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ストレングスモデルの意味や活用法

日付:

ストレングスモデルの意味や活用法

皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師,精神保健福祉士の川島達史です。今回は「ストレングスモデルの活用」についてご相談を頂きました。

相談者
30歳 女性

お悩みの内容
私は現在、福祉関係で生活困窮者の支援をしています。転職したばかりで、業界経験は浅いです。上司から口を酸っぱくして「相談者のストレングスに目を向けなさい」と言われます。

自分なりに勉強はしているのですが、ストレングスモデルについて理解を深めたいです。よろしくお願いします。

上司の方は援助者として、すばらしいと思います!ストレングスモデルは、福祉、医療、ビジネスの現場で必須の理論です。是非最後までご一読ください。

ストレングスモデルの意味

歴史

ストレングスという言葉は元々は、アングロサクソン系の中で1970年代の後半から福祉や医療の現場で日常的に使われてきたとされています[1]。有名になったのは、1997年です。カンザス大学福祉大学のラップ教授が「The Strengths Model」[2]を執筆し、世界中で活用されるようになっていきました。

1999年には、当時アメリカ心理学会会長だったマーティン・セリグマンは、ストレングスに基づく実践を促進する次のような見解を述べました[3]

私たちが学んだ最も重要なことは、心理学が道半ばであるということです。心の病やダメージの修復に関する部分は完成しています。しかし、もう一方の側、すなわち強みや得意なことに関する部分はまだ未完成です。

The most important thing we learned was that psychology was half-baked. We’ve baked the part about mental illness, about repair damage. The other side’s unbaked, the side of strength, the side of what we’re good at.

それ以来、強みを基にしたアプローチは、福祉、臨床心理学、ビジネス、日常場面など幅広く活用されてきました。

意味

ストレングスは学者により様々な定義がなされています。

全ての人が持つ、目標、才能、自信、資源、人材、機会
(Rapp&Goscha,2006)[4]

いかなる状況にあっても人は、発見されていない無限の力があり、その力を発見し、活かしていこうとするもの
(Walter,2009)[5]

異なったものが各々に有する優れたもの それぞれがもつ、うまく生きていく力
(狭間,2001)[6]

このように学者によって定義に若干の違いはありますが、人生を充実させるためのあらゆる資源を、ストレングスと考えると良いでしょう。

[Charles A. Rapp]のThe Strengths Model: Case Management with People Suffering from Severe and Persistent Mental Illness (English Edition)

ストレングス視点と具体例

ストレングスという言葉は、福祉関係の援助者が口癖のように使う用語です。例えば、生活保護を受けている方が、社会復帰を希望されているとします。

この時、私たち福祉の援助者はストレングス視点を持って、本人の強みを一緒になって発見していかなくてはなりません。そして、ストレングス視点を持つことは、福祉の世界はもちろん、ビジネスの世界、日常生活でも、幅広く活用が可能です。

福祉の現場

例えば、保護を希望されている方が、インターネットに詳しいというストレングスを持っているとします。その際は、

インターネットに関する発展的な職業訓練
インターネットを多用する仕事の探し方を伝える
相談者が孤独な場合、趣味でつながるSNSを提案

などの視点が必要になります。

ビジネス

例えば、部下が、ムードメーカになれるというストレングスを持っているとします。その際は、

顧客との信頼関係を構築するポジションに任命
実際に人と接するポジションを与える
人間関係が悪い職場で潤滑油になってもらう

などの視点が必要になります。

日常生活

例えば、友人が子育てで疲れているとします。その際は、以下のようなストレングス視点を持って励ますことができるかもしれません。

健康的な料理を日々作っていることを指摘する
悩みを吐き出す場所があることを指摘
行政で利用できるサービスがあることを指摘

こちらの例は、少し説明が必要です。健康的になる料理を頑張っているということは、結果的には疲れにつながっていますが、それは「努力できる」「子育てにまじめ」というストレングスと言い換えることができます。悩みを吐き出すという場所があることは、気持ちを吐き出す場所があるという本人が持っているストレングスでもあります。

これは一例ですが、ストレングスには様々な種類があり、強みを柔軟かつたくさん検討することが援助者には必要なのです。

ストレングス

ストレスングスの発見法

ストレングス視点を高める方法としては様々な手法があります。

① VIA‐ISモデルの活用
② 強みを活かす提案
③ リフレーミング法
④ ライフチャート法
⑤ 本棚セラピー
⑥ 傾聴力をつける
⑦ ストレングスコラム法

それぞれご自身の支援の環境に合わせて参考にしてみてください。

①VIA‐ISモデルの活用

セリグマン(2004)[7]は、ストレングスを測定する「VIA-IS(Values In Action Invent  Of Strengths)」というツールを開発しました。VIA-ISは、200以上の哲学・経典から抽出した、6分野24の指標です。

ストレングス 分類


援助すべき対象の方の強みを探すときは、この表をおさえ、ストレングスを把握する際の参考にしましょう。

②強みを活かす提案

VIA-ISを参考に、援助者は相談者の方と一緒に強みを考えて行きます。基本は相談者が自分で気づくように支援をしますが、発想ができない場合は、支援者から提案をしていくのもOKです。

〇〇さんは、接していて気遣いができると感じます。すごく丁寧に電話をしてくれたり、小まめに感謝の言葉を言えていますよね。自分では強みだと思いますか?

そういえば、以前、ゲームに没頭して24時間過ごしたと言っていましたよね。集中力があると感じたのですが、これは強みとして考えられるかな?

このように強みの候補を提案して、相談者の気づきを促していくといいでしょう。この時大事なことは、あくまで提案にとどめる事です。当たり前ですが、援助者が勝手に決めて、相談者の主体性を奪わないように気をつけましょう。

そして強みが見つかったら、一緒にそれをどう役立てていけるか?考えて行きます。集中力がある、というストレングスでしたら、物作り、研究、危険物の取扱、などが向いているかもしれません。たくさん発想していきましょう。

具体例-正義感と活かし方

「正義感が強い」という強みを持っている方

・法律関係の仕事に就く
・警察官になる
・ボランティアに応募する
・困った人を助ける福祉関係を目指す

警察官のイラスト(職業)

具体例-慎重さとストレングス

「慎重さが強い」という強みを持ってる方

・安全管理技術者をめざす
・医療関係のお仕事
・ファイナンシャルプランナーがいいかも


ストレングスの見つけ方活かし方



③リフレーミング法

リフレーミングとは視点を変えることで、前向きな長所を発見していく手法です。福祉や医療の現場では、被支援者は自信を失っていることが多く、自分の性格にダメ出しをしたり、挫折で苦しんでいることが多いです。

そのような被支援者と話すときに、タイミングを見てリフレームを一緒にしてみると、思わぬストレングスが発見されることがあります。

例えば

おとなしい性格

をリフレーミングするとどうなるでしょうか?

癒される
圧迫感がない
警戒心を与えない
相手の時間を大事にできる

など、長所として捉えなおすことができそうです。おとなしい…だけでは見えない長所をリフレーミングで発見できるようにしていきましょう。リフレーミングの練習をもっとしたい方は以下のコラムを参照ください。

リフレーミング力をつける

④ライフチャート法

ライフチャート法は、人生を総合的に振り返ることで、自分自身の強みに気がついて行く手法です。具体的には以下のような図を作成しながらストレングスを見つけていきます。

自分の軸を決めよう

横軸に年齢、縦軸は幸福度を表します。援助者の方は、適切なタイミングで被援助者の方に、この図を書いてもらいます。そして、幸福度が下がった原因や上がった原因を充分傾聴していきます。

特に重要なのは、幸福度が上がった原因でそこには、沢山のストレングスが発見できるはずです。ライフチャートについては下記のコラムで詳しく解説しています。参考にしてみてください。

ライフチャート法の活かし方

⑤本棚セラピー法

本棚セラピーとは自分の長所や資源に目を向けていくことでストレングスを発見していく方法です。例えば、こんな感じの本棚をイメージします。ここにたくさんの知識や長所を入れていきます。

コンプレックスを克服する練習

シンプルにできるワークなので、ストレングスを発見する際にとても有効です。項目は自由にアレンジ可能なので、被支援者と相談しながらカテゴリを決めていくと良いでしょう。詳しくは以下のコラムを参照ください。

長所を発見,本棚セラピー

⑥傾聴力をつける

ストレングスを把握する上では、相談者の方と充分話し合う必要があります。この時大事なのが、傾聴力です。傾聴力がある援助者は、相談者と温かい関係を築き、その信頼を元に、深いレベルの自己開示を引き出していきます。

その深いレベルの自己開示により、その人が大事にしている基本的な価値観を発見することができます。基本的な価値観は、その人の生き方そのものにかかわってくるので、ストレングスの中でも重要度が極めて高いです。ストレングスの発見能力は傾聴力がベースになることをおさえておきましょう。

傾聴スキルがやや不足している…と感じる方は、筆者が主催する人間関係講座がおススメです。講座では

相手の話を受け止めるスキル
質問力を向上させるワーク
共感トレーニング
相槌や表情の練習

などを行っていきます。トレーニングをしっかりしたい方は下記を参照ください。

傾聴力をつける人間関係講座

ストレングス,傾聴力

⑦ストレングスコラム法

自分の強みを探す方法に、ストレングスコラム法があります。ストレングスコラム法は、山本(2014)[8]が開発した、日々の生活の中から、自分の強みを発見していく手法です。やや難易度が高い手法となりますが、より発展的な学習をしたい方は、以下の折り畳みを参考にしてみてください。

ストレングスコラム法紹介

ストレングスコラム法は、認知行動療法のコラム法をベースに作られています。コラム法は、落ち込みなどの不快な気分に陥った時に、別の捉え方で状況を再認識することで、メンタルヘルスを改善する手法です。

このコラム法を改変したストレングスコラム法では、次のようにストレングスを発見していきます。

ストレングスコラム法

ポイントは、反証です。

(でも)…はよかった
(でも)…はしている

と様々な面から反証することで、自分のストレングスを探していきます。ストレングスコラム法では、自分の強みとして何があるかを中心に考えを整理するのに役立ちます。詳しくは下記のサイトを参照ください。

ストレングス把握の認知行動療法


ストレングスと3つのプロセス

心理学者のDunn(2017)[9]は、ストレングス視点で支援をする3つのステップを提案しています。

①個人の強みを特定する

最初のステップは、先ほど紹介した7つの方法、観察や面接、強みテストなどを通じて個人の強みを明らかにすることです。このプロセスでは、相手の得意なことや長所に注目します。支援者は、日常的な行動を観察し、対話を通じてその人の価値観や目標を理解することが重要です。

②強みを活動に取り入れる

次に、発見した強みを日々の活動に取り入れ、その活用機会を増やします。強みを意識的に使うことが習慣化されるよう支援します。たとえば、コミュニケーションが得意な人には人と話す機会を設け、問題解決力に優れた人には難しい課題を手伝ってもらうようにします。こうすることで、自己効力感が高まり、日常の中で積極的にその能力を使おうとする姿勢が強化されます。

③小まめにフィードバックを入れる

最後に、小さな成功でも祝い、称賛することが大切です。達成を認めることで自信を持たせます。「今日は難しい仕事を終えられたね」といったフィードバックが、自己肯定感を育むことにつながります。成功体験を積み重ねることで、さらなる成長に向けたモチベーションが高まり、次の挑戦にも積極的に取り組むようになります。

ストレングス サポート

ストレングスモデルの研究

ストレングスモデルに関して量的な研究は少ないですが、ケアをする側のストレングス志向に関する研究や、ストレングスモデルを活かして支援にあたった事例などは報告されています。今回は2つの研究について解説をしていきます。

①退院支援とストレングス志向性

ストレングス志向性とは、支援者側が当事者の強みや長所を理解し、それを支援に反映させようとする態度のことを示します。精神障がい者の支援にあたっては大事な関わり方として注目されています。例えば

当事者に必要な資源は何か
経済面、居住面、職業面の強みは何か
ピアサポート(当事者間の力)を重視する
支援過程では当事者が決定者である

などの項目が挙げられます。杉山ら(2022)[10]は精神障がい者のケアに関わる看護師148名を対象にストレングスについて調査を行いまりました。その結果の一部が下図となります。

図のように、経験年数10~20年の層で高くなっていますが、20年以上になると下がっています。ただ経験年数を重ねるだけでは、支援者のストレングス志向が高まるというわけではないということです。

では、何の要因がストレングス志向を高めるかというと、退院支援を行った経験があるかないかということです。下の図は退院支援経験の有無とストレングス志向の関係です。

上の図から、退院支援の経験がある方がストレングス志向の得点が高くなっています。退院支援の経験を通して当事者の退院後の生活を想定する中でストレングスに注目する機会が多いと推測されます。

②シートの活用とストレングの向上

ストレングスモデルを活用して、支援がうまくいった事例を紹介します。長澤ら(2018)[11]ではストレングスモデルを用いて精神科での支援事例を紹介しています。

事例
60代男性
統合失調症
パーキンソンニズムがあり生活困難になり入院

薬の副作用によって動作がしにくくなり、日常生活が困難となったため入院した方です。当初は、今後自宅での生活は困難になるとの判断でした。そこで、入院中にストレングスモデルに基づくシートを活用し、今後の生活や目標を決めることにしました。シートを活用した対話からは、

自分の家でのんびり暮らすことが夢
買い物は自分一人で行きたい
歩かないとダメになってしまう

などの声が聞かれました。こうした声を退院に向けての支援者会議で活かすことで、サポート体制をしっかりと整えて、自宅への退院を実現したとしています。

まとめ

繰り返しになってしまいますが、人間はだれしも強みを持っていて、その強みを社会や仕事とつなげる手伝いをするのが、福祉家や管理職の仕事です。

率直なことを言えば、相談してくる方の中には社会常識がなく、攻撃的な方もいると思います。やりとりをしていく中で援助者自身が疲弊してしまうことも多々あると思います。

そんな方でも、一緒になって向き合えば、きっとキラリと光るダイアのような強みを発見できるはずです。その強みを一緒に見つけていくのが、仕事の面白さなのかなと感じています。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。

・強みを見つける,ストレングスの発見練習
・短所を長所に,リフレーミング練習
・支援の力をつける,傾聴トレーニング
・相手を成長させる,コーチング練習

🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^) 

ストレングスモデルの意味や活用法,コミュニケーション講座

 

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

*出典・引用文献
[1]佐久川政吉 大湾明美 宮城重二 (2010). 高齢者ケアにおけるストレングスの概念 沖縄県立看護大学紀要11 65-69,
 
 
 
[4]Rapp. C. A., Goscha R. J. (2006)  田中秀樹 (2008). ストレングスモデル 精神 障害者のためのケースマネジメント (第2版),59-102. 東京:金剛出版.
 
[5]Walter E.K. (2009) . The Opportunities and Challenges of Strengths -Based,PersonCentered Practice : Purpose, Principles,and Applications in a Climate of Systems Integration , Saleebey D. , The Strength Perspective in Social Work Practice (FifthEdition) .47-71, Boston, Allyn & Bacon
 
 
[7]Peterson, C., & Seligman, M. E. (2004).Character strengths and virtues: A handbook and classification. UK.: Oxford University
 
 
 
[10]杉山由香里,田中いずみ,遠田大輔,浜多美奈子(2022). 精神疾患をもつ人と関わる看護師のストレングス志向性と経験および教育による比較 日本精神保健看護学会誌 31(2)65-70
 
[11]長澤亜矢子,重野みどり,柳津さやか,細田かず子(2018).ストレングスモデルを活用した意思決定支援 信州大学医学部附属病院看護研究集録 46 (1)57-59