気分障害の種類,治療法

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している臨床心理士の森、公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「気分障害」です。

気分障害の症状

気分障害は精神疾患の中心となる障害です。ご自身はもちろん身近な人を合わせると、かなりの確率で向き合う機会があると思います。そこで当コラムでは気分障害を基礎から一通り解説していきます。目次は以下の通りです。

①気分障害とは何か
②2つの診断基準
③気分障害の原因
④治療方法
⑤気分障害と種類

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

①気分障害とは何か

意味と症状

気分障害の中で代表的なうつ病になると、日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じます。深刻になると生きる気力を失い、行動に移すこともあります。

双極性障害になると、うつ症状のほかに、躁的な症状が現れ、眠らない、万能感に支配される、非現実的な行動に出るなどの症状が出ることがあります。

生活への影響

気分障害は仕事から私生活まであらゆる影響を及ぼします。例えば、Stewartら(2003)[1]の研究では、うつ病の労働者は、生産的な作業時間が、週に平均5.6時間できなくなっていることがわかりました。健康な方が週に1.5時間なので、4倍近い開きになっています。

週当たりの生産的作業時間の損失

佐渡(2014)[2]によると、2005年の日本人成人におけるうつ病の総費用(通院にかかる費用など)は2兆円と推定されました。うつ病によって、これだけの額が失われており、経済的なダメージが大きいことがわかります。

生涯有病率

川上ら(2006)[3]は、日本人のこころの健康に関する疫学調査を行いました。それによると、うつ病や双極性障害などの何らかの気分障害は、生涯に8.9%の人が経験すると報告しています。

気分障害の中でも、もっともかかりやすいのはうつ病で、生涯に6.3%の人が経験します。国の統計では、うつ病で自殺をする方は毎年5,000人前後いることがわかっています。

気分障害は周りから理解されにくく、努力不足、気持ちが弱い、と責められることがあります。自分自身を責めらえる方も多く、自殺の原因の1つになっていると言えます。

②2つの診断基準

気分障害は2つの診断基準が歴史的に使われてきました。

DSMによる基準

DSMとはアメリカ精神医学会による心の病気の診断基準です。1980年のアメリカ精神医学会の診断基準(DSM‐Ⅲ)では「感情障害」とされていました(古川,2001)[4]。その後、感情の中でも気分の抑うつや高揚が特徴的であるとされ1987年の改訂版(DSM‐Ⅲ‐R)から「気分障害」とされる、従来のDSMによる分類としては以下のようになります。

気分障害の分類 DSM

図のように気分障害という分類の中には、大きく分けて、うつ病、双極性障害に分類され、さらに細かい分類があります。気分障害はかなり広い用語ということがわかります。

ところが、2013年に刊行されたDSM-5からは、気分障害という分類はなくなりました。うつ病と躁うつ病(双極性障害)はそれぞれ異なる分類として扱われるようになりました。表にすると、下のようになります。

気分障害の分類 DSM2

このように、最新の診断基準では、気分障害という言葉は使われなくなったのです。

ICDによる基準

ICDとは世界保健機構による心の病気の診断基準を意味します。ICDにおいては気分障害という用語は使われていて、以下のように分類されています。

気分障害 分類

以上のように気分障害という用語はDSMという診断基準の上ではなくなりましたが、ICD10という診断基準では依然として活用されています。また、現場感覚では、うつ病、双極性を総称する言葉として使うことは多いです。今後もしばらくは気分障害という用語は使われ続けると予想しています。

③発症の原因

気分障害が発症する原因としては以下が挙げられます。

①神経伝達物質が不安定

神経伝達物質とは、脳内の神経細胞の間でやりとりされる物質のことで、私たちがものを考えたり、感情を感じたりするときに、増えたり減ったり、移動したりしています。

うつ病に関係の深い神経伝達物質として、セロトニンやノルアドレナリンがあります。これらの働きが低下したり、バランスが崩れたりすると、発症につながると考えられています。

気分障害,セロトニン

②気質的なもの

気分障害は遺伝的な気質的な影響も受けます。例えば、悲しい気持ちになりやすいメランコリックな方は、うつ病のリスクが高いと言われています。

③環境変化

就職、転職、転校、結婚、出産、子育て、人間関係のトラブルがあるとストレスが増え、気分障害の一因となることがあります。

④身体の変化

体と心は関連しています。体に負荷がかかる場合は、ストレスで神経伝達物質が乱れ気分障害になりやすくなります。働きすぎ、不眠による疲れ、食生活の乱れ、月経不順なども原因の1つです。

⑤何かを失うこと

家族との死別、こどもの独立、失業、離婚、退職、閉経なども気分障害の1因となります。

⑥レジリエンス不足

心理学の用語でレジリエンスという言葉があります。レジリエンスとは、しなやさかという意味があり、困難に対して柔軟に対処する力を意味します。心のありかたも気分障害に影響してきます。

気分障害は特定の原因があるわけではなく、上記のような原因が組み合わさって発症します。一方で、気分障害は原因がほとんど見当たらない場合にも発症することがあります。この原因のわかりにくさが治療の難しさにつながるとも言えます。

気分障害・うつ病の原因

 

④気分障害の治療法

ここからは、気分障害の治療については、原因が様々であるため、対策も複数あります。当コラムでは臨床現場で活用される7種類を紹介します。

①医療機関の受診
②薬物療法
③休息
④サポート体制
⑤心理療法
⑥生活リズムの調整
⑦制度の利用

気分障害かも?専門医を受診

①医療機関の受診

気分障害を自力で治すのはかなり難しいです。骨折を自力で治すようなものです。ご自身や身の回りの人が気分障害なのではないかと思ったら、精神科、心療内科を受診することを考えましょう。

気分が改善して落ち着くまでは定期的に通うことになるので、自宅や会社から通いやすいクリニックや病院を探しましょう。精神科の診察では、医師との会話が大切です。気分が悪く正確に話せる自信がない方は、症状がいつからはじまり、どれぐらい続いているかなど、あらかじめメモをしておいて、伝えるのもいいかもしれません。

②薬物療法

多くの場合、薬物療法が開始されます。いわゆる抗うつ薬による治療です。症状によっては、その他の抗不安薬や睡眠薬などの薬が処方されることもあります。処方されたお薬の薬効や副作用について、お医者様や薬剤師の先生から説明をよく聞くようにしましょう。

お薬は原則として、副作用が少ないものが処方されますが、脳の仕組みには個性があり、効く効かないは本当に個人差があります。大事なことはお医者様に症状をしっかり伝えることです。ご自身にとってちょうどいいお薬のあり方をお医者様と二人三脚で進めていきましょう。

③休息をとる

気分障害は多くの場合休息をとることから始めます。例えばうつ病の場合は、過剰な残業、子育てが原因となっていることがあります。気分障害の原因は特定が難しいですが、まずは可能性のある原因を取り除く上で、休息が第一選択となります。ただ現実的には症状が深刻化するまで、頑張ってしまう方も多く、休息をとるにも一苦労が多いと言えます。

休息期間の目安ですが明確な基準はないですが、完全に何もしない時期は1か月、回復期は2~3か月、社会復帰に3か月程度と言うのが理想です。ただこれはうまく行った例なので、現実的には症状の深刻さによって数年単位でかかる方もいます。

④サポート体制を充実させる

気分障害の際は人間関係が億劫になることが多く、孤立しがちです。しかし孤立が長引くと孤立が余計に長引いてしまいますし、将来への希望を失い、余計に症状が悪化してしまうこともあります。

深刻な時期は、専門家のサポートを中心にもらい、回復期に入ってきたときは、家族や友人とのコミュニケ‐ションをとることも大事です。今はSNSが発達しているので、同じ病気を持つ仲間も比較的探しやすいです。国の制度としては、地域活動支援センターを利用することともおすすめです。

地域活動支援センターでは精神保健福祉士などが、日々の困りごとを相談してくれたりします。心強い味方になってくれるのでとてもおすすめです。「住所 地域活動支援センター」で検索ができますので是非ご活用ください。

⑤心理療法を学ぶ

ある程度症状が軽くなってきている時期は、少しずつ力をつけていくことも大事です。具体的には心理療法を学び実践してみるのもオススメです。心理療法は様々なものがありますが、気分障害では以下の心理療法がよく使われます。

認知行動療法
現在、気分障害でもっとも活用されているのは認知行動療法です。認知行動療法は、①考え方を前向きにする、②行動範囲を広げていく、③感情コントロール力をつける、この3つを獲得していく心理療法です。制限はありますが、保険適応もされています。

認知行動療法のやり方


来談者中心法
来談者中心法は、カウンセラーに悩みを十分相談することで、悩みを整理していくやり方です。認知行動療法に比べてかなり自由度があり、悩みを腰を据えて整理したい方におすすめです。来談者中心法では、カウンセラーは9割近く傾聴に徹することになります。悩みをため込んでいて、誰にも相談したことがない方は来談者中心法からはじめてもいいかもしれません。

来談者中心法を理解する

対人関係療法
対人関係療法は、身近な対人関係が病気の症状に影響を与え、また病気の症状が身近な対人関係に影響する、と考え、健康的な人間関係を構築する技術を学びます。対人関係療法では、柔らかい断り方、建設的に話し合う手法、楽しく会話をするやり方などを学んでいきます。

対人関係療法は、やや負担が大きいので社会復帰期に実施されることがおすすめです。筆者は対人関係療法をベースとして講座を開催しています。主治医の方と相談の上で、検討してみるのもいいかもしれません。

人間関係講座

ここで、対人関係療法に関する海外の研究結果を見てみましょう。Miklowitz(2007)[5]は双極性障害のうつ状態の患者に対して、

対人関係療法を受けた群
心理教育

を受けた群の1年後の状態を確認しました。その結果、対人関係療法などの心理社会的治療を受けた群では、163名中、105名が回復しました(64.4%)。心理教育を受けた群(130名中、67名が回復(51.5%))よりも統計学的に有意に回復した人が多かったと言えます。

このように、対人関係療法といった周囲の対人関係に焦点を当てた治療は、双極性障害のうつ状態の回復に役立つと考えられます。

 

⑥生活リズムの改善

休息期が終わり、回復期から社会復帰期に入ってきたら、生活リズムを整えることも大事になってきます。

寝る時間を整える
太陽の元で散歩を毎朝する
毎日会話を一定時間する
負担の軽い家事を毎日する

などがあげられます。

⑦制度の利用を考える

気分障害は一発で全快するというより長い時間をかけて、うまく付き合いながらコントロールしていく心の病気です。長い時間かかりそうな場合は国の制度も利用してみましょう。

精神障害者保健福祉手帳
各種割引が受けられる手帳です。医療費が安くなる、交通機関を安く利用できるなどのメリットがあります。

精神障害者保健福祉手帳の手引き


相談支援事業
相談支援事業は生活全般についてのあらゆる相談に乗ってくれる支援事業です。専門の支援員がついてくれるので物理的にも精神的にも大きな心の支えになってくれます。是非利用してみてください。

相談支援事業


障害者就労支援
気分障害が長引いたとしても、仕事を続けたい方はたくさんいます。この時、一般企業にいきなり就職すると負担が大きすぎたり、理解を得られず悪化してしまことがあります。障害者就労支援では、症状に理解する支援員のもと、仕事を続ける制度です。

障害者就労支援

気分障害,回復,MiMi様作成

⑤気分障害の種類

最後に代表的な気分障害について解説をしていきます。

うつ病

うつ病は、抑うつ気分が続いたり、興味または喜びの喪失がみられる心の病気です。体重減少または体重増加、不眠または過眠など、身体にも影響があります。抑うつ状態は、気持ちが滅入る、何をする気にもなれない、不安で仕方ない、むなしい、悲しいなどです。

このようなうつ状態は、誰でも経験することですが、2~3日もすればまた元気になるのが普通です。ただし、それまで楽しみだったことが面白いと感じられなくなったり、日常生活に支障をきたすほどの落ち込みが2週間以上続いたりする場合は、うつ病と診断される可能性が出てきます。

うつ病の理解を深める

双極性障害

気分障害の代表的な疾患として双極性障害があります。双極性障害とは、双すなわち“ふたつ”の、極すなわち“うつと躁の両極端”が存在する疾患です。

躁とは、「異常にハイテンションな状態が1週間ほぼ毎日持続する」場合を指します。普段のその人とは明らかに異なり、気持ちが開放的になる、やたらと活力がある、行動が積極的である、あるいは怒りっぽいといった状態になります。

双極性障害の理解を深める

気分循環性障害

補足として気分循環性障害についても解説します。気分循環性障害とは大うつ病エピソードでも軽躁病エピソードでもない、慢性的な気分の波がある疾患です。下のイメージ図を見てください。正常ラインより落ち込んだり、気分が高揚したりするのですが、波の振れ幅は双極性障害と比べて緩やかです。

こうした気分の波が少なくとも2年間続いていると、気分循環性障害と診断される可能性があります。

気分循環性障害のイメージ図

気分変調性障害

気分変調性障害とは、大うつ病エピソードはないものの、抑うつ気分が長期間続く疾患です。つまり、軽いうつが慢性的に持続する病気です。以前は抑うつ神経症や気分変調症と呼ばれていました。抑うつ気分を感じる日が感じない日より多い状態が2年以上続き、睡眠の乱れ、自尊心の低下などがみられる場合に診断される可能性があります。

月経前不快気分障害

月経がはじまる前の時期に、著しい情緒不安定やいらいら、抑うつ感といった症状が出現します。月経がはじまって少しすると、これらの症状は収まります。

月経前不快気分障害

心理療法を学びたい方へ

気分障害コラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をわかりやすく学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・心を安定させる,認知行動療法の学習
・辛い気持ちを緩和,認知の偏りの改善
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・健康的に生きる,生活環境の作り方

社会復帰の準備をしている時期、再発を予防したい時期におすすめです。興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。

 

気分障害とは,種類や診断基準,治療法,心理学講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] Stewart, W. F., Ricci, J. A., Chee, E., et al.(2003).Cost of Lost Productive Work Time Among US Workers With Depression. JAMA, 289(23), 3135-3144. doi:10.1001/jama.289.23.3135..

[4] 古川壽亮(2001).うつ病とは 明日の臨床 13号 vol.1

[5] Miklowitz, D. J., et al. (2007) Psychosocial Treatments for Bipolar Depression: A 1-Year Randomized Trial From the Systematic Treatment Enhancement Program. Arch Gen Psychiatry, 64(4), 419–426.