第一次反抗期,幼少期の子どもへの対処法
反抗期コラムの目次は以下の通りです。
コラム1 反抗期はいつまで? 時期・対応
コラム2 第一次反抗期,接し方
コラム3 第二次反抗期,接し方
コラム4 反抗期がない原因,影響
反抗期コラム①では、反抗期には第一次反抗期と第二次反抗期があることを解説してきました。今回はコラム2として、「第一次反抗期の子どもへの接し方」を紹介します。
このコラムを書いている筆者の川島は3歳児の父親です。私自身もまさに今、反抗期の子供と接しています。私の体験談も適度に含めながら解説していきます。
第一次反抗期とは
第一次反抗期はいつ
第一次反抗期は、一番最初におとずれる反抗期です。一般的に「魔の2歳児」「悪魔の3歳児」「天使の4歳児」という言葉があるように、第一次反抗期は2歳から3歳前後にかけて起こります。
博報堂イヤイヤ研(2017)[1]では、0〜5歳の子どもを持つ父親・母親9,250名を対象に、第一次反抗期であるイヤイヤ期の割合について調査を行いました。その結果が以下のグラフです。
このように2歳前半~後半の子どもを持つ父親・母親が、もっとも「今、うちの子はイヤイヤ期」と回答した割合が多いことが分かります。さらにグラフを見ると、1歳前半~後半にかけてグラフが急激に伸びています。これは、第一次反抗期が1歳半からスタートすることを示しています。そして、3歳から緩やかに低下していき、5歳前半になるころには、23.7%にまで下がっています。
第一次反抗期は2歳が最も多く、3~4歳になったからといってピタッと終わるわけではなく、その後も緩やかに続いていくのです。
第一次反抗期の特徴
・自己主張が強くなる
心理学の世界では、2歳前後に自我が芽生え始めることが分かっています。自我の芽生えと共に、自分の感情や価値観への気づきが明確化され、自分はこうしたい、自分はこう考えているという主張が増えていきます。
・何をするにも否定が増える
「イヤイヤ」と言って否定することが多くなります。私の子供のケースですと「パンを食べたくない、ご飯を食べる!」と主張し、ご飯を出すと「ご飯はイヤ!」と否定したりします。その頑固さたるや、尊敬に値するレベルです。
・癇癪を起す
自分の主張が通らないと、感情が爆発し、泣きわめくようになります。幼少期は周りへの迷惑を考える余裕はありません。自分の主張が第一なので、要求が通らないと周りの目を気にせず感情的になるのです。
第一次反抗期と成長
第一次反抗期はどのような心理的なメリットがあるのでしょうか。
自我の確立
幼児が自分のことを1人称で
花子はね、〇〇なんだ
太郎はね、△△したい!
これは僕のだよ
私もたべたいこれは
と1人称を使い始めるのは1歳から2歳の間となります。これは「自我の芽生え」で「私」と「他人」を分けて考える、最初の心理的な発達の証拠でもあります。
一方で、幼児は世界と自分を切り離して考えることが苦手で、自分の思い通りにならない世界に対してイライラしはじめます。このような思い通りにならず、イライラする時期はイヤイヤ期、反抗期と言われます。
しかし、この時期に適切に親が対応することで、「自分」と「他人」の区別ができるようになり、自分の欲求をうまく他人に伝える力や、ときに譲る力をつけることができるのです。
できないことを学ぶ
反抗期の時期は、子供の要求が増えますが、一時的な感情を抑えるために、報酬を与えてしまうと、「できること」「できないこと」の区別ができなくなります。
一方で、親や保育園の先生が適切に叱ると、この経験を通じて、子どもは社会的なルールや他人との関わり方を学びます。反抗期は社会のルールを学習する絶好の機会なのです。
感情のコントロールを覚える
第一次反抗期は子どもが感情を表現し、管理する方法を学ぶ時期でもあります。感情の爆発や急な変化を経験する中で、子どもは自分の感情を理解し、それを適切に表現する方法を学びます。親が子どもの感情に対して理解を示し、サポートすることで、子どもは感情のコントロール能力を高めることができます。
反抗期とリスク
反抗期は家庭内で様々なリスクが発生します。
虐待のリスク
第一次反抗期は「子どもの成長の証」と頭でわかっていても、子どもの反抗的な態度が顕著な時にはイライラしてしまうものです。イライラする気持ちは、心身共に不安定な状態を招きます。
ストレスが深刻なレベルになると、虐待行動に発展する可能性があります。例えば、育児放棄をしてしまう、怒鳴りつけるなど、取り返しのつかない行動をとってしまうこともあります。
人格形成への影響
感情に任せた叱り方を繰返すと、愛着不安が強くなってしまいます。例えば、子どもを無視したり、理不尽な叱り方をすると、信頼関係が築けず愛着不安が生まれてしまいます。幼少期に愛着不安を抱えると、成人してからも、友人や恋人と不安定な関係になりやすことが分かっています。
適応障害の危険性
子育てによるストレスで、親が適応障害になる可能性があります。適応障害は、ある特定の状況や出来事が非常につらく耐えがたく感じられ、気分や行動面に症状が現れる障害です。例えば、不眠、体調不良、育児ノイローゼなどの症状がある場合は、注意が必要です。
子育てがストレスの場合は、子どもから離れたり、子育ての負担を軽くすることで症状は次第に改善されます。一方で、症状の改善が見られない場合は症状が慢性化することもあり、専門家によるケアが必要な場合もあります。
第一次反抗期,10の対応
ここからは第一次反抗期に心がける10の方法を解説します。
①成長を気長に待つ
②叱る時は肯定をセットで
③叱るときは理由を加える
④タイムアウト法
⑤ダブルバインドに注意
⑥肯定的な認知を増やす
⑦カッとなったら選手交代
⑧夫婦関係を円満に保つ
⑨問題を冷静に分析する
⑩親も余裕を持つ
ご家庭で使えそうなものを組み合わせて活用してみてください。
①成長を気長に待つ
人間にとって、遠慮なしに感情を爆発させることができる時期は、幼少期だけです。この時期に、感情を無理に抑えるつける癖がつくと、人の顔色を窺う性格になってしまいます。
ある程度、感情を爆発させて自己主張することは、言いたいことを言える、話し合える人格形成のために必要不可欠です。
理由も聞かず頭ごなしに叱る
「泣かないの!」と泣くこと自体を否定する
怒鳴りつけて泣き止ませようとする
このように感情表現を無理に抑えつける育児はのやり方はNGです。まずは子どもなりの理由を聞き、共感をしめしながら、粘り強く丁寧に諭していけば、ゆっくりとですが、反抗期は収まってきます。数年単位の長期戦となりますが、成長を気長に待つように心がけましょう。
②叱るときは肯定をセットで
親の役割として、「できること」「できないこと」をしっかり教えることは、とても大事です。NGな行動をしたときは、叱ることも大事です。叱り方を効果的にするには、サンドイッチのように「肯定的な言葉」で挟むことです。
例えば、箸の持ち方が間違っていたとします。
お箸うまくなってきたね!(肯定)
でももう少し先の方を持つと食べやすいよ(否定)
そうそう!上手上手(肯定)
このように肯定しながら叱ると子供のモチベーションも上がっていきます。
③叱るときは理由を加える
叱る時には、子どもが納得するまで根気よく理由を伝えていきましょう。例えば、子どもが石を投げたとします。
石は投げると危ないからやめようね(否定)
石は固いから当たると痛いでしょ
大けがさせて悲しい思いをさせちゃうよ(理由)
このようになぜいけないことなのか?わかるようにすると、成長も早くなります。
④タイムアウト法
子どもが繰り返し良くない行動をする場合は、タイムアウト法が効果的です。タイムアウト法は、
好ましくない行動をとった子どもを、その場から一時的に引き離し、気持ちを落ち着かせる方法
を意味します。たとえば、友だちを叩いてしまう子どもの場合、今度同じことをしたらタイムアウトする事を事前に伝えます。
そして問題行動があった時には、タイムアウトを伝え、友だちから子どもを離し、決められた場所で数分間待たせます。この時、話しかけたり叱ったりはしません。
子どもの気持ちが落ちついたら「何が悪かったか」を一緒に振り替えります。タイムアウトを使うことで、子どもはもちろん、親もクールダウンして心を落ち着けて話ができます。
⑤ダブルバインドに注意
子どもへのダブルバインドに注意しましょう。ダブルバインドとは、他人から矛盾するメッセージを受け取る状況のことです(心理学辞典,2013)[5]。例えば、
「怒らないからなんでも話して」と言ったにもかかわらず、話を聞いてから子どもを怒った
「おもちゃを片付けないと捨てちゃうよ」と言って、子供が片付けないのに、おもちゃを捨てない
このような言動は、子どもを混乱させてしまいます。ダブルバインドを避けるには、言葉と行動を一致させることが大事です。
例えば、
「おもちゃ片付けないと捨てるよ!」
と嘘をつくのではなく
↓
「おもちゃにつまづいたら
痛いし危ないから片付けようね」
と実際に起こりうることを伝えるようにしましょう。
⑥肯定的な認知を増やす
中谷ら(2006)[4]は、3~4歳児の母親207名を対象に、肯定的認知と虐待の関係について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
こちらは育児に対して肯定的認知が増える、すなわち子供の成長の証拠、大人になる階段、子供らしい一面だ、と考えると、自尊心を維持しやすく、また育児ストレスをいつも通り保ったり、虐待を促進する考えを予防できると解釈できます。
反抗期は大変な時期ではありますが「私」がきちんと育っている証拠でもあるので、喜ばしい一面があると考える習慣を持つようにしましょう。
⑦カッとなったら選手交代
子育ては冷静な心を持っている人でも、精神がかき乱される瞬間があるものです。筆者は心理師であり、感情のコントロールはできる方だと思いますが、それでも子育て期間中、カッとなる瞬間はあるものです。
もし大きな声で怒りそうになったり、最悪手を上げそうになったら、それは子育ての選手交代のサインです。夫婦で協力して、いったんバトンタッチしましょう。
子供をパートナーに任せて公園に散歩に行く
30分だけスマフォタイムをもらう
寝かしつけを交代する
子供と買い物に行く予定だったが一人で行く
など夫婦間でルールを決めておきましょう。なお怒りのコントロール法については様々なやり方があります。以下のコラムからお守り代わりになるスキルをぜひ獲得してみてください。
⑧夫婦関係を円満に保つ
バトンタッチをスムーズにするには、普段から夫婦が仲良くしておくことも大切です。円満な夫婦関係は子供の精神的な安定にもつながります。菅原ら(2002)[6]の研究では、1360名の母親を対象に、夫婦関係が子どものメンタルヘルスにどのような影響を与えるかを調査をしました。その結果が以下の図です。
「父親と母親がお互いに愛情を持っている」場合、家族の雰囲気がよくなり、子どもの抑うつ傾向が低くなることが分かりました。
さらに「母親が父親に愛情を持っている」場合、子どもに対しても暖かく接することができ、その暖かさが子どもの抑うつ傾向を下げることも分かりました。
つまり夫婦関係によって、子どもの精神的な健康が左右されるのです。夫婦喧嘩が多い、夫婦が険悪な状態…という場合は、以下のコラムを参考にしてみてください。
⑨問題を冷静に分析する
小林(2007)[7]は3、4か月の乳児の母親242名を対象にストレスの対処法を調査しました。その結果の一部が下図となります。
こちらの図は子育てをするときに、起こっている問題の原因を考え対処する傾向がある母親ほど抑うつ感が少なくりやすいことを示しています。これは第一次反抗期の母親にも同じ効果を期待することができます。
子供が反抗期になると親も余裕がなくなり感情的になりがちですが、そんな時こそ、どんな時に反抗しやすいか、原因はなにか、どうすれば解決できるか、と冷静に考える姿勢も大事になります。
⑩親も余裕を持つ
子どもの癇癪やイヤイヤに100%の力で向き合うと、親も体調を崩してしまうことがあります。心理的に安定した状態で子育てをするために、8割くらいの力で関わることを心がけましょう。
2割の余裕を持つためのアイデアとしては以下が挙げられます。
おもちゃは1つの箱に雑に片付ければOK
多少の食事の好き嫌いは許す
大人になってから治ると気長に構える
本当に疲れたときは、アンパンマンを見せる
月に1度は実家に子供を預けて夫婦の時間を大事にする
サボる事の大事さについては、動画でも解説しました。よかったら参考にしてください。
まとめ
第一次反抗期の子どもは言葉での表現がまだ未熟なため、癇癪の原因が分からず、頭を悩ませてしまうこともあると思います。
子どもと100%の力で向き合っているとへとへとになってしまうので、適度に休息をとって子どもと関わってみてください。
パパやママの心と体が健康で、そして夫婦関係が良好だと、子どもも心穏やかに過ごせます。コラムの対策を参考に、第一次反抗期を上手に乗り越えていきましょう。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連