家族,職場でイライラしない方法,解消法
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「イライラしない方法,解消法」です。
相談者
38歳 女性
お悩みの内容
私は現在、フルタイムで働きながら3歳の子供を育てています。
・子供が夜寝ない
・癇癪を起すと1時間続く
・旦那が子育てに積極的ではない
・自分の時間を取れない
これらが重なり、家族や職場の同僚に対してイライラしてしまいます。結婚前は温厚な性格で、怒ることはめったになかったのですが、最近は大きな声で怒ってしまうこともあります。イライラしない方法を知りたいです。どうすればいいですか?
子供が小さく、かつフルタイムで働いているとなると、時間がいくらあっても足りなくなりそうですね。イライラするのも当然だと思います。当コラムではイライラする時の対処法を解説していきます。是非最後までご一読ください。
イライラする危険性
イライラする気持ちを放置すると、心と体、人間関係まで、様々な問題に発展していきます。以下心理学の研究なども踏まえながら、問題を折りたたんで解説しました。興味がある見出しを展開してみてください。
[toggle title=”身体の問題を抱えやすくなる” load=”close” suffix=”2″]イライラは身体の不健康をもたらします。
身体の健康も下げる
橋本・織田(2008)[1]は「短気や敵意」と「身体的QOL」の関係を調査しました。身体的QOLとは、身体の健康度を意味します。以下の図は調査の結果の一部です。
図のように短気が高いほど、身体的QOLが下がることが分かります。すぐにイライラしてしまう人は、心も体も健康的になりにくいと言えそうです。
身体症状が出る
髙橋・山本(2016)[2]は教員200名、学生360名を対象にレジリエンス力について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
このように、怒りが高いと、身体症状も高くなるという正の相関が示されています。つまり、イライラすることが多い人は、体の健康にも悪影響が出やすいのです。
[/su_spoiler] [toggle title=”人間関係が壊れやすくなる” load=”close” suffix=”3″]イライラが止められず、怒りに発展すると、人間関係は破壊的になります。
・相手に暴言を吐く
・仕事を投げ出してしまう
・つい離婚だ!と言ってしまう
・子どもへの虐待
これらの行動の裏側にはイライラや怒りの感情があります。イライラは人間関係が壊れるサインであることを確認しておきましょう。
[/su_spoiler] [toggle title=”イライラする時は集中力が下がる” load=”close” suffix=”4″]イライラしている時は、集中して物事に取り組めなくなります。
髙橋・山本(2016)[2]の調査では以下の図のような結果が抽出されました。
上記の図を見ると、怒りの高さと集中力の欠如には相関関係が見られます。直感的にもわかりやすいと思いますが、イライラは集中力を削いでしまうのです。集中力を高めるには、心を安定させておくことが大事と言えます。
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イライラする原因は複合的
私たちはなぜイライラしてしまうのでしょうか。原因は1つではなく、複数挙げられることが多いです。詳しい対処法の前に、ジョージ・エンゲルは1977年に、BPSモデル(Bio-Psycho-Social Model)を抑えておきましょう。[3]。
BPSモデルとは何か
BPSモデルとは、からだの機能(Body)、心の状態(Mind)、そして社会(Social)の3つに注目して、健康や病気を理解しようとする考え方を意味します。
BPSの考え方が広まることで、原因が複数あったり、病気の状態がわかりにくい場合でも、より良い説明ができるようになっていきました。
イライラする…とBPSモデル
イライラする時、原因が1つに絞られることは稀で、複数の原因が複雑にからまりあって起こるものです。そのため、体の面だけでなく、心や社会的(環境)も大切にすることが大事になるのです。
以下、体の面、心の面、社会的(環境)のそれぞれについて複数の対処法を提案していきます。ご自身にあてはまる…と感じるものを、組み合わせて日々の生活に役立ててください。
イライラする原因,体の面と対処法
私たちの心と体はつながっています。これは心身相関と呼んだりもします。イライラしやすい時は、体の面で問題が起こっていることがあります。具体的には以下が挙げられます。
副交感神経の活性化
食生活の乱れ
睡眠不足
女性特有の症状
精神疾患
副交感神経の活性化
私たちの体は、交感神経と副交感神経のネットワークがあります。交感神経は、危機へ対処する神経で、体を緊張させ、思考を鋭利なものにしていきます。イライラしているときは、大概の場合は、交感神経がオーバーヒートしている状態になります。
対策としては、副交感神経が働くように意識をしてみることです。副交感神経は、リラックス系の神経で、体の緊張をほぐし、心を穏やかにさせる効果が期待できます。
具体的には、深呼吸をする、散歩をする、朝日を浴びる、などが挙げられます。以下のコラムでは体の面からリラックスする方法を解説しています。緊張状態が続き、身体が疲れている感覚がある方は参考にしてみてください。
食生活の乱れ
私たちの体は、食事から得られる栄養素で構成されています。栄養バランスが偏ったり、不規則な時間に食事をしたりすると、体内のエネルギー代謝が乱れ、ホルモンバランスも崩れてしまいます。その結果、集中力や判断力が低下し、些細なことでイライラを感じやすくなってしまうのです。
具体的には、主食、主菜、副菜をバランスよく摂取し、ビタミンやミネラルを積極的に補給しましょう。また朝食を抜いたり、夜遅い時間に食事をしたりするのは避け、規則正しい食生活を心がけることが大切です。さらに間食にはナッツやヨーグルトなど、体に優しいものを選びましょう。
睡眠不足
睡眠不足は、心身の疲労を蓄積し、脳の機能を低下させます。脳が疲れると、感情のコントロールが難しくなり、些細なことでイライラしやすくなってしまうのです。また、睡眠不足は集中力や判断力も低下させ、仕事や勉強にも悪影響を及ぼします。これもイライラの1つの要因に繋がります。
良質な睡眠をとるには、毎日同じ時間に寝起きし、体内時計が大切です。また、寝る前のスマホやパソコンの使用は控え、リラックスできる環境を作りましょう。さらに寝室の温度や湿度を快適に保ち、良質な睡眠をとるようにしましょう。
またなかなか寝付けない、日中にひどい眠気に襲われる場合は睡眠障害が疑われます。以下のコラムでは睡眠障害とは何か、対策方法なども解説しています。睡眠不足で日常生活に大きな支障が生じているという方は参考にしてみてください。
女性特有の症状に注意
女性の場合は、月経周期によるホルモンバランスの変化や更年期によって、イライラを感じやすくなることがあります。特に、月経前症候群(PMS)と呼ばれる症状は、イライラだけでなく、頭痛やむくみ、肌荒れなど、さまざまな不調を引き起こします。
対策としては、月経周期を把握し、PMSの時期に合わせたセルフケアを行うことが大切です。また温かい飲み物や軽い運動で体を温め、血行を促進しましょう。ナッツやレバーなど、マグネシウムやビタミンB群を意識的に摂取することも有効です。
生理前になると、些細なことで怒ってしまう…、40代を過ぎたあたりからイライラするようになった…。心当たりがある方は、女性特有の原因を視野に入れた方がよいでしょう。女性特有の問題について詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
心の病気の可能性
イライラする気持ちは、心の病気の症状として表れていることがあります。例えば、境界性パーソナリティ障害をがある方は、感情の浮き沈みが激しく、怒りが爆発しやすいという特徴があります。
以下、イライラする気持ちと関連しやすい精神疾患を紹介します。慢性的にイライラする…何かがおかしい…と感じる方は参考にしてみてください。
イライラする原因,心の面と対処法
イライラしやすい時は、心のあり方でも問題が起こっていることがあります。具体的には以下が挙げられます。
完璧主義
選択的知覚
他責になりやすい
他人への期待値が高い
自分を客観視できない
完璧主義
完璧主義の人は、常に完璧な結果を求め、自分自身にも周囲にも厳しい要求を課します。しかし、この完璧主義こそが、イライラを生み出す罠なのです。完璧な結果を追求するあまり、些細なミスにこだわり、焦燥感や不安を感じてしまうのです。
完璧主義を克服するには、まず自分の思考パターンに気づくことが大切です。「完璧にやらなければいけない」という考えにとらわれず、「ある程度できれば良い」と柔軟に考えるようにしましょう。また、小さな成功体験を積み重ねることで、自信を育み、完璧主義から解放されることができます。
完璧主義コラムでは、完璧主義の克服方法をさらに詳しく解説しています。完璧主義に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
選択的知覚
選択的知覚とは、自分の興味や関心に沿って情報を処理し、記憶するという人間の心理的な傾向です。ネガティブな思考に偏っていると、周囲の出来事や人の言動をネガティブに解釈してしまい、イライラを感じやすくなってしまいます。
選択的知覚を克服するには、意識的にポジティブな情報に目を向けることが大切です。例えば、日々の生活の中で感謝できることを書き出すなどが大切です。
実際に日常的に感謝の気持ちを持つ人は、幸福度が高まることが分かっています。 Barton(2015)ら米国ジョージア大学の研究チームは、468組の夫婦を対象に感謝と幸福感に調査を行いました。研究では以下の2つの結果が出ました。
感謝をするほど夫婦の幸福感が高い
感謝をすると夫婦喧嘩が修復される
日常的に感謝する気持ちをもち、相手に積極的に伝えることでイライラなどの関係を壊す原因を予防できると考えられます。旦那や子どもへの感謝を探す方法をより深く知りたい方は下記をご覧ください。
感謝の気持ちを持つ,伝え方
他責になりやすい
他責の人は、自分の失敗や責任を他人に押し付けようとする傾向があります。自分の非を認めようとしなくなり、周囲の人との関係が悪化してしまうことも少なくありません。
他責を克服するには、まず自分の行動を振り返り、責任を認めることが大切です。自分の言葉や行動が相手にどのような影響を与えたのかを冷静に考え、謝罪する必要がある場合もあります。また、自分の弱点を認め、改善しようとする努力も必要です。
他人への期待が高い
他人への期待が高い人は、周囲の人に対して理想像を押し付けてしまいます。相手が期待通りに行動しないと、イライラを感じてしまうのです。
周りの人に対してイライラしやすい方は、
期待値である「50」を下回るほどイライラは増えていきます。一方で、「50」を上回ると納得・満足・感動などのプラスの感情が現れます。この点、あらかじめ相手への期待を下げておけば、相手が失敗したり、思い通りに動いてくれなくても、「そんなものか」と穏やかな気持ちでいられるのです。
期待値を下げる練習をしたい方は下記をご覧ください。
自分を客観視できない
自分を客観視できない人は、自分の感情や思考に振り回されてしまいます。冷静な判断ができず、イライラを感じやすくなってしまうのです。人間の負の感情には、軽いものから、重たいものまで、段階があります。イライラは以下のように重たい段階になります。
1段階 もやもや 疑問 疑惑
2段階 不満 不服
3段階 イライラ ムカつき
4段階 怒り 暴力 暴言
このようにイライラする気持ちは、怒りの手前にある黄色信号のような感情です。解消しなくては、怒りまで発展してしまい、大変なことになりますよ!という脳の合図なのです。
メタ認知とは、簡単に言うと、一歩引いた視点で物事を見ることです。例えば、以下の例が挙げられます。
イライラしている自分がいるな…
ああ怒っている自分がいるな…
手伝ってほしいとムカついている自分がいるな…
メタ認知力を高めると、イライラの火種に気がつき、冷静になることができます。感情的になると我を失う傾向がある…と感じる方は、以下のコラムで是非練習してみてください。
イライラする原因,社会的な対処法
イライラしやすい時は、社会的な状況(環境)により起こっていることがあります。具体的には以下が挙げられます。
時間が限られている
人間関係が悪い
孤独な生活になっている
生活の基盤が不安定
社会的な停滞
活かせそうなものがありましたら、組み合わせて取り入れてみてください。
時間が限られている
心理学の研究では、特に時間がない時にイライラしやすいことがわかっています。皆さんの事例ではいかがでしょうか?イライラしている時は大概、時間がないときだったのではないでしょうか。
イライラしたら、時間にゆとりを持つ工夫をしていくことが大事です。1つのやり方としては、生活の中で手を抜ける部分はないか?考えることをオススメします。手を抜くとは日本語的にマイナスイメージですが、手間を抜くを考えてみてください。例えば、
朝食はパンとバナナで済ます
夕飯の1品は総菜で終える
掃除の回数を減らす
クリーニングにする
などなど意外と手間を抜くことができるものです。以下のコラムでは、優先順位を決めて、心を整理する方法を解説しています。やることが多すぎてイライラする方は参考にしてみてください。
人間関係が悪い
イライラするときは、つい口調が厳しくなってしまいがちです。しかし、激しい口調で主張をすると、結果的に相手も反抗的になり、問題がより大きくなっていきます。
そこで大事なことが、柔らかく主張していくことです。例えば、
「〇〇しなさい!」と言われると
人間は誰しも、
・
「なんだよ!」
「もっと言い方あるだろ…」
「はあ~うるさいな…」
という気持ちになります。
この点、「〇〇すると、△△なメリットがあるよ」と柔らかく伝えるだけで随分印象が変わります。
つい強い口調で怒ってしまう…と感じる方は以下のコラムを参照ください。
孤独な生活になっている
イライラした時に避けたいのが孤立することです。私たちの心は孤独に弱く、悩みを抱え込むと参ってきてしまいます。この点、イライラした気持ちを吐き出すと、スッキリすることもあります。これはカタルシス効果と呼ぶことがあります。手段はどんなものでもOkです。
親友に愚痴る
信頼できる同僚に話す
実家の母親
屈託のないママ友に相談
公的機関
悩みを参加する人がいない…と感じる方は以下のコラムを参照ください。サポートを受けるコツを解説しています。
生活の基盤が不安定
イライラの原因が生活基盤の不安定さにある場合もあります。生活基盤とは、生活の基盤となる安定した収入、住居、健康などです。これらの基盤が不安定になると、将来への不安や焦燥感を感じ、イライラへと繋がってしまうのです。
人間の欲求は、生理的な欲求、安全欲求、社会的欲求、尊重欲求、自己実現欲求の5つに分類することができます。これはマズローの5段階説と呼ばれる理論で、より下位の欲求が満たされなければ、上位の欲求は満たされないと考えられています。
生活基盤が不安定な場合は、焦らずにまずは足元を固めることが大切です。収入を安定させる、住居を確保する、健康的な生活習慣を送るなど、基本的な欲求を満たすことに集中しましょう。
社会的な停滞
現在日本では、少子高齢化、経済的な停滞、自然災害、など様々なリスクに直面しています。ニュースでも何かとマイナスの報道が多いものです。これらの情報に触れ続けると、どうしてもネガティブな気持ちになり、イライラしやすくなります。
一方で社会的な停滞は、自分の力ではどうすることもできません。自分のコントロールの範囲を超えてしまったことに、腹を立てても時間を失ってしまうことになります。
どうせ同じ時間を過ごすのであれば、1つでも楽しいこと、幸せなことを探す視点も大事になると思います。天気がいい日にお出かけをする、ささやかな外食を楽しむ、きれいな景色を見つけて眺める、視点を変えれば、私たちの生活には、心が穏やかになる出来事がたくさんあります。
是非、社会の停滞に惑わされず、今平和な日常を過ごすことができる環境を楽しむ視点を持つようにしましょう。
まとめ
イライラを改善する手法としては、様々なやり方がありますが、当コラムでは心理師として外せない方法を紹介しました。ご自身のケースにあてはまるものを選択して活用してみてください。皆さんが日々の生活を穏やかにすごされることを心から願っています。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・イライラする気持ち,コントロール練習
・角が立たない,柔らかい主張練習
・冷静さを取り戻す,メタ認知トレ
・怒りの制御,アンガーマネジメント
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連