に疲れる作業です。プライベートなら言い返すのに、仕事だからと丁寧に対応されている方も多いでしょう。
このように自分の本心をおさえ、役割を大事にして感情を表現することを感情労働と言います。心理学の研究では感情労働は大きなストレスになることが分かっています。会社ごとにフォローする体制を整えておきましょう。
例えば以下のような対策が挙げられます。
クレーム対応があった時は必ず社内で共有する
クレーム対応の後は上司が精神的にフォローする
定期的にストレスチェックをする
人事や経営者の方は、以下のコラムも是非ご一読ください。
⓾精神疾患も視野に
クレームが常習化している方の中には、一部精神疾患を抱えている方もいます。例えば、認知症で感情のコントロールが苦手な方、統合失調症で支離滅裂な主張をされる方、反社会性人格障害があり、だれかれ構わず攻撃性を発揮してしまう方、などクレームと関連する精神疾患は複数あります。
精神疾患の抱えている方は、健常者の方と以下の違いがあります。
主張に筋が通っていない 理不尽である 論理的ではない 支離滅裂である
このような傾向がある方については、会社が対応すべきことではなく、医療機関にお任せする事案となります。会社としては、いたずらに謝罪をすることはなく、共感的に傾聴した上で、限界設定をして断るという対応も大事になってきます。
もしあなたがクレーム対応の部門長などに当たる場合は、以下の動画一覧で精神疾患の基礎を一通りおさえておくことをおススメします。
状況別のクレーム対応
ここからは状況別のクレーム対応について解説していきます。
直接のクレーム対応
直接クレームに対応する場合は、表情のあり方、アポ取り、謝罪当日の対応、など様々なコツがあります。直接お客様と向き合あってクレーム対応する立場にある方は下記をご覧ください。
メールでのクレーム対応
コラム③ではメールでのクレーム対応について紹介しています。謝罪メールの書き方、頻度、タイミングなどを知りたい方は下記をご覧ください。
電話でのクレーム対応
コラム④では電話での急なクレームに対して、落ち着いて対応するコツ、声のトーン、スピードなどを紹介しています。電話でのクレーム対応を知りたい方は下記をご覧ください。
まとめ
クレームを受けた時は、まずはしっかり傾聴する、認めるところは認め、理不尽な要求には冷静に対処する。この基本を守れば、クレーム対応の多くはうまく行くと思います。皆さんが、お客様の怒りとうまく向き合い、健康的にお仕事をされることを心から願っています。
もっと学びたい方へ
当コラムの内容をしっかり身につけたい方は、現役の経営者、公認心理師による講座をおすすめします。内容は以下のとおりです。
・クレーム対応の基礎,傾聴練習
・怒りを和らげる,共感力トレーニング
・限界設定で身を守る,アサーション
・説明上手になるトレーニング
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連