慰める方法,言葉のかけ方
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「慰める方法」です。
相談者
34歳 女性
お悩みの内容
私の友人なのですが、就職活動がきまらない、婚活がうまくいかない、など悪いことが続き、すごく落ち込んでいます。友人としてどう声をかければ良いか悩んでいます。うまく慰める方法があったら教えてください。
友人を助けたいというお気持ちが伝わってきました。私たち心理職は様々な方からお悩みの相談を頂きます。お悩みを受けるとき、心の整理のお手伝いをさせて頂くのですが、その際に慰める方法を持っていないとプロとして失格になります。
そこで、当コラムでは私たちが日々、心がけていることを一般の方向けにお伝えしたいと思います。是非最後までご一読ください。
慰める効果とは
慰めるという行為は、心理学においては情緒的サポート、向社会的行動、という用語で研究されてきました(小川,2014)[1]。慰める行為には、様々な心理的、身体的な効果があります。
自己肯定感が回復する
細田ら(2009)[2]は、中学生305名を対象に「ソーシャルサポートと自己肯定感の関係」について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
図中の情緒的サポートは、困っている人を心理的に支えることであり、慰めることと近い意味があります。父親、母親、友人、教師のいずれも、情緒的なサポートが自己肯定感を強めている傾向がわかります。
辛い時は、自分に自信がなくなりがちですが、周りに慰めてもらうことで私たちは自分の価値を維持することができるのです。
成長につながる
栗林(2007)[3]は、大学生326名を対象に、仲の良い友人に失恋話をすることで、立ち直りの効果について検証しています。その結果の一部が下図となります。
こちらは、相談相手から慰めてもらうことで、成長につながるという意味があります。失恋など傷ついた体験を誰かに聞いてもらうと、心が整理されて、前向きな体験として活かしていけると推測できます。
身体の疲れが取れる
大坪(2017)[4]は、大学生254名に対して「ソーシャルサポートと体の健康」について調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
このように、家族からのサポートを受けやすい人は、疲れやすさ、自律神経症状が少ないことが分かります。慰めることは相手の疲れを癒してあげたり、精神を落ち着かせる働きがあるのです。
慰める10の方法
ここからは具体的な慰め方を10個、提案します。
①時間がかかることを覚悟
②相手の力を信じる
③根掘りはぼり聞かない
④共感する意識を持つ
⑤感情の受け止めを大切に
⑥OKな言葉,NGな言葉
⑦努力の過程を認める
⑧視点を変える提案
⑨相手の安全基地になる
⑩「あたかも」でOK
ご自身の生活で使えそうなものをぜひご活用ください。
①時間がかかることを覚悟
子どものころ、転んで膝小僧を打ってしまい、皮がむけてしまった経験は誰でもあると思います。この時無理に治そうとして、消毒液を必要以上にかけたり、かさぶたをはがしたりすると、治る傷もなかなか治りません。
それと同じで慰める時も、あなた自身が焦り、すぐに解決しようとしても、ほとんどうまくいきません。具体的には、あれやこれやと質問したり、あれやこれやとアドバイスをしても、気持ちがすぐに落ち着くことはないですし、むしろ悪化してしまうこともあります。
大事なことは、絆創膏を貼ってあげるぐらいの気持ちで、じっくりと構えることが大切なのです。暖かく見守る姿勢をまずは大事にしましょう。
②乗り越えるのは相手
慰める時にNGなのは、
この人はこの問題を乗り越えられない…だから私が代わりに問題を解決するのだ…
と考えることです。挫折や失敗を乗り越えるのはあくまでも相手です。あなた自身が相手の問題に入り込み、相手の代わりに問題を解決したとしても、相手のためになりません。
慰める時の基本的な精神としては
相手の力を信じよう!きっと相手は乗り越えていける!
という気持ちをもってサポートしていくようにしましょう。そして安心してください!大概の場合は、人はきちんと問題を乗り越えていく力を持っているのです。大事なことはそのプロセスを温かく見守ることなのです。
③根掘り葉ぼり聞かない
慰める時は根掘り葉ぼり聞かないことが大事です。悩みを聞くときは、相手のペースを尊重します。
自己開示したければすればいいし、したくない場合は無理に話さなくて大丈夫
という気持ちで聴くと良いでしょう。相手を慰めようと思って、根掘り葉ぼり聞こうとすると大概の場合は、警戒心が先に来てしまい、うまく慰めることができません。
具体的には、十分間をとって傾聴することが大切です。ゆったりとした聞き方を意識して、相手のペースで話してもらえるように配慮しましょう。
④共感する意識を持つ
櫻井ら(2011)[5]は大学生443名を対象に共感性や向社会的行動についての調査を行いました。その結果の一部が下図となります。
こちらは共感しやすい人たちは、向社会的行動をしやすいことを意味しています。言い換えると、共感的な姿勢を持つことで、より慰める行為が増えると言えます。一方で共感すると言っても、なかなか難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
ここでロジャースという心理療法家は共感を以下のように定義しています。
相手の私的な世界を、”あたかも”自分自身のものであるかのように感じ取る事
すなわち、相手の立場に立って、もしも自分が同じ状況なら辛いだろうな、と十分想像できれば共感的に聞くことができていると言えます。
いったん自分の価値観をわきに置く
相手の立場にたって十分想像してみる
もし同じ体験をしたらどのような感情になるか想像してみる
これらを意識すれば自然と共感できるようになります。そして共感ができれば、「相手を助けたい」「サポートしたい」という気持ちが自然と芽生えてくるはずです。
共感については以下のコラムで詳しく解説しています。理解を深めたい方は参考にしてみてください。
⑤感情の受け止めを大切に
いざ相手が悩みを打ち明けてくれると、様々なことを話してくれると思います。この時大切なことは、相手の感情をしっかり受け止め、確認していくことです。
*相手の発言
せっかく頑張ったのに上司に否定されまくって…もう会社行きたくないよ…つらい…
このように発言してくれたとします。この時、以下のように返すといいでしょう。
*慰める側
努力を否定されて苦しいんだね…
このように感情をしっかり受け止め、言葉にして返していくことが大切です。人間の心理として、感情を受け止めてくれるひとがいるだけで、心が軽くなるものです。感情の受け止めは、相手の心を軽くするための基本的な姿勢になります。慰める際の基本的として抑えておきましょう。
⑥OKな言葉、NGな言葉
慰める相手は心が傷ついている状態になります。このとき相手が安心する言葉をなるべくかけていくといいでしょう。具体的には以下の言葉がおすすめです。
*OKな言葉
大丈夫だよ 応援しているよ 〇〇なりにがんばってたんだね 心配してたよ 聞くことはできるよ 困ったら相談してね 見守ってるね
一方で以下の言葉は、悩みを抱えている人にはプレッシャーになるので注意が必要です。
*NGな言葉
もっと〇〇したほうがいいよ 頑張れ 自分は〇〇だっただからお前もできる つらいのはあなただけじゃない もっと苦しい人がいる
これらの言葉は相手の悩みがより大きくなってしまうので気をつけましょう。
⑦努力の過程を認める
次は絶対できるよ
結果から学べばいいさ
次は良い結果を残せるよ
このような言葉がパッともい浮かべた方は、注意が必要です。このように結果を重視した慰め方は 裏を返せば「結果を出さなきゃダメ」という価値観が裏側にあり、相手の負担になってしまいます。
慰めて欲しい人は、結果がでず、失敗している自分も温かく包み込んでほしいという気持ちがあります。そこで、慰める時のポイントは「結果」ではなく、「過程」にフォーカスしてみることです。
むちゃくちゃ努力してたよね!すごいと思った
チャレンジできたこと自体が尊敬できるよ
告白するのって勇気がいるけどちゃんと話せたよね
このように、結果が報われるかどうかではなく、頑張った過程や努力に目を向けることが大切なのです。過程を認める方法は以下のコラムで解説しています。是非練習してみてください。
⑧視点を増やす提案
共感的に傾聴をして、努力を認める発言をしていくと、時間はかかりますが、人間はだんだんと前向きになっていくものです。
相手が少し回復してきたな…と感じたら、あなた自身の考えもいくばくか示していくと良いでしょう。具体的には、相手の視点を増やしていくような発言がおススメです。
例えば失恋で落ち込んでいた友人がいたら
辛かったと思うけど次に、出会った異性をより大事にできるかもね
失恋をすると、人の痛みがわかるようになるよね
よし!失恋をばねに一緒に男磨き(女磨き)をしない?付き合うよ
こんな感じで新しい視点を提案していきます。もちろんそれを受け入れるかは相手次第ですがあなた自身の意見も提案していくと良いでしょう。
たくさんの視点を提案できるようになりたい!と感じる方は下記のコラムを参照ください。
⑨相手の安全基地になる
人は落ち込んだ時に、身近な人が安全基地であるというだけで、充分励まされます。安全基地であるということは、当たり前の日常をあたりまえのようにするということです。
声をかけてくれる
また明日!と挨拶してくれる
屈託のない雑談をしてくれる
ラインのメッセ‐ジを気楽に返してくれる
ありふれたこんな日常をいつも通りしてくれる人がいるだけで、私たちは随分励まされるのです。
共感したり、視点を変える意見を言ったりするのもOKですが、それと同じぐらい、何気ない日常をすごすことも大事です。あなたが安全基地でさえあれば、相手の心は間接的に回復していくこともおさえておきましょう。
なお、相手の安全基地になるのは、ストロークという手法を学ぶと効果的です。仕上げとして以下のコラムも是非参考にしてみてください。
⑩「あたかも」でOK
④でも解説したように、慰める際は共感的に聞く姿勢が大切です。一方で、あなたは相手と同じ苦しみを味わう必要はありません。相手も自分と同じ苦しみを味わってほしいとは、考えていません。あくまで寄り添ってくれれば十分なのです。
苦しい人、つらい人と接するときは、相手の立場に立って考えつつも、”あたかも”という意識を持つことが大切です。「自分は自分」という意識も保ちながら、相手の悩みに入り込みすぎない領域で、慰めるという意識も大切にしてください。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連