不信感を持つ時の対処法
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「不信感を持つときの対処法」です。
・彼氏と休日に連絡取れなくなる
・取引先がいつも納期を守らない
・友達がいつも小さな嘘をつく
当コラムにいらっしゃった方の中には、上記のような悩みを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。当コラムでは不信感の意味や対策についてしっかりとお伝えしていきます。
*全体の目次
・不信感のメリット
・不信感のデメリット
・過剰な場合の対処法
不信感とメリット
人間は古来から「生き残るために脅威はないか?」という不信感を上手く活用することで、今日まで命のタスキをつないできたと言えます。まずはメリットから確認していきましょう。
人間関係のリスク回避
不信感は日々の人間関係のリスクを回避することに役立ちます。例えば以下が挙げられます。
浮気を防ぐことができる
マルチ商法の勧誘を見抜く
ぼったくりの被害にあわない
独善的な人に煽動されない
峰尾(2018)[1]は学生222名を対象に、信頼感が社会観に与える影響を調査しました。その結果の一部が下図となります。
この図は不信感がある人ほど、根拠のない一方的な価値観を疑う力があると解釈することができます。社会が混乱する時期は、根拠がなくても耳障りの良い発言で、人気を集める人がいたりしますが、不信感がある人は冷静に対処することができそうです。
不安定な未来に備えられる
峰尾(2018)[1]の研究をもう1つ紹介します。まずは以下の図をご覧ください。
この図は不信感がある人ほど、生活し続けることが難しいと考える傾向があると解釈することができます。前向きに解釈すると、不安定な将来に対して早めに準備することができる一面もありそうです。
適度な不信感はビジネスでも大事
Gudmundsson(2013)[2]の研究では
適度に不信感を持つ企業は、自信過剰な企業よりも生き残る可能性が高い
ことを発見しました。不信感を抱くことによって、質の高いの意思決定や精密な分析に意識が向かいます。その結果、大きな失敗の回避することができ、長期的に企業として生き残っていけるのです。
個人としても、企業としても、不信感は適度にあったほうが良いと推測できます。
不信感とデメリット
一方で強すぎる不信感にもデメリットがあります。
判断力が低下する
菊地・渡邊・山岸(1997)[3]は、96人の大学生を対象に、信頼関係と情報選択実験を行いました。その結果の一部が下図となります。
図のように「相手を信頼する傾向の強い人」は「正確な行動をする」傾向があることが分かりました。不信感を過剰に持つと、正確な行動がとれなくなると推測できます。
絶望しやすくなる
不信感があると、周りを疑いながらコミュニケーションしてしまいます。例えば、パートナーからの返信が遅い時、以下のような違いが出てきます。
不信感が少ない人
⇒まあ大丈夫でしょ 浮気などしない真面目な人だ
⇒安心できる リラックスできる
不信感が強い人
⇒浮気された?離れてしまったらどうしよう?
⇒ずっと気が休まらない 心が疲れる
このように不信感が強いと心に大きな負担になります。谷(1998)[4]は大学生407名を対象に、青年期における基本的信頼感について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
図のように人を信じられない人ほど絶望しやすいことがわかりました。人生は人間関係の連続です。人を信じられないひとはそのたびに疑うので、希望を持てずネガティブになりやすいと推測できます。
不信には不信が返ってくる
人間には「返報性の原理」という心の働きがあります。不信感で考えると
信じてくれる人を信じたくなる
不信感を持たれたら不信感を持つ
という状態になりやすいのです。もしあなたが過剰に相手を疑い、不信感たっぷりに接し続けると、相手もあなたを疑いやすくなってしまうのです。
返報性の意味とは
不信感が強い時の対処法
このように不信感には、リスクを回避の機能がある一方で、過剰になるとメンタルヘルスを悪化させてしまいます。そこで当コラムでは不信感が強い時の対処法を5つ、不信感を日常的に予防する方法を3つ提案させて頂きます。まずは不信感が強い時の対処法から提案します。
①現実検討力をつける
②見捨てられ不安への対処
③話し合いが最強
④回避の選択肢も
⑤精神疾患の可能性に注意
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①現実検討力をつける
不信感を抱くと止まらなくなる方は注意が必要です。嫌われるかも…騙されるかも…裏切られるかも…という考えが止まらなくなり、非現実的な想像を働かせ、相手を困惑させてしまいます。
ここで大事なことは現実検討力をつけることです。現実検討力とは、自分の思考や感情が、事実に基づいているか、合理的な考えかを検討する力を意味します。具体的には
この不信感には根拠があるか?
1つの事実を過剰に評価していないか?
不信感と矛盾することはないか?
など、自分の考えが現実的かどうかを考えるのです。悲観的な想像が止まらない方はこの3つの質問を自分に投げかけるようにしましょう。現実検討力をより深く知りたい方は下記をご覧ください。
②見捨てられ不安の対処
仲良くなってきたときに、不信感を持ちやすい方は、見捨てられ不安への対処法をまなぶことをおすすめします。見捨てられ不安とは、「いつか自分は見捨てられてしまうのでは…」という不安のことです。具体的には
自分は相手嫌われるだろう…
どうせ自分は必要とされていない…
いつか失望されるに違いない…
このような不安を意味します。せっかく人と仲良くなっても、見捨てられ不安があるせいで常に不信感を持ってしまうのです。見捨てられ不安は幼少期の家庭環境などが影響するため、長期的な視点で改善していく必要があります。
具体的には以下のような対処が必要になります。
過去の家庭環境を引きずっていないかを確認
いじめなどのネガティブな記憶がないかを確認
安全な環境でその過去を整理して回復を図る
自己肯定感を高め他人の行動に振り回されないようにする
見捨てられ不安への対処法をより深く知りたい方は下記をご覧ください。
③話し合いが最強
人間関係で不信感が生まれてしまったとき、最も効果的な解決方法は直接顔を合わせて話し合うことです。日常生活で起こる小さな誤解や対立も、率直な対話を通じてほとんどの場合、関係を修復できるのです。
例えば、北アイルランド紛争という長年の宗教対立の中で、「鋼鉄のシャッター」というプロジェクトが行われました。カトリック教徒とプロテスタント教徒が face to face で集まり、互いの経験や感情を率直に語り合う場が設けられたのです。
参加者たちは、紛争で経験した悲しみや怒り、恐れといった感情を共有しました。そして、驚くべきことに、対話を重ねるうちに、お互いへの理解が深まり、不信感が薄れていったのです。
効果的な話し合いのポイントとしては、
相手の話をじっくり聴く姿勢を持つ
自分の気持ちを「私は〜と感じる」という形で伝える
非難や批判を避け、問題解決に焦点を当てる
などがあげられます。
このように、戦争という極限状態にある人々でさえ、話し合いを通じて不信感を乗り越えられるのです。だとすれば、私たちの日常生活での小さな対立なら、なおさら解決できるはずです。顔を合わせて率直に話し合えば、ほとんどの関係は修復できるでしょう。
話し合いの方法について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
④回避の選択肢も
人間関係において、話し合いが大切だとわかっていても、時には回避が賢明な選択となる場合があります。相手との対話を試みても、どうしても建設的な結果が得られないと感じることがあるでしょう。そんなとき、無理に関係を続けようとするよりも、一歩引いて距離を置くことも大切な対処法の一つです。
例えば、こんな状況を想像してみてください。
何度話し合っても、相手が一方的に自分の非を認めようとしない
対話を重ねるたびに、むしろ状況が悪化してしまう
相手の言動に一貫性がなく、約束が守られない
特に注意が必要なのは、相手の言動に一貫性がなく、何度も嘘をつくような人です。このタイプの人との関係は、あなたの心の健康を損なう可能性があります。
ここで大切なのは、「回避」が必ずしも「永遠の絶縁」を意味するわけではないということです。時間をおいて相手に変化が見られたり、自分の心の準備ができたりしたら、再び対話を試みる機会もあるかもしれません。
⑤精神疾患の可能性
不信感が極端に強く、日常生活に支障をきたすほどであれば、精神疾患の可能性も考慮する必要があります。特に、妄想性障害や統合失調症といった疾患では、現実には存在しない陰謀や敵意を周囲に感じ、常に他人への疑念や不安に悩まされることがあります。
例えば、こんな症状が続く場合は注意が必要です。
根拠のない被害妄想が頻繁に起こる
他人の何気ない言動に悪意を感じてしまう
自分に対する攻撃や陰謀があると強く信じ込む
こうした強い不信感は、患者さんの生活に大きな影響を与えます。他の人との信頼関係が築けず、孤立感や疎外感を深めてしまうこともあります。家族や友人との関係が悪化し、仕事や学校生活が困難になることも少なくありません。
ただし、こういった症状があるからといって、すぐに精神疾患だと決めつける必要はありません。不安やストレスが強い時期に一時的に現れることもあるからです。一方で、症状が長く続いたり、生活に大きな支障が出たりする場合は、専門家に相談することをおすすめします。
不信感にまつわる精神疾患について詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
不信感を予防する方法
続いて不信感を日常的に予防する方法を5つ提案させて頂きます。
①まずは信じる姿勢
②日々の雑談が大切
③自分から自己開示
④早めに解消する
⑤曖昧さ耐性をつける
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①まずは信じる姿勢
不信感が強い方は、確実な証拠を得られるまで、相手を信じられない傾向があります。一方で、ゲーム理論という分野では、根拠なくとりあえず相手を信じる人ほど、うまく行きやすいという研究もあります。
これはしっぺ返し戦略(tit for tat)といいます。ゲーム理論ではまずは信頼することから入る人のほうが、結果的にパフォーマンスが高いという実験があります。日常生活に応用すると、以下のように考えるとよさそうです。
とりあえず人の事は信じてみよう。たまに裏切られたり、騙されたりすることがあるかもしれないけど、全体的には、信じることから入った方が、得することが多い。
と考えてみるのです。このように考えると、相手を信じるところから始まるので、好意的な関係を築きやすくなります。
もちろん、高額の商品を買うとき、女性が匿名の男性と接するときなど、例外はありますが、相手を信じてやり取りした方が自分自身のメンタルヘルスも良好になりやすくなるのです。信頼に根拠を求めないをより深く知りたい方は下記をご覧ください。
②日々の雑談が大事
不信感は、お互い何をしているかわからない状態の時に膨らみやすくなります。ここで大事なことは、日々、何気ない雑談をすることです。お互い顔と顔を合わせて会話をすると
何をしているか?という余計な心配がなくなる
聴きにくいことも聞きやすくなる
自分に対する態度を確認できる
など不信感を抱きにくい関係を作ることができます。家族であれば、食事中はテレビを消して、会話をする、友人関係であれば、一緒にいる時はスマフォをいじらず、雑談するなど意識すると良いでしょう。
雑談が苦手…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
③自分から自己開示
人間関係での不信感を予防する方法の一つに、自己開示があります。自己開示とは、自分の気持ちや考え、経験を率直に相手に伝えることです。ちょっと勇気がいるかもしれませんが、この行動が大きな変化をもたらすことがあるのです。
相手に信頼されていると感じてもらえる
隠れていた誤解や感情のもつれが解ける
お互いの理解が深まる
自分の気持ちを素直に伝えることで、相手も自分の気持ちを話しやすくなります。そうすると、お互いの立場や状況をより正確に理解できるようになり、不信感が薄れていくのです。
でも、いきなり深い話をするのは難しいですよね。まずは、日々の些細なことから少しずつ始めてみましょう。例えば、
「今日はちょっと疲れているんだ」
「この前の出来事で嬉しかったんだ」
「仕事の上司と15日から3日間出張なんだ」
などといった感じです。ポイントとしては、少し具体的に自己開示してあげると、相手の不信感を和らげられるでしょう。こうした小さな自己開示の積み重ねが、やがて大きな信頼関係につながっていくのです。
自己開示についてより深く知りたい方は、下記をご覧ください。
④早めに解消する
不信感は早めに解消する ためこむと、爆発する 伝えるときはアイメッセージで というイメージで
会話をする機会がない、現実検討をしても、不信感を払拭できない時は、相手ときちんと話し合うことも大事です。
自分の気持ちを伝える技術としては、アイメッセージが活用できます。アイメッセージとは、I(私)を主語にした主張のことです。具体的には
私は悲しい 私は不安に思う 私はつらい
など、私を主語にすることで、角の立たない主張することができます。相談を持ち掛ける時は、まずはアイメッセージを活用するようにしましょう。アイメッセージのやり方をより深く理解したい方は下記をご覧ください。
⑤曖昧さ耐性をつける
人間関係、ビジネス、災害、生活全般に不信感を持ってしまうという方は、曖昧さ耐性をつけることも大事です。曖昧さ耐性とは、「白黒つけがたい状況を受け流す力」を意味します。具体的には以下のような考え方となります。
ラインの返信が遅い
⇒たまには遅くなるものだ。まあこんなものだろう♪
パートナーの帰りが遅い
⇒疑い出すときりがない。ほうっておこう
地震が起こるかも…
⇒天災はつきもの。防災グッツを揃えたら、あとは自然に身を任せる
このように、白黒つけがたいことについて、断定したり、無理に確かめようとせず、ありのままやり過ごす力を意味します。不信感を持つと、詰問してしまったり、断定的に考えてしまう方は、以下のコラムを参考にしてみてください。
まとめ
不信感はメリットもあればデメリットもあります。
上手く活用することができれば、リスクを回避することができます。ただし、過剰になると人間関係が悪化したり、メンタルへルスに悪影響を与えてしまうため注意が必要です。
不信感が過剰になっているな…と感じる方は、紹介した改善策を参考に、不信感を健康的なレベルまで改善してみてください♪
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・不信感を柔らかく伝える,アサーション練習
・現実?思い込み?現実検討練習
・スルースキルも大事,曖昧さ耐性
・何気ない雑談を楽しく♪会話の技術練習
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連