赤面症手術の副作用や費用④
皆さんこんにちは。公認心理師の川島達史です。私は現在、社交不安症の専門カウンセリングを行っています(興味がある方はこちら)。私は青年期に赤面症でなやんできました。その体験も活かしつつ、赤面症コラム1の治療方法を心理学の視点から解説してきました。今回は「赤面症手術の効果や副作用」というテーマで解説をしていきます。
目次は以下の通りです。
①筆者が手術をおすすめしない理由
②ETS手術の概要,効果
③ETS手術とリスク
④レーザー治療
⑤手術,レザーに適する症例
赤面所の手術については、どれぐらい経済的な負担がかかるのか、またどのくらい症状が和らぐのか、具体的にイメージしにくい部分があると思います。
さらに手術による副作用も存在するため、治療法はメリット・デメリットを抑えつつ、慎重に検討する必要があります。是非最後までご一読ください。
①筆者が手術をおすすめしない理由
いきなりですが、手術の説明の前に私の主張からさせてください。すいません。。私の個人的な見解ですが、10代、20代の方にはオススメはできません。理由は3つあります。
根幹は心理的な問題
コラム1でも解説したように、赤面症の根幹は、「人の目を気にする」「思考が偏っている」「症状にとらわれる」などの心理的な問題です。例え手術で赤面症が治っても、心の問題自体はそのまま残ります。
赤面症が治ったとしても、心の問題はそのままなわけですから、今度は、赤面以外の症状がモグラたたきのように出てきてしまうのです。例えば、視線恐怖、醜形恐怖、表情恐怖、などがはじまります。最初にすべきは手術ではなく、心理的対処になるのです。
年齢と共に改善していく
赤面症の悩みの問題は多くの場合は、年齢と共に改善していくことがわかっています。10代で赤面症で悩んでいた方も、40代になると、7割近くは気にしなくなっています。
このコラムを読んでいる方が40代以降であれば、手術は妥当かもしれないですが、10代、20代の方は、人生経験を積むと、自然と赤面を受け入れられるようになることもおさえておきましょう。
中年以降若く見える
赤面症でなやんできた私も、40歳になりました。一般的に、年齢を重ねると、だんだん顔の血色が悪くなってきて、老けて見えます。この点、私の顔は今でも、赤みがさしているので、健康的に見えるようになってきました。
今ではもうちょっと赤くなってもいいかな…なんて考えています。昔は自分の短所だったのでですが、中年になると好きなポイントになってきました。
このように赤面症は原則としては心の問題であることが多いので、手術をする前にまずは心理療法から試し、最終手段として考えることをおすすめします。
②「ETS」手術の概要と効果
ETS手術の概要
赤面症の手術として代表的なのは「ETS手術(胸部交感神経遮断手術)」になります。これは、発汗の指令を伝える交感神経の働きを止めて、汗を出にくくする手術です。主に手のひらの発汗に対して用いられることが多いですが、赤面症状を和らげる効果もあります。手術の概要は以下の通りです。
まずは全身麻酔を行います。わきの下の皮膚を 3 ミリほど切ります。その後、長い手術用のピンセット等を骨で肋骨で囲まれたスペースに入れます。テレビ画面で胸のなかを見ながら交感神経を見つけて切断します。
手術は10分程度で終了します。内視鏡を使うことにより、直接目で見たり、触ったりして手術することがないため、極めて小さい傷でオペを行うことができます。手術後に痛みを感じる方はほぼいないようです。
ETS手術の相場
ETSの費用の相場としては、「10万円前後」となります。ETSは保険3割負担の対象となるため、手術の中では比較的低コストで受けることができます。ただし、入院するかどうかにより費用が大きく変わります。この点は、症状やクリニックによって変わりますので、事前に確認しておきましょう。ほとんどの場合は、日帰りで終了します。
273例とETSの効果
ETSは赤面症にどこまで有効なのでしょうか。赤面症に近い症状である顔面発汗の症例を扱った調査を見てましょう。岡林ら(1999)は、ETSの効果について調査をしました。
具体的には、1999年の12月までに「手のひらの発汗・顔面の発汗・えきか」の症状を持つ患者にETSを行った273例に、アンケート調査を行いました。結果としては以下の通りとなります。
手のひらの発汗の減少
99.3%がフォローアップ期間にも
症状が治まっており、
再発と回答のあった症例でも
発汗したもの少なかった。
手のひらの発汗の減少
99.3%がフォローアップ期間にも
症状が治まっており、
再発と回答のあった症例でも
発汗したもの少なかった。
顔面発汗・えきか
症状が治まったという回答したのは42%
減少したと答えたのは65%だった。
このように、手のひら・顔面・えきかのすべてに一定の効果が認められている治療法と言えます。顔面発汗は6割の症例で症状の減少があるものの、手のひらほどの確実な効果はなく、個人差が激しいため、手術を希望される方は医師との相談をしっかりと行った上で検討するようにしましょう。
③赤面症手術とリスク
赤面症の手術ではリスクもあります。
代償性発汗
ETSでもっとも問題視される副作用は「代償性発汗」です。これは、赤面症が止まる代わりに、高温の環境では「背中・腰・お腹・太股後ろ・太股前・胸」などの発汗が増える傾向があり、新たな悩みとなるケースがあります。
先ほどご紹介した岡林ら(1999)のアンケート調査では、合併症についても質問項目があり、69%の症例で患者さんが代償性発汗で悩んでいたと報告されています。
代償性発汗の度合いには個人差があり、全くでない人もいれば、着替えが何枚も必要になるほど大量の汗かく人もいます。こうした副作用によってETSを行ったことを後悔する患者さんもいます。
不可逆性
この赤面症手術を行ったあとに代償性発汗により、新たな悩みが生じて手術を後悔しても、現在の医療技術では切除した交感神経をもう一度もとに戻すことは不可能です。
赤面症の手術を受けないと症状が悪化したり、健康状態が悪くなることはありません。そのため、副作用のリスクと症状の緩和をてんびんにかけて、手術の内容を充分に理解し納得してから決断することが大切です。
④レーザー治療
赤面症についてはレーザー治療で治すケースもあります。フォトフェイシャル、YAGレーザー、ジェネシス、色素レーザーなど様々な種類があります。レーザーにより違いがありますが、細胞を傷つけることなく、赤みの原因にのみ反応するという利点があります。
リスクとしては、肌が乾燥しやすくなる、ダウタイムは顔がほてるなどが挙げられますが、外科的な手術よりも体の負担は小さいと言えます。
⑤手術,レザーに適する症例
赤面症については外科的な対処も必要なケースもあると言えます。
単純性血管腫
生まれつきある、平らな赤いあざです。生後間もなく発生し、 原則として、年齢を重ねてもなくなることがありません。場合によっては腫瘤を作ったりする場合もあります。
毛細血管拡張症
毛細血管拡張症です。顔の特定の部分が、緊張する、しないに関わらず恒常的に赤い場合などはこの症状に当てはまることもあります。これらの症状はレーザー治療も可能です。特定の個所がいつも赤い場合は毛細血管拡張症の可能性があるため、医師の指示を仰いでも良いかもしれません。
脂漏性皮膚炎
皮脂の分泌が多い部分に起こる炎症です。患部は赤みを帯びます。難病で再発しやすいという特徴があります。
他にも顔が赤くなる症状はあります。基本的には保険が適応される病気のレベルの治療についてはお医者様とよく相談の上で、赤面を改善していくこともありうると感じています。
まとめ
ここまで解説したように、赤面症は一部病的なレベルのものもありますが、ほとんどのケースでは心の問題が中核となる症状です。
実際に、自分が思うほど周囲の人は赤面していることに気づいていません。まずは、「みんなが私の赤面に注目している・・・」といった誤った思い込みを修正する心理療法を行いましょう。
10代、20代のうちは対人不安を和らげたり、自分の考え方を修正する心理療法で対処し、30代になっても気になるようであれば、手術を検討する方が後悔するリスクも少ないです。手術は最終手段で!とまずは抑えておきましょう。
なお心理療法についてはコラム1でしっかり解説をしています。まだ読んでいない方は下記を参照ください。
カウンセリングのお知らせ
最後にお知らせがあります。筆者の川島は社交不安症のカウンセリングを行っています。内容は以下の通りです。
・人の目を気にする心理の改善
・赤面症との付き合い方
・森田療法,精神交互作用の学習
・人と楽しく会話をする練習
興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。まずは気軽にご相談ください。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連