SNS疲れの症状と7つの対策
皆さんこんにちは。コミュニケーション講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のお悩み相談は「SNS疲れの対策」です。
相談者
29歳 女性
お悩みの内容
私は最近、自分がSNS依存なのではないかと感じています。30分に一度はスマホを確認し、コメントに対するイイネの数や足跡を確認してしまいます。
最近自分でもひどいと思ったのが、目の前の人と会話をしているのにスマホを触り続け、怒られてしまいました。とにかくSNSに振り回されている感覚があるのですが、対策があったら教えてください。
SNSは便利な一方で、使いすぎると現実の生活がふわふわとしてしまいますよね。当コラムではSNSを健康的に使用する方法をしっかりお伝えしていきます。是非最後まで御一読ください。
SNS疲れの現状
まずはじめにSNSを取り巻く法律や利用状況を確認していきましょう。
病名はない
インターネットに関する病名としては、2019年5月のWHOの会議で正式に「ゲーム障害」が認定され、2022年1月より試行されました。一方で、SNS依存については正式な病名はない状況です。ただし、インターネット依存に関する研究は盛んにおこなわれており、その深刻性が徐々に明らかになってきています。SNS依存についても将来的になんらかの病名がつく可能性があります。
利用人数
Statista Research Division(2023)[1]によれば、日本国内のSNS利用者数は、2023年に約1億580万人、2028 年までに約1億 1,360 万人に増加するとされています。これは、インターネットユーザの約8割を示す数字です。特に若い人でLINE、Twitter、インスタグラム、TIKTOKを使っていない人を探す方が難しい時代になってきています。
SNSの利用は90分を超える
総務省(2019)[2]のメディアの利用時間に関する調査によると、10代のSNS利用時間は90分以上になっています。平成29年度の調査と比べて大幅な増加傾向にあります。
1日90分とすると1日の活動時間の10%近くをSNSで過ごしていることになります。現場感覚としては、過剰になっていると感じています。
SNS疲れとは何か
稲塚(2023)[3]は女子大生193名を対象に、SNS疲れについて調査を行いました。その結果、SNS疲れには大きく分けて2種類の疲れがあり、またそれぞれ3つの因子があることがわかりました。
能動的SNS疲れ
具体的には以下の3つが明らかになりました。
自己抑制
他人の反応を気にして本音を隠したり、ありのままの自分を見せることを避けることで生じるストレスです。常に「好かれる自分」を演じ続けることに疲れを感じてしまいます。
注⽬獲得
いいねやコメントの数、フォロワー数などを気にするあまり、他人から羨ましがられるような投稿作りに注力することで生じる疲労です。常に「承認欲求」を満たそうとする意識が、心身を消耗させます。
嫌われ回避
本音を投稿することで他人に嫌われることを恐れ、常に周囲に気を配り、他人の意見に迎合することで生じる疲労です。「炎上」への恐怖や、人間関係の希薄化への不安が、ストレスにつながります。
受動的SNS疲れ
具体的には以下の3つが明らかになりました。
劣等感
他人の華やかな生活や成功体験などを目にし、自分自身と比較することで生じる劣等感です。理想と現実のギャップが、自己肯定感を低下させ、疲労感へとつながります。
義務感
フォロワーの投稿やコメントに全て反応しなければいけないという義務感や、タイムラインを常にチェックしなければ取り残されるのではないかという不安から生じる疲労です。「情報過多」によるストレスや、ソーシャルメディア依存症のリスクを高めます。
情緒不安定
誹謗中傷やネガティブな情報、炎上事件などに触れることで生じる精神的な疲労です。常に他人の視線や評価に晒される環境は、心身の健康を損なう可能性があります。
SNS依存の特徴
Young(2009)[4]によれば、SNS依存には以下の特徴があります。
過剰使用
インターネット依存の一つの特徴である過剰使用は、しばしば時間の感覚を失わせ、基本的な生活活動を無視することに直結します。
これは長時間のインターネット使用によって日常生活の重要な部分が疎かにされることを意味します。例えば、仕事や学業、家族との時間などが減少し、食事や睡眠すら忘れてしまうことがあります。
このような状態は、個人の健康や人間関係に悪影響を及ぼし、社会的な孤立感を強める結果となります。過剰使用は、インターネットやSNSに過度に依存し、現実世界とのバランスが取れなくなることで引き起こされます。
離脱症状
インターネット依存における離脱症状は、インターネットやゲームにアクセスできない時に生じる強い感情的反応を指します。具体的には、怒りや緊張、不安、抑鬱状態が含まれます。
例えば、保護者が子供のスマートフォンを取り上げた際に、子供が非常にイライラし、暴言を吐いたり暴力を振るったりするケースが典型的です。
このような反応は、アルコール依存症で見られる身体的な離脱症状と同様に、依存の深刻さを示します。大人でも、インターネットにアクセスできない状況に置かれると、集中力の低下や情緒不安定、社会的な不安感が増すことがあります。
耐性
インターネット依存における耐性とは、使用者が同じ満足感を得るために、より長時間のインターネット使用や、より高度な技術を求める現象です。
例えば、最初は30分や1時間程度だったインターネット使用が、次第にエスカレートしていき、最終的には5時間以上使用するようになることがあります。
これは、依存の進行と共に脳が刺激に対する反応を鈍化させ、より多くの刺激を求めるようになるためです。耐性の形成は、依存症の深刻化を表す重要な指標であり、使用時間の増加に伴って日常生活への悪影響が拡大します。
悪影響
インターネット依存が引き起こす悪影響は、多岐にわたります。代表的なものには、口論や嘘、業績の悪化、社会的孤立、そして身体的疲労が含まれます。
例えば、長時間のインターネット使用が原因で、学校や仕事に遅刻したり、欠席したりすることが増え、成績や業績が低下するケースがあります。また、家族や友人との交流が減少し、社会的に孤立する傾向も見られます。
さらに、睡眠不足や不規則な生活リズムにより、慢性的な疲労や健康問題を引き起こすこともあります。
SNSの光と影
SNSは、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか?デメリットとメリットの両面から考えていきましょう。以下それぞれを折りたたんで記載しました。気になる項目を展開してみてください。
デメリット
メリット
SNS依存チェック
SNS疲れは場合によっては依存症のレベルになっていることもあります。そこで以下の基準を元に、自己診断をしてみましょう。以下の診断は、 Young(1998)[10]のインターネット依存の基準を参考に作成しました。
以下の 8 項目中 5 項目以上該当する場合は注意が必要です。
予定していたより長時間SNSを利用してしまう
SNSを利用していない時もSNSのことを考えてしまう
SNSを利用していないと、憂うつになる、いらいらする
SNSの利用時間を減らそうとしても、失敗してしまう
長時間SNSを利用していないと満足できない
不安なときとき、逃避や気晴らしにSNSを利用している
SNSの利用が原因で家族や友人との関係が悪化している
SNSを利用している時間や熱中している度合いについて、
ごまかしたりウソをついたことがある
SNS疲れを緩和する方法
ここからは、SNSとの上手な付き合い方を7つ提案いたします。
①失うものを自覚する
②時間にルールを作る
③場所にルールを作る
④電源を思い切って切る
⑤現実に近い手段を選択
⑥メタ認知力をつける
⑦打ち込むものに集中する
SNSの利用が過剰になっていると感じる方は、組み合わせてご活用ください。
①失うものを自覚する
SNS疲れを改善するには、まずはSNSを長時間利用することで失うものを、紙に書きだして自覚することをおすすめします。失うものは人それぞれですが、例えば以下のように紙に書きだします。
失うもの
家族との会話 友人と遊ぶ時間 勉強をする時間 身体の健康を害する 睡眠時間
紙に書きだしたら、何回か復唱することをおすすめします。口に出してすことで、失うものを自覚し、SNSに依存しない意識を高めることができます。
②時間にルールを作る
長時間利用のリスクを自覚できたら、次に時間のルールを作ります。ルールについては、使いすぎない、何度も見ない、など抽象的な表現はNGです。以下のように数字を使うことをおすすめします。
時間のルール
SNSはお昼休憩1時間 夕食後1時間だけにする
最近のスマートフォンでは時間制限機能もついています。また、スマホの利用を制限をするアプリもあります。ぜひチェックしてみましょう。
③場所にルールを作る
時間ではなく、場所でルールをつくるやり方もあります。具体的には以下のやり方が挙げられます。
場所のルール
人と会話をするときは使わない SNSは電車に乗っている時 帰宅後ソファーでくつろいでいる時だけ
④電源を思い切って切る
長時間利用が癖になっている方は、四六時中、コメントがないか?気になってしまいます。このような状態では、勉強、仕事、会話に集中することができません。そこで、重要な作業をしている時や、実際に人と会話をする場面では、思い切って電源を消すというルールを作っても良いでしょう。
場合によっては、スマフォを持ち歩かないで、お出かけするのもたまにはありです。そもそも20年ぐらい前までは電話など誰も持っていなかったのです。なんとかなるものです。
⑤現実の関係を優先する
SNSが過剰になっている方は、なるべく現実のコミュニケーションに近い方を選択しましょう。例えば、明日会う友人にお礼をしたいとしましょう。この時、SNSで先にお礼をするのではなく、実際に会ってお礼をしましょう。
最近では、好きと言う気持ちを、SNSで伝える方もいるようです。もちろん好きと言う気持ちを直接伝えるのは恥ずかしいですが、やはり顔を合わせて直接言う方が気持ちは伝わるものです。
ネットとリアル、どちらの選択肢もある場合は、なるべくリアルに近い方を選ぶようにしましょう。
⑥メタ認知力をつける
SNS疲れになりやすい方は、自分をコントロールすることができず、気が付いたら長時間没頭していたという方が多いです。この「気が付いたら…」という状態を改善するにオススメなのが「メタ認知力」です。メタ認知力とは、自分を冷静に観察する力です。この力がつくと自分自身の行動を制御できるようになります。
具体的なやり方としては下記を参照ください。
①スマフォをいったん脇に置く
まずは物理的な距離を取ることが大事です。スマートフォンをいったんカバンに入れるなど距離を置くようにしましょう。
②気持ちを落ち着ける
深呼吸をします。環境がゆるせば目をつぶります。
③自分を観察します
スマートフォンを触りたがっている自分、SNSを確認従っている自分を確認します。斜め上から自分を観察するような感覚がおすすめです。
④やるべきことを確認
本来やるべきことを確認します。勉強をする、仕事をする、運動をする、友人との会話に集中するなど。
➄デメリットを確認する
SNSを続けるとどようなデメリットがあるかを確認します。時間を失う、友達との時間を失うなど。
⑥やるべきことをする
SNSをいじりたい気持ちを持ちながらでもOkなので、「やるべきこと」をやり始めます。やるべきことをやり始め、集中するといつのまにかSNSをやりたい気持ちが小さくなっていたら成功です。
より詳しく、メタ認知のトレーニングをしたい場合は、以下のコラムを参照ください。
⑦打ち込むものに集中する
最後は私のカウンセリング上の経験談から解決策を提案します。SNS疲れを起こしやすい方は、SNSでのイイネの数や友達の数など、人の目をすごく気にしています。一方で、SNSを健康的に利用している方は、人生でなすべき課題を自分なりにもって努力されている方が多いです。
人生でなすべき課題があると、SNSを利用している時間が減り、人の目がそこまで気にならなくなります。SNSでの輝く自分にとらわれるのではなく、是非、打ち込めるものを見つけ、若いエネルギーをぶつけるようにしてみてください。
そうすれば自然と丁度よい距離感で、SNSと付き合えると思います。人生の目的については以下のコラムを参照ください。
まとめ
繰返しになりますが、SNSにはメリットとデメリットがあります。当コラムの知識を活かしながら、ぜひ丁度良い距離感でSNSを利用してみてください。
SNSの利用はあくまで補完的に考えることをオススメします。目の前の大事な人とたくさん顔を合わせて、泣いたり笑ったりすることを大事にしてくださいね(^^)
しっかり身につけたい方へ
当コラムの内容をしっかり身につけたい方は、公認心理師による講座をおすすめします。内容は以下のとおりです。
・SNSを健康的に使いこなす心理学
・顔と顔を合わせた会話の練習
・聞き上手,話し上手になる練習
・感情コントロール力をつける,メタ認知
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コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
for Recovery, New York, John Wiley & Sons.