生理的に無理な男性,旦那への対処法
みなさんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「生理的に無理への対処法」です。
相談者
35歳 女性
お悩みの内容
私は男性が苦手で、特に初対面に身体少しでも触れるとぞっとしてしまいます。結婚をはじめて3年が経ちますが、旦那に慣れるのもかなり時間がかかりました。旦那も私のこうした性格に嫌気が指している感じです。
信頼できる人とわかっているのですが、生理的に無理というか、体が拒絶してしまうんです。最近はそんな自分は異常なのかと感じています。男性嫌いを改善する方法があればご教授願いたいです。
いい人だと頭でわかっていても、生理的に受けつけない…。とても複雑でお辛い状態ですよね。当コラムでは生理的に無理な男性への原因と対処法を解説していきます。目次は以下の通りです。
①生理的に無理,体の仕組み
②女性の方が感じやすい
③生理的に無理な4つの原因
④生理的に無理への対策
男性との良好な関係を築くためにも、ぜひ最後まで一読してみてください。
①生理的に無理と体の仕組み
当コラムは、女性向けに生理的に無理の理解と対策を解説します。男性の方は女性心理を理解する視点でご覧ください。
生理的に無理とは何か
「生理的に無理」とは、感覚や本能的なレベルで嫌悪感を覚え、拒絶反応が出る状態を意味します。頭ではよくないと思っていたとしても、理屈や倫理観を超えて、自動的に反応してしまいます。
例えば、理由を言葉で説明できなくても、直観的に男性と関わりたくないと感じる場合に使われます。生理的に無理な感覚は個人差が大きく、同じ男性に対しても、ある女性には問題ないことが、別の女性にとっては強い嫌悪感を引き起こすことがあります。
脳の仕組みと生理的嫌悪
レイチェル・ハーツ(2010)[1]は生理的嫌悪が起こる仕組みについて研究を行いました。その結果、生理的嫌悪は、脳の「島皮質」や「免疫システム」が影響しているとしています。
島皮質は、大脳の深い場所にあり、感覚処理、特に味覚、触覚、痛み、温度、内臓感覚を統合する機能があるとされています。すなわち、見た目、臭い、触覚などを総合して、生理的に無理という感覚が出てくるのです。
そして、生理的嫌悪は感覚や行動レベルで危険を避けるための、防御反応を引き起こします。そして免疫システムは体内に侵入した病原体を識別し、排除するための内部的な防御反応を行います。生理的嫌悪はこのような脳や体を守る仕組みの1つとして機能しているのです。
②女性の方が感じやすい
生理的嫌悪は男性よりも女性の方が感じやすいことが種々の研究でわかってきています。
女性の方が感じやすい
羽成(2009)[2]は男女ごとの嫌悪感情について調査をしました。その結果が以下の図です。
上記のグラフのように、女性の方がすべてのカテゴリーで嫌悪感を覚えやすいことがわかりました。このような傾向から女性の方が生理的に無理と感じやすいことが推測されます。
中年男性は不利
羽成(2014)[3]は大学生275名を対象に「父親」「母親」「父親に近い年齢の知人男性」「自分に近い年齢の知人男性」に対する嫌悪感を調査しました。その結果の一部が下記のグラフです。
まず女性では、「父親に近い年齢の男性に対して圧倒的に嫌悪を感じる」という結果となっています。見ず知らずのおじさんは第一印象で「生理に無理」と思われる可能性が高いようです。父親と自分の年齢に近い男性は、ほぼ僅差になっています。続いて男性の結果も見てみましょう。
男性からみても「父親に近い年齢の男性」が嫌悪感を持たれやすいことがわかります。これらの研究結果から中年の男性は全世代から生理的に無理と感じられやすいのです。筆者も気をつけなくてはなりません。
③生理的に無理になる4つの原因
心理学の世界では、生理的に無理に近い意味を持つ「嫌悪感」について研究がなされてきました。例えば、オウラタンジ(2007)[4]は「嫌悪感」は、「中核的嫌悪」「動物的嫌悪」「汚染嫌悪」などによって生じるとしています。
このように、嫌悪感研究はあるものの、人間関係に限定して使われる「生理的に無理」に関する原因を分析した研究は少ない状況です。そこで当コラムでは、先行研究を参考にしつつ、筆者(川島)の経験も加えながら、人間関係にで起こる生理的無理の原因を4つ紹介してきます。
衛生面のリスク
1つ目は衛生面のリスクがあるときの「生理的に無理」です。
煙草、タンを吐く、汗がいや、悪臭、口臭、服を洗っていない、フケ、病的な人
これらは原始的で先天的に備わっている生理的な無理な感情です。原始的な社会では、風邪をひいたり、感染症にかかるとそれが死に直結していたと言えます。それゆえ不潔なものについて、本能レベルでリスクを回避しようとするのです。
不道徳への嫌悪
2つ目は常識がない人、道徳的でない人への「生理的な無理」です。
食べ方が汚い、ケチ、暴言、手を挙げる、奇妙な会話、ギャンブル依存
これら文化慣習からも私たちは生理的に無理と感じることがあります。
例えば、平気で列に割り込む人がいたとします。この時、私たちは人間性を疑い、この人とはやっていけないという気分にさせられます。
私たちは文化慣習の中でやっていいこと、悪いことを学び、そのルールから逸脱する人に対して、生理的に無理と感じるのです。
恋愛と出産リスク
3つ目は、恋愛場面では、出産リスクに関連する「生理的に無理」という感覚が起こりやすくなります。例えば
頭髪が薄い、低身長、毛深い、体格が貧弱
これらに対する嫌悪感が挙げられます。女性の生理的に無理な感覚には出産リスクが挙げられます。女性は生涯で出産できる子供の数は限られています。
そのため、遺伝的に不利な男性は避けて、できるだけ健康的で、容姿も頭も良い男性を選び、有利な子どもを産みたいと本能的に感じてしまうのです。
一方で、男性は女性に対して生理的に無理と感じることはそこまで多くありません。これは出産リスクがないからと言えそうです。好みはありますが、特に肌が触れて嫌だ!と感じるところまではいかないのです。
産後に起こる嫌悪
2012年にNHKあさイチで「産後クライシス」が報道され、2013年には坪井による産後クライシスについての本が出版され、出産後に夫婦関係が冷え込むリスクがあることがわかってきました。具体的には、出産後に
旦那との性行為が嫌になる
身体的接触を避けたくなる
以前は平気だったしぐさが嫌になる
などが挙げられます。産後クライシスは、ホルモンバランスの変化、育児への不参加により起こるとされています。ベネッセ(2011)[5]が8000世帯に対して行った調査では、夫婦関係と出産について以下の結果が出ています。
このように女性から夫に対する愛情は出産と共に激減していく傾向があることがわかりました。これは子育への不参加などの要因もありますが、ホルモンバランスの変化などもあるとう仮説もあり、明確な原因はまだわかっていないところもあります。
④生理的に無理への対策
「生理的に無理」な感覚は根が深く、せっかく好きになれそうな異性がいたとしても、一度思い込むとなかなか元に戻れないこともあったりします。そこで対策を7つ提案させて頂きます。
➀恋愛初期は気長に考える
②解決できるものなのか考える
③伝える勇気を持つ
④関係性をまずは築く
➄前向きな表現で伝える
⑥自分も手伝う
⑦限界設定をする
ご自身でも使えそうなものを組み合わせてご活用ください。
➀恋愛初期は気長に考える
松井(1990)[6][7]は大学生173名を対象に、青年の恋愛について調査を行いましました。その結果、初期においては、男性よりも女性の方が恋愛感情を持ちにくいことがわかりました。
女性は恋愛初期においては、警戒心も相まって、身体接触などに生理的嫌悪を覚えるのが普通です。一方で長期的に信頼関係を築き、安心できる関係になると、スキンシップがOKになることもあります。生理的嫌悪が自然とおさまるケースもあることをおさえておきましょう。
②解決できるか?考える
生理的に無理!と感じる対象が「努力で改善できるものなのか?」を考えるようにしましょう。例えば以下のような嫌悪感は改善ができそうです。
爪に垢が溜まっている
→洗えば解決!
靴が汚れている
→綺麗な靴をプレゼントする
食べ方が汚い
→信頼関係を築いてから、改善をお願いする
汗がにおう
→信頼関係を築いてから、消臭スプレーを使ってもらう
上記のような対象であれば、長い目で見れば、問題は解決できそうです。あきらめるのはもったいないと言えそうです。
一方で、顔の骨格、身長などは変えようがありません。。これらがどうしても自分のタイプと合わないと感じる場合は残念ですが、関係を続けるのは難しいと判断できると思います。
③伝える勇気を持つ
生理的に無理な対象が、改善な可能な場合でも短期的な付き合いの場合はわざわざ指摘しなくても、会うことはないので特にアクションは不要かもしれません。
一方で、生理的に無理でも、今後長期的に関係を進めていきたい場合は、思い切って、相手に伝える勇気を持つことも大切です。男性は女性と比較して、清潔感について疎いものですが、その分、女性からの意見は意外と素直に受け入れるものです。
特にあなたに好感を持っていれば、前向きに改善してくれる方がほとんどだと思います。NGなのは何も主張せずただただストレスを溜めることです。これから長期的に関係を進めていきたい場合は、しっかり伝えるようにしましょう。
④関係性をまずは築く
主張する勇気を持つことができたら、次に心がけるのは、すぐにそれを直すことを要求するのではなく、関係性を築くことからはじめていきます。例えば、初対面の人の鼻から鼻毛が出ているとしましょう。このとき、直球で
鼻毛出ていますよ!
体臭がきついです!
と言われたら、この女性結構ずけずけ言ってくるなあ~と感じてしまうものです(私は面白がってしまいますが)。そこで、1か月程度は、仲良くなることに時間を使って、親しくなってから気長に指摘していこうと考えていきましょう。
信頼関係を築く間、もしかしたら生理的に無理な状況は続くかもしれません。しかし、将来的に直してもらえればOKと楽観的に考え、悪いところだけでなく、良い面も見るように心がけましょう。
➄前向きな表現で伝える
相手との関係性がきちんとできたら、次に直してほしいところを伝えていきます。ただし、一気にはNGです!たくさんの要求をすると相手のモチベーションが低下してしまい、そんなの無理だよ!という気持ちになってしまいます。直してほしい部分があったら、1つ1つ着実に改善してもらうことが大切です。
そして、主張するときは、相手の利益も合わせていうとやる気を出してもらうことができます。例えば以下のような言い方が挙げられます。
鼻毛出ていますよ!
↓
鼻毛が少し出てるね。。しっかり切ると、仕事上も信頼されると思うよ♪
体臭がきついです。。
↓
少し体の臭いが気になるかな。。消臭スプレーをつけると無茶苦茶、印象が良くなるよ♪
こんな形で伝えていきます。このように相手のメリットも合わせながら伝えると、納得しやすくなります。主張するときのバリエーションを増やしたい方は以下のコラムを参考にしてみてください。様々な手法を紹介しています。
⑥自分も手伝う旨を伝える
生理的嫌悪は、鼻毛を切る、つめの垢をきれいにする、髪型を変える、体型を変えるなど、相手の身体的な面の改善を促すパターンが多くなります。女性にとって当たり前のことでも男性にとっては、負担になることがあります。
そこで相手に変化を促すだけでなく、あなた自身も相手に何かできないか?一緒に提案するようにしましょう。相手だけではなく、共同作業として生理的嫌悪を改善していくと、絆も深まるでしょう。例えば、
パートナーが太っている
⇒私が健康的になれるメニューを考えるね!
パートナーの姿勢が悪い
⇒姿勢が悪くなったらお互い指摘しあうようにしよう♪
このようなやり方が挙げられます。相手だけでなく、自分も一緒に努力するようにすると、納得して進めることができるでしょう。
⑦限界設定を伝える
残念ながら話し合いがうまく行かず、折り合いが合わないときも出てくるかもしれません。その際は、ため込まず、限界をきちんと相手に伝えることも大事です。これは心理学で「限界設定」と言います。限界設定は、最後通告としてきっぱり伝えることで、相手に強い行動の変化を促すやり方です。例えば以下のようなやり方があります。
くちゃくちゃと音を立てる男性
⇒直してほしいと主張しても直らない
⇒次に会った時に直っていなかったら、今後一緒に外食をすることができない(限界設定)
デートに毎回、洗濯をしていない洋服で来る
⇒洗濯をしてほしいと主張してもしてこない
⇒次に会った時に洗濯してこなかったら、その場で帰ることになる(限界設定)
これは最後の手段ですが、自分自身の中で区切りをつけるためにも重要です。詳しくは下記を参照ください。
まとめ
生理的な無理な人と出会った時には、すぐに拒絶するのではなく、相手が「改善できるか?」を考えていきましょう。
もし、相手が嫌いな部分を修正することができれば、後々大切なつながりとなるかもしれません。少しだけ心を広くして、嫌だな~と感じる相手とも交わってみましょう。
深く付き合っていくなかで、隠れた魅力に気付いたり、素晴らしい人間性を兼ね備えていたりするものです。まずは「試しに」という感覚で気楽に関わってみてくださいね。
もっと学びたい方へ
当コラムの内容をしっかり身につけたい方は、公認心理師による講座をおすすめします。内容は以下のとおりです。
・傷つけない伝え方,アサーション練習
・言いにくいことも伝える,アイメッセージ法
・限界設定のやり方,実践練習
・豊かな人間関係を築くワーク
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
実感する(2011年 子どもの年齢別)