摂食障害とは何か

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「摂食障害」です。摂食障害の原因と治療法を初学者向けに解説していきます。目次は以下の通りです。

①摂食障害とは何か
②深刻な影響
③摂食障害と統計
④4つの原因
⑤治療方法

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に、特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。動画にもまとめています。参考にしてみてくださいね♪

①摂食障害とは

定義

摂食障害とは、精神医学事典(2011)[1] で次のように定義されています。

拒食、過食などの食行動異常と、体型に関する得意な感じ方を特徴とするいくつかの病態の総称

摂食障害は、深刻性が非常に高い精神障害です。命にかかわるので一度はしっかり学習してほしいと感じています。特に拒食症では、栄養失調になり最終的に死に至る可能性があります。摂食障害は大きく分けて、拒食症と過食症の2つがあります。

拒食症

拒食症は別名、神経神経やせ症と呼ばれ、「制限型」「排出型」の2つに分けられます。「制限型」は、食べることを制限、拒否する状態です。一日おにぎりを1つしか食べないなど極端な制限をするのが特徴です。

「排出型」は、食べたものをほとんど吐いてしまう状態になります。一度に3食分など大量の食事をした後に、吐き出したり、下剤を飲んで早めに体から出そうとします。

過食症

過食症は、「神経性過食症」「過食性障害」にわけられます。「神経性過食症」は過食をしますが自分の体重が維持できる程度に吐く状態です。「過食性障害」は食べたものを吐かないですが、どんどん太る状態になります。自分でも不快感があるのですが、感情をコントロールできず食べ続けてしまいます。

②深刻な影響

摂食障害による影響は、大きく分けて身体異常と行動異常の2つがあります。

身体異常

・低体重
重症化すると、骨と皮だけになってしまい、体重が標準体重の半分ぐらいになる方もみえます。命の危機といえる状態です。

・冷え性
ご飯を食べないと体温を上げるためのビタミンやミネラルが不足します。そのため慢性的に手足が冷たくなります。

・月経異常
生理がこなかったり、生理が不安定になってきます。BMIが19以下になると生理は不安定になると言われています。160㎝の女性の場合、48キロ前後から生理不順が見られます。

・骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
必要な栄養が摂取できないことから、骨密度が低い値となり骨折しやすくなります。

・電解質異常
電解質異常とは、カリウムやナトリウムが不足する状態で疲れやすくなったり、頭が痛くなります。胃液には、汗に比べてカリウムやナトリウムが多く含まれています。吐き続けると電解質がどんどんなくなるため、疲れやすくなったり、場合によっては筋肉がけいれんしたり、意識が混濁とした状態になってしまいます。

行動異常

・下剤の乱用
過食症の場合、約10%の方が下剤を乱用しているといわれています。

・吐き癖
約25%の方に、吐きタコがあると言われています。

・偏った食事
吐き癖のある方は、吐きやすい食事を選ぶ傾向にあります。カップラーメンや山芋のようなネバネバした食事を選ぶことが多いです。

・万引き
過食症の場合、約15%の方が万引きクセがあるという統計もあります。

③摂食障害と統計

摂食障害に関わる統計を見ていきます。

患者数21万人

摂食障害全体は1980年からの20年間で約10倍に増加しています。患者数は約21万人、入院数は1万人に上ります。ただし医療機関を進んで訪れるのは一部であるため、実際はもっと多いと推定できます[2]

女性に多い

神経やせ症(拒食症)の場合、男性の10倍くらい女性がかかる疾患と言われています。また過食症は、男性の約2倍で女性がかかりやすい統計になっています。

都会に多い

厚生労働省の資料によると、オランダで行われた摂食障害の調査では、田舎に比べて大都市は5倍程度、摂食障害になりやすいことが示されています。

死亡リスク

統計的には5%前後の死亡リスクがあるといわれています。

④摂食障害と4つの原因

摂食障害になる理由には大きく分けて4つあります。

心の問題

Johanら(2002)[3] の研究によると、摂食障害の方は次のような特徴をもつことがわかりました。

・肥満恐怖:86%
摂食障害の方は、太ることに恐怖を持っている傾向が強く、少しでも太ることに不安を抱きます。

・強迫傾向:55%
自分の痩せ願望がおかしいと感じていながら痩せたいという思いが頭から離れられない「強迫傾向の心理」を持っている方が多いです。

・抑うつ:40%
元気でいられるような状態ではないため、暗く沈んだ気持ちになります。

・対人関係不良:51%
対人関係でも不安を持ちやすため、良好に保てません。

橘(2015)[4] の研究によると、摂食障害の方は次のような特徴をもつことがわかりました。

・自尊心低:-56**
自己肯定感や自尊心が低い傾向にあります。

・完璧主義:-56**
自分の理想の容姿をもち、非の打ちどころのない自分でいたい気持ちも強いと言えます。

家庭環境

摂食障害の方を調査したところ、家庭環境の不和が挙げられています。例えば 摂食障害の方は、両親が不和の傾向が20~30%という統計があります。暖かい交流が不足していると、自己肯定感が育ちません。

ありのままの自分をみとめらないため、自己否定に走りやすくなりその対象が自分の体重に向かってしまうと考えられます。その他に、過保護の場合30~40%離婚している場合20%前後が摂食障害になる統計があります。

文化的要因

イギリスでは1960年代後半ぐらいまで、女性像の社会的価値観はグラマラスでした。しかし、1970年代には、神経性無食欲症が海外で爆発的に増加しました。そのきっかけになったとされるのが、イギリス出身のモデル ツイッギーです。

人気アンケートで首位に立ったこともあるツイッギーの体重は、165㎝45㎏です。彼女のスリムな容姿が女性のあこがれとなり「痩せていること=かわいい、美しい」という女性的像の変化が、摂食障害の促進要因になっているとされています。

遺伝的要因

遺伝と接触の関係は様々な調査が行われています。安藤 ら(2009)[5]の研究によると、 ANの遺伝率は58 〜 88 % ,BNは、28 〜 83 % と推定 さ れ て います。

 

⑤治療方法

自己理解を深める

自分がどのような状態かをしっかり理解することが大切です。例えば、摂食障害の書籍を読んだり、当事者によるYouTubeで病気の性質を理解するのもおすすめです。

深刻性チェック

摂食障害の深刻性をチェックする方法にはさまざまあります。ここでは、BMIでチェックしてみましょう。BMI(Body Mass Index:ボディマス指数)は、体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数です。計算方法は以下の通りです。

体重 ÷ 身長 ÷ 身長

以下は、WHO(世界保健機関)の基準になります。

出典:ウィキぺディア

公的機関の利用自助グループ

重度の場合は公的機関の利用も考えましょう。摂食障害対策の専門施設としては、

摂食障害全国支援センター(全国1カ所)
・摂食障害支援拠点病院(全国4カ所)
(宮城県千葉県静岡県福岡県)

があります。摂食障害は、命に係わる重篤な障害です。専門家を利用して早めに改善を目指しましょう。

自助グループ

摂食障害の自助グループではNABA (Nippon Anorexia Bulimia Association:NABA(ナバ)日本アノレキシア(拒食症)・ブリミア(過食症)協会)が有名です。自助グループでは、当事者どうしで腹を割って話せる環境があります。当事者どうし、安心して話ができると思います。

NABA・摂食障害のピアサポート

認知の歪みの改善

摂食障害までの症状がなくても、痩せ願望が強い方は予防的に取り組むのがおすすめです。摂食障害の方は、完璧主義が強い傾向にあります。「理想の体系でいなければならない」そんな思い込み一点で自分を支配してしまい、追い込まれた状況になってしまいます。認知の歪みを改善するには、いろいろな捉え方を足していきます。

例えば、そもそも理想の体系は適切なのか?人間の価値は体系だけではない、食事を摂ると肌艶よくなる、など考え方をプラスして気持ちをほぐしていきます。認知の歪みの改善方法は、以下のコラムで詳しく解説しました。良かったら参考にしてみてください。

認知の歪みを改善する方法

暴露妨害療法

治療がある程度進んだ段階で行われる治療法です。

・暴露療法
不安によって回避していた行動を実際にやってみる療法です。具体的には、不安があっても食べるようにします。最初は少しでもいいので、まずは食べることをやっていきます。

・妨害療法
不安により行っていた異常な行動をやめる療法です。具体的には、不安があっても吐かないようにしていきます。

対人関係療法

摂食障害になりやすい方は、家庭環境や友人関係がマイナスの状態になっていることが多いです。良好な人間関係は、メンタルヘルスにも良いことが多く痩せたい願望を和らげてくれます。

具体的な会話の練習をしたい方は、私たちが開催しているへ予防的に参加するのもおすすめです。自尊心の向上、親子関係の見直し、健康的な人間関係を見直す練習になると思います。

コミュニケーション講座

自己肯定感の向上

自分をしっかりと認めていきましょう。自己肯定感が低い状態は「今の自分が変わらなければならない」という思いが強い状態です。自己肯定感が安定してくるとありのままでOK!標準体重で安心できるようになり、健康的な食事がとれるようになります。自分の事が認められていないと感じている方は、自己肯定感の向上にも目を向けてみてください。

自己肯定感を向上させる方法

まとめ

最後に、これまで「摂食障害」コラムにお付き合いしていただき、ありがとうございました。摂食障害は深刻性が非常に高い精神障害です。精神疾患の中でも、命にかかわるので一度はしっかり学習してほしいと感じています。

心理療法を学びたい方へ

私たち公認心理師は心理療法をわかりやすく学べる講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・心を安定させる,認知行動療法の学習
・辛い気持ちを緩和,認知の偏りの改善
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・健康的に生きる,生活環境の作り方

興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。

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監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 加藤敏, ら編(平野羊嗣:分担,編集協力者)(2011).精神医学事典 弘文堂

[2]平成29年精神保健福祉資料 NDB ストラクチャー・プロセス,