深呼吸の効果とやり方,何秒が適切?
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「深呼吸のやり方」についてご相談を頂きました。
相談者
38歳 女性
お悩みの内容
私は昔から感情の起伏が激しく、情緒不安定なところがあります。一度心配すると不安がどんどん大きくなってしまいます。また、カッとなりやすいところもあり、強い口調で怒ってしまうこともあります。友人から深呼吸をすると落ち着くと言われたのですが、詳しいやり方を知りたいです。
喜怒哀楽がはっきり表現できることは人間らしい一面でもありますが、マイナス感情が大きい時は落ち着くことができるようになるといいですね。当コラムでは、深呼吸の基本的な理解とエクササイズを紹介させて頂きます。目次は以下の通りです。
・深呼吸の効果
・6秒呼吸法
・3分呼吸法
・10分瞑想法
せひ最後までご一読ください。
深呼吸とは何か
まずはじめに深呼吸とは何か?理解を深めていきましょう。
意味
心理学者の益谷ら(2010)[1]によると、深呼吸は以下のように定義されています。
吸気3秒
呼気15秒の呼吸
もちろん、この秒数に拘らなくても深い呼吸はできますが、1つの目安にはなるでしょう。また、深呼吸には様々なポジティブな効果があることがわかっています。
心と体への効果
益谷ら(2010)[1]は、看護専門学校の学生39名を対象に、深呼吸のトレーニングを4週間行いました。研究の中では、3つのストレス反応の変化が測られました。
①情動反応
悲しい気持ちだ、泣きたい気分だ、いらいらするなど情緒的な反応
②認知行動反応
頭の回転が鈍い、人と会うのが煩わしい、行動に落ちつきがないなど認知や行動に関わる反応。
③身体反応
身体が疲れやすい、息苦しくなる、動作が遅いなどの身体に関わる反応。
その結果が以下の図です。
このように、1週目からストレス反応が急激に低下していることが分かります。特に影響が大きいのは、情動反応と認知行動反応ですね。それ以降の週では、ストレスの減少が緩やかになっています。
やる気を取り戻す効果
井上ら(2016)[2]では、大学生58名を対象に、ため息とやる気の関係について調査を行いました。
その結果が以下の図です。
このようにため息群の方が、パズル課題への持続性が伸びていることがわかります。パズル課題への持続性は困難なパズルを継続した時間のことです。つまりため息には、難しい作業へのモチベーションを保つ効果があると考えられます。
冷静になる効果
深呼吸ができると人生の大きな失敗を防ぐことができます。心理学の用語に「自動操縦」という言葉があります。自動操縦とは、感情の赴くまま、まるで感情に操縦されているように行動してしまうことを意味します。自動操縦状態は様々な人生の失敗をもたらします。
「怒りに任せて暴言を吐いてしまった」
「イライラして手をあげてしまった」
「ムカムカして暴飲暴食してしまった」
「つらい気持ちが強くなり突発的に自傷行為をしてしまった」
こんな経験がある方は大抵の場合、感情コントロールができず、自動操縦状態になっているのです。
こういう時、深呼吸をして、自分の感情を落ち着かせることができると、やってはいけない行動にストップをかけやすくなります。感情に流されそうだ…と感じたら、深呼吸をするようにしましょう。
深呼吸の種類とやり方
それでは、深呼吸の種類とやり方を見ていきましょう。深呼吸には、以下の3つの方法があります。
①6秒呼吸法
②3分呼吸法
③10分呼吸瞑想法
④マインドフルネス呼吸法
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①6秒呼吸法
まずは6秒呼吸法を紹介します。やり方はシンプルです。
・息を吸う
口を閉じて、鼻から3秒程度しっかり息を吸う
自分を落ち着ける綺麗な空気が入ってくるイメージを持つ
・息を吐く
口を開けて、3秒以上しっかり息を吐く
自分のネガティブな感情が体から出ていくイメージを持つ
・使うタイミング
日本アンガーマネジメント協会によると、怒りのピークは6秒と言われています。私の現場経験でも、6秒の感情コントロールができるようになるだけで、人生の致命的な失敗をかなり避けることができると感じています。
カッとなった!
暴言を吐きそう!
自暴自棄な行動をとりそう!
こんな状態になったら、6秒深呼吸を試してみてください。シンプルですが、致命的な行動を避けることができるようになります。
②3分呼吸法
3分呼吸法は、時間をとって、よりリラックスする深呼吸法です。手順は以下のとおりです。
息を吸う
5秒ほどかけて、鼻から息を吸います。
リラックスした空気が体を循環し、全身に心地よい空気が入り込んでいるイメージを持つと効果的です。胸で息を吸うのではなく、お腹で息を吸う感覚を大事にします。
息を少し止める
2秒ほど息を止めます。苦しくない程度でOKです。
息をゆっくり吐く
10秒ほどかけて、口からゆっくり息を吐いていきます。
ネガティブな感情が体の外に出ていくイメージを持ちましょう。
これを3分ほど繰り返すと、かなり落ち着くと思います。
使うタイミング
3分間呼吸法は、長時間続いているネガティブな気持ちを落ち着けるのに効果的です。
仕事のことを考えイライラする
連絡が返ってこなくて不安になる
明日はプレゼンで前日寝付けない
このような時におススメです。ちなみに、私は講演前の緊張しやすい時間に控室で実施することもあります。
③10分間呼吸瞑想法
10分間呼吸瞑想法は、時間をかけて深呼吸を行い、自分と向き合いたい時に有効です。手順は以下の通りです。
姿勢を正す
座布団や柔らかい椅子に腰掛けます。座り方は、楽な姿勢でOKです。上から糸で頭のてっぺんを引っ張られているイメージで、背筋をピンと伸ばします。顎は引きすぎず出し過ぎず、自然な位置でキープしましょう。姿勢が決まったら、ゆっくりと目を閉じます。
息を吸う
5秒ほどかけて、鼻から息を吸います。
リラックスした空気が体を循環し、全身に心地よい空気が入り込んでいるイメージを持つと効果的です。胸で息を吸うのではなく、お腹で息を吸う感覚を大事にします。
息を少し止める
2秒ほど息を止めます。苦しくない程度でOKです。
息をゆっくり吐く
10秒ほどかけて、口からゆっくり息を吐いていきます。ネガティブな感情が体の外に出ていくイメージを持ちましょう。
呼吸のリズムが安定するまで、このゆったりした呼吸を続けます。
思考や感情を観察する
次に、思考・感情・体の感覚を観察していきます。
楽しい気分だな
落ち着いている気分だ
少し不安が浮かんだな
体がほぐれている
明日の仕事のことが気になっているな
このように自分を観察しながら、呼吸を維持していきます。
使うタイミング
自分自身と深く向き合いたい時に有効です。
自分の価値観を見つけたい
自分の深い感情を見つけたい
心と体をスッキリさせたい
このようなタイミングで実施してみましょう。落ち着いた時間に実施するのがおススメです。休日の早朝に行うなど、自分自身の落ち着ける時間を探して、定期的に行うようにしましょう。
④マインドフルネス呼吸法
10分間呼吸瞑想法よりも、さらに瞑想に近い呼吸法です。ネガティブな感情に自動操縦されやすい人におすすめです。手順は以下の通りです。
姿勢を正す
座布団や柔らかい椅子に腰掛けます。座り方は、楽な姿勢でOKです。上から糸で頭のてっぺんを引っ張られているイメージで、背筋をピンと伸ばします。顎は引きすぎず出し過ぎず、自然な位置でキープしましょう。姿勢が決まったら、ゆっくりと目を閉じます。
「呼吸」に集中
自然に呼吸を続けます。呼吸に合わせて、お腹が膨らんだりへこんだり、肩が上下する感覚を意識します。身体感覚の変化に注意を払いながら、息の出入りや、息と息の小休止にも意識を向けます。
意識を向けなおす
呼吸を続けていると、様々な考えや雑念が浮かんできます。どのくらい時間が経ったかな…お腹すいたな…ご飯は何を食べようかな
…やり方はこれであってるかな…、これはよくあることで、失敗ではありません。呼吸から意識が離れたことに気づいたら、そのたびに、注意をそらせたものは何かを確認し、再び呼吸へと注意を戻します。浮かんだ考えを「良い」「悪い」と評価せず、それが過ぎ去るまでそのままにし、何度でも呼吸へと注意を戻します。
タイミング
ルーティンワークとして行うのがおすすめです。10分程度が目安ですが、もっと長い時間取り組んでもOKです。マインドフルネス呼吸法を続けていくと、自分の考えや感情から距離を取ることができるようになっていきます。寝る前、早朝、通勤中の電車内など、タイミングを決めて定期的に行うと効果的です!
マインドフルネス呼吸法は、マインドフルネスの考え方や姿勢を学ぶとより効果的です。理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
まとめ
深呼吸は、気持ちを落ち着かせたり、ストレスを軽減させてくれます。6秒深呼吸は、カッとなってしまった時、衝動的に行動してしまいそうになった時などで実践してみてくださいね。
また、3分深呼吸は、緊張する場面の前の準備時間に行うようにしましょう。そして、10分間の瞑想は、1日の中で時間の取れるときに行ってみてください。
呼吸の歴史は5000年以上あると言われています。それだけ人間にとって効果がある証拠です。是非ご活用ください。
お知らせ・発展編
ここまでは深呼吸の基礎について解説をしてきました。ここからは「講座のお知らせ」と「発展編」になります。
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・深呼吸練習,リラックスワーク
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マインドフルネス療法
深呼吸と相性が心理療法はマインドフルネス療法です。マインドフルネス力をつけると自分の気持ちや感情を客観視する力がつきます。特に10分呼吸瞑想法と相性よく効果的です。以下のコラムもぜひ参考にしてみてください。
漸進的筋弛緩法
漸進的筋弛緩法は、からだと心のリラックスを獲得できる伝統的な手法です。緊張しやすい、不安になりやすい、不眠傾向がある、というお悩みに効果があります。興味がある方は以下のコラムもぜひ参考にしてみてください。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1] 益谷真・益谷望 (2010). 深呼吸の健康心理学的考察 敬和学園大学研究紀要,19, 93-99.[2] 井上佳奈・山本佑実・菅村玄二 (2016). ため息はやる気を高める―随意的嘆息が安堵と動機づけに与える効果― 心理学研究87巻2 号
「呼吸」字のごとく最初は「呼く」ことから始まります それから「吸い」ます。これが「呼吸」です。