高EEの意味とは,家族と統合失調症
皆さんこんにちは。心理学講座を開催している、公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「高EE」です。
当コラムでは高EEの基礎から一通り解説していきます。目次は以下の通りです。
①高EEとは何か
②高EEの評価方法
③高EEの改善策
当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の問題の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。
高EEとは何か
意味
小関ら(2008)[1]は感情表出(Expressed Emotion)を以下のように定義しています。
家族の関係性を表出された感情によって評価するもので,批判・情編捲き込まれ・敵意がどの程度表されているかにより,その家族が高EEか低EEかが判断される
すなわち、批判的、暴言を吐く、絶望する、強い悲観がみられる、過干渉な人がいる家庭は高EEとされます。逆に、家族が穏やか、冷静に話しあえる、お互いを尊重できる傾向がある場合は、低EEとされます。
歴史
高EEの研究は1950年代にイギリスの医療社会学者であるジョージ・ブラウンが提唱した概念です[2]。当時のイギリスでは、統合失調症の入院患者が回復して退院にも関わらず、家族の元に戻ると病気が再発するという問題が続きました。そこで原因を見てみると、家族に強い感情表現をする方がいることがわかり、それ以来、高EEとしての研究が進んで行きました。
1962年にジョージ・ブラウンが高EEと低EEの群を比較して、再発率の差があるかを調査しています[3]。その結果、家族が対象者に対して感情的になる高EE群の方が、2.7倍再発している確率が高いことを示しました。
高EEの家族の特徴
高EE家族の特徴として、患者に対する不満や失望を過剰に述べることが挙げられます。ちょっとしたことで患者に対して暴言を吐いたり、人格を否定するような発言をします。また、高EEの家族は”情緒的巻き込まれ”と呼ばれる、患者に対する心配のし過ぎや過保護などを表しています。対象患者に対する過度な献身さは、対象者のためと思っていても、逆効果であったりします。
高EEの評価法
面接法
高EEは疾患ではありませんが、それに当てはまるかの評価方法があります。ジョージ・ブラウンは1972年にカンバウェル家族面接法(CFI)を提唱しました[4]。CFIは統合失調症患者の両親、もしくは配偶者に対して、約1時間程度の面接を行うものです。面接のデータを基に、「低EE」もしくは「高EE」に評価をします。
具体的には
①批判的コメントの数が7つ以上,
②敵意がある
③情緒的巻き込まれすぎの数が4つ以上
いずれかに該当する家族が,感情表出の多い家族と評価されます(中坪,2008[5])。
質問紙法
項目をチェックして、高EEかを判定する自己記入式の方法もあります。それはFAS(Family Attitudes Scale)と呼ばれるものです。FASは30項目の質問からなり、4段階で評価をするものです。点数が高くなればなるほど、「負担感」や「批判」が高くなっていきます。120点満点中50点以上だと、高EEとして判定されます。
項目として例えば、
・私を疲れさせる
・私の忠告を聞いてくれない
・世話をしなければならずうんざりする
・言い争うことがある
などの項目が含まれています。(Fujita,Hら2002[6])(岡本ら,2008[7])
高EEの改善策
高EEの家庭に対しては、臨床心理学や精神保健福祉の観点から、以下の対策が行われます。
①心理教育
②家族療法
③アンガーマネジメント
④SST
⑤アサーティブコミュニケーション
①心理教育
高EEの改善策としては、「心理教育」が有効であるとされています。心理教育とは、患者と家族のコミュニケーションへの介入を目的としたプログラムです。心理教育には大きく3つ目的があります。
①知識・情報を得る
病気や障害に対して正確な知識・情報を得ることで、対処の仕方を身につけます。また、病気に対する偏見をなくしたり、家族が過度に自責的になることを軽減していきます。
②対処技能を身につける
経験を共有することで、対処技能を身につけます。治療者と共同で関わることで、適切な関わり方なども学べます。
③心理的・社会的サポート
専門家との接触により、負担が軽減されます。また、他の家族とも関わることで相互の援助や自信の回復にもつながります。
心理教育の理解を深めたい方は以下の折り畳みを参照ください。
家族心理教育のメカニズムについて、米倉(2007)[8]は以下のように図式化しています。
塚田ら(2000)[9]は病院を退院した統合失調症家族に対して心理教育を行い、高EEと低EEを比較しています。心理教育の内容は、「病気の原因と症状」「経過」「治療」「リハビリテーション」の4つのテーマを毎月1つ実施しています。その結果、入院時と退院後9か月を比較して、高EE家族に対する得点が下がったとしています。
つまり、心理教育を実施することで、対象者に対する「家族の批判的な表現」や、「感情的巻き込まれ」の傾向が減ったということです。
②家族療法
家族療法は、家族を治療の単位として扱い、個人の問題を家族と言う脈略のなかで捉えようとする心理療法です。治療にあたっては患者の精神的な問題が、家族の中でどのように関連しているかを把握し、参加可能な家族の合意のもと治療が行われていきます。
家族療法の一例として、「ダブルバインド」をやめるように促すことがあります。ダブルバインドとは以下の意味があります。
「言葉のメッセージ」「表情やしぐさのメッセージ」が一貫せず矛盾したコミュニケーションをすること
例えば、親が「怒らないから理由を言って!」と言ったにもかかわらず、正直に打ち明けた子供を叱りつけたとします。このように一貫性のない歪んだコミュニケーションを続けると子供の心理が不安定と考えられています。カウンセラーは親にダブルバインドを控えるように促すことがあります。家族療法について理解を深めたい方は以下を参照ください。
③アンガーマネジメント
感情表出の中でも特に怒りは患者に重大な悪影響を及ぼします。そこで高EEの方にはアンガーマネジメントを学ぶことが推奨されます。アンガーマネジメントとは、怒りを予防・制御するための心理療法プログラムで、不適切な怒りの感情をうまくコントロールすることを目指す手法です。怒りをうまくコントロールできない方は以下のコラムを参照ください。
④SSTで家族の会話を見直す
SSTはソーシャルスキルトレーニングの略で、社会性を身に着ける様々なトレーニングの総称です。高EEの方は、傾聴力が不足していることが多く、SSTを学ぶことで、スキルの改善をうながすことができます。
例えば、「共感の仕方」を学ぶと、高EEの方でも患者の方のお悩みを理解しやすくなり、円滑な家族関係に役立ちます。SSTは弊社で学生向け、成人向けの講座がありますので参考にしてみてください。
⑤アサーティブコミュニケーション
アサーティブコミュニケーションは自他尊重のコミュニケーションと呼ばれ、お互いの考え方、価値観、生き方を尊重する心を育む心理療法です。高EEの方は、攻撃的な自己表現になりがちです。この点、アサーションを学ぶと、意見の食い違いが生じたときに、建設的に話し合えるようになります。理解を深めたい方は以下のコラムを産参照ください。
心理療法を学びたい方へ
高EEコラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんのメンタルヘルスのお手伝いになったら光栄です。最後にお知らせがあります。私たち公認心理師は心理療法をしっかり学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。
・心を安定させる,認知行動療法の学習
・家族関係を改善する,アサーション練習
・ソーシャルスキルトレーニング(SST)
・怒りのコントロール練習
興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。
監修
名前
川島達史
経歴
- 公認心理師
- 精神保健福祉士
- 目白大学大学院心理学研究科 修了
取材執筆活動など
- NHKあさイチ出演
- NHK天才テレビ君出演
- マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
- サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」
YouTube→
Twitter→
名前
長田洋和
経歴
- 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
- 東京大学 博士 (保健学) 取得
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 精神保健福祉士
取材執筆活動など
- 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
- うつ病と予防学的介入プログラム
- 日本版CU特性スクリーニング尺度開発
名前
亀井幹子
経歴
- 臨床心理士
- 公認心理師
- 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
- 精神科クリニック勤務
取材執筆活動など
- メディア・研究活動
- NHK偉人達の健康診断出演
- マインドフルネスと不眠症状の関連
[1] 小関芙美恵 井上和臣(2008).障害児を持つ母親と健常児を持つ母親の感情表出–子どもの問題行動,母子の対面時間との関連 精神医学 50巻1号
[2] Brown, G.W., Carstairs, G.M., & Topping, G.C. (1958). The post hospital adjustment of chronic mental patients. Lancet, ⅱ, 685-689
[3] Brown, G.W., Monck, E.M., Carstairs, G.M., & Wing, J.K. (1962). Influence of family life on the course of schizophrenic illness. British Journal of Prevention and Social Medicine,16, 55-68.
[4] Brown, G.W., Birley, J.L.T., & Wing, J.K. (1972). The influence of family life on the course of schizophrenic disorders : A replication.British Journal of Psychiatry 121 241-258
[5] 中坪太久郎(2009).統合失調症の家族研究の展望 東京大学大学院教育学研究科紀要 48 203-211,
[6] Fujita,H.,Shimodera,S.,et(2002). Family attitude scale: measurement of criticism in the relatives of patients with schizophrenia in Japan.Psychiatry Research 110 (3), 273-280
[7] 岡本亜紀,國方弘子,茅原路代,渡邉久美,折山 早苗(2008). 精神疾患患者を支える家族員の批判的態度に関する因果分析 日本看護研究学会雑誌31(5),5_79-5_87
[8] 米倉裕希子(2007). 障害のある子どもの家族心理教育の現状と課題 近畿福祉大学紀要8(2)99-106
[9] 塚田和美,伊藤順一郎,大島巌,鈴木丈(2000).心理教育が精神分裂病の予後と家族の感情表出に及ぼす影響 千葉医学雑誌 76(2), 67-73