絶望感への対処法,脱出する方法
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「絶望感への対処法」についてご相談を頂きました。
相談者
42歳 男性 自営業
お悩みの内容
私は28歳の頃に脱サラをして、フリーランスとして、生計を立ててきました。実はコロナの時期から、仕事が減ってしまい、生活をしていくので精一杯になっています。
現在は独身で悩みを相談できる人もいません。最近は人生に絶望感が出てきています。
不眠が続いていて、体の調子が悪いです。乗り越える方法はありますか?
お仕事がうまく行かず、親しい人の心の支えがないのですね。絶望感があるとのことで、緊急性が高いと感じています。
私はカウンセラーとしての仕事柄、絶望している人と毎日のようにお話します。悩みを相談してくれる方の中には、本当に壮絶な人生を歩まれている方がたくさんいます。
・突然大きな病気になってしまった
・結婚を考えた恋人に別れ告げられた
・保証人になって莫大な借金を背負った
・幼少期虐待を受けていた
そんな人でも、絶望の淵から、どうにかもがいて這い上がり、とりとめもない日常を取り戻し、屈託の笑顔を浮かべることがあります。そんな時は、なんとも言えない、人間の尊厳や力強さを感じたりしています。
当コラムでは複数の対策を提案させて頂きます。是非とも乗り越えていきましょう。
絶望感とは何か
意味
心理学においては絶望感には、以下のような意味があります。
共通するのは、未来に希望が見出せない状態を示している点です。絶望は将来への希望のなさの裏返しであり、これからの人生に極めて悲観的になっている状態と言えます。
具体例
・会社が倒産して将来に絶望した
・ケガでプロ野球選手への夢は絶望的だ
・パートナーと死別して絶望感に苛まれる
絶望感と抑うつ症状
絶望感は人間の感情の中でも緊急度が高い感情です。精神医学の研究者であるAlloyら(1989)[3]は絶望感があると、以下のような症状が起こることを主張しています。
このように絶望感は、身体と心に様々な症状をもたらします。特に気を付けて頂きたいのが、「消えてなくなりたい」「生きてることに疲れた」という希死念慮です。
もしそのような感覚がある方は、うつ病や適応障害になっている可能性があります。後程詳しく解説しますが、精神科など医療の力を借りるようにしましょう。
絶望感と4つの原因
林ら(1996)[4]は大学生363名を対象に絶望感がメンタルヘルスに与える影響について調べました。その結果、絶望感には以下の4つの原因があることがわかりました。
将来への否定的展望
将来に対する希望や見通しが全く持てず、全てが暗く絶望的に感じてしまう状態です。目標や夢を持つことすら困難になり、ただ現状に苦しみ、何もかも投げ出したくなってしまうこともあります。
人生に意味を見出せず、生きる気力さえ失ってしまうこともあるでしょう。
悲観的思考
物事を常に悪い方へ考えてしまい、何事にも前向きになれない状態です。些細な失敗やトラブルでも、それが世界が終わってしまうような大惨事だと感じてしまうこともあります。常に最悪の事態を想定し、恐怖や不安に支配されてしまうのです。
達成不全感
自分が何をやっても上手くいかない、何も達成できないという無力感に苛まれる状態です。努力しても成果が出ない、周囲の人との比較で劣等感を抱くなど、様々な要因によって生じます。
自己肯定感が低下し、挑戦することを恐れ、さらに何も達成できないという悪循環に陥ってしまうこともあります。
不確実感
将来や現在の状況に対する不安や恐怖が拭えず、落ち着かない気持ちになる状態です。何が起こるかわからないという不安、自分の人生がどうなるかわからないという恐怖などによって生じます。
絶えず何か悪いことが起こるのではないかと心配し、常に緊張状態が続いてしまうこともあります。
これらの4つの因子は、相互に関連し合い、絶望感をさらに深めてしまう悪循環を生み出すことがあります。これらの原因を理解し、適切な対処法を見つけることは、絶望感から立ち直るための第一歩となります。
絶望を乗り越える7つの方法
ここからは絶望を乗り超えるための7つの対策を立てたいと思います。具体的には、
①医療の力を借りるか判断
②時間の解決を待つ
③孤立しないようにする
④リフレーミングで意味付け
⑤自分を認める
⑥成長の機会にする
⑦できることからはじめる
を提案させて頂きます。1つずつ解説していきます。ご自身に合いそうなものを組み合わせてご活用ください。
対策① 医療の力を借りるか考える
人生は自分だけではどうしようもないことがあります。消えてなくなりたい、自分の存在をなくしたいと感じる方もいます。そのような状態は、精神疾患を抱えている可能性が高いです。
本当に辛い時は、医学の力を借りることは恥ずかしいことではありません。以下絶望感を抱えている方が発症しやすい精神障害と、医療機関の基礎知識を解説しました。絶望感が強い方は、下記の折り畳みを展開してみてください。
対策② 時間の解決を待つ
Cohn(1961)[2]は、心理的な回復のプロセスを以下のように表しています。
ショック →回復への期待 →悲嘆 →防衛 →適応
私たちは、人生の岐路に立たされると、ショックを受けます。どうにか回復できないものかと期待を膨らませます。しかし、簡単には行かず、悲観にくれたり、あれやこれやと自分を守ろうとします。
そうして、心理的にたくさんの葛藤を乗り越え、最後は現実を受け入れ、適応していくとされています。
絶望を抱えた直後に、すぐに回復することは難しいと思います。大変なことがあった時は、無理せず心を休めましょう。そして、心を整理する時間を持てば、だんだんと回復できると信じることが大事です。
対策③ 孤立しないようにする
絶望に支配されているときは、誰かと会おうという気持ちになれず、相談もできない方がいます。しかし、心理学の研究では、悩みを抱え込み、自分だけで処理しようとする人ほど、メンタルヘルスが悪いことがわかっています。
困った時はお互い様です。一人ぼっちで悩まないように、誰かに相談する姿勢も大事にしてみてください。悩みを誰にも相談できない…悩みを一人で抱え込んでいる…という方は下記のコラムを参照ください。
ソーシャルサポートをもらおう
対策④ リフレーミングで意味付け
コーンによると、絶望してからしばらくすると、不幸な出来事にも意味を持たせることができるされています。意味を持たせる時に有効なのがリフレーミングです。リフレーミングには
不幸な出来事、失敗、挫折に対して、様々な意味を持たせて、価値観を再構築していく
という意味があります。特に心がある程度整理されてきた時期に、効果が出やすいです。時期を見て、下記のコラムを参考にしてみてください。
対策⑤ 自分を認める
心理学的に絶望しやすい方は、「自分の努力を認めない」という傾向があります。桜井ら(1992)[1]は、大学生を対象に絶望について調査をしました。結果の一部を引用します。結果は以下の通りです。
かなりわかりにくい図ですね。特に右側の「成功の原因、内向性 低い」はわかりにくいと思います。表をわかりやすく言い換えると、「うまく行ったときに、自分の力を認めない人ほど、絶望しやすい」となります。
例えば、チャレンジをして失敗した人がいたとしましょう。その方は、絶望していたとします。しかし、よくよく考えると、「チャレンジをした」という、自分の勇気や、行動力があったからこそ失敗できたのです。
絶望してしまう方は、そういった自分の内面的な努力をきちんと認められない傾向があるのです。いうなれば、自分で自分を卑下してしまう傾向があります。
絶望するということは、きっとあなたなりに、努力をしてなんらかの、行動を起こしたからこそ、失敗できたのではないでしょうか。
そして絶望の後ろには、きっとあなたなりに能力を発揮できた部分があると思います。そうした自分の努力をみつけることも大事にしてください。
対策⑥ 成長の機会にする
絶望している時は、自分とは何か?がわからなくなる「アイデンティティクライシス」の状態にあります。自分とは何か?なんて普段は考えもしないことですが、辛い時期ほど自分と深く向き合う時期でもあるのです。
そうして、しっかりと向き合えたとき、私たちは新しい考えや気づきを得て、人生を深く味わい深く生きていくことができます。モデルにすると下記のようになります。
この図は、アイデンティティのらせん式発達モデル[5]といいます。
実は筆者の川島も昔、対人恐怖症でひきこもりを味わった時期がありました。不思議なことのその時期があったからこそ、自分が生涯をささげる価値のある仕事を見つけることができました。
今は辛い時期かもしれないですが、人生をトータルで見れば、きっと今の時期は未来につながるとゆったり考えてみましょう。ある程度おちついた時期になったら、下記のコラムを参考にしてみてください。
⑦できることからはじめる
絶望感を感じる時期が過ぎて、心にいくばくかの余裕が出てきたら、少しずつ行動をしていくといいでしょう。目標をもって行動するとそれ自体が心を回復させる効果があります。
ただし、いきなり絶望感を感じていた時期から、いきなり過度のタスクを抱え込むと再び心が疲れてしまいます。まずはできること、できないことを整理して、自分のペースで進めていくことをおすすめします。
以下のコラムではやることを整理するコツを解説しました。余裕が出てきたら参考にしてみてください。
まとめ
当コラムにたどり着いた方のほとんどは、今とても辛く余裕がない時期だと思います。最後は私なりの考えなのですが、人生は四季があるから面白いと考えるようにしています。
冬に耐えると、春が来て、春が来ると夏が来ます。冬には冬の過ごし方があります。本を読んだり、物思いにふけっていきます。時間が経つと、いつのまには春になっていて、ぽかぽかと暖かい日差しのありがたみがわかるようになします。
人生も四季のようなもので、じっくり付き合っていけば春は必ず来るのです。皆さんにも心の春が訪れると信じています。
動画でも解説
絶望感と成長について動画を作成しました。少しおちついた時期におすすめです。時期が来ましたら参考にしてみてください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・心を休める心理療法の基礎
・失敗に意味を見出す,リフレーミング練習
・失敗を成長に,アイデンティティワーク
・ソーシャルサポートを得る,人間関係ワーク
絶望感がある時期はしっかり休み、自分が向き合う余裕が出てきたころに、検討してみることをおすすめします。🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連