認知症の特徴,症状とは

皆さんこんにちは。心理学講座を開催している、公認心理師の川島達史です。今回のテーマは「認知症」についてです。当コラムでは躁病を基礎から一通り解説していきます。目次は以下の通りです。

①認知症の患者数とは何か
②認知症の種類
③認知症の症状
④認知症を改善する方法
⑤認知症で受けられる制度

当サイトの特色は、臨床心理学、精神保健福祉の視点から心の病気を解説している点にあります。心の病気の解説サイトは多いですが、精神科医の先生が監修されていることが多く、心理師の専門サイトは多くはありません。

お薬以外での改善策を詳しく知りたい方に特にお役に立てると思います。ご自身の状況にあてはまりそうなものがありましたら是非ご活用ください。

なお、今回は初学者向けに認知症の種類,症状をわかりやすく解説していきます。動画解説をご覧いただいてから本文を読むと理解が深まります。

①認知症とは何か

認知症の意味

精神医学事典(2011)[1]によると認知症は以下のように定義されています。

通常は慢性あるいは進行性で、記憶、思考、見当識、理解、学習能力、言語、判断を含む高次皮質機能障害を示す。通常、情動の統制、社会行動あるいは動機づけの低下を伴う

定義にもある高次皮質とは脳の外側にある部分で、考えたり、判断をする脳です。認知症になるとこの部分になんらかの問題が起こり、感情のコントロールを失ったり、行動に問題が起こったりします。

患者数の推移

厚生労働省[2]によると、認知症の患者数は増えてきており、2020年に約292万人に達するといわれています。高齢者の約8.9%が認知症を有するということになります。

また、65歳以上の高齢者だけでなく、45歳以上65歳未満の”若年性認知症”もあります。認知症は高齢化社会に伴って急増している疾患です。

②認知症の種類

認知症には以下の3つが代表的です。
①アルツハイマー型認知症
②脳血管型認知症
③ピック病

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、脳の病的萎縮による記憶や思考の障害です。進行性で、症状が進むと日常生活の活動もできなくなる病気です。

年齢 70歳以上で多い
原因 βアミロイドや
タウタンパクの蓄積
心理的症状 物盗られ妄想、感情の平板化
理解力・思考力の低下など

アルツハイマー型認知症の前期では、物忘れの記憶障害や時間や場所の見当識障害が特徴的です。後期では、急に喜んで手を叩いたり、何もないところで泣いたりなどの情緒不安定な状態に見舞われます。

脳血管型認知症

脳卒中など、脳組織が損傷されることで認知症が出現するものを言います。

年齢 50歳以降から増加
原因 脳卒中や小さな脳梗塞による
心理的症状 イライラ感、感情失禁など

感情失禁とは、少しの刺激で過剰に笑ったり、泣いたり、怒ったりして、感情のコントロールがきかない状態です。

ピック病

ピック病は脳の前頭葉と側頭葉が萎縮する病気です。

年齢 50歳以降から増加
原因 ピック球の増加
心理的症状 怒りっぽくなる
しゃべり続ける
他人に無関心になる

進行していくと、動きが緩慢になったり、無言の状態になることもあります。

③認知症の症状

認知症の症状には大きく分けて、中核症状と周辺症状の2つの症状があります。

中核症状

記憶障害、言語障害、空間認知障害、判断力障害、問題解決能力の低下などが挙げられます。また、注意力の低下、日常生活動作の障害、行動や情緒の変化、認知機能の低下による社会的機能の低下などもみられます。

これらの症状が進行することによって、日常生活に支障が出る場合があります。早期発見と早期介入が重要です。

周辺症状

認知症には、中核症状のほかにも、周辺症状があります。例えば、睡眠障害、不安、抑うつ、妄想や幻覚、不適切な行動、徘徊、食事量の変化などが挙げられます。これらの症状は、個人によって異なる場合がありますが、認知症の病態によって発生することが多いです。周辺症状の適切な対処やケアも重要です。

④認知症を改善する方法

認知症を改善するには、主に以下の方法があります。

①回想法
②作業療法
③音楽療法
④体操,体を動かす
⑤人と交流する
⑥薬物療法

それぞれ詳しく見ていきましょう。

①回想法

昔の写真や思い入れのある品ものを用いて、過去について会話をするというリハビリ療法です。昔好きだったものを思い起こすことで、脳を活性化させる療法。1対1で行う方法と、グループで行う方法があります。

また、本人の記憶に共感を示すことで、情緒不安定が軽減され、認知症の抑制が見込まれます。

②作業療法

作業療法とは日常生活で障害になっている動作や活動を訓練するリハビリテーションです。認知症での作業療法には以下のようなものが挙げられます。

・認知機能訓練…記憶や注意力などの維持向上を図ります。
・生活機能訓練…食事、整容、更衣、排泄などの日常生活に必要な動作の訓練をしていきます。
・身体機能訓練…身体的な障害によって、日常生活に必要な動作が妨げられている場合に実施されます。

こうした目的のプログラムを集団ないし個別に行っていきます。医療機関や介護施設での実施が主になっています。

③音楽療法

歌を歌ったり、手をたたいたり、もしくは楽器を演奏することで認知症を改善していきます。リズムや音の刺激で元気がわき、情緒不安定な状態が緩和していきます。単純に好きな音楽を聴くだけでも症状が和らぎます。

昔の曲を聴いたり、歌うことで記憶の想起につながり、ストレスの発散にもなります。音楽療法は導入のしやすさから、重度の認知症の方でも適用しやすいというメリットもあります。医療機関や介護施設によっては、専門の「音楽療法士」が関わっているところもあります。

④体操,体を動かす

認知症の治療に体を動かすことも有効です。適度な運動は身体から脳への刺激になり、認知症の予防や治療に期待されます。

実際の認知症の治療では身体的な障害が重く、大きな運動ができない場合は椅子に座ってでもできるストレッチやリズム体操、棒を使った体操などをして体を動かしていきます。

もう少し体が動かせる場合は、卓球や風船バレーなどの球技やヨガマットを使った運動なども行われています。また、コグトレといった頭も使いながら体も動かすトレーニングなども行われています。

⑤人と交流をする

認知症の予防や回復に効果的なのは、人間関係を充実させることにあります。孤独感は、認知症リスクや死亡率へも影響します。

斉藤・近藤ら(2015)[3]は、愛知県の高齢者、12,000人を対象に「高齢者の交流頻度と孤独感」について研究を行いました。その結果は下図となります。まずは図を概観してみましょう。

孤独を和らげよう

交流がない人は交流がある人はより認知症率が高いことが分かったのです。このように、人とのコミュニケーションが少ない人ほど脳機能も衰えていくのです。

⑥薬物療法

*効果
認知症を改善する上ではお薬が処方されることがあります。有名な薬としては、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が挙げられます。

アセチルコリンとは、記憶保持や集中、覚醒などの作用を担っています。このアセチルコリンの脳内の相対的濃度を引き上げることで、アルツハイマー型認知症の進行を抑えると考えられています。

*副作用
吐き気や下痢、食欲不振をもよおすことがあります。運動器ではふらつきなどの歩行障害がみられています。精神的な副作用として攻撃性の増加や興奮があり、暴言や暴力などにつながることがあるため、注意が必要です。

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬として現在日本で認可されているのはドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンで、全て同様のメカニズムを持ったの治療薬になります。

⑤認知症で受けられる制度

認知症では大きく分けて2つの制度を利用することができます。

①介護保険制度

概要

介護保険制度とは、以下のような制度になります。

介護が必要な方に、介護費用の一部を給付する制度

この給付を受けるには、各市区町村窓口で申請し、判定を受ける必要があります。サービスを受ける場合、所得に応じてかかった費用の1割~3割の自己負担が必要です。

対象

介護保険は、65歳以上で日常生活の介護や支援が必要になった方、または認知症と診断された40歳以上65歳未満の方が対象です。

支援内容

自宅訪問サービス
ホームヘルプサービス、訪問看護、訪問入浴などがあります。

通所サービス
ディサービス、ディケアなど、リハビリやレクリェーションを行う日帰り支援があります。

施設入所サービス
緊急の用事や家族の休息などの際、短期入所できるショートスティ、また「要介護3~5」の方には、少ない費用負担で長期入居できる特別養護老人ホームもあります。

②障害者総合支援法

概要

障害者総合支援法とは、以下のような制度になります。

障害を持つ方々が尊重され、社会生活を営むことができるよう支援を総合的に行い、障害の有無にかかわらず安心して暮らすことのできる地域社会の実現を目指すもの

対象

認知症は障害者総合支援法の対象疾患となっています。若年性認知症では、40歳以上で特定疾患に該当しない場合、および40歳未満は介護保険ではなく、障害者総合支援法の利用ができます。

支援内容

日常生活自立支援事業
認知症と診断され判断能力が不十分な場合、社会福祉協議会に申請することで、福祉サービスの利用援助、金銭管理などのサポートを受けられます。

障害者年金制度
申請は65歳未満で、年金加入状況や納付期間、障害状態が当てはまることにより、障害年金の申請が出来ます。

精神障害者保健福祉手帳
長期にわたり日常生活などに制約がある方が対象で、「認知症」と診断されてから6ヶ月経過後から申請できます。税制上の優遇措置を受けることが出来ます。

まとめ

今回は認知症による情緒不安定を解説していきました。認知症は治療が遅れると、日常生活もままならなくなる危険な病です。物覚えが悪くなった、感情をコントロールできないという症状が顕著に表れる場合は、早めに医療機関の方に受診するようにしましょう。

支援の力を高めたい方へ

認知症の症状を和らげるには、日々の会話による支援が大事です。私たち公認心理師は、福祉関係の方、ご家族の方向けに、コミュニケーション講座を開催しています。内容は以下の通りです。

・傾聴スキルトレーニング
・共感の基礎とトレーニング
・話しやすい雰囲気の作り方
・カウンセリングの基礎理論

興味がある方は以下の看板をクリックしてご検討ください。皆さんのご来場をお待ちしています。

 

認知症とは何か?アルツハイマー,脳血管性,ピック病,コミュニケーション講座

監修

名前

川島達史


経歴

  • 公認心理師
  • 精神保健福祉士
  • 目白大学大学院心理学研究科 修了

取材執筆活動など

  • NHKあさイチ出演
  • NHK天才テレビ君出演
  • マイナビ出版 「嫌われる覚悟」岡山理科大 入試問題採用
  • サンマーク出版「結局どうすればいい感じに雑談できる?」


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元専修大学教授 長田洋和

名前

長田洋和


経歴

  • 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科 教授
  • 東京大学 博士 (保健学) 取得
  • 公認心理師
  • 臨床心理士
  • 精神保健福祉士

取材執筆活動など

  • 知的能力障害. 精神科臨床評価マニュアル
  • うつ病と予防学的介入プログラム
  • 日本版CU特性スクリーニング尺度開発

臨床心理士 亀井幹子

名前

亀井幹子


経歴

  • 臨床心理士
  • 公認心理師
  • 早稲田大学大学院人間科学研究科 修了
  • 精神科クリニック勤務

取材執筆活動など

  • メディア・研究活動
  • NHK偉人達の健康診断出演
  • マインドフルネスと不眠症状の関連

・出典

[1] 加藤敏, 神庭重信, 中谷陽二, 武田雅俊, 鹿島晴雄, 狩野力八郎, 市川宏伸 編(2011).精神医学事典, 弘文堂

[2] 滝川 陽一 (1994).痴呆性老人対策に関する検討会報告書 公衆衛生 58巻11号 厚生省老人保健福祉局老人保健課

[3] 斉藤 雅茂, 近藤 克則, 尾島 俊之, 平井 寛, JAGES グループ(2015).健康指標との関連からみた高齢者の社会的孤立基準の検討 10年間の AGES コホートより日本公衆衛生雑誌 62 巻3 号