人との距離感がわからない,難しい,取り方
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「人との距離感がわからない」です。
相談者
30歳 男性
昨年関西から東京に引っ越してきた
お悩みの内容
私の出身は関西圏ということもあり、初対面でも突っ込みをしあったりと、打ち解けるのが早い感覚があります。しかし、東京に来てから、何度か「近づきすぎてうざい」「なれなれしい」と言われました。正直ショックです。自分がおかしいのでしょうか。不安です。
文化や言葉の違いがあると、人とのちょうどいい距離感がつかめず不安になる時もあります。当コラムでは「人との距離感がわからない」という悩みをもつ方に、物理的な距離感を4つ、会話での距離感の面から4つ、合計8つの対策を提案します。
*物理的な距離感
①基準は1.2メートル
②空間の広さを考える
③男性,女性で距離感を変える
④座る位置で緊張が解ける
*会話での距離感
⑤表面的な話題からはじめると安全
⑥似ている部分をアピールしよう
⑦家族の関係も大事にしよう
⑧都会と田舎の心理的距離
ご自身にあう対策を組み合わせてご活用ください。
①会話場面では1.2メートルが基準
一般的な会話では、1.2メートルを基準に考えるといいでしょう。親しい人との場合は、もう少し近い距離でOKですが、関係性が浅い人との場合は距離を広くとるようにします。
心理学の研究では、相手との関係性で距離感が変わることがわかっています。以下の図は、エドワード・T・ホールの有名な研究で、人間がもつ4つの距離感を示しています(エドワード・T・ホール,1966) [1]。
画像:wiki
①Intimente Space
インティメントスペースは、親しい中の人しか入れない領域です。
例:家族、恋人
②Personal Space
パーソナルスペースは、比較的私的な関係が入れる領域です。
例:仲の良い友人
③Social Space
ソーシャルスペースは、公的な関係の人が入れる領域です。
例:上司と部下、接客
④Public Space
パブリックスペースは、より公的な関係性が強い場合に入ってよい領域です。
例:演説をする場面、複数人と公的な場所でコミュニケーションをする場面
人との距離感がわからない人は、1.2メートルを基準に相手との関係性に応じて4つの距離感を使い分けるようにしましょう。
②空間の広さを考える
エドワード・T・ホールはによって人との距離感の基準は示されましたが、もう1つ大事な視点があります。それは空間の広さと人数です。私たちは無意識に、その空間の所有権を「空間÷人数」で意識しています。
例えば、以下のように満員電車であれば、空間÷人数をすると自分のパーソナルスペースは極端に小さくなります。そのため、近くても仕方がないとなります。
一方で、以下のようなガラガラの電車であれば、お互いの空間が均等になるように、座るのが人間の心理になります。すなわちパーソナルスペースが無意識に広くなるのです。
ちなみに尾瀬の自然公園でハイキングする人は120メートル以内に、他者がいると落ち着かないと感じるという調査もあるようです(渋谷,1990)[2]。パーソナルスペースは1.2メートルが基準ですが、空間の広さと人数によってかなり変わってくることも抑えておきましょう。
③男性,女性で距離感を変える
・男女の平均的な違い
渋谷(1985)[3]が、大学生184人を対象に行ったパーソナルスペースの調査では、女性と比べ、男性のパーソナルスーペースが広いことが示されました。調査では、図に描いてある人物像を自分自身と見なし、日頃持っていると感じている空間の大きさを各方向について描いています。
パーソナルスペースは前方が最も広く、男性は40.1m、女性は11.9mあり男女差が大きいことが分かります。フラットな状態では、男性の方が自分の空間を広く持ちたがり、女性の方が狭いということがわかります。ただし、渋谷の研究では、相手の性別や年齢などは考慮されていなかったので、あくまで平均的な傾向であることは抑えておきましょう。
・男性から見た女性の距離感
男女間の距離感は関係性によってかなり変わってきます。男性は比較的女性が、スペースに入ってきてもそこまで警戒しません。これは男性の方が腕力があるために、物理的な警戒が不要なことが影響していると思われます。
・女性から見た男性の距離感
一方で女性は、見知らぬ男性についてはパーソナルスペースをかなり広くとるので、ずけずけと入り込んでいくと不快な思いをさせてしまいます。例えば、暗い夜道を歩く時は、男性より女性の方が警戒心が強くなるためパーソナルスーペースは広くとるなどの配慮が必要になってきます。
④座る位置で緊張が解ける
山口ら(1996)[4]は、初対面の大学生男女20名(男性10名/女性10名)を対象に、座席配置が気分に及ぼす影響について調査を行いました。以下の図は、その結果を簡略化した図です。
正面に座った時 緊張38.6
斜めに座った時 緊張35.2
隣りに座った時 緊張30.7
人は真正面に座ると、相手の視線をすべて集めるため見られている感覚が強くなり緊張感が高まってしまいます。緊張しやすい人は、横並びの席を選ぶと緊張感がほぐれ、良い距離感が保てると言えそうです。
初デートや大切な食事会では、隣に座れるテーブルを予約すると程よい緊張感を持ちながらコミュニケーションがとれるでしょう。
⑤表面的な話題から始めると安全
①から④は物理的な距離感に解説をしてきました。ここからは会話での距離感や心理面での距離感について解説してきます。
会話においては、表面的な話題からはじめ徐々に深い話題へ踏み込んでいくと相手と良い関係を保ちつつ距離を縮めていくことができます。
ここではアルトマンとテイラー(1973)[5]の社会的浸透理論で使われるアルトマンとテイラーの6分円を用いて、人との距離感を心の側面から見ていきます。以下の6分円は外側から中に行くほど深い自己開示を示しており、矢印は話題の進捗度を表しています。
円の外側:表面的な話題
円の中間:やや踏み込んだ話題
円の内側:深い話題
アルトマンとテイラーの6分円では、自分が自己開示をすると相手もしやすくなり、徐々に深い話ができるようになっていくことを意味しています。
初期は、外側の表面的な話題からスタートし、中期には内側の話題へ移行していきます。そして後期には、より一層踏み込んだ非常に深い話題にも触れていくことが図からわかると思います。
人との距離感がわからない人は、まずは表面的な話題からはじめ、時間をかけて深い話に進めていくと、人と安全に関係を深めていけるでしょう。
⑥似ている部分をアピールしよう
人との距離感がわからない時は、相手との共通部分を見つけるようにします。心理学の研究では、相手と似ている部分ががあると、互いの関係が深まることがわかっています。相手と共通点を見つけたら、しっかりアピールするようにしましょう。
中村(1984)[6]は、学生60名を対象に類似性について調査を行いました。その結果の1つが以下の図です。まずは概観してみてください。
こちらの図は内向的な人は
似ていない人には悩みを打ち明けにくい
似ている人には悩みを打ち明けやすい
ことを示しています。確かに悩みを相談しやすいのは、年齢も近く、性格が似ている人だったりしますね。
私たちは似ている部分がある人とは心的な距離が近くなり、お互いに深い話しがしやすいと言えます。人との距離がわからない時は、相手の似ている部分を探りながら会話を進めてみるといいでしょう。
類似性について理解を深めたい方は以下のコラムを参照ください。
⑦家族の関係を大事にしよう
職場での人との距離感がわからない人は、家族との距離感を参考に考えてみるといいでしょう。
金子(1991)[7]は、国立A大学の女子学生139名, 私立B女子高校生149名を対象に、友人関係・親子関係の心理的距離について研究をしました。具体的には、女子学生と女子高校生を2つのグループに分け、母親との心理的距離感を調査しています。以下は結果を簡略化しています。
学校に行きたくないグループ:15.73
学校が楽しい・行きたいグループ:10.77
母親との心理的距離感が遠いほど、登校したくない気持ちが強くなり、母親と距離感が近いほど学校が楽しいと思える傾向があるとわかりました。子どもと母親との心理的距離感があると、日ごろの疲れを回復する場所がないため、学校に行きたくない気持ちが強くなるのかもしれません。
この研究結果は、ビジネスにも活用できます。上司との心理的距離感が近いと職場に行きやすくなり、距離感が遠いと職場に安心感が持てなくなると言えます。職場での人との距離感がわからない人は、参考にしてみてください。
⑧都会と田舎の心理的距離
田舎と都会では以下のような傾向と対策が必要になってきます。
田舎の距離感と対策
田舎では共同体意識が強く、長年その地域で暮らしている方が多いので、近所付き合いや親しい関係が大切にされています。例えば、私の生まれ故郷では、雨が降ってきたら勝手に洗濯物を取り込む、余ったおかずを分け合う、など距離感が非常に近い傾向があります。メリットとしては、コミュニケーションが密になりますが、距離が近すぎるがゆえに、気遣いで疲れる人もいます。
田舎では基本的にはご近所付き合いを大事にすることが大切です。特に都会から田舎に移住する方は覚悟すべきでしょう。一方で、過度に気を使いすぎると、精神的に疲弊してしまうので、断るときは断るなど、バランスが大切になります。
都会の距離感
一方、都会では個人主義が強く、匿名性が高く、都会では多様な価値観やライフスタイルが共存し、個々の自由が尊重されます。特に都心のマンションなどでは、隣に住んでいる人がどんな人かわからない…などよくあることです。おかずを分け合おうとしたら、変な人と思われてしまうケースもあるでしょう。
都会では、どちらかというと、地域のコミュニティというよりも、仕事や趣味で距離を詰める方が多い一面もあります。田舎から都会に出てきた方は、そんな都会の特性を理解した上で、自分が行動する上でできてくる関係性を大切にするよう心がけるといいかもしれません。
仕上げ動画
当コラムは動画でも解説をしています。仕上げとしてご活用ください。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・人との健康的な距離感を学ぶ
・表面的から深い話題への展開練習
・人間関係を築く会話術を学ぶ
・類似性,共通点を見つける,会話の技術を学ぶ
🔰体験受講🔰に興味がある方は下記の看板をクリックください。筆者も講師をしています(^^)
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連