ホーム >
コミュニケーション知恵袋 >
ビジネスコラム >
リーダーシップ理論入門①-種類,発揮の仕方

日付:

リーダーシップ理論入門①-種類,発揮の仕方

みなさんこんにちは。私は現在、こちらの初学者向けコミュニケーション講座の講師をしています。今回は「リーダーシップ理論入門」がテーマです。

当コラムでは、現役の経営者の視点、公認心理師としての視点から、初めてリーダーになる方向けに必須の知識を基礎から解説をしていきます。

説得力を高める

リーダーシップ論は様々な分野を横断する概念ですが、以下の3つの分野が代表的です。

①経営学から派生した方法論
②心理学から派生した方法論
③コミュ力とリーダーシップ

今回は①の経営学を中心に派生してきたリーダーシップにかかわる理論を学習します。

①テイラーの科学的管理法
②ホーソン実験
③PM理論とSL理論
④フィードラーの状況適合理論
⑤ハーシーとブランチャードのSL理論
⑥ドラッガーのマネジメント論
⑦ジョン・コッターのリーダーシップ論
⑧オーセンティックリーダーシップ理論

経営者,ビジネスリーダーとして最低限抑えておく知識と言えます。ぜひ学習を進めてみてください。

①テイラーの科学的管理法(1910年代)

リーダーシップ論の基礎として、まずはテイラーの科学的管理法から歴史を追いながら理解を進めていきましょう。科学的管理法は、経営コンサルタントとして活動していたフレデリック・テイラー(Frederick Winslow Taylor)が1911年に提唱した管理手法です[1]

機械エンジニアフレデリックウィンスローテイラー

科学的管理法が生まれた背景

当時の工場は多くの場合、

職人の技能に頼っている
個人差が非常に激しい
一人当たりのコストが高い

などの問題点がありました。そこでテイラーは、高度な職人の技術を誰でもできるように標準化して、作業効率を上げました。具体的には以下の3点を重視した組織作りを提唱しました。

課業管理
作業の標準化
最適な組織形態

テイラーはいわゆる「マニュアルの元祖」を産み出したと言えます。具体的には、ストップウオッチを使う、標準時間を設定する、標準時間を超えた分は給料を上乗せする、などの対策を立てモチベーションのアップを図りました。

メリット,デメリット

科学的管理法には以下のようなメリットがあります。

メリット
結果について白黒が出る
給料体系が明確
マニュアルによって熟達が早くなる

テイラーは実際に、大幅な生産高増・労働者の賃金増といった成果を残しました。一方で、時代が進むにつれて、段々と以下のようなデメリットがあることも分かってきました。

デメリット
効率重視で非人間化しやすい
標準時間を達成できない者のやる気低下
管理者と労働者の対立を生み出す

このように行き過ぎたマニュアル化は、非人間的な扱いを増長させる危険性があります。そのため、結果的にマイナスが大きくなってきます。

リーダーシップを発揮するには、現実的にはマニュアルはある程度は大事になるのですが、ある程度のところで抑えておく必要があると言えそうです。

②ホーソン実験(1920~30年代)

テイラーの科学的管理法は一世を風びして、その後の様々な実験に発展していきました。ここでテイラーの科学的管理法と同じぐらい有名なホーソン実験を紹介します。

ホーソン実験の内容

ハーバード大学のエルトン・メイヨーらは、1924年~1932年にかけて労働条件によって作業効率にどれだけ影響が出るかを調査しました[2]。実験の内容は以下の通りです。

・従業員21,126名を対象にする
・従業員を職種ごとにグループ分け
・グループごとに電話の配線作業を行わせる
・条件を変えて作業の成果を調べる
  照明の明るさ
  休憩時間を変える
  室温を変える

ホーソン実験の結果

実験の結果「どの条件でも作業効率がアップという意外な結果になりました。作業効率に影響を与える条件を特定できないため、研究者たちはこの結果に当惑してしまいました。

そこで、条件を初期設定に戻しました。すると「
それでも作業効率がアップとなりました。最終的には5年間で44%作業効率つがあがったとされています[3]。謎が謎を呼ぶ結果となりましたが、その後、原因の解明が行われ、

「期待される」[注目される」ほど作業効率があがる

ということが分かりました。ホーソン実験では上司が従業員に「大事な実験だから皆頑張ろうと期待していた」ことによって作業量があがっていたのです。

また、ホーソン実験では、

「仲間意識が高い」「信頼関係がある」ほど作業効率が上がる

ということもわかりました。

このように、ホーソン実験は、それまで常識とされてきた、人間を科学的に管理するだけでなく、人間関係がとても大事であることを示し、リーダーシップのあり方に一石を投じたのです。このように期待や信頼による作業量の上昇のことをホーソン効果といいます。是非覚えておきましょう。

ホーソン実験からリーダーシップのポイントを紹介

③PM理論(1960年代)

このように、テイラーは「マニュアルを重視」、ホーソンは「人間関係の重要性」を提唱したわけですが、その2つを掛け合わせたような理論が提唱されました。

PM理論とは

PM理論とは以下のような理論になります。

リーダーシップには
Performance「目標達成能力」と
Maintenance「集団維持能力」の
2つの能力があり、この強弱により4つのタイプにわける理論

PM理論は1967年に元九州大学教授の三隅二不二氏が提唱し、集団におけるその2つの機能の観点からリーダーシップの類型化を試みたものです[4]

PM理論では

Performance「目標達成能力」と
Maintenance「集団維持能力」の

それぞれの能力要素の強弱について、

強いものは大文字 P・M
弱いものは小文字 p・m

で表し、組み合わせで4種類に分類されます。

①PM型

「P行動、M行動がともに強い

部下の状況に気をかけ、チームワークを大切にするなど、人間関係を重んじながらも目標を達成する能力も持ち合わせた理想的なリーダーシップタイプ。

②Pm型

「P行動が強いがM行動が弱い

目標達成は可能なものの、チーム内の人間関係への配慮ができていないため、部下からの信頼を得づらく、チーム内に不協和音が起きやすい。

③pM型

⇒「P行動が弱くM行動が強い

チーム内をまとめる力はあるが、そちらに重点を置くため目標達成がなかなかできないタイプ。チーム内の雰囲気は良好なため、部下からは好かれやすく信頼関係は構築できる。

④pm型

⇒「P行動、M行動がともに弱い

成果を上げることができず、目標達成能力が低い。また、メンバーにも関心が薄く、メンバー内をまとめる能力もないため、リーダーには不向き。

上記のように、生産性の高さとメンバーの満足度の高さは、高いものから順に

PM>Pm>pM>pm

であるということが明らかにされています。以下、PM理論の研究を解説しています。気になる方は下記を展開してチェックしてみてください。

PM理論の研究

三隅ら(1967)[4]は、PM式リーダーシップがどのように生産性に影響を及ぼすかを調査しました。実験では銀行員901名を対象に質問紙を用いて集団面接を行い、「pm型」と「PM型」の生産性を評価したのです。その結果は以下の通り。

PM型は低生産群(生産性が低いグループ)よりも高生産群(生産が高いグループ)の方が多いことが分かります。一方で、pm型がどうでしょうか。下図をご覧ください。

高生産群が低生産群よりも3倍以上も少ないことが見て取れます。この研究から、やはり目標達成能力とチームをまとめる力の両方を兼ね備えているリーダーが理想的であると考えられるでしょう。

④状況適合理論(1960年代)

1964年にはリーダーシップを考えるうえで「状況」という環境要素を取り入た、状況適合理論が登場します[5]。別名コンティンジェンシー理論とも呼ばれます。状況適合理論は、フレッド・フィードラーがまとめた条件適応理論の1つです。状況適合理論とは以下の意味があります。

組織の特性や直面している
「良好な状況」「中間な状況」「悪い状況」
に応じて
「人間関係 タスクの内容 リーダーの権力」
を柔軟に変化させるリーダーシップ 

状況適応理論を、図にすると以下の通りです。
状況適合理論とリーダーシップ


このように、状況適合理論では状況が良い場合、もしくは悪い場合はタスク指向のリーダーシップ。状況が良くも悪くもない場合は、人間関係志向のリーダシップが良いとされています。

PM理論ではどのようなケースでもPM型が理想とされていましたが、状況適応理論では「状況」によってリーダーシップのあり方が異なるとした点が特徴的です。

⑤SL理論(1970年代)

SL理論(Situational Leadership Theory)は、ポール・ハーシーとケン・ブランチャードによって1970年代に提唱された理論[6]で、リーダーシップは一律ではなく、フォロワー(部下)の「成熟度」に応じてリーダーのスタイルを変えるべきだという考えに基づいています。

具体的には、以下の4つのスタイルがあげられます。

指示型(Telling)
部下の成熟度が低い場合、具体的な指示と管理が必要。

コーチ型(Selling)
部下の成熟度がやや低い場合、指導とともにモチベーションを高める。

支援型(Participating)
部下の成熟度がやや高い場合、支援と協力に重きを置く。

委任型(Delegating)
部下の成熟度が高い場合、部下に仕事の裁量をゆだねる。

上記の4つのスタイルを、部下の成熟度に合わせて図にしたものが下記になります。

リーダシップコーチング-SL

このように、部下の成熟度におうじてリーダーシップのスタイルを変えていくことで、より柔軟に部下を教育できるのが、SL理論の魅力です。意欲だけ高くても、能力がなければ仕事を進められないでしょう。反対に能力があっても、意欲がなければ部下は動いてくれません。

部下の成熟度を適切に評価し、適切なリーダーシップを発揮することで人材の力を最大限発揮することができるのです。

⑥ドラッガーのマネジメント論(1970年代)

ピーター・ファーディナンド・ドラッカーは、オーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系オーストリア人です。1950~1960年代の経験から1973年に「マネジメント」[7]を刊行し、世界的な影響を与えた人物で、2005年までご存命されていました。

「ピーター・ファーディナンド・ドラッカー」の肖像

日本では「もしドラ」などが流行したので、勉強され方かも多いのではないでしょうか。さて、ドラッガーを読んだことがない方は、今更しっかり読むのも大変だと思います。そこでドラッガーの主張を最低限3つだけ押さえておきましょう。

①企業=社会貢献する使命

全ての企業は、社会の問題を解決したり、社会貢献をする指名をもっていて、その使命を達成することが企業の存在価値であると言える。つまり、リーダーは「社会貢献を意識する!」ことが大切です。

②マネジメントせよ

社会貢献をするためには、そのためにリーダーシップを発揮しなくてはなりません。この「人を動かす」活動が「マネジメント」であるとしています。リーダーはマネジメントを通して、メンバーをまとめ、目標に向けて動かす力が必要になります。

③成果を目的にせよ

ドラッカーは成果を最大限意識するように説いています。企業は気が付くと、成果に結び付かない慣習や制度を維持してしまったりします。

例えば、いまだにFAXを使っている会社がありますが、こういった慣習をリーダーはどんどん改革していく必要があると言えます。また成果については、以下の3点もドラッカーは強調しています。

成果は100%成功しなくてもOK
短期的な失敗でも、長期的に成功すればOK
強みだけではなく、弱さも自覚すること

ドラッガーが提唱した3つのポイントは、はじめてリーダーになる方も是非おさえておきましょう。

⑦コッターのリーダー論(1980年代)

リーダーシップ論は、1988年にジョン・コッターによって発表されました[8]。コッターは

リーダーシップ
マネジメント

の違いについて主張し、変革の時代に必要なものは「リーダーシップ」である事を強調しています。しかし、これまでの「マネジメント」を否定しているわけではありません。組織では、ぞれぞれの役割や達成までのプロセスを別物と捉えることが重要としています。

リーダーシップとマネジメントの違いは以下の通りです。

リーダーシップとマネジメントの違いが分かる図

このように変革を進める、方向性を決める、メンバーをまとめる場合はリーダーシップ。複雑な環境に対処する、計画や予算を計算する、メンバーを配置して問題解決する場合はマネジメントが求められます。

⑧オーセンティックリーダーシップ理論(2000年代)

オーセンティックリーダーシップ理論は、2000年代初頭に登場した比較的新しい理論です[9]。ビル・ジョージが2003年の著書で体系化しました。この理論は、企業スキャンダルや経営倫理の問題を背景に、信頼されるリーダーシップの重要性を強調しています。

オーセンティックリーダーシップの特徴は以下の4つです。

・自己認識
自身の強み弱みを理解し、行動に反映する

・内的な道徳的視点
内面的な価値観や倫理に基づいて判断する

・バランスの取れた処理
他者の意見も公平に検討し、客観的に分析する

・透明性
オープンで率直なコミュニケーションを行う

この理論は、リーダーが自分の本質と向き合い、部下と誠実に接することで、組織のパフォーマンスと従業員満足度の向上を目指します。現代のビジネス環境で求められる倫理性・透明性に対応した理論として、企業や非営利団体で広く適用されています。

 

リーダーシップ論

お知らせ・発展編

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、現役経営者、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。

・初級リーダーシップ入門
・コーチングの基礎,トレーニング
・やる気を引き出す,フロー心理学
・ビジネスコミュ力,トレーニング

体験受講に興味がある方は下記のリンクからお待ちしています。筆者も講師をしています(^^) 

コミュニケーション講座を体験してみる

コミュニケーション講座,初心者

コラム① 経営学のリーダーシップまとめ

今回は経営学のリーダーシップについてご紹介しました。いかがでしたでしょうか?経営学のリーダシップ論は

いかに組織をまとめるか
いかに組織を引っ張っていくか

というテーマを先人たちが何十年も、かけて積み上げてきた学問です。経営者やリーダーとして、この理論やロジックを活用してない手はありません。ぜひ、ご自身の状況に合わせて適応してみてくださいね。

コラム② 心理学のリーダーシップ

リーダーシップを発揮するには、人間心理を深く理解することが大切です。コラム②では心理学から派生したリーダシップ論をご紹介しています。合わせてご一読ください。

リーダーシップと心理学②

コラム③ コミュ力とリーダーシップ

チームの能力を最大限に発揮するには、人間関係がとても大切です。コラム➂では、チームの人間関係を円滑にするコミュニケーションスキルを解説しています。合わせてご一読ください。

コミュ力とリーダシップ③

助け合い掲示板

1件のコメント

コメントを残す

    • グラス
    • 2019年6月7日 11:43 AM

    テイラーの科学的管理法とホーソン実験による結果がとても身近に感じることができるので分りやすいです。
    とくにホーソン効果はとても重要だと思います。
    交互作用を活かせるかはリーダーとしての洞察力が問われますね。
    コーチングとティーチングの違いが分かりました。
    リーダーシップを発揮するうえで傾聴技法が大切だということが改めて解りました、
    そして笑顔も大切なのですね。
    「あいさつ」にひとこと加えてみたいと思います。忙しいと相手の顔を見ないで、
    あいさつをしている時もありますね。
    心に余裕を持つことが大切ですね。

    返信する

コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
Twitter→
元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] Frederick Winslow Taylor, M.E., Sc.D.(1911).THE PRINCIPLES OF SCIENTIFIC MANAGEMENT
 
[2] Roethlisberger, F. J., & Dickson, W. J.(1939). Management and the worker. Harvard Univ. Press.
 
[3] 大橋昭一,竹林浩志(2006).ホーソン効果の実体をめぐる諸論調–ホーソン効果についてのいくつかの見解 關西大學商學論集 51巻5号 P16から引用
 
[4] 三隅二不二,武田忠輔,関文恭(1967).組織体のPM式リーダーシップ条件が,モラールとくに達成動機におよぼす効果に関する実証的研究 教育・社会心理学研究 第7巻 第1号
 
[5] Fiedler, F. (1964). A Contingency Model of Leadership Effectiveness. In L. Berkowitz (Ed.), Advances in Experimental Social Psychology (Vol. 1, pp. 149-190). New York: Academic Press.
https://doi.org/10.1016/S0065-2601(08)60051-9
 
 
[7] Peter F. Drucker(1973).Management : tasks, responsibilities, practices Harper & Row, New York,
 
[8] John P. Kotter(1988).The Leadership Factor New York : Free Press