大人の非認知能力の意味、高め方・伸ばす方法
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している現役経営者、公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「非認知能力」です。
近年、ビジネスの現場では、知識やスキルだけでなく、「非認知能力」が成果を左右するとして注目されてきています。例えば、困難に直面したときの粘り強さ、周囲と協力する力、新しいアイデアを生み出す好奇心。
これらは数値化しにくいものの、リーダーシップや問題解決能力と深く関わり、キャリアの成長に直結します。本コラムでは、非認知能力がビジネスに与える影響と、その鍛え方について解説します。目次は以下の通りです。
①非認知能力の意味とは
②非認知能力への取り組み
③非認知能力の構成要素
④非認知能力と影響
⑤非認知能力の高め方
是非、仕事に活かせるヒントを見つけてください。
①非認知能力の意味とは
まずは非認知能力の意味をわかりやすく簡単に説明していきます。
非認知能力とは
非認知能力とは、
標準的な知能検査では測定できない能力や特性
のことです。自己制御、粘り強さ(忍耐力)、協調性、共感性、自己効力感、動機づけ、問題解決力、好奇心などが含まれます。
これらは数値化が難しく、長期的な人生の成功に大きく影響すると考えられています。非認知能力は人間関係の構築、困難への対処、目標達成のプロセスに関わる重要な要素であり、ビジネスの現場でもリーダーシップや創造性の基盤として注目されています。学力だけでなく、社会的・情緒的な発達にも深く関連しています。
認知能力とは
非認知能力について理解するには、その対義語である認知能力についても抑えておくとよいでしょう。認知能力とは、
主に知能検査(IQテスト)で測定できる能力
のことを指します。
具体的には、読解力、計算能力、論理的思考力、記憶力、推論能力などが含まれます。これらは学校の成績や学力テストで評価されることが多く、数値化しやすい特徴があります。認知能力は伝統的な教育で重視され、学業成績や知識の習得に直接関連する能力です。問題を解く、情報を処理する、知識を蓄積するといった知的活動の基盤となります。
②非認知能力への取り組み
非認知能力を高める取り組みは、1960年代から現代にかけて様々なものが行われています。
ペリー就学前計画
ペリー就学前計画(Perry Pre-school Project) ペリー就学前計画は1960年代、アメリカ・ミシガン州で低所得層のアフリカ系アメリカ人家庭の子どもを対象に実施された教育介入プログラムです。目的は、早期教育が学業成績や社会的成功に与える影響を検証することでした。
この研究では、3〜4歳の子どもに質の高い就学前教育を提供し、その後の成果を長期的に追跡調査しました。結果、参加者は学業成績(高校卒業率の向上)、就職率、犯罪率の低下、経済的自立などで有意な改善を見せました [1]。
OECDによる取り組み
OECD(経済協力開発機構)は、2015年に非認知能力が教育や社会的成功において重要であるとし、
「社会的・情動的スキル」
という枠組みで非認知能力を測定し、政策形成に活用する取り組みを進めています [2]。
文部科学省による取り組み
2015年の文部科学省における初等中等教育分科会では、育成すべき資質・能力の三要素を
「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」
「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」
「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」
とした上で、特に幼児期においては感情や行動のコントロール、粘り強さなどの「非認知能力」を育むことが重要であるとしています [3]。
ビジネスへの展開
近年、非認知能力はビジネスの現場でも重視されており、実際にこれを育成する取り組みが進んでいます。例えば、Googleは社員の心理的安全性を高める取り組みを行い、「社会性」や「共感力」を強化することでチームパフォーマンスの向上に成功したと報告しています。
③非認知能力の構成要素
冒頭でも軽く紹介しましたが、文部科学省やOECD、また心理学的な先行研究(Heckman,2012)[4]を土台として、以下の要素で構成されると推測しています。
自己制御(Self-control)
自己制御とは、衝動を抑え、冷静に判断する力です。欲求に流されず長期的な目標を見据え行動することで成果を上げられます。 また、注意を持続させる力があると、目の前の課題に集中しやすくなります。さらに、感情をコントロールできる人は、怒りや不安を適切に処理し、冷静に対応することが可能です。こうした力は、仕事や人間関係において重要な役割を果たします。
動機づけ(Motivation)
動機づけには、楽しさや興味を原動力とする内発的動機づけと、報酬や評価を目的とする外発的動機づけがあります。どちらもバランスよく活用することで、持続的な努力につながります。特に内発的動機づけが強い人は、自ら進んで学びや仕事に取り組めます。外発的動機づけをうまく使うことで、目標達成への意欲を高めることができます。
自己効力感(Self-efficacy)
自己効力感とは、「自分はできる」という自信を持ち、恐れずに挑戦する力です。この力が高い人は、困難な課題にも積極的に挑みます。成功体験を積み重ねることでさらに自信を強め、新たな挑戦へとつなげられます。自己効力感が高いと、挫折しにくく、前向きに努力を続けることが可能になります。
忍耐力(Perseverance)
忍耐力とは、長期的な目標に向かって粘り強く取り組む力です。困難に直面しても諦めず、努力を継続できる人は、大きな成果を上げられます。一時的な失敗も成長の機会と捉え、前向きに挑戦し続ける力を身につけることで、困難を乗り越え、成功をつかむことができます。
協調性(Cooperativeness)
協調性とは、他者と協力しながら物事を進める力です。チームでの仕事や共同作業では、相手の意見を尊重し、円滑なコミュニケーションを図ることが求められます。協調性が高い人は、対立を避け、柔軟に対応しながらチームワークを発揮できます。この力を持つことで、周囲との良好な関係を築き、物事をスムーズに進められます。
共感性(Empathy)
共感性とは、他者の気持ちを理解し、相手の立場に立って考える力です。相手の感情に寄り添い、思いやりを持って接することで、信頼関係を築けます。共感性の高い人は、円滑なコミュニケーションができ、対人関係を良好に保てます。職場や日常生活において、周囲の人と良い関係を築くために重要な能力です。
問題解決力(Problem-solving)
問題解決力とは、論理的に考え、適切な解決策を見つける力です。状況を冷静に分析し、最適な方法を導き出すことで、課題を乗り越えられます。創造的な発想を持ち、新しい解決策を考える力も重要です。さらに、柔軟な対応力があれば、変化の激しい状況でも冷静に対応し、最善の選択をすることができます。
好奇心(Curiosity)
好奇心とは、新しいことを学び、積極的に探求する意欲です。未知の分野にも興味を持ち、自発的に情報を集めることで、知識やスキルを高められます。好奇心が強い人は、新しい挑戦を楽しみながら成長でき、変化の多い時代においても柔軟に対応する力を持つことができます。
④非認知能力と影響
それでは非認知能力を高める取り組みには、どのような影響があるのでしょうか。ここでは、ペリー就学前計画の研究から、非認知能力を鍛える教育の効果を紹介します。
ペリー就学前計画の概要
ペリー就学前計画 [1] では、以下の被験者を2グループに分け、一方のみに質の高い教育を提供しました。
IQが70〜85(平均よりやや低い)
3歳から4歳
子ども123名
この教育では、計画→実行→振り返り」という流れで、子どもが自ら遊びの計画を立て、それを実行し、結果を振り返ることができるように誘導します。
少人数教育を重視し、家庭訪問と親への教育支援を通して家庭でも子どもの発達をサポートしました。 ここでは、ペリー就学前計画に参加した子どもたちが40歳になるまでを追跡調査した結果をご紹介します。
学業への影響
追跡調査の結果、教育を受けたグループの65%、教育を受けなかったグループの45%が高校を卒業していました。65%というのは一見低く見えてしまうかもしれませんが、本プログラムは1960年代の低所得層アフリカ系アメリカ人家庭の、IQが平均よりやや低い未就学児を対象としていました。その背景を考えると、教育の効果は十分現れていると言えるでしょう。
収入に差が出る
追跡調査の結果、40歳の時点で年収2万ドルを超えていたのは、教育を受けたグループの60%、教育を受けなかったグループの40%でした。
犯罪率の低下
追跡調査の結果、40歳時点で5回以上逮捕されたのは、教育を受けたグループの36%、教育を受けなかったグループの55%でした。
⑤非認知能力の高め方
ここからは非認知能力の具体的な高め方について解説していきます。ご自身が高めたい要素に焦点を当てて参考にしてみてください。
自己制御(Self-control)
自己制御を高めるためには、まず衝動的な行動を意識的にコントロールする訓練が必要です。タスクを始める前に目標を明確にし、優先順位をつけることで集中力を維持できます。
感情やストレスを管理するためには、こまめに短い休憩を取ったり、深呼吸などのリラックス法を活用することが有効です。自己制御力については以下のコラムが役に立つと思います。是非参考にしてみてください。
動機づけ(Motivation)
内発的動機づけを高めるためには、自分が関心を持てる分野やタスクに取り組むことが重要です。
楽しさや興味を感じる活動にフォーカスし、それを積極的に行うことで、内発的動機が強化されます。外発的動機づけは、報酬や評価を設定することで強化できますが、その評価を自己成長やチーム貢献に結びつけると、より持続的なモチベーションを生みます。
さらに、長期的な視点で目標を設定し、進捗を見える化することが、モチベーションを維持するために効果的です。興味がある方は、以下のコラムを参照ください。
内発的動機の意味と高め方
自己効力感(Self-efficacy)
自己効力感を高めるためには、小さな成功体験を積み重ねることが効果的です。具体的な目標を設定し、それを達成するためのステップを計画して実行することで、自信を持てるようになります。困難な課題に取り組む際には、他者からのフィードバックを受け入れることも重要です。
また、過去の成功体験を振り返り、自分の能力を再認識することも、挑戦意欲を持ち続けるために大切です。自己効力感を高めたい方は、以下のコラムが役に立つと思います。是非参考にしてみてください。
忍耐力(Perseverance)
忍耐力を高めるためには、目標を長期的に見据えて計画を立てることが重要です。小さな失敗や挫折を経験した際には、それを学びの機会と捉えることで、再挑戦の意欲が湧きます。努力を継続するためには、定期的に進捗を評価し、モチベーションを維持する方法を見つけましょう。
日々の取り組みが最終的に大きな成果に繋がることを意識し、粘り強く目標に向かって進み続けることが、忍耐力を養う鍵となります。忍耐力を高めたい方は、困難に強くなるレジリエンスコラムを読まれることをおすすめします。ぜひ参考にしてみてください。
協調性(Cooperativeness)
協調性を高めるためには、まず他者とのコミュニケーションを積極的に行うことが重要です。相手の意見や立場を理解し、尊重する姿勢を持つことが信頼関係を築く基盤となります。また、チームワークを発揮するためには、目標を共有し、お互いにサポートし合うことが欠かせません。
グループでのフィードバックや共同作業を通じて、協力し合う環境を作り、共通の成果を目指す姿勢を持つことで、協調性は自然に育まれます。協調性について理解を深めたい方は以下のコラムを参考にしてみてください。
共感性(Empathy)
共感性を高めるためには、まず相手の立場に立って物事を考えることを意識しましょう。対話の中で相手の感情や背景を理解しようと努めることで、思いやりのある行動が取れるようになります。ビジネスにおいては、顧客や同僚の気持ちを察知し、そのニーズや問題を理解することが信頼を得る鍵となります。
フィードバックを受ける際にも、相手の視点を尊重し、感情を読み取ろうとすることが大切です。共感力を高めたい方は、以下のコラムが役に立つと思います。是非参考にしてみてください。
問題解決力(Problem-solving)
問題解決力を高めるためには、まず問題を冷静に分析することが重要です。「現状の整理→原因の特定→解決策の洗い出し→実行→振り返り」といったプロセスを明確にすることで、解決策を見つけやすくなります。
ビジネスの現場では、時には新しいアプローチを試みることが求められます。チームでブレインストーミングを行い、多様なアイデアを出し合うことが、効果的な解決策を生む鍵です。柔軟な思考と創造的な発想が、問題解決力を向上させます。以下のコラムではディスカッション力と問題解決のプロセスを学ぶことができます。ぜひ参考にしてみてください。
好奇心(Curiosity)
好奇心を高めるためには、日常的に新しい知識を求めて学び続けることが重要です。業界の最新動向や他分野の情報を積極的に取り入れることで、自分の視野を広げましょう。自発的に情報を集め、学んだことを実際の業務に活かす姿勢が求められます。また、新しい挑戦を楽しむことが好奇心を刺激し、継続的な学びを促進します。
業務で直面する課題や新しいプロジェクトに対して、興味を持って積極的に取り組むことで、好奇心が自然と育まれます。好奇心について理解を深めたい方は以下のコラムを参考にしてみてください。
まとめ
非認知能力は、IQや学力以上に人生を豊かにする力です。自己制御や共感力、困難を乗り越える粘り強さは、一朝一夕で身につくものではありません。しかし、日々の小さな挑戦や対話の積み重ねが、確実にあなたの力になります。失敗を恐れず、自分を信じ、一歩ずつ前に進んでください。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連