赤面症,恐怖の克服方法,治し方
皆さんこんにちは。公認心理師の川島達史です。私は現在、社交不安症の専門カウンセリングを行っています(興味がある方はこちら)。今回は「赤面(恐怖)症の治し方」について解説していきます。
赤面症は社交不安障害の中でもよくある症状です。当コラムでは赤面症の理解と対策を一通り解説していきます。目次は以下の通りです。
①赤面症とは何か
②赤面症と症状
③赤面症と発症年齢
④原因と治し方
⑤具体的な事例
当コラムの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。
お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。
①赤面症とは何か
赤面症と健康
赤面症は現在、2つの意味で使われています。1つ目は、血流が良く顔が赤くなりやすい症状です。何かに集中する、温度が高い場所に行く、緊張すると顔が赤くなりやすい方に対して使われます。
ここで皆さんに質問です。赤面症のお悩みはいつごろからはじまりましたか?おそらくですが、10代から始まった方がほとんどなのではないでしょうか。ここで絶対に抑えて頂きたいことがあります。
それは
ほとんどの場合、顔が赤くなることは病気ではない
ということです。冬に公園で走り回っている子供の顔を見てみましょう。興奮してみんなまっかかです。皆さんの顔もきっとまっかかだったと思います。でも全然気にしていなかったと思います。赤面症自体はほとんどのケースでは病気ではないのです。
赤面恐怖症とは何か
一方で赤面症が病気になることもあります。正確には赤面恐怖症と呼ぶべき症状で、深刻になると社交不安障害という病名がつくことがあります。赤面恐怖症は精神医学事典(2011)[1]によると以下のように定義されています。
人前で赤くなることを羞恥し恐れ、いつしか対人状況そのものを恐怖し、忌避する対人恐怖の一型
赤面恐怖症になると、赤面している自分を周りに見られることを、とても恥ずかしいと感じ、恐怖心から、人と接する場面を避けたり、顔が赤くならないように手術をする人もいたりします。
現在の日本では、1と2の意味がごっちゃになって使われています。当コラムでは赤面症という言葉を使いますが、2つ目の意味であることを前提として進めていきたいと思います。
②赤面症と症状
症状
自己否定感
顔が赤くならない人をうらやましく感じる一方で、赤面をする自分を心の弱い人間であると考えたり、体質を否定的に考えるようになります。顔が白い自分こそが健康的で、赤面する自分を異常と考えるようになります。
徹底的な回避
緊張して顔が赤くなる可能性がある場面を徹底的に回避するようになります。人前で発言すること、集団での会話、就職活動、恋愛関係において「赤くなったらどうしよう」と考え、回避するようになります。
過度の克服行動
赤面しないような克服行動をします。例えば、赤面をしないように薄着をする、アイスノンで冷やす、寝るときに扇風機で冷やす、必要以上の化粧、などの行動に囚われるようになります。また健康的なレベルにも関わらず、外科的な手術を希望する方もいます。手術については以下のコラムで詳しく解説しました。
重度の対人恐怖
山下(1977)[2]は対人恐怖症を、人間関係で漠然とした不安を覚える「緊張型」と、自分の容姿、赤面、臭い、視線などに非現実的な思い込みを持つ「確信型」に分けました。赤面恐怖症は後者であり、症状としては重いとされています。具体的な症状としては以下のものが挙げられます。
症状の移行
内沼(1977)[3]は赤面恐怖症からはじまり、視線恐怖症に移行するケースが多くあることを指摘しています。そのほか、筆者の臨床経験では、自分の臭いが気になる自己臭恐怖、鼻や顎の形がきになる醜形恐怖に発展したケースもあるので注意が必要です。また他の症状に移行をすると赤面恐怖症は軽くなる傾向があるとされています。
③赤面症と発症年齢
10代から悩みがはじまる
赤面症が心の問題になってくるのは、ほとんどの場合は10代です。ここで、社交不安障害を発症する年齢の割合を示したグラフをご覧ください。グラフを見ると、ほとんどの人が10代で発症していることがわかります[4]。
10代は、公的自己意識が過剰になる、思考の歪みが生じる、感情のコントロールができない、と言った心の問題がおこりやすい年代です。精神的な対処法がまだ育っていないので、赤面症になりやすいのです。
30代後半から落ち着く傾向
一方で赤面症は、30代後半から落ち着いていく傾向があります。日本医療開発機構の川上(2016)[5]の調査によると、社交不安障害は、以下の図のように年齢を重ねるごとに有病率が低下していくことがわかっています。
赤面症そのものの統計はないのですが、筆者の臨床経験をもとにすると、30代後半になると赤面で相談される方はかなり減ってくると感じています。
③原因と4つの克服方法
先程解説したように、赤面症は10代の頃にその原因のほとんどが形成されます。ここからは赤面症の原因と対策を解説します。
①公的自己意識の過剰
②認知の偏りがある
③症状へ捉われる
④体の仕組みを異常と考える
自分にもあてはまる…と感じる項目を中心にご活用ください。
①公的自己意思の過剰
赤面症の中核となる心理は思春期に爆発的に増える「公的自己意識」です。公的自己意識とは周りの目を気にする心理です。それは友人の目であったり、異性の目、社会の目であったりします。
周りの目を気にするということは、社会に出るために必要な心なのですが、大きくなりすぎると、がんじがらめになり、様々な症状を気にするようになります。
公的自己意識の過剰さを改善するには、「私的自己意識」を増やすことが近道です。私的自己意識とは
自分がどうしたいか
自分のやりたいことに集中する
やるべきことをやる
という意識の向け方です。他人の目を気にしすぎず、自分主体の考えを増やしていくことが大事になるのです。以下の折り畳みでは練習問題にチャレンジすることができます。ぜひ参考にしてみてください。
赤面症を改善する上では、公的自己意識と私的自己意識のバランスを整えることが大切です。実際に練習問題を解きながら考えていきましょう。
あなたは来週の月曜日に、20人の前で朝礼でスピーチをしなさいと上司に指示を受けました。この時、
・
公的自己意識が強い
私的自己意識が強い
バランスを取る人
・
それぞれどのような考え方の違いが起きるでしょうか。それそれ考えてみてください。
解答例
・公的自己意識が強い人
赤くなったら笑われる
赤面する自分を見られてはいけない
・私的自己意識が強い人
ウケなくてもいい。自分らしく話そう。
自分が話したい話ができればOK
最近面白かった話をしよう
・バランスを取る人
周りの目は気になるし、
皆に楽しんでもらえるよう配慮するけど、
自分らしく話すことも大事にしよう
このように公的自己意識が強すぎる方はバランスを取る人の考え方を真似してみましょう。もっと練習をしたい方は、以下のコラムも是非参考にしてみてください。
②認知の偏り
10代は「思春期」と言われるぐらい、考えることが増える時期です。この時期に多くの青年は「認知の偏り」が生じすくなります。例えば、赤面症を気にする方は
顔が赤くなることは恥ずかしいことだ
と1つの思考で極端に考える傾向があります。このような極端な思考を「白黒思考」と言います。
白黒思考を改善するには、様々な考え方を足していくことが大事です。私の相談者の中に白黒思考と赤面症で悩むある女性がいました。その女性は以下のように考え方を追加していきました。
赤いのは健康的な証拠
チークなくても済むからうれしい!
顔が赤いから嫌われるわけではない
若く見えるから助かる
彼女にとって顔の赤みはチャーミングな特徴に変わったのです。
このように白黒思考を改善するには、思考の歪みがないかチェックし、現実的で前向きな考えを増やしていくことをおすすめします。詳しくは以下のリンク先で練習することができます。極端に考えがちな方は参考にしてみてください。
③症状にとらわれる
人間の心理として「〇〇してはいけない」と考えると余計にそこに意識が向いてしまい、結果的にその状態になってしまうことがあります。これは精神交互作用と呼ばれています。
例えば、悪口を言ってはいけない!!と考えると、周りの悪口が非常に気になってしまったり、結果的に悪口を考えてしまって、以前よりも症状が増えてしまうことがあるのです。赤面症も同じで「赤くなってはいけない」と考えると余計に赤くなってしまうことがあります。
赤面症の事を考えすぎてしまう…と感じる方は、森田療法を実践することをオススメします。森田療法とは簡単に表現すると、症状をあるがままに受け止めて考えていく方法です。
赤面する自分を受け入れる
顔が赤くても無理になおそうとしない
自然な身体の仕組みと考える
このような姿勢を意味します。対人恐怖症や、赤面恐怖、視線恐怖で古くから活用されてきた治療法です。赤面症の状態をあるがままに受け止めることで、その症状にとらわれないようにすることができます。
赤面症のことを考えすぎて余計に悩みが強くなってしまう…という方は下記のコラムを参照ください。
④体の仕組みを異常と考える
赤面症でなやむ方は、顔の赤さを体の異常と捉える傾向にあります。心が見透かされたような気持ちになり、赤くならない人を羨ましいとさえ考えてしまいます。
しかし、顔が赤くなること自体は身体のメカニズムで極めて自然なことなのです。体の仕組みを理解し、自分が健康的であることがわかると、どこかほっとする面もあります。顔が赤くなるのは身体がおかしいからだ…と感じてしまう方は以下の折り畳みを参照ください。
私たちの体には、自律神経には2種類あります。
私たちの体は、恐怖場面、集中すべき場面、活発に遊ぶ場面に遭遇すると、左側の交感神経が活発になります。
交感神経働くと、身体の機能を向上させるため、
「毛細血管」
に血液が流れていきます。
頬や鼻周りには、この毛細血管が張り巡らされており、交感神経の働きが強くなると、毛細血管に多くの血液がめぐり顔が赤くなります。
多くの場合、赤面症は極めて自然な身体的の仕組みなので、病気ではなく、赤くなること自体が問題ということはありません。この点はまずは押さえておきましょう。
⑤具体的な事例
以下赤面恐怖症の当事者の事例を紹介します。症状や治療法など参考にしてみてください。
森田療法とは、まず症状を取り除こうとせずに、あるがままに受け入れて不安や恐怖を軽減していくものです。この森田療法は赤面症を含む神経症の治療に有効だとされています。以下に外来での森田療法の症例について紹介します。(大原,1999[6])
・20歳男性
・赤面恐怖症
・人前に出ると赤面し、口ごもり逃げ出したくなる
この男性に外来での治療を行った際に以下のようなアプローチをしています。
1.赤面をするのは純情な証拠でだれでも起こる現象である
2.赤面をして悪いことは何一つない。相手は微笑ましく思いこそすれ、不快に思うことは絶対ない
3.相手はあなたの心の中まではわからない。相手はあなたの行動を通してあなたの心の中を知ろうとする。逃げれば嫌って避けているように思うだけだ
4.赤面をしながら、口ごもりながら逃げずにやるべきことを目的本位にやろう
5.悪い癖がついているのだから、良い習慣を身につけるように頑張ろう。悪い癖を直すのは自分自身だ。
このように指導をしています。症状を自分で抑えようとすると、かえって症状が悪化してしまいます。不安から逃げず戦わず、あるがままに症状を受け入れて、目的本位に生活することを説いていきます。
森田療法について詳しい解説はこちらを参考にしてみてください。
赤面症を手術による治療で改善させる方法も報告されています。体のバランスをつかさどる自律神経を手術によって切除し、赤面症を抑えるといったものです。
「胸腔鏡下交感神経節切除術」は発汗を促す交感神経を手術によって切除します。交感神経の大本は胸部にあるため、内視鏡にて神経を確認しながら切除していきます。この手術は保険適用にもなっています。
胸腔鏡下交感神経節切除術は、主に手の多汗症に対する治療として多く適応されてきました。その中でも、安宅ら(2002)[7]では、赤面症に対して胸腔鏡下交感神経切除術を実施し、効果を発揮したことが報告されています。
・51歳女性
・中学生頃より赤面症、顔面多汗があり
・手術療法を希望し、胸腔鏡下交感神経切除術を実施
胸部にあるT2という箇所の自律神経の切除を行うことで、赤面症や多汗症が抑えられたとしています。その他の報告でも、赤面症にはこのT2の神経遮断を行うことが効果的であるとしています(Lin&Telaranta,2001)[8]。
この手術は対象箇所の症状を抑えられても、別の場所で発汗が起きるなどの副作用があることが指摘されています。また、切除する神経によっても効果や副作用が異なるため、慎重に適応を判断することが必要です。
筆者の川島は15歳から18歳ぐらいまで赤面恐怖症で苦しんでいました。当時の私は中高一貫の男子校に通っていました。中学生の頃の私は同年代の女の子と話す機会が全くありませんでした。しかし、中学卒業まじかに、3対3でデートをすることになりました。3年ぶりに異性を接した私は、顔が真っ赤になってしまい、その姿を笑われてしまいました。
それ以来自分の顔の赤さに注目するようになり、症状がどんどん悪化していきました。冬なのに薄着をする、クーラーの下になるべく行く、水風呂に入るなどの努力をしましたが改善できず、とても落ち込みました。
その後、10代の後半に入ると視線恐怖、笑顔恐怖に移行していきました。そうするとなぜか赤面恐怖はかなり軽くなりました。赤面恐怖事態は軽くなっても、結局は視線が怖いという感覚や、自分の笑顔が不細工であるという思い込みがあり、人と接するときに一切割られなくなっていました。
その後、20代の前半に心理療法をしながらゆっくり心の改善をしていきました。具体的には
・過剰な公的自己意識
・思考の歪み
・精神交互作用
これらを改善することで、視線恐怖、笑顔恐怖は軽くなっていきました。
仕上げの動画
赤面症については動画でも詳しく解説しました。仕上げとしてご視聴ください。
まとめ
赤面症の対策の基本編は以上となります。繰り返しになりますが、赤面症は一部の方を除きそれ自体が病気であるというわけではありません。基本は心のあり方で改善できる症状です。
私自身も顔が赤くなりやすい体質ですが、今はわりと受け入れていて、人間らしさの1つと考え、自分の症状を愛するようになっています。皆さんのお悩みが改善され、健康的な人間関係を築かれることをせつに願っています。
カウンセリングのお知らせ
最後にお知らせがあります。筆者の川島は社交不安症のカウンセリングを行っています。内容は以下の通りです。
・人の目を気にする心理の改善
・赤面症との付き合い方
・森田療法,精神交互作用の学習
・人と楽しく会話をする練習
興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。まずは気軽にご相談ください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 加藤敏, ら編(平野羊嗣:分担,編集協力者)(2011)精神医学事典 弘文堂
[2] 山下格(1977).対人恐怖 金原出版
[3] 内沼幸雄(1977).対人恐怖の人間学 弘文堂
[4] 監訳 髙橋 三郎,大野裕(2014). DSM5 精神疾患の診断・統計マニュアル 医学書院
[5] 川上憲人(2016).精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究:世界精神保健日本調査セカンド 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 障害者対策総合研究開発事業(精神障害分野)
[6] 大原健士郎(1999).神経質性格、その正常と異常~森田療法の科学~ 講談社
[7] 安宅豊史,和栗紀子,冨田美佐緒 (2002).顔面多汗・赤面症患者に対する胸腔鏡下交感神経節切除術の施行経験(一般演題)(第 54 回新潟麻酔懇話会第 33 回新潟ショックと蘇生・集中治療研究会) 新潟医学会雑誌 116 (6), 293-293
[8] Lin CC & Telaranta T. (2001).Lin−Telaranta classification : the importance
of different procedures for different indications in sympathetic surgery. Ann Chir Gynaecol 90 : 161−166