部下の叱り方コツ,大人向け
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「叱り方のコツ」です。
相談者
33歳 男性
お悩みの内容
私は今年から、ある販売店の店長になり、アルバイトを5名、社員を2名の指導をしています。遠慮がちな性格なので、うまく叱ることができません。
その一方で、イライラが爆発し、この前かなり強い口調で叱ってしまいました。その結果バイトが1名やめてしまいました。どうすればうまく叱ることができるでしょうか。
叱り方はバランスが難しいですよね。当コラムでは叱り方のコツについてしっかり解説していきます。是非最後まで御一読ください。
叱り方を間違える悪影響
まずはじめに叱り方を間違えると生じるデメリットについて考えましょう。
心理的リアクタンス
心理的リアクタンスとは、行動の自由を制限されると、「選択の自由が奪われた」と感じ、反発したくなる心理を意味します(Brehm,1966)[1]。叱り方が下手な方は、相手の自由を奪うような伝え方をしてしまうので、部下のやる気や積極性を奪い、指示通り動いてくれなくなってしまいます。
ストレスをためる
永冨(2016)[2]は、正社員365名を対象に職場でハラスメントを受けたときに、どのようなプロセスで高いストレスになっていくかをモデル化しています。その結果が以下の図です。
このように、ハラスメントが多いことが、職場の人間関係を悪化させています。そして、人間関係の悪化が仕事の自由さを奪い、様々な心理的ストレスにつながっていることが分かります。
休職による損害
叱り方を誤ると、深刻な状況になると、部下が休職してしまいます。その結果、本来なら進むべき作業が滞り、売上に響くこともあります。また、慰謝料の請求などに発展することもあります。パワハラによるうつ病の発症の因果関係が認められると、100万円程度の損害賠償となります。
自分の評価を下げる
叱り方が下手な人は、部下からの評価が下がり、これは巡り巡って、自分自身の人事評価を下げることに繋がります。場合によっては配置転換や退職勧告につながるケースもあります。
つまり、パワハラ・セクハラのような常識を逸脱した叱り方は、自分自身、部下、会社にとってなんら利益にならないのです。トラブルにならない、正しい叱り方を身に着けることは上司としてとても大事なのです。
叱り方がうまくなる10の方法
ここからは心理学の理論を活かしながら、上手に叱る、10の方法を解説していきます。
①叱るに値する人間になる
②マインドフルネス力
③事前のラポール形成が必須
④叱られる方は痛い!を自覚
➄説明要求法
⑥無条件肯定-サンドイッチ法
⑦焦点充て法
⑧選択案提示法
⑨自己決定法
⑩限界設定をする
ご自身の生活に活かせそうなものを組み合わせてご活用ください。
①叱るに値する人間になる
まずはじめに心がけることは、あなた自身が自分を磨いているかという点です。部下は尊敬できない人から叱られても反発するだけで全く心に響きません。
倫理観があり、誠実であり、努力家で、嘘をつかず、たまにユーモアで笑わせてくれる。こんな上司が言うことであれば、誰でも素直に聞きたくなるものです。叱る前に、まずは自分自身が叱るに足る人物であるように努力しましょう。
②マインドフルネス
叱るのが下手な方は、感情に任せて、快不快で叱ります。感情的に怒ると、人は論理性を失い、建設的な議論ができなくなります。
そこでオススメなのがマインドフルネス力をつけることです。マインドフルネスとは、自分自身を観察する力、冷静に眺める力を意味します。マインドフルネスを理解する上では、以下の2つのワードを抑えておく必要があります。
①自動操縦
感情に流されて自動的に行動してしまう状況です。例えば、部下がミスをした時に怒りに任せて怒鳴ったり、暴言を吐いてしまうといった状態です。
②脱中心化
自分の感情や思考に巻き込まれない状態です。思考や感情はあくまでも、一時的な現象にすぎないとして観察していきます。
このうち、脱中心化を意識して行うことで、冷静で合理的な叱り方になります。感情に巻き込まれないため、自分のエネルギーも消耗しません。
以下2つの具体例を作成しました。参考にしてみてください。
③事前のラポール形成が必須
人は信頼していない上司、嫌いな上司からの叱責には、心理的リアクタンスが生じて反抗的になってしまいます。この点、叱り方がうまい方は、普段のコミュニケーションから信頼関係を築いていきます。信頼関係の構築は「ラポール形成」と言います。ラポール形成の方法はいたってシンプルです。
挨拶を笑顔でする
お疲れさまという
ありがとうとたくさん言う
悩みがないか定期的に聞く
たまには雑談する
こんな日々のコミュニケーションが叱る前の土台になるのです。叱り方は、叱る前のラポール形成がそもそも大事とおさえておきましょう。部下とそもそもラポール形成ができていないと感じる方は下記のコラムを参照ください。
④叱られる方は3倍痛い!を自覚
「叱るに足る人間になる」「ラポールを築く」の2つができればいよいよ叱る段階に入ります。次に意識したいことは、
叱られる側は3倍痛い
という事です。誰かをつねったとします。このとき、あなたは全く痛くないですが、つねられたほうは痛いのです。叱る時も同じです。自分が思っている以上に、相手は叱られると傷つく、ということを意識しておきましょう。
➄説明要求法
佐藤ら(2013)[3]は中学生217名を対象に、教師からの叱られ方についての調査を行いました。その結果、叱られ方の1つに「説明を求める」やり方があることがわかりました。
部下が何か失敗をしたり、無責任な行動をしたときに、頭ごなしに叱るのではなく、まずは本人にその行動を説明してもらうことも大切です。その理由を聞いたうえで、上司としての意見を伝えれば、パワハラになるリスクは低くなりますし、信頼関係も維持しやすいと言えます。
⑥肯定サンドイッチ法
ここからは具体的な叱り方のコツをお伝えします。まずは肯定サンドイッチ法を覚えましょう。肯定サンドイッチ法は
肯定する
否定する
肯定する
と否定を肯定でサンドイッチするしながら叱る手法です。
サンドイッチの図のように、柔らかいパンで具材を挟むことでゴツゴツとした食感が和らぎます。叱り方も同じで、肯定で「挟む」ことで印象が大きく変わってくるのです。
⑦焦点充て法
叱り方で大事なことは、叱る対象を広げないことにあります。そこで肝となるのが「焦点充て法」です。焦点充て法では、叱るべき内容にフォーカスして注意していきます。例えば、遅刻をする癖がある部下がいたとします。この時、以下のように叱るのはOKです。
おはよう~
(肯定)
5分遅刻だぞ!だめだぞ~
(焦点を充てた否定)
もしかして最近つかれてる?ちょっと心配
(肯定)
あくまで遅刻だけに焦点を充てて、肯定で挟んでいるので、受け入れられやすい叱り方になっています。一方で、以下のように叱るのはNGです。
おはよう~(肯定)
5分遅刻だぞ!まったくだらしないなあ。
そういう気持ちが仕事へ現れているんだよな
(人格否定)
遅刻を注意するはずが、拡大して関係のないところまで飛び火しています。部下としては自分の人間性を否定された気持ちになり、心に傷を負ってしまうかもしれません。叱る時は焦点を充てるということをしっかり意識しましょう。
⑧選択枝提示法
選択肢提示法とは、こちらから解決策を複数提示して相手に選んでもらう叱り方です。相手が問題をどのように解決すればよいかわからない状態で活用できます。
例えば、作業スピードが遅い部下がいたとします。この場合は以下のように複数の選択肢を提案して、どれが良いか?本人に選んでもらうと良いでしょう。
Aプラン:定期的に上司が様子を見る
監視がプレッシャーとなるかもしれないけど、効率が上がることが予想されるよ♪
Bプラン:30分毎に3分間の休憩を挟む
これはポモドーロテクニックと呼ばれる手法だよ。適度に休憩を取ることで集中力がキープできるよ!
プランC:タスクを細分化する
仕事を細かく捉えることで、スモールステップで肩の力をぬいてできるよ!
このように解決策を3つほど提示して、その中から相手に選択してもらいます。大事なことは、上司が決めるのではなく、部下が選択できるようにすることです。強制されたという感覚が薄いので、叱られた感じが少なくなる効果があります。
⑨自己決定法
自己決定法は、選択肢法以上に、相手の主体性を尊重する方法です。ざっくりと
自分の頭で考えてもらう
教育法になります。こちらから相手の考えを引き出す質問を行い、主体的に原因・解決策を考えてもらいます。例えば、
・どうしたらミスが改善できると思う?
・ミスが起きた原因は何だと思う?
・ミスをすることの問題点は何だと思う?
というような質問をしていきます。このように、相手に考えさせることで能動的な解決を促します。自分の頭で考えるため、責任感やモチベーションのUPが期待できます。
⑩限界設定法
ここまで解説した手法は比較的穏やかな叱り方となります。一方で、どんなに丸く諭したとしても、部下が無責任な行動を繰り返すことがあります。このような場合は、最終手段として限界設定をすることが大切です。限界設定とは
OKなラインとNGなラインを設定し、それを超えた場合は厳格に対処する手法
を意味します。例えば以下のような限界設定が挙げられます。
・遅刻が月に3回を超えた場合は、
人事部に配置転換の要望を出すことになります
・次に仕事中、ゲームをしていた場合は、
5%の減給となります
このように明確な基準と、破った場合の罰則を明確にすると、ネガティブな行動を抑制することができます。限界設定については以下のコラムを参照ください。
まとめ
このように叱り方には様々なアプローチがあります。基本的にはラポール形成をしっかり行ったうえで、思いやりのある叱り方をしていきましょう。
上手に叱ることで、部下のモチベーションをキープもしくは、向上させることができます。ぜひご紹介したテクニックを活用してみてくださいね。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・叱り方の基礎,ラポール形成,関係性作り
・叱る時のコツ,無条件の肯定を土台に
・コーチング技術,傾聴トレーニング
・感情のコントロール,マインドフルネス
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連