励ます言葉の使い方,励まし方
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「励ます言葉,励まし方」です。
相談者
32歳 女性
お悩みの内容
私は現在、お付き合いしている男性がいます。彼の会社の業績が悪く、退職せざるを得ない状況になってしまいました。すごく落ち込んでいるのですが、こんな時どう声をかければ良いか悩んでいます。励ます言葉のかけ方を知りたいです。
大事な人が落ち込んでいるとせつない気持ちになりますよね。当コラムでは励ます言葉のかけ方を解説していきます。是非最後までご一読ください。
励ます言葉の効果
まず初めに励ますことの効果について確認しておきましょう。大事な人を励ますと以下のような効果があります。
不安が少なくなる
大坪(2017)[1]は、大学生254名に対して、ソーシャルサポートとメンタルへルスの関係について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
上図は、大切な人からサポートを受けると、不安が減る傾向があることを示しています。支えてくれる人が周りにいると不安が和らいでいくのです。
問題解決力が向上する
大坪(2017)[1]は、ソーシャルサポートと「問題解決志向」についても調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
上図は、大切な人のサポートがあると、問題解決解決志向が向上するという意味があります。落ち込んだときに、周りのサポートがあると、よし!もう一度頑張ろう!という気持ちになれるのです。
チームパフォーマンスUP
川津ら(2012)[2]は、学生299名を対象に、試合中に励ますなどの協調的な行動が、集団効力感、大会結果にどのような影響を与えるかを調査しました。
その結果、試合中に仲間を鼓舞したり、励ますなど協力的なチームほど、集団効力感が高くなりやすく、大会でも結果が出やすいことがわかりました。仲間を励ますことは、チームの自信を深め、実際に結果も出やすくなるのです。
自分の幸福度も上がる
励ますのが得意な人は、相手のポジティブな面を見つけることが得意です。そして相手のポジティブな面を発見できる人は、幸せになりやすいことがわかっています。
高橋・森本(2012)[3]は都内大学生234名を対象にポジティブシンキングが心理的にどのような影響があるかを調査しました。その結果の一部が下図となります。
他人のポジティブなところを見つけ、励ますと、自分自身の幸福感が上がり、ネガティブ感情が減り、他人を軽視するも減ることがわかります。
積極的に相手を励ますことで、相手だけでなく、自分も幸せになれるので日常的に他人を励ますこと心掛けたいところです。
効果的な8つの励まし方
ここからは効果的な励まし方を6つお伝えします。
① 問題解決を急がない
② 逆効果になるNGな言葉
③ 感情を引き出す質問
④ 共感的に励ます
⑤ 結果よりも努力を励ます
⑥ リフレーミングで励ます
⑦ 自己開示をしてみる
⑧ ありふれた日常を大切に
ご自身の状況に合いそうなものをぜひご活用ください。
①問題解決を急がない
励ますのが苦手な方には以下の傾向があります。
失敗した原因をすぐに分析しようとする
問題解決をすぐにしようとする
相手の問題行動を指摘して改善を促する
自分なら〇〇する!と解決策を告げる
いかがでしょうか。これらの傾向がある方は要注意です。なぜなら落ち込んでいる相手は、問題解決よりも、気持ちを受け止めてほしいと感じているからです。
子どものころ、転んで膝小僧を打ってしまい、皮がむけてしまった経験は誰でもあると思います。この時、早く治そうと、消毒液を必要以上にかけたり、かさぶたを無理にはがすと、治りが余計遅くなってしまいます。
励ます時も同じです。落ち込んだ相手を目の前にした時に、あなた自身が焦り、すぐに解決しようとしても、傷口を余計にひろげてしまうこともあります。特に悩みを抱えている初期の段階では、絆創膏をそっと貼ってあげるぐらいの気持ちを持つことが大切です。
相手の問題をすぐに解決しようとするのではなく、自然な回復を待つぐらいの気持ちで、温かく励ますことを大事にしてください。
②逆効果になるNGな言葉
①でも解説したように、失敗したばかりの人は、心にケガをしたばかりと考えましょう。皆さん、けがをしたときはどんな気持ちになるでしょうか。混乱して、不安になっていると思います。そんなときに以下のような言葉を言われたらどんな気持ちになるでしょうか。
気にしない方がいいよ 大丈夫大丈夫 元気出せって まあ次はあるさ なんとかなるって 前向きに考えようよ がんばればいけるよ 普通のことだよ もっと〇〇な人がいるよ
おそらく、「何もわかってくれてない」「私の悩みを軽く扱っている」と感じる方がほとんどでしょう。落ち込んでいる人に対して、軽率にこれらの言葉を使うのは、逆効果です。安易に相手を励ますことは避けるようにしましょう。
③感情を引き出す質問
挫折や失敗をしたばかりの人は、「ただ聴いてもらいたい」という気持ちを持っています。そこで悩みを相談されたばかりのときは、「あれやこれや言わず、ただ傾聴する姿勢」を大切にしましょう。具体的には、
④共感的に励ます
感情を引き出す質問をすると、相手が苦しい気持ちを自己開示してくれると思います。この時、共感的に聴くことを意識しましょう。例えば、相手が
好きな人から嫌われてしまって…つらいんだ…
このように話してくれたとします。このような発言に対しては、
そうかあ…それはしんどいね…
好きであるほど苦しいよね…
このように、感情を受け止めるように返していきます。これは感情のオウム返しと言われる技法です。人は自分の感情を繰返してもらええると、理解してくれたと感じて、気が楽になるのです。
共感の具体的なやり方については以下のコラムで解説しています。理解を深めたい方は参考にしてみてください。
⑤結果よりも努力を励ます
しっかりと相手の悩みを傾聴したら、段々と相手の顔がほぐれてきます。この段階になると、励ます言葉を積極的にかけていきたいところです。ここで1つ研究を紹介します。
浅沼ら(2018)[4]は大学生249名を対象に、「ほめられ経験の種類」が「自己効力感」に与える影響を調べました。その結果が以下の図です。
上図のように「能力」よりも「努力」を褒められた方が、自己効力感が増加することが分かりました。この研究は「褒める」という好意でしたが、「励ます」でも同じような効果が期待できると筆者は考えています。例えば、
今回はダメだったけど、次はうまくいくよ
結果から学べばいいさ
またがんばればいいさ
このように結果を重視した慰め方は 裏を返せば「結果を出さなきゃダメ」という価値観が裏側にあり、相手の負担になってしまいます。
励まして欲しい人は、結果がでず、挫折している自分を全体として包み込んでほしいという気持ちがあります。そこで、励ます時は「結果」ではなく、「努力」に目を向けることが大事です。
これまですごく努力してたよね。尊敬する。
挑戦したこと自体がすごいとおもう。
好きになること自体、勇気がある証拠だよね
このように、結果が報われるかどうかではなく、頑張った過程や努力に目を向け、励ますことも大事にしてみてください。
⑥リフレーミングで励ます
相手がの気持ちが整理されてきたな…と感じたら、あなた自身の前向きな視点も、積極的に伝えてOKです。例えば以下のように励ますことができます。
*失恋をした人
失恋をすると人の痛みが分かるようになるよね
失恋はつらいけど、好きになれたこと自体は勇気があると思う
*金銭的な失敗をした人
お金の失敗は誰でもあるから、次に活かすことが大切かもね
お金を失うと、ありがたみがわかるようになるよね
*仕事で失敗した人
仕事での失敗は経験になるから、成長しているともいえるよね
今回のトラブルがあったからこそ、大きな失敗をしないで済んだかもしれないよ
このように新しい視点を提案していきます。もちろんそれを受け入れるかは相手次第ですが、あなた自身の意見も提案してOKです。たくさんの視点を提案できるようになりたい!と感じる方は下記のコラムを参照ください。
リフレーミングコラム
⑦自己開示をしてみる
安易に自分の体験を相手に話しても逆効果になることが多いですが、相手の話を十分理解したなら、思い切って自分の体験を話してみてもいいでしょう。
例えば、自分も同じような困難を経験し、それをどう乗り越えたかを具体的に話します。自分の失敗談や苦労話を正直に語ることで、相手は自分だけが悩んでいるわけじゃなかったんだ…と孤独感が減り、勇気を持つことができます。
ただし、自己開示はあくまで相手をサポートするための手段であり、自己中心的にならないように注意します。最後に、前向きなメッセージで締めくくり、相手が希望を持てるように励ましましょう。共感と応援の気持ちを忘れずに伝えることが、相手にとって大きな力となります。
⑧ありふれた日常を大切に
人は落ち込んだ時に、身近な人が安全基地であるというだけで、充分励まされます。安全基地であるということは、ただありふれた日常をいつも通り過ごすことを意味します。
おはよう!と笑顔で声をかけてくれる
おつかれちゃんと肩をたたいてくれる
くだらない雑談をしてくれる
絵文字でラインをくれる
こんなありふれたこんな日常がいつも通り展開されるだけで、随分励まされるのです。共感したり、視点を変える意見を言ったりするのもOKですが、それと同じぐらい、ありふれた日常をいつも通りすごすことが大事です。
なお、相手の安全基地になるのは、ストロークという手法を学ぶと効果的です。仕上げとして以下のコラムも是非参考にしてみてください。
まとめ
大切な人が悩んでいる時、心配する一方で、どう声をかけたら良いかわからなくなる方も多いと思います。繰り返しになりますが、最初はしっかり傾聴するだけで充分です。
悩みをしっかり聴かない段階で、励ます言葉を投げかけても逆効果です。まずはしっかり傾聴をして、相手の気持ちがほぐれた段階で、過程を認めたり、リフレーミングを促す励ましの言葉をかけていきましょう。
皆さんが、大切な人の心の支えになれるように願っています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・励ましの基礎,傾聴力をつける練習
・心がやすらぐ,共感力トレーニング
・リフレーミングで前向きな発想を促す
・支援の力をつける,コミュトレ
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1件のコメント
申し訳ありません。別ページは削除となっていました。その代わり当コーナーを充実させました。参考にして頂けると幸いです。