仕事のプレッシャーに打ち勝つ,対策
皆さんこんにちは。現役経営者,公認心理師の川島達史です。私は現在こちらの初学者向けコミュニケーション講座の講師をしています。今回のご相談は「仕事のプレッシャーが強い」です。
相談者
32歳 男性 SE
お悩みの内容
私は現在SEとして働いていて、新しいプロジェクトのリーダーになってしまいました。動く金額がすごく多くて、プレッシャーを感じています。最近は不安が大きくて不眠で悩んでいます。プレッシャーに打ち勝つ方法が知りたいです。
プレッシャーが大きく、不眠症状まで出ているのですね。深刻な状況だと思います。当コラムではプレッシャーの理解から対策まで一通り解説していきます。是非最後までご一読ください。
プレッシャーの意味とは
意味
プレッシャーは元々圧力を意味する言葉として使われていました。その後、社会心理学の専門家であるBaumeister(1984)[1]が以下のように定義しました。
優れたパフォーマンスを発揮しなければならない心理を刺激する要因
私たちは、「がんばらなくちゃ」「成功しなくちゃ」「いい成績を収めないと」と感じることがありますが、その裏側には、何らかの理由があります。この理由がプレッシャーの正体です。
プレッシャーの影響
プレッシャーのネガティブな影響として、パフォーマンスの低下が挙げられます。プレッシャーが強いと、普段は無意識にできる作業に意識が集中しすぎて動作がぎこちなくなり、ミスを誘発します。
また、過度な緊張や失敗への不安が注意力を散漫にさせ、本来の業務に集中できなくなることもあります。さらに、精神的な負担が増えることでストレスが高まり、長期的には疲弊や燃え尽き症候群につながる可能性もあります。
プレッシャーに負ける原因
私たちがプレッシャーに負けるときは以下のような原因が挙げられます。
強すぎるタスク
プレッシャーは、味方でもあり、敵でもあります。ここで「ヤーキーズ・ドットソンの法則」[2]という理論をご紹介します。意味は以下の通りです。
学習や仕事のパフォーマンスを向上させるには、プレッシャーなど適度なストレスレベルが必要
ヤーキーズ・ドットソンの法則を図にするとこちらです。
プレッシャーなどストレスレベルが高くなるにつれ、パフォーマンスは向上するものの、高すぎてしまうと逆に低下するのがわかりますね。プレッシャーはマイナス面のイメージが強いかもしれません。しかし適度なボリュームであれば、メリットとして取り入れることができるのです。
意識的処理仮説
(Explicit Monitoring Hypothesis)
意識的処理仮説とはプレッシャーを感じると、通常は自動化されているスキルを意識的に制御しようとするため、パフォーマンスが低下するという理論です(田中,2014を参考)[3]。
特にスポーツやパフォーマンスにおいて、経験豊富な人でも意識的に細かい動作をコントロールしようとすると、動きがぎこちなくなり、ミスが増える傾向があります。具体的には以下のような例が挙げられます。
注意散漫仮説
(Distraction Hypothesis)
プレッシャー下では、プレッシャー自体や失敗への不安に意識が向き、本来集中すべき作業やスキルに注意が向けられなくなるという理論です。このため、注意力が分散され、パフォーマンスが低下します。
打ち勝つ12の方法
ここからはプレッシャーに弱い方向けに克服する3つの分野をお伝えします。心理学の世界では、心理、身体、環境の3つの側面から考える習慣があります(Engel 1977 )。[3]そこでプレッシャーに打ち勝つ方法として、3つの視点から12のやり方をお伝えします。
①心理-失敗から成功イメージ
②心理-完璧を目指さない
③2割の余力を持つ
④心理-マインドフルネス力をつける
⑤心理-自己効力感をつける
⑥身体-漸進的筋弛緩法
⑦身体-鼻歌を歌う
⑧身体-体のストレス発散法
⑨身体‐練習を信じて自然体で
⑩環境-集中できる環境を
⑪環境‐実践の現場を確認して整える
⑫環境-ソーシャルサポートを増やす
ご自身でも使えそうなものを組み合わせてご活用ください。
①心理-失敗から成功イメージ
心理学の世界では、失敗をイメージすると、心理的な負担が大きくなることがわかっています。
失敗したらどうしよう
迷惑をかけたらどうしよう
上司に怒られたらどうしよう
と考えるとプレッシャーはどんどん膨らんでいきます。何かにチャレンジをするときは、失敗ばかりをイメージするのではなく、成功するイメージを持つことも大事です。
うまくいったらみんなが喜ぶ
成功させると困る人が減る
お給料があがるかも!
ゆみこちゃんにイイとこみせたい!
このような成功イメージを膨らませることも大事です。失敗をイメージしすぎてプレッシャーが大きくなりやすい方は下記のコラムを参考にしてみてください。
②完璧を目指さない
プレッシャーに弱い方は、完璧を目指してしまう傾向があります。例えば、
目標を達成しなくてはいけない
失敗は許されない
同期に絶対に負けてはいけない
全ての期待が私のかかっている
など、100点満点の目指して、プレッシャーを強くしてしまいます。これに対してプレッシャーを感じにくい方は
プレジェクトが失敗しても経験は得られる
仕事は勝ったり負けたりが面白い
みんなで分担して乗り切ろう
まあ人生どう転ぶかわからない
やれるだけやってあとは天に任せよう
と気楽な考え方をしていきます。完璧主義で自分を追いつめてしまう人は、肩の力をぬいた考え方を増やしていくと良いでしょう。あてはまると感じる方は下記のコラムを参照ください。
③心理-2割の余力をベースに
冒頭でもお伝えした通り、私たちが最大限力を発揮できるのは、適度なストレスが掛かっている状態です。多すぎても、小さすぎても私たちは、力を発揮できないのです。
丁度よいプレッシャーの目安は、感覚的に2割の余力が残る状態です。生物学的に、集団生活をする虫や動物は、2~3割ぐらいはサボることが知られています。そして結果的に余力を残す方が生存率が高いことが分かっています。腹8分目という言葉もありますね。
これは私たちの仕事量にも言えることです。目安として、2割の余力を意識してみてください。頑張りすぎる癖がある…という方は下記のコラムを参照ください。
④心理-マインドフルネス力をつける
先ほど解説したように、プレッシャーに負ける原因の1つに、注意散漫が挙げられます。もしプレッシャーが強い場面で、本来やるべきことと別のことに意識が向いて混乱してしまう方はマインドフルネス力をつけることをおすすめします。
マインドフルネスとは、自分の状態を客観的に分析をして、冷静になる力を意味します。マインドフルネスには様々な手法がありますが、簡単にできる方法としては、3-2-1法があげられます。以下、野球のバッティングを例に解説してみましょう。
STEP①:3つ見る
周りの環境から3つのものを見つけます。
例: 「ボール」「スコアボード」「観客席」
・
STEP②:2つ聞く
2つの異なる音に注目し、それぞれを識別します。
例: 「風の音」「遠くの話し声」
・
STEP③:1つ感じる
体の1つの感覚に意識を向けます。
例: 「足の裏の地面との接触」
混乱したとき、恐怖心にかられた時に、是非試してみてください。もっとマインドフルネス力をつけたい方は下記のコラムを参照ください。
⑤心理-自己効力感をつける
プレッシャーに強い方は、これまでもどうにかやってきた、自分なら乗り越えていける、きっと今回も打ち勝てるという気持ちがあります。これらの自信の源を自己効力感と言います。
自己効力感をつけるのは長期的な視点で積み重ねていく必要があります。具体的には、
自分の長所を日々確認していく
挑戦を続け、成功体験を増やす
勉強を続け、知識を増やす
などをコツコツ続けていく必要があります。じっくり自信をつけていきたい…と感じる方は下記のコラムを参照ください。
⑥身体-漸進的筋弛緩法
プレッシャーに弱い方は、緊張しやすく体がかたまった状態になりやすい傾向があります。すぐに肩が凝る、身体が疲れやすい、脱力するにが苦手、という方は漸進的筋弛緩法がおすすめです。
漸進的筋弛緩法は身体をリラックスさせる運動法で、精神科のクリニックなどでも活用されています。例えば以下のようなやり方があります。
①両手を握り腕を曲げます。
60%ぐらい力を入れ、10秒キープ
②脱力をします
10秒間、筋肉が弛緩している感覚を味わう
このやり方は講師の川島も講演前などでよく使っています。緊張しやすい、身体が堅くなりやすい方は以下のコラムを参照ください。
⑦鼻歌を歌う
身体をリラックスさせるには、鼻歌を歌うこともおすすめです。鼻歌は前向きな気持ちになりやすく、筋肉の力を抜くのに効果的です。
私は講座の前はドリフの大爆笑のオープニング曲を鼻歌で歌って、緊張をほぐしています。最近は、鬼のパンツという曲もよく鼻歌で歌っています。皆さんも楽しい気分になれる、鉄板の鼻歌を用意しましょう。
⑧身体-体のストレスを改善する
プレッシャーに強い体を作るには様々な手法があります。具体的には
運動をする 日光に当たる 丹田呼吸法 食生活を整える 気晴らし 睡眠を安定あせる
などが挙げられます。体がだるい、倦怠感がある、不眠気味…という方は下記のコラムを参照ください。
⑨身体-練習を信じて自然体で
意識的処理の考えでは、プレッシャーを感じると、普段は無意識でできている動きを意識的にコントロールしようとし、その結果パフォーマンスが下がるとされています。この問題を避けるためには、練習の成果を信じて自然体で行うことが大切です。
特に、長い練習や経験で身につけたスキルは、意識せず発揮されるのが最も良いです。プレッシャーの場面でも、動きを意識しすぎず、練習を信じて自然な流れに任せることがミスを減らし、良い結果を出すポイントです。
⑩環境-集中できる環境作り
注意散漫の考えでは、集中力が欠けるとパフォーマンスが下がります。集中できる環境を作るには、外部の刺激を最小限にすることが大切です。ビジネスの現場であれば、静かな作業場所を確保し、周囲の音や中断を防ぐことで、注意が散るのを防げます。また、スマートフォンや通知などのデジタルメディアを制限し、作業中の邪魔を避けます。
作業エリアを整理し、必要なものだけを手元に置くことで、注意が逸れるのを防げます。さらに、作業時間を決めて短い休憩を入れることで、集中力を保ちやすくなります。こうした工夫で、集中できる環境を整え、注意が散るリスクを減らせます。
⑪環境-実践の現場を確認して整える
プレッシャーに打ち勝つためには、実践の現場を確認して整えることが重要です。まず、現場の環境や条件を徹底的にチェックし、自分が最もパフォーマンスを発揮できる状態に整えることが必要です。例えば、会議やプレゼンの前に会場の音響や照明を確認し、準備万端にすることで、不安要素を取り除きます。
また、準備の段階でリハーサルを重ね、実際の状況をシミュレーションすることで、本番のプレッシャーに慣れておきます。さらに、自己管理を徹底し、心身のコンディションを整えることで、プレッシャーに対する耐性を高めることができます。こうした事前の準備と調整により、プレッシャーに負けず、冷静に実力を発揮できる環境を整えることができます。
⑫環境-ソーシャルサポートを増やす
周りの人に支えてもらえる環境があるとプレッシャーは軽くなります。小松ら(2010)[4]は、40歳以上の会社員の男性712名に対して、職業性ストレスとソーシャルサポートの関連について調査を行いました。
その結果、ソーシャルサポートを受けている人ほど、職業性ストレスと抑うつ傾向が低いことが明らかになりました。
最初に上司からのサポートを見てみます。上図の(-)マイナスの意味ですが、上司からのサポートを受けている人ほど、抑うつ傾向が低いことが分かります。
次に、同僚からのサポートですが、こちらも(-)マイナスです。つまり、同僚からのサポートが得られている人ほど、抑うつ傾向が低下します。
このように、ソーシャルサポートを受けると、職業性ストレスが下がります。その結果、仕事が辛い気持ちが緩和されて、前向きに仕事に取り組めるようになるのです。
困った時に助けてもらえる環境がないな…という方は下記のコラムを参照ください。
まとめ
今回はプレッシャーを克服する方法を3つの分野から解説してきました。複数の手法がありますのでご自身の状況に合いそうなものをぜひご活用ください。皆さんが仕事のプレッシャーに打ち勝ち、成果を得られることを切に願っています!
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・プレッシャーを軽くする心理学
・完璧を目指さない練習
・冷静になる,マインドフルネス練習
・自信をつける,プレゼンテーション練習
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1]Baumeister,R.F.(1984)Choking under pressure : Selfconsciousness and paradoxical effects of incentives on skillfull preformance. J.Pers. Soc. Psychol.,46:610-620[2]Yerkes RM, Dodson JD(1908).The relation of strength of stimulus to rapidity of habit-formation. Journal of Comparative Neurology and Psychology[3]George L. Engel (1977). The Need for a New Medical Model: A Challenge for Biomedicine. Science. 196: 129‒136 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpehss/59/1/59_13061/_article/-char/ja/[4]小松優紀・甲斐裕子・永松俊哉・志和忠志・須山靖男・杉本正子(2010).職業性ストレスと抑うつの関係における職場のソーシャルサポートの緩衝効果の検討 産業衛生学雑誌・その他の出典
人間関係と心理的プレッシャーが大きいですね。
完璧主義で失敗したくありません。気質も遺伝するとはビックリです。
友達の態度や電車を待っている時がイライラします(笑)
思考の歪みがないか考えてみようと思いました。
ストレスやプレッシャーを肯定的に捉えてコントロールできるようにしたいと思います。
コミュニティを増やすことがストレス軽減につながるのですね。
自律訓練法ならすぐに試すことが出来そうなのでやってみます。