社交不安症(障害)と心理療法⑧アサーション,アサーティブコミュニケーションの基礎
こんにちは皆さん。社交不安症専門カウンセラーの川島達です。当コラムでは社交不安症の方に特化した心理療法を8回に分けて解説しています。シリーズの全体の目次は以下の通りです。
①.社交不安症の基礎知識
②.認知療法‐考え方の柔軟性
③.認知療法‐認知の歪みの改善
④.行動療法-段階的な挑戦
⑤.マインドフルネス療法
⑥.森田療法,対人恐怖の治療
⑦.ソーシャルスキルトレーニングの基礎
⑧.アサーション,主張の技術
今回は最終回となり、アサーションのワークについて解説します。1回目から6回目までは社交不安症の心理面の改善に焦点を当てて解説してきました。
人と話すのが怖かったり緊張しやすかったり不安を感じる時にどのように改善していくかについて説明してきました。まだ前回のコラムをご覧になっていない方は、ぜひ過去の記事もチェックしてみてください。
なお、当コラムは動画でも解説しています。コラムの補助としてご活用ください。
ソーシャルスキルとアサーション
ソーシャルスキルとアサーションには親戚のような関係性があります。両者の関係を理解しておくことはまず重要ですので、ソーシャルスキルとアサーションの関係性について簡単に復習します。
ソーシャルスキルの基礎
ソーシャルスキルは親のようなイメージで、最初は子供のようなイメージになります。ソーシャルスキルの基礎としては言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションを土台として、
社交的なスキル
人間関係を前向きに健康的に築いていくスキル
・
主張スキル
人間関係に葛藤がある時に解決するスキル
という2つを合わせてソーシャルスキルと呼んでいます。
葛藤と主張スキル
人間関係は右肩上がりで一方通行に仲良くなることはまずありません。ある程度仲良くなってくるとどこかで曲がり角が来ます。
喧嘩をする
お互いに飽きる
疎遠になる
など、冷却期間や葛藤する時期は必ず訪れます。そういった時期に重要なのが主張スキルです。これは別名「葛藤解決スキル」とも呼ばれます。
社交的スキルは右肩上がりで関係を発展させるためのスキルです。一方で主張スキルは問題が生じた時にどうリカバリーするかというスキルになります。人間関係は右肩上がりの社交的スキルだけではなく、しっかりと主張して問題を解決していくスキルも重要です。今回はこの主張スキルに焦点を当てて進めていきます。
主張スキルの重要性
今回はアサーションに焦点を当てて進めていきます。まず主張スキルの重要性から解説し、アサーション権、そして段階的主張という形で、実際に人間関係で葛藤を抱えた時にどう解決していくかという具体的な技術までお伝えします。
相川先生の研究結果
まず主張スキルの重要性について解説します。相川先生の研究を紹介します。相川先生らは学生2名を対象にソーシャルスキルに関する調査を行いました。
具体的には、主張するスキルと対人不安と孤独感と抑うつ感がどのような関係にあるかということが調査されました。結果は、主張性スキルが増えていくと対人不安が減る、孤独感が減る、抑うつ感が減るという形で非常に効果があることが分かりました。
主張スキルがないと…
主張スキルがなぜ対人不安を減らすのかについて考えてみましょう。
主張スキルがないと、人間関係で葛藤を抱えた時に解決ができない状態になってしまいます。例えば、誰かから容姿をけなされたとします。相手はじゃれ合いで容姿をからかっているかもしれませんが、自分はすごく傷ついているとします。
この時、自分の気持ちを伝えることができない状態だと、ずっと傷つき続けてしまい、
もうこの人とは関わりたくない
という形で人間関係を終わらせたくなってしまいます。
主張スキルがある人は…
一方でちゃんと主張できる人は、例えば傷つけられたら、
今の発言は少し傷つくんだけど
という形でしっかりと主張することにより、一時的に緊張感が生じるかもしれませんが、その後ちゃんとリカバリーをして再び仲直りをし、人間関係をより絆の深いものにしていくことができます。
主張スキルがあると、例え人間関係で葛藤を抱えたとしても、
私はきっと乗り越えていける
という感覚を持つことができますので、人と話すことへの抵抗がなくなります。
その結果、対人不安が減少し、人間関係に積極的になります。友人関係も増え、恋愛もうまくいきやすくなります。例え人間関係で葛藤が生じても、関係をリセットする確率が減少するため、友人関係が充実しやすくなります。
人間関係が充実すると幸福なイベントが増えていきます。何か傷ついたことがあれば誰かに相談することで慰めてもらったり、様々な人と関わってポジティブな体験をたくさん得られます。そのため、抑うつ感が減少しメンタルヘルスに良い効果があります。
アサーション権について
次はアサーション権について学習を深めていきましょう。
アサーティブコミュニケーションの基本
アサーション権とは何かというと、アサーティブコミュニケーションという心理療法の一分野があり、これは1970年代から発展してきた心理療法です。具体的には、人間関係を健康的にしていくための権利や技術を学習していく分野がアサーティブコミュニケーションの分野です。
その中でもアサーション権が土台となりますので、このアサーション権をぜひ学んでいただきたいと思います。アサーション権とは、ざっくり言うと人間関係の「憲法」のようなものです。憲法が国の根幹をなす法律であるように、アサーション権は人間関係を築く際の基本的な原則です。
アサーション権の5つのポイント
具体的なアサーション権を紹介します。
1.私には自分の考えや感情を表明する権利がある
嫌なことをされたり理不尽な扱いを受けて嫌な気持ちになったら、これを素直に表現する権利があります。
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2.私には意見を表明して失敗する権利がある
例え自分の考えが未熟であっても、それをしっかり伝える権利があります。
・
3.私には意見や考えを変える権利がある
「一度言ったら撤回できない」と言われると自分の考えを言いづらくなりますが、意見を変えてもよいという状態であれば、今この瞬間感じていることを素直に発言することができます。
・
4.私には分からないことを「分からない」と言う権利がある
分からないことは決して恥ずかしいことではなく、素直に「分からない」と言ってよいのです。これにより風通しのよい人間関係を築くことができます。
・
5.他人も同じ権利を持っていることを大切にする
これらの権利は相手もしっかり持っていますので、自分自身も相手に対して寛大に対処することが大切です。例えば相手が「すみません、分かりません」と言ったら「そうか、分からないことは分からないよね」と言って受け入れることで、風通しのよい人間関係を築くことができます。
このようなアサーション権をお互いに大切にしていくと、誤解や虚勢を張ったり嘘をつくといった行為が減少し、お互いを認め合って健康的な人間関係を築きやすくなります。
関口先生の研究結果
ここでもう一つ研究を紹介します。この8回シリーズの最後の研究紹介となります。関口先生らは学生180名を対象にアサーションとそれ以外のタイプについて研究を行い、それぞれ人間関係でどのような違いがあるかについて調査しました。
結果は以下の図のようになりました。
攻撃的なタイプは対人葛藤を非常に持ちやすく、非主張的タイプも対人葛藤はアサーションタイプよりも多いという結果になりました。
また対人劣等感や対人摩擦についても同じ結果となりました。このことから、アサーティブなコミュニケーションを意識すると、人間関係が非常に良好になりやすいことが分かります。
段階的主張の実践
次は、アサーティブなスキル、具体的なやり方について解説します。
段階的主張の4つのステップ
人間関係でトラブルを抱えた際は、段階的主張をベースに主張してみてください。段階的主張とは、まずは柔らかい言い方から始めるというものです。いきなり相手を強く非難するのではなく、徐々に段階を上げて主張の強さを上げていくイメージで主張していくというのが基本です。
事実描写法
状況や問題を客観的事実としてのみ伝える方法。「お金を貸していましたよね」など事実だけを述べ、相手を責めず防衛反応を最小限に抑えます。
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アイメッセージ法
自分の感情や影響を「私は〜」という形で伝える方法。「お金が不足して不安なんだ」のように自分への影響を正直に伝え、相手の反発を招きにくくします。
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提案+メリット提示法
具体的な解決策と相手にとってのメリットを一緒に提示する方法。「返してもらえれば一緒に飲みに行けるのに」と前向きな動機づけを行います。
・
限界設定法
自分の限界と、それを超えた場合の結果を明確に伝える方法。「2週間以内に返さないと連絡は取らない」など、具体的な期限と結果を宣言します。
上から順に柔らかい言い方になっています。下に行くにつれて厳しい言い方になっていくイメージです。具体的な事例で解説していきます。
段階的主張の具体例
シリーズのまとめ
今回はアサーションについて解説しました。本回シリーズでは、社交不安症に特化した心理療法を体系的に解説しました。これは日本初の試みであり、様々な対策を身につけることで社交不安とうまく付き合う道筋を示しています。内容を繰り返し振り返り、自分のものにしていきましょう。
①.社交不安症の基礎知識
②.認知療法‐考え方の柔軟性
③.認知療法‐認知の歪みの改善
④.行動療法-段階的な挑戦
⑤.マインドフルネス療法
⑥.森田療法,対人恐怖の治療
⑦.ソーシャルスキルトレーニングの基礎
⑧.アサーション,主張の技術
カウンセリングのご案内
筆者は社交不安症専門のカウンセリングも行っています。一人での改善が難しいと感じる方は、ぜひお力になりたいと思います。まずは初回のアセスメントから、お気軽にご相談ください。
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
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名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連