ユマニチュードケア入門,やり方
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「ユマニチュードケア」です。
高齢者ケアの中で相手と信頼関係を築く手法として「ユマニチュード」というものがあります。今回は、ユマニチュードを使ったコミュニケーションの方法を基本からしっかりとお伝えしていきます。
*目次
ユマ二チュードの意味
ユマニチュードの歴史
研究事例
4つの柱を知ろう
高齢者に関わるお仕事をされている全ての方のお役に立てる内容となっています。ぜひ最後までご一読ください。
ユマニチュードケアとは何か
定義
ユマニチュードケアとは以下のように定義されています。
「人間らしさ」を意味し「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術(野本,2017)[1]
知覚・感覚・言語による包括的なコミュニケーション技法であり,認知症の人との良好な関係を構築するためのコミュニケーションスキル(宗形ら,2015)[2]
このようにユマニチュードは、高齢者や認知症患者を中心に用いられる、コミュニケーション技法の総称と言えます。
歴史
ユマニチュードは、1980頃から小説のタイトルや、遺伝学などの専門家の中で使われるようになりました。1995年にはフランスのイブ・ジネストとロゼット・マレスコッティの 2人によって「ケア」の手法として確立をしました[3]。その後、日本には2014年頃からユマニチュードの研修や講演が開かれるようになりました。
現在は、福祉の世界をメインに活用されおり、患者さんとの心地よい関わり方として利用されています。下記は提唱者の1人であるイヴ・ジネスト先生の動画です。人柄など参考してみてください♪
ユマニチュードケアの実践場面
ユマニチュードケアは3つの段階で実践されていきます。
①回復を目指す段階
患者の回復の手助けになるようにケアを行います。例えば、言葉の力を取り戻せるように会話をすることを心がけたり、立つことができる場合は清拭を立ったまま行ったりします。
②機能を保つ
車椅子をなるべく使わない、散歩をする、過去の思い出を語ってもらう、などを行い、日々生活を営む機能が低下しないように心がけます。
③最後まで寄り添う
残念ながら、回復や機能の維持が難しい場合は、穏やかな最後を迎えられるよう、寄り添うことを大事にします。
ユマニチュードケア4つの柱
ユマニチュードには150を超える技法がありますが、その中でも以下の4つが柱として挙げられています。
①見る
②話す
③触れる
④立つ
それぞれ詳しく見ていきましょう。
①見る
「見る」ときのポイントは以下の通りです。
・目の高さを合わせる
相手の目線と水平になるよう高さを合わせて会話をします。目線を水平に合わせることで、相手と自分は平等な存在であることを伝える効果があります。
・真正面から見つめる
顔を真正面から見つめることで、信頼や安心感を示す効果があります。また親密度を表すときには、相手と顔を少し近づけるといいでしょう。
・3秒以上目線を合わせる
3秒以上じっくりと目線を合わせて、アイコンタクトを取ります。長くしっかり患者に視線を向けることで好意や愛情を表現できます。
②話す
・ポジティブな言葉を使う
「気持ちのいい朝ですね」「おいしいご飯ですね」など、前向きな言葉を使って話しかけます。トーンは優しく、穏やかに話しかけるよう意識します。
・オートフィードバックを使う
相手の反応がない場合は、行動を実況中継する「オートフィードバック」を用います。たとえば「これから外に出ますよ」「身体を起こします」「ゆっくり進みましょう」「風が気持ちいいですね」など、今行っている行動を言葉にして伝えます。
③触れる
・背中から触れる
スキンシップも安心感を与えます。頭、胸、顔、といったプライベートゾーンからではなく、背中、腕など、触れられても不快になりにくい部分からタッチするようにしましょう。
・優しく触れる
スキンシップは、手首や足をつかむようにすると、ネガティブなメッセージを伝えてしまいます。ポジティブな雰囲気でゆっくりと、なでるように優しく触れていきましょう。
立つ
ジネスト, マレスコッティ(2016)[4]は、「患者は1日にトータル20分立つことができれば、寝たきりにならない」と言及しています。
自分で立ち上がる力を失わないためには、援助者がよりそいながら、患者の立つ時間を促すことが大切です。
立つことは骨に荷重をかけて骨粗しょう症を防いだり、筋力の低下を防ぐなどのメリットがあります。また、援助者が励ますことで、自信を取り戻すことにもつながります。
ユマニチュード技法4つのポイントを、事例で確認していきましょう。
ユマニチュードの5つのステップ
本田(2016)[5]はユマニチュードの実践手順について説明しています。具体的には以下の5つのステップで行います。
①出会いの準備
②ケアの準備
③知覚の連結
④感情の固定
⑤再会の約束
この5つのステップを通じて、4つの柱を実践していきます。それぞれ具体的に見ていきましょう。
①出会いの準備
まずは自分の存在を知らせることから始めていきます。そして、プライベートなスペースに入ってもいいか患者に確認していきます。例えば、患者の病室に訪れた際にノックするなどをして、相手の反応を確認するステップです。ユマニチュードでは、
3回ノックして3秒待つこと
を2回繰り返すことを推奨しています。
1回目で返答が得られなくとも、少し間をおいて、再度ノックを繰り返すことで応じてもらえる可能性は高まります。患者によっては、聴力が衰えている場合もあり、ノックを繰り返すことで患者の覚醒水準を高められます。
②ケアの準備
ケアの準備は、患者に「あなたに会いにきました」と告げるステップです。患者と信頼関係を作るための時間になります。このステップでは、
患者ケアに同意するような安心感のあるコミュニケーション
が求められます。あくまでも、仕事のためだけではなく、患者自身に会いに来たことを明確にしましょう。
自分に会いに来た理由が、あまり好ましくないものであれば、患者が拒絶する可能性が高まります。本来の目的が患者が嫌がっている内容のものであれば、最初は伝えないこともあります。
3分間で患者の同意が得られない場合、一旦その場から離れます。一度離れることで、患者の嫌がるケアを強引に進めるのではなく、患者に交渉の余地があることを伝えられます。その結果、次回の来訪の際に好ましい反応を得やすくなるのです。
③知覚の連結
このステップが「ケア」の実施に当たります。先ほどご紹介した、
見る
話す
触れる
立つ
の4つの柱を意識して、自分のメッセージに矛盾を持たせないようにコミュニケーションを取っていきます。①と②をしっかりと実行することで、ケアのステップがスムーズになります。
④感情の固定
感情の固定とは、ケアが心地よいものであったことを共有する時間をもつことです。ケアが終わった後、すぐに立ち去るのは好ましくありません。具体的には、
「よくがんばりましたね」
「気持ちよかったですね」
「いい気分になりましたね」
など、アイコンタクトを行いながら、患者に優しくボディタッチして、ケアのポジティブ面を語る時間を設けます。これによって、患者にケアに対して好ましい感情記憶を残すことができます。感情の固定のステップは1分以内で十分です。
⑤再会の約束
再会の約束は、次の来訪につなげるためのステップです。お別れの挨拶をしっかりと伝えることで、お互いに気持ちよくケアを終えられます。
患者の中には記憶力が低下している人もいます。この場合、患者が内容を覚えていなくても、以前のケアは心地よかったと感情で覚えていれば、次回の来訪時に受け入れてくれる可能性が高まります。
「また会いましょうね」
「次回のケアも一緒に頑張りましょうね」
「今日はありがとうございました。また来ますね」
といった具合に、患者に「次回もお願いします」といったメッセージをしっかりと伝えるようにしましょう。
研究紹介
ユマニチュード力はトレーニングをするとしっかり向上させることができます。効果研究についてそれぞれ折りたたんで記載しました。参考にしてみてください。
学習によりスキルが向上する
宗形ら(2015)[2]は、経験豊富な病棟リーダーの看護師にユマニチュードを学習してもらい、学習前と学習後の対応にどんな違いが出るかを調査しています。まずは、「触れる」から見ていきましょう。結果が以下の図です。
このように、学習前は0%だったのものが、学習後には37%に増えています。続いて、「話す」の結果を見ていきましょう。以下の図をご覧ください。
このように、学習前より学習後の方が2倍以上もグラフが伸びています。最後に「見る」の結果を見ていきましょう。
上記のように、学習前と比べて学習後の方が大きくグラフが伸びていることが分かります。ユマニチュードを学習することで、アイコンタクトの量が増えたり、相手の顔を見る回数が大幅に増えるのです。
介護士の仕事の質が上がる
大坪ら(2020)[6]は、ユマニチュードに関する25件の論文を集計し、ユマニチュードがどのように実践され、評価されているのかを調査しています。
その結果の1つに、認知症患者へユマニチュードでの関わりを行う前の反応と、行った後の反応を比較したものがあります。以下の表をご覧ください。
このように、ユマニチュード前と後でケアの姿勢や質が上がっていることが分かります。ユマニチュード前は認知症患者からの暴力・暴言に恐怖を感じていたり、逆に恐怖を与える行動をしてしまっていました。
そこで、ユマニチュードを活用したところ、「患者に対する抵抗が減った」「安心感を与えられた」などの実感を感じた介護士・看護師の方が多かったのです。
まとめ
今回はユマニチュード技法について紹介しました。患者にとっては、ユマニチュードの精神を持つ援助者に出会えることは、本当に幸運なことです。
そして、ユマニチュードの精神をもって、援助を行えば、幸せのおすそ分けを自分自身も受け取ることができます。是非日々のかかわりの中で意識してみてください♪応援しています!
お知らせ・発展編
ここからは「お知らせ」と「発展編」になります。
もっと学びたい方へ
援助職としてのスキルを向上させたい方は、公認心理師によるコミュニケーション講座をおすすめします。内容は以下のとおりです。
・援助職必須,傾聴力トレーニング
・心をいやす,共感力トレーニング
・心理的なケア,心理療法の基礎
・ラポールを築く,人間関係の技術
体験受講に興味がある方は下記のリンクからお待ちしています。筆者も講師をしています(^^)
共感力をつける
共感力を向上させると、高齢者のメンタルヘルスが向上し、免疫力も高くなっていきます。福祉職の方は是非共感トレーニングも意識してみてください。
温かい会話力
高齢者の認知機能を維持するには、援助者自身が会話力をつけておく必要があります。公認心理師の元で会話練習をしたい方は、私たちが開催している講座をおすすめしています。
講座では、温かい言葉がけ、質問の作り方、肯定的に返す練習をたくさん行います。興味がある方は以下のお知らせをクリックして頂けると幸いです。
ラポールを築く
ラポールを築く力を、ユマニチュードケアを合わせて学習すると、より寄り添った援助ができるようになります。心を通い合わせる力をもっとつけたい!と感じる方は以下のコラムを参照ください。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連