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社交不安症(障害)と心理療法⑦ソーシャルスキルトレーニング,SSTの基礎

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社交不安症(障害)と心理療法⑦ソーシャルスキルトレーニング,SSTの基礎

みなさん、こんにちは。社交不安症専門カウンセラーの川島達です。この記事では社交不安症の方に特化した心理療法を8つに分けて解説します。シリーズの全体の目次は以下の通りです。

①.社交不安症の基礎知識
②.認知療法‐考え方の柔軟性 
③.認知療法‐認知の歪みの改善
④.行動療法-段階的な挑戦
⑤.マインドフルネス療法
⑥.森田療法,対人恐怖の治療
⑦.ソーシャルスキルトレーニングの基礎
⑧.アサーション,主張の技術

前回までは基礎知識、認知療法、行動療法、マインドフルネス療法を扱いました。今回はかなり終盤に差し掛かります。前回までは心のあり方、社交不安、人と話す時に怖いという気持ちや、ドキドキ緊張してしまう気持ちをどうやってほぐしていくかという視点で解説してきました。

今回からはソーシャルスキルの基礎とアサーティブコミュニケーションに注目し、心の問題だけではなく実際に現実の人間関係をどうやって健康的にしていくのかという技術的な面、現実的な面をお伝えします。

なお、当コラムは動画でも解説しています。コラムの補助としてご活用ください。

ソーシャルスキルとは何か

7回目となる今回はソーシャルスキルに焦点を当てて詳しく解説します。

ソーシャルスキルとは?

ソーシャルスキルとは、人間関係を健康的に築くための技術の総称です。元々ソーシャルスキルは約70年前からトレーニングが開始されました。

当初はうつ病の方や統合失調症の方を中心に主に病院でこのソーシャルスキルのトレーニングが行われていました。しかし、心理学の分野では日陰というか2軍3軍の扱いを受けていた分野でした。その後、ソーシャルスキルに関する研究が進み、メンタルヘルスに非常に重要であることが明らかになってきました。

特に社交不安症の方に、ソーシャルスキルが対人不安の改善や孤独感の改善に重要であることがわかっています。そのため現在は医療機関はもちろん、学校や企業でもソーシャルスキルトレーニングが導入されつつあるのです。

社交不安 ソーシャルスキル 学校

ソーシャルスキルの重要性

一方でソーシャルスキルを体系化して訓練できる場所は日本ではほぼ存在しません。特に日常生活で総合的、網羅的に会話の技術を高めていくトレーニングを提供できるのは日本では非常に限られています。

本記事にたどり着いた読者の皆さんは、ソーシャルスキルの全体像を効果的に学ぶことができるでしょう。ぜひ一緒にソーシャルスキルを高めていきましょう。

ソーシャルスキルの全体像

ソーシャルスキルの全体像について見ていきます。以下の図はソーシャルスキルを体系的にまとめたものです。

社交不安 ソーシャルスキル全体像

言語スキル

まずソーシャルスキルの土台となるのは言語スキルと非言語スキルです。

言語スキルはいわゆる国語力に相当します。語彙の豊富さや文法を正しく使える能力がこれにあたります。

例えば語彙が全くなく何でもかんでも「いいね」「いいね」しか発言できなければ、会話はかなり貧相なものになってしまいます。言葉のやり取りの基盤となる語彙力や日本語の文法を正しく使える能力は、基本的なソーシャルスキルの土台となる部分です。

非言語スキル

人間のコミュニケーションは言葉のやり取りだけではありません。非言語的要素として表情、声の抑揚、身振り手振りなどがあり、さらには服装や香りといった要素も重要です。ソーシャルスキルの土台は言葉の力と非言語的要素の両方であると認識しておくことが大切です。

社交的スキル

発展的なスキルとして、大きく分けるとソーシャルスキルには2つの種類があります。「社交的スキル」と「主張スキル」です。

社交的スキルは人間関係を前向きに築き、仲良くなっていくための技術です。代表的なものには、傾聴スキルと発話スキルがあります。さらに展開スキルとして会話を様々な人に振ったり次の話題へつなげたりする技術や、「ポライトネス理論」と呼ばれる会話を適度に崩したりユーモアを持たせたりするコミュニケーションスキルなどが社交的スキルに含まれます。

主張スキル

社交的スキルで人間関係を築いていくと、お互いの仲が良くなっていきます。しかし人間関係は必ずしも順調に進むわけではなく、価値観のずれや利害関係からトラブルが生じることがあります。

この時に重要となるのが「主張性スキル」です。別名「葛藤解決スキル」とも呼ばれ、人間関係にトラブルが生じた時に柔らかく問題を解決し、関係を維持するためのスキルです。

具体的には、アイメッセージ法、イエス・バット・イエス法、DSC法、限界設定などが含まれます。
運動に例えると、言語力や非言語力は基本的な体力や筋力、柔軟性などの基礎的な部分に相当します。一方、社交的スキルや主張スキルは水泳でいえばクロールや平泳ぎといった具体的な泳法技術に相当します。

ソーシャルスキルの効果

社交的スキルを身につけることでどのような効果が得られるのか、相川先生の研究をもとに解説します。

対人不安と孤独感の軽減

相川先生は学生222名を対象にソーシャルスキルと対人不安、孤独感、抑うつ感との関係を調査しました。その結果、ソーシャルスキルが増えると対人不安が減少し、孤独感が軽減し、抑うつ感も改善することが明らかになりました。

社交不安 ソーシャルスキル 対人不安

会話の技術が向上することで、人間関係をしっかり築けるというポジティブなイメージが増え、対人不安、つまり人と話すことへの不安が軽減します。また実際に人間関係を築く場面も増えていきます。

メンタルヘルスの改善

孤独感が減少すると、自分の悩みも打ち明けやすくなり、皆と気兼ねなくくだらないことで笑ったりする機会が増えます。そのためメンタルヘルスも改善し、抑うつ感が軽減するという関係があります。
ソーシャルスキルを向上させると様々なメリットがありますので、人間関係を築く技術を体系的に習得することは非常に重要です。

傾聴スキルの基本

次に具体的なスキルを紹介します。今回は主に傾聴スキルと発話スキルを扱います。主張スキルは次回しっかり解説します。

オウム返し法の実践

傾聴スキルは細かく分類すると約30種類ありますが、最低限押さえておくべき3つのスキルを紹介します。まず1つ目は「オウム返し法」です。相手の話をしっかりと受け止めて繰り返す技術です。

具体的には、以下のようにオウム返ししていきます。

相手「私が好きなのは中華料理です。チャーハンが大好きです」
自分
「チャーハンにはまってるんですね」
「チャーハンなしではいられないんですね」
など

特に「好き」という感情を含む言葉は人間関係構築において重要なので、必ず返すようにすることが大切です。単に繰り返すだけでなく、少し言葉を変えて返す方がより自然な会話となります。

肯定返し法

2つ目は「肯定返し法」です。繰り返すだけでなく、お土産付きでその内容を褒めて返すという技術です。

具体的には、以下のようにオウム返ししていきます。

相手「私が好きなのは中華料理です。チャーハンが大好きです」
自分「チャーハンはボリュームがたっぷりなのでお腹減ってる時もう最高ですよね」

という形で繰り返すだけでなく肯定して返します。

質問スキル

3つ目は「質問スキル」です。会話が途切れた時や相手に興味を示すために質問をする技術です。ただし使いすぎには注意が必要です。具体的には、以下のようにオウム返ししていきます。

相手「私が好きなのは中華料理です。チャーハンが大好きです」
自分
「パラパラ系が好きですか」
「しっとり系が好きですか」
「特に気に入ってるお店はどこですか」
など

まずは繰り返す練習から始め、次に繰り返すだけでなく肯定する練習もしてみましょう。質問スキルは連発すべきではありませんが、時々しっかりした質問をすることを意識してください。

組み合わせ例

ここまで紹介したテクニックは単独のみで使う必要はあります。例えば、以下のように組み合わせると会話がスムーズに進むようになるでしょう。

相手「私が好きなのは中華料理です。チャーハンが大好きです」
自分
「チャーハンにはまってるんですね」
(オウム返し)
「チャーハンはボリュームがたっぷりなのでお腹減ってる時もう最高ですよね」
(肯定返し)
「パラパラ系が好きですか」
(質問)

いかがでしょうか。「いいですね」のみよりは、かなり前のめりになって聞いている印象があると思います。

社交不安 ソーシャルスキル 傾聴

発話スキル2選

コミュニケーションはざっくり分けると2種類しかありません。相手の話を聞くか、自分から話すかの2つです。社交的スキルを高めるためには、聞くだけでなく自分の話もしっかりしていくことが大切です。

5W1Hをベースにした会話

発話スキルで押さえておくべき2つのポイントを紹介します。1つ目は「5W1H」をベースに話すという姿勢です。5W1Hとは、以下の頭文字とった言葉になります。

When: いつ
Where: どこで
Who: だれが
What: なにを
Why: なぜ
How: どのように

例えば、ハイキングについて話す場合、

「東村山(どこで)に住んでいて、近くに八国山という有名な山があります。これはジブリの物語の素材になったような山(どのように)です。ここには月に1回(いつ)ほど軽い散歩(なにを)に行きます。標高は150mほどの低い山なので気軽に登れて気に入っています。」

というように、場所や特徴、頻度などの情報を整理して伝えます。

このように5W1Hの情報をしっかり伝えることで、相手に分かりやすい話となります。

社交不安 発話

感情を含めた自己開示

ただし5W1Hだけでは人柄が伝わりにくいため、話した後に感情も自己開示することが重要です。例えば、麻雀の話をする場合も、まず5W1Hで、

「16歳頃に兄から教わり、現在43歳ですので27年間続けています。三鷹に仲間と集まれる雀荘があり、3ヶ月に1回ほど集まって楽しく麻雀をしています」

と話します。

感情面では、

「14人で集まってワイワイ楽しくできることが好きで、麻雀を通して冗談を言い合うのが楽しいです。ゲームだけでなくコミュニケーションも楽しめるのが麻雀の魅力です」

と付け加えます。

感情を話す人は自分の深いところを自己開示している証拠となり、相手も親近感を持ちやすくなります。情報だけを話すと相手は警戒しがちですが、感情を話すと相手の警戒心が解け、相手も話してくれるようになるというポジティブな効果があります。感情の自己開示は非常に大切です。

社交不安 発話 例

主張スキル2戦

主張スキルについては次回詳しく解説しますが、今回は基本的な2つのスキルを簡単に紹介します。

アイメッセージ法

1つ目は「アイメッセージ法」です。自分が嫌なことをされた時に自分を主語にして主張するスキルです。例えば上司から強く叱責された場合、

「かなり強く言われると頭が真っ白になってしまいます」
「その言い方はやる気がなくなってしまいます」

など、自分を主語にして自分の気持ちを伝えます。

これに対して「そんな言い方はやめてください」というような相手を主語にして相手の行動を直接非難する「ユーメッセージ」は対立を招きやすいので避けるべきです。アイメッセージで自分の状況を伝えることが柔らかい主張の一つのコツです。

社交不安 アイメッセージ

イエス・バット・イエス法

2つ目は「イエス・バット・イエス法」です。相手の話をしっかり受け止め(イエス)、それに対して自分の意見を述べ(バット)、最後にまたポジティブな意見で締める(イエス)方法です。

例えば、

確かに○○さんの言うことは分かります。△△については素晴らしいと思います。ただ△△こういうやり方もあると思うのですがいかがでしょうか。もちろん、○○さんのやり方にもポジティブに受け止める点はたくさんあります

というように、気を配った言い方をします。

このようにまず肯定し、次に自分の主張をして、最後にまた相手の意見を受け止める発言をすると、かなり柔らかい言い方になります。イエス・バット・イエスは対人関係の引き出しの一つとして持っておくと役立ちます。主張スキルについては次回のアサーションのコラムで詳しく解説します。社交不安 アサーション 

獲得までの心構え

最後にソーシャルスキルを実際にどのように身につけていくかというロードマップを紹介します。相川先生の「人付き合いの技術」という書籍をベースに解説します。

認知・連合・自動化

相川先生によれば、ソーシャルスキルを獲得するまでには、以下の3つのプロセスが必要です。

社交不安 獲得までの心構え

まず「認知」とはその技術を知ることです。この記事を読んで「オウム返し法」などの技術を知ったことが認知の段階に当たります。

次に「連合」とは、その技術を自分のものにしていく段階です。目安として「1スキル1000回」の練習が推奨されます。オウム返しであれば、1回2回3回では習得できません。1000回ほど練習することで初めて自分のものになっていきます。この連合段階が非常に重要です。

継続的な練習の重要性

多くの人は認知段階で満足し、すぐに諦めてしまいます。YouTubeで動画を見たり本を読んだりして「なるほど」と理解はしても、実践でうまくいかないと挫折してしまうのです。しかし3つの段階を理解している人は、知るだけでなく何度も練習する必要があることを自覚しています。

1000回という数字は途方もないように聞こえますが、1日3回の練習を1年間続ければ達成できます。このくらいの継続で初めてスキルが身につきます。

繰り返し練習すると「自動化」の段階に入り、意識せずに自然とそのスキルを使えるようになります。最初は不自然に感じても、続けていくうちに何も考えずに出せるようになるのです。練習あるのみというのが習得の鍵です。

次回のコラムへ進む

今回はソーシャルスキルトレーニングの基礎について解説しました。次回はアサーションについて解説をしていきます。アサーションは、相手と対立せずに自分の考えや意見を主張する方法です。社交不安症や対人恐怖でお悩みの方は、ぜひ本シリーズを参考にしてください。

①.社交不安症の基礎知識
②.認知療法‐考え方の柔軟性 
③.認知療法‐認知の歪みの改善
④.行動療法-段階的な挑戦
⑤.マインドフルネス療法
⑥.森田療法,対人恐怖の治療
⑦.ソーシャルスキルトレーニングの基礎
⑧.アサーション,主張の技術 次回はこちら

カウンセリングのご案内

筆者は社交不安症専門のカウンセリングも行っています。一人での改善が難しいと感じる方は、ぜひお力になりたいと思います。まずは初回のアセスメントから、お気軽にご相談ください。

社交不安症専門のカウンセリングはこちら

助け合い掲示板

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コラム監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


YouTube→
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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連