大人の愛着障害を克服する方法,治療法
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回は「大人の愛着障害の克服方法」についてご相談を頂きました。
相談者
35歳女性
お悩みの内容
私は幼少期に親から身体的虐待を受けて育ちました。今でもその記憶を引きずっていて、友人関係や恋愛関係がいつも不安定になります。
愛着障害と診断を受けたわけではないですが、診断基準の多くにあてはまります。どうすれば改善できるでしょうか。
過去に大変な思いをさて、大人になっても不安定な感覚があるのですね。当コラムを読み進めていくと、愛着障害を克服する基本的な流れを抑えることができると思います。是非最後までご一読ください。
愛着障害とは何か
まずはじめに愛着障害とは何か?について基本的な知識を抑えていきましょう。
愛着障害とは何か
愛着障害とは、養育者との関係が不安定であるために起こる、心や行動に問題が起こる障害を意味します。典型的には以下の症状がみられます。
・見捨てられ不安が強い
・対人関係で不安がある
・人を信じることができない
・人間関係のリセット癖がある
私たちは絶えず、生きている限り人間関係の中にあります。愛着障害があると、対人関係で疲れやすく、落ち込んだり、攻撃的になることがあります。
子供の診断名
一方で、愛着障害は医学的には幼児の診断名であり、大人になってから診断されることはほとんどありません。実際には、
PTSD
社交不安症
パーソナリティ障害
などの診断名がつきやすくなります。これは、大人になると幼少期の問題がどれぐらい影響しているか?判断が難しいからです。
精神医学の世界では、いったん社交不安障害という診断名が付くと、社交不安障害のための、治療や心理療法に進むケースが多く、愛着形成の問題は、置き去りになってしまうこともあります。
大人も問題を抱えている
しかしながら、私たち心理職の世界では、大人の愛着不安は重要な懸念事項として考えられています。例えば
・親しい人に愛された感覚が少ない
・仲良くなると逆に不安になる
・周りの人がいなくなる感覚がある
・批判されるとカッとなってしまう
こんな感覚が強い方は、幼少期に愛着形成がうまくいかなかった可能性を視野に入れます。専門家としても、過去の親子関係が大人になってから肌感覚で実感しています。
大人の愛着障害の影響
愛着障害は大人になっても影響が続くケースがあると言われています。ここからは大人の愛着不安に関する研究を紹介します。
研究①見捨てられ不安型とすねた伝達
中尾・加藤(2006)[1]は大学生378名を対象に、愛着スタイルと心の状態について調査を行いました。その研究の一部を紹介します。まずは下図を概観してみてください。
安定型は、愛着が安定している方で、とらわれ型は愛着が不安定で見捨てられ不安がある方を意味します。すねた伝達とは、冷たい態度を取ったり、あえて突き放すような態度を意味します。
グラフを見ると、見捨てられ不安が出やすいとらわれ型の方が拗ねた伝達をしやすいことがわかります。囚われ型の方は「どうせあなたもいなくなる」という感覚を持ちやすく、素直に想いを伝えられないと推測されます。
研究②対人不安への影響
丹羽(2005)[2]は、大学1年生628名を対象に、「大学入学時の対人関係不安と愛着不安」について調査をしました。
具体的には、
愛着不安高い群
→重要な他者と情緒的に問題を抱える群
愛着不安低い群
→重要な他者と情緒的に健康的な関係の群
に分け、それぞれ大学にうまくなじめているかを調査しました。その結果は以下のような特徴があることがわかりました。
入学直後は、愛着不安高群が対人不安が強く、その傾向は3か月後も持続していることがわかります。愛着不安を抱えていると、人間関係で躓きやすくなるため、最初の入り口で挫折しやすくなります。またその影響は持続していくと推測されます。
研究③恋愛への影響
大坊ら(2003)[3]は異性関係と愛着との関連性を調査しました。この研究では、大学生の男女449名に「愛着スタイル」「恋愛イメージ」を測るアンケートに答えてもらいました。
分析の結果、愛着が安定している人は、恋愛に対して「相手との信頼関係」や「自身の成長」など、ポジティブなイメージを持ちやすいことがわかりました。
一方で愛着が不安定な方は、恋愛とは所詮アクセサリーのように「刹那的」であり、信頼や成長とは無縁だ、と考えやすいことがわかりました。
回避型の方は、長期継続的な関係へ発展しずらく、刹那的な関係を持ちやすくなります。すぐに別れてしまう、付き合う人数は多いけど、心からの関係を持てないという方は注意が必要です。
大人の愛着スタイルと克服方法
中尾・加藤(2004)[4]は、大人の愛着スタイルを4つのタイプに分類しています。
皆さんはどのタイプにあてはまりそうでしょうか。それぞれのタイプについて、特徴と克服方法を折りたたんで解説しました。自分にあてはまるタイプ展開して理解を深めていきましょう。
まとめ
当コラムでは愛着障害と形成について解説をしてきました。
時には3歩進んで2歩下がることもあるかもしれませんが、他者とのコミュニケーションでの試行錯誤を通して、粘り強く取り組んでみてください。
バランスの良い対人関係を意識していくことで、愛着の問題を改善してくださいね。
お知らせ・発展編
ここまではアイデンティティの基礎について解説をしてきました。ここからは「お知らせ」と「発展編」になります。
しっかり身につけたい方へ
当コラムで紹介した方法は、公認心理師による講座で、たくさん練習することができます。内容は以下のとおりです。
・見捨てられ不安への対処
・ありのままの自分を認める練習
・過去の自分を認める練習
・健康的な人間関係の構築練習
体験受講に興味がある方は下記のリンクからお待ちしています。筆者も講師をしています(^^)
アダルトチルドレン
愛着問題と非常に近い概念であるアダルトチルドレンについて補足としてお伝えします。アダルトチルドレンとは、大人になっても子供の頃に受けた精神的ダメージを抱え続けている人達のことです。愛着障害とかなり近い概念なので、基本的な知識を抑えておきましょう。
子どもの愛着障害
愛着障害は世代間連鎖することがあります。理解を深めるため、子供の愛着障害についても学んでおきましょう。
愛着不安診断
愛着障害の傾向を測る診断をご希望の方は以下のリンクを参考にしてみてください。4段階で愛着不安の強さを測ることができます。
3件のコメント
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中2です。自分が愛着障害かははっきりとは分からないのですが、先生に構ってもらいたいからわざと悪いことをしてみたり、問題児のフリをしてみたりしてしまうことがあります。ですが、親の前ではいい子のフリをしています。本当の自分が分かりません。これって、やはり障害なのでしょうか?自分では分かりません。教えていただければ幸いです。
私は、ひきこもり型の傾向があります。
他人との信頼関係が築きにくいです。
私は幼い時から他人を信用するな、余計な事は話すなと教わってきたので、
今でも他人と関わるのが怖く感じます。
大人になってから(自分を受け入れてほしい)という気持ちが強くなってきたので、
どのように表現してよいのか分からずに、相手に冷たい態度を取ったり、
あえて突き放すような態度を取ったりと、(振る舞い)(しぐさ)などの、
曖昧なメッセージを使って相手に伝えようとしてしまいます。
素直に伝える表現の仕方が分からず悩む時があります。
普段からのコミュニケーションを大切にするように心がけていきたいと思います。愛着障害を自覚しています。興味深く拝見しました。
文章で読むと、なんだか安心しますね。
子供と大人とそれぞれに解説があったのが分かりやすかったです。何故か診断はできませんでしたが、私は見捨てられ不安型ではないかと考えます。
いきなり自分の内面的な話をしてしまう、というのは昔よくした失敗で苦笑でした。年を重ね随分改善したと思いますが、過去の経験から自分には安定した関係は作れないと強い思いがあり苦しいです。この後のコラムも読んでさらに改善させたいです。
コラム監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
・出典[1]中尾達馬,加藤和生(2005).成人愛着スタイルは成人の愛着行動パターンの違いを本当に反映しているのか?パーソナリティ研究14 巻 3 号 p. 281-292[2]丹羽智美(2005).青年期における親への愛着と環境移行期における適応過程 パーソナリティ研究 13 156-169 名古屋大学[3]金政 祐司,大坊 郁夫(2003).青年期の愛着スタイルと社会的適応性 心理学研究74 巻 5 号 p. 466-473[4]中尾達馬,加藤和生(2004).成人愛着スタイル尺度(ECR)の日本語版作成の試み 心理学研究 75 (2), 154-159, 公益社団法人 日本心理学会
コメントさせて頂きます。
おそらく他人の反応を確かめたい時期なのかもしれません。
多かれ少なかれ人はそのような言動をすることがあります。
小さい頃は家族や身近な人、同級生、等、でしたが成長する段階で自分より立場が上の人に失礼な言動をしてみたり人にちょっかいを出してみたりするものです。
これだけでは愛着障害かどうかは分かりませんが、構ってもらいたいから、わざと悪いことをしている自覚があるのなら時と場合に合わせてコントロールすることができるでしょう。
ご参考になりましたら幸いです。