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自我を育てる,鍛える方法

日付:

自我を育てる,鍛える6つの方法

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「自我を育てる方法」についてご相談を頂きました。

自我がない

 

相談者
32歳 男性

お悩みの内容

私は小さいころから、自分で物事を決めるのが苦手でした。親が厳しかったので、言われるがまま育った感じがあります。反抗期はなく、いい子だったと思いますが、一度しかない人生で、これでいいのかと悩んでいます。

検索していたところ「自我を育てる」という用語が自分にぴったりな気がしました。詳しく教えてください。

「自分がない」と感じる状態ですと、人生を主体的に生きている気持ちになれず、もやもやしてしまいますよね。当コラムでは自我を育てる方法を提案させて頂きます。是非最後までご一読ください。

自我の意味とは

日常生活では、「自我が弱い」「自我が強い」と言ったりしますが、まずは意味からおさえていきましょう。自我とは

「わたし」という感覚
行動の主体が自分であるという感覚
他人と区別できる自分

このような意味があります。例えば、赤ちゃんはまだ自我が芽生えていません。赤ちゃんは「わたし」という感覚がないのです。そのため、鏡を見ても、それがまだ自分だとわからないのです。

これが1歳半ぐらいになってくると、自分のことを「〇〇ちゃんは」と自分を呼ぶようになります。これがもっとも原始的な自我の芽生えになります。(守,2015)[1]

幼児の自我の芽生えを年齢別

以下、自我に関連するワードについて解説をしました。興味がある方は折り畳みを参考にしてみてください。

自分,自己,自我の違いとは

・自分とは何か
「自我」とは「ego(エゴ)」を指しますが、上記の表にもある「わたし」「ぼく」といった第一人称と関連があります。第一人称というと「自分(ジブン)」という人もいるのではないでしょうか? 割と任侠モノの映画などでは、第一人称を「自分」といっていますよね。

「自分」とは「自らを分ける」と書きます。何と「分けて」いるのでしょう? 先ほど乳幼児の話をしましたが、自我の芽生えていない乳幼児は「唯我独尊(ゆいがどくそん)」状態で、世界の中心にいて、世界と一体化している状態と言えます。成長していくうちに、親という存在がいて、困った時などの世話をしてくれる「他者」がいることに「気づき」ます。他者や周りの世界と「自ら」を「分けて」「自分」がいるのです。つまり、「自分」という場合は、常に「他者」の存在が必要になります。

・自己とは何か
別の言い方として、「自己=self(セルフ)」があります。霜降り明星の粗品のツッコミに「セルフ〜」というのがありますが、セルフとは自己という意味です。自己は「自」「己」という第一人称を表す漢字の組み合わせですね。

「自分」とは違って、他者の存在は必要ないことになります。「自己完結」という言葉があるように、一人の意味を表すことになります。

・自我との関連
自我は、その人のメンタルを示す言葉です。「自我の発達」という言葉はありますが、「自分の発達」「自己の発達」という表現はあまりしっくりきませんね。フロイトが、彼自身の精神分析・性的発達論で「自我=id, ego」という用語を使っている意味はここにあると思います。

 

自我のメリット,デメリット

次に自我を鍛えるメリットとデメリットを考えていきましょう。

メリット

幼児は「わたし」に目覚めることで、「わたし」の意見を持ち、「わたし」の行動を自分で決め、「わたし」の成功と失敗に対しての責任を負っていきます。

「自分自身で決め、自分で責任を負う」という感覚があるので、主体性が育ち、自信をもって生きて行くことができます。中尾ら(2005)[2]は、自我の強さと心の健康について調査を行いました。結果の一部が下図となります。

自我 自尊感情

ER(Ego-Resiliency:自我レジリエンス) とは、ストレスのある状況で、自身について柔軟に制御・調整するための能力です。

つまり
「対他的ER」=他人と関わるときの自我の強さ
「対自的ER」=自分をコントロールするための自我の強さ
を指します。

結果から、それぞれ自尊心と結びついていることがわかります。つまり自我が安定している人は、自分に自信をもっている傾向があると言えるのです。

デメリット

つづいて自我を鍛えるデメリットもおさえてきましょう。

対他的な自我が過剰になっている方は、「わたし」が強すぎるため、自己主張が肥大化し社会性が低くなります。そのため、相手の意見を聞けなくなったり、無視したりするようになってしまったりします。

また、対自的な自我が強すぎる方は、自分をコントロールする力が高すぎるため、自分の本能を必要以上に抑えてしまうことがあります。例えば、好きな人ができたとしても、「いや!今の時期は仕事に集中しないと!」と素直な気持ちを抑えてしまうことがあるのです。

自分の原始的な感情を抑え続けると、心身症と言って体に問題が起こることもあるので注意が必要です。

健康的な自我は必要

このように自我を育てる事にはメリット・デメリットがありますが、これまでの心理学の研究では概ね自我を育てることはプラスの効果が大きいことがわかっています。

過剰にならない程度に健康的に自我を育てていけるようにしましょう。

 

自我を育てる,鍛える

 

自我を育てる6つの方法

ここからは自我を鍛える6つの方法を提案させて頂きます。

①能動的に発信する
②日記を書く
③メタ認知力をつける
④感情コントロール力をつける
⑤アイデンティティを確立する
⑥仏教と自我の確立を抑える

①能動的に発信する

自我が弱い人の特徴として、受け身の生活をしていることが挙げられます。テレビを1日中見ている、YouTubeをただ見ている、SNSの投稿を眺めている…このような傾向がある方は注意が必要です。

改善する対策としては「わたし」を表現する時間を増やしていくことです。例えば、テレビは1日30分と決め、空いた時間を自分と向き合う時間に充てたり、ブログを書く時間にあてたりすると良いでしょう。

SNSを眺める時間を減らし、投稿する時間に充てるのもいいかもしれません。受信系の生活から、発信系の生活に変えていく意識を持つようにするのがコツです。

②日記を書く

自分の考えを文字に起こすことも有効です。目に見えるカタチにすることで、思考のプロセスが分かり、自分の考えを整理できます。

特に日記を書くことは自我を鍛える上でとても効果的です。ただ事実を綴るだけではなく、今日あった出来事に対して、自分がどのように考え、次はどうしたいのか、など自分の考えをしっかり綴るようにしましょう。

③メタ認知力をつける

メタ認知力とは

自分自身を観察する力 
感情や考えを客観視する力
深い部分にある考えをみつける力

を意味します。メタ認知力がある方は「わたし」をしっかり見つけ、深掘りし、自分が進むべき道を見つけることができます。

例えば、

「今私は〇〇と感じてる」
「私は〇〇をしたいと感じている」
「私は本当は〇〇と考えている」

このような問いかけをしていくとメタ認知力をつけることができます。自分を客観視するのが苦手…と感じる方は以下のコラムを参照ください。

メタ認知力のトレーニング法

メタ認知

④感情コントロール力をつける

自我が弱い人は、本能の赴くままに行動してしています。例えば以下のような行動が挙げられます。

ダイエット中なのにお菓子を食べ過ぎる
勉強をしようと思ってもすぐにスマフォを見る
嫌なことがあるとすぐに口してしまう

このような状態が続くと、「わたし」が立てた目標を達成することが困難になります。自我が安定している人は、多少のトラブルや感情の揺れ動きがあったとしても、「わたし」をしっかり立て直し、やるべきことを着実に進めていくことができます。

以下のコラムでは感情コントロールが苦手な方向けの対策を提案しています。気が付くとやるべきことを投げ出している…と感じる方は参考にしてみてください。

感情コントロール力をつける方法

⑤アイデンティティを確立する

エリクソンという心理学者はライフサイクル論の中で、アイデンティティの確立という言葉を使いました。アイデンティティの確立とは

自分とは何か?を理解する
自分がやりたいことを明確にする
自分の生きる上で大切な価値観を見つける
社会に居場所を見つける

これらの意味があります。自分がやりたいことはなにか、人生で取り組むべき課題はなにか、何を使命として生きるかが明確になると、自我が安定し、人生を充実させることができます。以下のコラムを参考に、是非アイデンティティを確立していきましょう。

アイデンティティを確立する方法

⑥仏教と自我の確立を抑える

①~➄については心理学的な自我の確立を土台として解説をしてきましたが、歴史としては仏教のほうが自我の確立については歴史が長く語り継がれてきました。

仏教においては、自我の確立は概ね、悩みの種と考えていくのが一般的です。なぜなら「自分」を確立しようともがくと、「自分」の財産、「自分」の学歴、「自分」の好きな人を手放したくない、と際限なく悩みが増えていくからです。最終的には、「自分」へのこだわりが肥大化すると、戦争にすらつながることもあります。

そのため、仏教上は自分にこだわらないようにするとされているのですが、ここで矛盾が生じます。それは自分にこだわらないようにするとしても、結局は自分を捨て去ることはできないということです。さらに言えば、心理学的には自我の確立は、学術的な研究ではメンタルヘルスには前向きな結果が出ています。

ではどうすればいいのか?岡野(2000)は、自我の確立は最終的には、

すべて存在と限りなくつながりあいながら、ある一時期、あるかたちを現わしているものとしての私という目覚めが生まれる

としています。自我の確立は、自分だけの人生、自分だけの目標、という感覚ではなく、あらゆるものと繋がった上での自分を認識しながら確立していくことが大事なのかもしれません。岡野先生の自我論については動画でも解説しました。気になる方はご参照ください。

 

あとがき

私は心理学も仏教も好きです。心理学的には、自我の確立は大きなテーマとされ、基本的には前向きに確立していくことが心の安定に大事と考えられています。

人間はある程度、コントロールされて生きているものです。DNAは人の基本的な性質を決めていますし、社会のルールは私たちの生き方に制約を課しています。

しかし、それ以外の部分では「わたし」の生き方は自由です。わたしはわたしの生き方があり、それはわたしにしかわかりません。深く自分と向き合い自我を確立できると、人生の意義を十分実感し、充実した生活を歩むことができます。

一方で自我の確立がゆがんだものになると、自分勝手になったり、周りの悩みが聞けなくなったり、執着が強すぎて悩みだらけになってしまうこともあります。この点については仏教的な思想も面白いですね。

奥が深い自我論。自分とは何か?は生涯続く問いなのかもしれません。

お知らせ・発展編

ここからはお知らせと発展編です。

しっかり身につけたい方へ

当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。

・自我を鍛える,考えを発言する練習
・自分を観察,考えを知る,メタ認知練習
・アイデンティティを確立するワーク
・性格分析で自己理解を深める

体験受講に興味がある方は下記のリンクからお待ちしています。筆者も講師をしています(^^) 

心理学講座を体験してみる

コミュニケーション講座,初心者

自我の詳細動画

自我については、動画解説もあります!
*チャンネル登録をして下さると励みになります(^^)

自我と学術的な研究

以下のコラムでは、自我に関する、様々な分野の見解を解説しています。理解を深めたい方は参考にしてみてください。

自我の意味とは

自我を育てる,鍛える方法,心理学講座

 

助け合い掲示板

2件のコメント

コメントを残す

    • おっきー
    • 2024年4月17日 4:09 AM

    自我は真我へ行き着きます。
    ラマナマハルシ等の本を読めば良いです。

    結局自分を捨て去る事はできない、とおっしゃられていますが、
    自分を捨て去る事は出来ないのではなく、もともと自分はなかった。自分があると勘違いしていた。が正しい理解かと思います。
    そこに永遠の静寂と平安があります。

    返信する
    • Ruria (るりあ)
    • 2021年5月10日 6:34 PM

    私は皆によく 自我が強いといわれますが
    全然そんな事はありません。
    チェックする所があったのに
    全部当てはまりませんでした。
    私はどっちなんですか?

    返信する

コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典
[1] 守 秀子 (2015). 幼児期の自称詞使用に関する実態調査  文化学園長野専門学校研究紀要, 7, 15-28.
 
[2] 中尾 達馬・加藤 和生 (2005). CAQ 版 ER 尺度 (CAQ-Ego-Resiliency Scale) 作成の試み  パーソナリティ研究,13, 272–274.