社交不安症(障害)と心理療法➄マインドフルネスを対人恐怖症に活かす
こんにちは、社交不安症専門カウンセラーの川島達史です。今回の記事では、社交不安症に効果的なマインドフルネス心理療法について詳しくお伝えします。シリーズの全体の目次は以下の通りです。
①.社交不安症の基礎知識
②.認知療法‐考え方の柔軟性
③.認知療法‐認知の歪みの改善
④.行動療法-段階的な挑戦
⑤.マインドフルネス療法
⑥.森田療法,対人恐怖の治療
⑦.ソーシャルスキルトレーニングの基礎
⑧.アサーション,主張の技術
社交不安症の方は人と話すと不安が大きくなりすぎて混乱することがありますが、マインドフルネス心理療法を学ぶことで、その混乱した状態から素早く冷静になる力が身につきます。ぜひ最後までお読みください。
なお、当コラムは動画でも解説しています。コラムの補助としてご活用ください。
マインドフルネスとは何か
マインドフルネスとは、体や感情を観察し、価値判断することなく「今この瞬間」を受け入れる心理療法です。ここ20年間ほどで急速に発展してきた手法で、不安症状の改善に効果を発揮します。
二宮ら(2020)の研究では、被験者40名を対象に、マインドフルネスを実施したグループと実施しなかったグループを比較しました。その結果、実施したグループのみ不安感が軽減されたという結果が出ています。
このように、マインドフルネスには不安感を軽くする効果があることが様々な研究でわかってきています。社交不安症についても同じく、強い不安感を軽くする効果が期待できるのです。
「今ここ」を大事にする心構え
「今ここ」という言葉は、マインドフルネスの中心的な考え方です。なぜこれが大事なのか、具体例で説明していきましょう。
過去や未来への執着が不安を生む
例えば、「明日30人の前で発表する」という状況があったとします。社交不安症の方にとっては非常にプレッシャーを感じる場面でしょう。
この時、過去に焦点を当てる人は、
「中学生の時に教科書を読んだ時に声が震えて笑われた」
といった嫌な記憶を思い出し、また失敗するに違いないと落ち込んでしまいます。
一方、未来を想像する人は、
「眉間にしわを寄せた上司が否定的な評価をするかも」
「声が震えて頭が真っ白になり、原稿が読めなくなるかも」
など、まだ起きていない否定的な出来事に思いを巡らせ、不安を大きくしてしまいます。
「今この瞬間」に意識を向けることの効果
「今ここ」に焦点を当てると、今この瞬間には上司が目の前にいるわけでもなく、過去の嫌な出来事が起こっているわけでもありません。今やるべきことに集中できる心理状態になれます。
例えば、明日の発表に向けて原稿を作成し、練習するといった今やるべきことに集中できるようになります。
社交不安症の方は、過去の苦い経験や未来の人間関係のトラブルを想像して不安を大きくしがちです。「今この瞬間」を生きる感覚を高めることで、不安感を軽減し、目の前のことに集中する力がつきます。
自動操縦と脱中心化について
マインドフルネスを理解するうえで重要な概念が「自動操縦」と「脱中心化」です。この二つの状態を理解することで、自分の感情や行動をより良くコントロールできるようになります。
自動操縦状態とは
自動操縦とは、意識的な努力を伴わず、感情や習慣によって無自覚に行動してしまうことです。いわゆる「我を忘れている状態」で、感情の赴くままに行動するイメージです。
社交不安症の方の場合、「人が怖い」という感情に支配されてしまい、気づいたら人を避けるという行動をとっているのが自動操縦状態です。この状態では、自分の目標や本来の意図とは別の行動をとってしまうことが多いのです。
脱中心化の意味と効果
一方、脱中心化とは、自分の感情や考えを客観的な視点から把握し、冷静に扱える状態のことです。感情と距離を置いて、冷静に行動することができるようになります。
例えば、私自身もNHKの生放送に出演する際は、緊張から自動操縦状態になりそうになります。しかし、「コミュニケーションで悩む人を一人でもなくしたい」という目標を達成するためには、その不安感に流されないことが大切です。
そこでマインドフルネスのエクササイズを活用し、感情を観察しながらも、本来の目標に向かって行動できるよう心をコントロールしています。脱中心化ができると、不安を抱えながらも、自分がすべき行動を選べるようになるのです。
マインドフルネスのエクササイズ
マインドフルネスを実践するための具体的なエクササイズを2つ紹介します。これらは日常生活で簡単に取り入れられるものですので、ぜひ試してみてください。
深呼吸法のやり方
まず1つ目は深呼吸法です。具体的には、
鼻から息を吸う
口から息を吐く
シンプルですが、このとき体の感覚をしっかり感じるようにしてください。
なぜ呼吸がマインドフルネス的なのかというと、呼吸は過去でも未来でもなく、「今この瞬間」にするものだからです。呼吸に意識を向けることで、自然と「今ここ」という感覚に近づくことができます。
十分に呼吸の感覚に目を向けられたら、次に自分の感情や思考を観察してみてください。
「今、不安になっている自分がいるな」
「緊張している自分がいるな」
といった形で、価値判断せずにフラットに観察します。そして大切なのは、その感情をなくそうとしないことです。その状態に至れば、十分に脱中心化できている状態になります。
レーズン法(食べ物を使った練習)
2つ目はレーズン法です。小さな食べ物(レーズンや梅干し、アメなど)を用意しましょう。
その食べ物をよく観察する
ゆっくりと味わって食べる
味わうという行為も、過去でも未来でもなく「今この瞬間」に起こるものです。よく味わうことで「今ここ」という感覚を高めることができます。
十分に「今ここ」の感覚が高まったら、先ほどと同じように感情や考えを観察します。そして「自分は何をやるべきだったのか」を確認し、それに沿って行動していくことが大切です。
社交不安症が重症化すると、人間関係の悩みで頭がいっぱいになり、食事中も味わえないといった状態になりがちです。そんな時こそ、不安を持ちながらも、目の前の食事をしっかり味わう、美しい景色を楽しむ。「今この瞬間」の喜びを感じながら、やるべきことを一つ一つこなしていくことが、マインドフルネス的な生き方と言えるでしょう。
日常生活でのマインドフルネスの活用法
マインドフルネスは少し抽象的に感じるかもしれませんが、実際の日常生活でどう活かせばよいのか、具体例を挙げて説明していきます。
発表や人前での話し方に活かす方法
例えば、「明日30人の前で発表がある」という状況で、未来への不安から自動操縦状態になっている場合、以下のような流れでマインドフルネスを行っていきます。
まず深呼吸法を実践する
(鼻から吸って、口から吐く)
自分の感情を観察する
やるべきことに集中する
(明日の原稿を書くなど)
ある程度落ち着いたら、今やるべきことに焦点を当て、「この不安感は未来に起こることを想像している不安感であって、今そういった悩みが実際に起こっているわけではない」と認識します。今この瞬間に自分ができることは何かを考え直し、例えば原稿を書いて練習するなどの行動に結びつけていきます。
人間関係の不安に対処する方法
もう一つの例として、「明日食事会がある」という状況で不安を感じている場合、
例えば焼き芋を食べる
過去からの意識を今に戻す
自分の感情を観察する
今やるべきことをやる
(食器を洗う、部屋を掃除するなど)
食べるという行為は「今ここ」の体験そのものです。しっかり味わうという意識を持って食事をすることで、過去に向いていた意識が今に戻ってきます。
「今ここ」の感覚を高めた後、一旦自分の感情を観察してみましょう。「あ、さっきは過去のことを思い悩んでいたな。そうか、過去に嫌なことがあったからな」という感じで自分を客観視して観察します。この観察している状態が脱中心化できている状態です。行動の制御がしやすくなるでしょう。
次のコラムへ進む
今回はマインドフルネス療法について紹介しました。次回は森田療法について解説していきます。森田療法は気分(不安などの感情)ではなく、目的を大切にして行動していく心理療法です。社交不安症や対人恐怖でお悩みの方は、ぜひ本シリーズを参考にしてください。
①.社交不安症の基礎知識
②.認知療法‐考え方の柔軟性
③.認知療法‐認知の歪みの改善
④.行動療法-段階的な挑戦
⑤.マインドフルネス療法
⑥.森田療法,対人恐怖の治療 次回はこちら
⑦.ソーシャルスキルトレーニングの基礎
⑧.アサーション,主張の技術
カウンセリングのご案内
筆者は社交不安症専門のカウンセリングも行っています。一人での改善が難しいと感じる方は、ぜひお力になりたいと思います。まずは初回のアセスメントから、お気軽にご相談ください。
社交不安症専門のカウンセリングはこちら。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連