疎外感がつらい,克服する方法,職場,家族
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「疎外感を克服する方法」です。
相談者
34歳 女性
お悩みの内容
私は現在、メーカーで事務職として働いています。最近は職場で結婚が相次ぎ、独身の私は話題に入っていけなくなっています。
私はもともと社交的な性格ではなく、休日も一人で過ごすことが多いです。一人でいると、疎外感で押しつぶされそうになります。
町中にいる楽しそうに会話をしている人たちを見ると、なんだかイライラしている自分もいます。このままではいけないと思うのですが…克服する方法を知りたいです。
疎外感を抱えると、のけ者にされたような感覚になり、つらい気持ちが出てきますよね。当コラムでは疎外感に関する知識と対策をお伝えしていきます。参考にしてみてください。
疎外感とは何か
まず初めに疎外感が生じやすい状況を理解しましょう。
疎外感を覚える状況
疎外感は以下の2つの条件を同時に満たしたときに覚えやすくなります。
① 充実した集団がある
② 集団から孤立する
たとえば、飲み会に参加したとして、みんなが盛り上がっているのに、自分だけ輪に入れなかったとしましょう。この時皆さんはどんな感情になりますか?おそらく、自分だけが孤立しているような感覚になり、辛い気持ちが芽生えると思います。これが疎外感です。
もう1つ例を挙げます。仲がよいと感じていたサークル仲間が、自分が知らないところで遊びに行っていたとしましょう。この時、どんな気持ちになりますか?きっと自分だけのけ者にされたような気持ちになり、いい気分はしないでしょう。これも疎外感です。
このように私たちは、充実した人間関係から、排除された、孤立されたという感覚があると疎外感が芽生えるのです。
孤独感との違い
疎外感と似た言葉に、孤独感があります。両者の違いは、「排除されている」という感覚が強いか弱いかという違いになります。すなわち、「孤独感」に「排除されている」という感覚が強くなってくると疎外感になります。
私は孤独感、疎外感どちらの論文も調査しましたが、孤独感より疎外感の方がより危険な兆候が見られるため注意が必要と考えています。
疎外感と4つの感覚
心理学者の宮下(1981)は、疎外感の中身について調査を行いました。その結果、疎外感は以下の4つの感覚に陥りやすいことがわかりました。
・孤独感
一人ぼっちだな…寂しいな…と孤独を感じます。
・空虚感
虚しい気持ちだな…やる気がでない…という感覚になります
・圧迫拘束感
排除されている…隅に追いやられている…という感覚が芽生えます。
・自己嫌悪
自分はいなくなってもいい…自分には価値がないという感覚になります。
疎外感は深刻な感情
私は疎外感は人間の感情の中でも、緊急度が高い感情と考えています。理由は複数あります。
自己価値が低下する
西野(2007)の研究によると、疎外感を受けると自己価値が下がることが分かっています。「自分なんていらなくなっていいのかな」「社会にいらないのかな」という感覚から自己価値が下がってしまいます。
将来への希望がなくなる
以下のグラフは「友人の数」が「自分の将来への希望」にどのように影響するかを示しています(内閣府,平成25年)。オレンジ色は「希望がある」、緑色は「希望が無い」というイメージで捉えてみてください。
グラフは上段に行くほど、友人の数が多い人の結果です。グラフが上段に行くほど、オレンジ色の面積が広くなっているのがわかりますね。この結果から、疎外感を感じていると、将来への希望をなかなか見いだせないと推測できます。
問題行動に結びつく
西野(2007)は疎外感を感じると問題行動が増す傾向があることも明らかにしました。
自分だけが排除されていると感じると、自己価値が下がり、イライラしたり、怒りっぽくなります。これらのマイナス感情を埋めるために、問題行動が起きやすくなるのです。
自責に結びつく
問題行動の行き場所は、大きくわけて2つあります。1つ目は自分自身を苦しめる自責です。例えば、
自傷行為 ギャンブル依存 暴飲暴食 乱れた性生活
などが挙げられます。最悪の場合は自殺に結びつくこともあります。統計では日本人は自責を選ぶ傾向にあることがわかっています。
他責に結びつく
もう1つは、他人に対する問題行動を起こすことがあります。例えば、
暴言 SNSへの悪口を投稿 暴力 あおり運転
などに繋がります。極端な例となりますが、事件に発展することもあります。
疎外感への6つの対策
ここからは疎外感を感じた時の対処法をお伝えします。具体的には
①自分にやさしい言葉をかける
②イライラしたら深呼吸
③暖かいコミュニティを探す
④会話の力をつける
⑤芸術活動にぶつける
⑥自分と向き合う
を提案させて頂きます。ぞれぞれについて詳しく見ていきましょう。
➀自分にやさしい言葉をかける
自分には価値がない…どこに行っても好かれない…など自暴自棄な言葉で自分を苦しめてしまう方は注意が必要です。あてはまると感じたら、
寂しいよね…でもよく頑張っているよ…
なにはどうあれ、これまでよくやってきたよ
孤立しているけど〇〇だけは愛してくれる
私は私を大事に扱おう
このような言葉を自分に投げかけるようにしましょう。言葉には意識の方向性を変える力があります。優しい言葉を増やすことで、疎外感で傷ついた心を回復させていくことができます。
②イライラしたら深呼吸
コラムの前半でも解説したように疎外感は問題行動と結びつきやすい感情です。特に怒りに発展すると、暴言を吐く、SNSでの誹謗中傷、啖呵を切る、などの行動に発展することがあります。これらの行動をすると、周りから距離を置かれて余計に疎外感が増してしまいます。
そこで、自分や他人に攻撃的になっていると感じる方は、まずはイライラした気持ちを冷静にしていくことが大切になります。当コラムでは、イライラ時の対処法として、深呼吸法を1つ紹介します。
①イライラしている自分に気が付く
②肩の力を抜いてリラックスします
③鼻からゆっくりと息を吸います。
・お腹が膨らむのを感じる
・4秒間かけてゆっくり
・リラックスした空気が入ってくるイメージ
④口から息を吐く
・お腹がへこんでいくのを感じる
・8秒以上かけてゆっくり
・イライラした気持ちが出ていくイメージ
深呼吸法は、どんな場面でも使うことができます。疎外感は強い感情なので、お守り代わりに普段から練習をしておきましょう。
そのほかにもイライラする気持ちを感じたら、まずはその場から離れる、自分の感情を観察する、ユーモアに変える、などの手法があります。自分の中に攻撃性がある…と感じる方は下記のコラムを参照ください。
③暖かいコミュニティを探す
疎外感を改善するには、自分を受け入れてくれるコミュニティに所属することが大切です。とは言え、実際にコミュニティに所属するのは、なかなか大変です。
そこでおすすめなのが、ひとまずSNS等でつながりを持つことです。例えば、現在は疎外感を感じる当事者の方は、YOUTUBEで発信をしていたり、ブログを書いています。ひとまずこれらの共感できる発信者とコメントやフォローをして繋がっていくのもいいでしょう。
また自分自身が発信者になることも意外とおすすめです。実は私(川島)は、ひきこもりだった時期があります。その時も、インターネットのブログだけは活用していました。そのおかげで、社会とつながっている感覚がなんとか保てたように思います。同じ悩みを持つ仲間を探しやすいネットの活用はおすすめだと思います。
もちろん余裕があれば、リアルの暖かいコミュニティを探すこともおすすめです。コミュニティは3つあると、どれかうまく行かなくても後の2つでフォローが利いて、メンタルヘルスが良好になりやすいです。今所属しているコミュニティがない…と感じる方は下記のコラムを参照ください。
④会話の力をつける
コミュニティに参加をすることができたら急がず、じっくり馴染んでいきましょう。人間関係をすぐに深めようとせず、まずは世間話をして少しずつ関係性を進めて行ければ充分です。
何を話せばいいかわからない…と感じたら会話の練習をしてみるのも効果的です。例えば、温かい会話には感情の交流を増やす必要があり、そのためには「感情に焦点をあてた質問」がおすすめです。
好きな食べ物はありますか?
はまっている動画はありますか?
部活で思い出に残っていることは?
感動した景色を教えて♪
このような質問を増やすと、会話に感情が生まれ、心の交流をしやすくなります。会話が続かない、堅くなってしまう、という方は以下のコラムを参照ください。
⑤芸術活動にぶつける
Mohan(1987)は、クリエイティブライターの心理的な調査を行いまいした。その結果、クリエイティブライターには、
疎外感 内向的
という特徴があることが分かりました。つまり、ヒット作品を出すライターは、疎外感や内向的な性格を、創作意欲に結び付けているといえます。
この意味で、疎外感がある状況は、芸術的な活動をすると、思わぬ作品が出来上がる可能性があります。絵を描いてみる、文章を書いてみる、写真を撮影する、などを行い、充実感がある場合は続けてもいいかもしれません。
⑥自分と向き合う
心理学者の宮下(1981)は、「疎外感」がどのような心理と結びついているのか?調査をしました。その結果、自我の確立が疎外感に大きく影響していることが分かりました。自我の確立とは、
自分はどういきるべきか
自分の長所はなにか
自分の社会での役割
などが、自分の中で定まっている状態を意味します。以下の図をご覧ください。
自分が確立されていくと、多少周りが楽しそうにしていても、自分の人生を自分らしく生きて行けるようになります。疎外感があり、自分を見失っている感覚がある方は、アイデンティティについての勉強もおすすめとなります。ただアイデンティティの確立は時間がかかるので、余裕があるときに下記のリンクをクリックしてみてください。
仕上げの動画
疎外感については動画も作成しています。仕上げとしてご活用ください。
まとめ
ここまで解説してきたように、疎外感は緊急度が高い感情です。もし強い疎外感に苛まれていたら、自暴自棄にならず、当コラムの対策を1つ1つ進めてみてください。皆さんが、疎外感のある状況を改善し、豊かな人間関係を築き、温かい日々をすごされることを心から願っています。
もっと学びたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・疎外感を軽くする,自分への声がけ練習
・疎外感を改善,温かいコミュニティに参加
・会話の力をつける,友人作りの基礎
・イベントを通して仲間作り
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
*出典・参考文献
・宮下 一博, 小林 利宣,青年期における「疎外感」の発達と適応との関係,1981 年 29 巻 4 号 p. 297-305
・西野 泰代,学級での疎外感と教師の態度が情緒的な問題行動に及ぼす影響と自己価値の役割, 2007 年 18 巻 3 号 p. 216-226
・平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 生活環境と個性が友人数に与える影響(内閣府))
・Personality and alienation of creative writers: a brief report 1987 Mohan, Jitendra Tiwana, Manjit・Seeman, l 959, On the meaning of alienation. Amen can Sociological Reυieω,
本当にどのコラムもとても参考になります。
助けられています。